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インタビュー ヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表 土井香苗さん――子どもの今と未来のために 2020年3月9日

  • 企画連載 私がつくる平和の文化Ⅱ

 「私がつくる平和の文化Ⅱ」の第3回は、国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)」日本代表の土井香苗さんです。2人の小さなお子さんの母親でもある土井さんに、子どもたちの平和と人権を守るための活動について聞きました。(聞き手=木﨑哲郎、歌橋智也)
 

世界で苦しむ人のために仕事がしたい

 ――「人権」と聞くと、難しくて縁遠いものと考えがちです。この道に進もうと思ったのは、なぜですか。
 
 中学3年の時に国語の授業で、世界の飢餓や難民の問題に尽くした犬養道子さんの『人間の大地』という本を学んだことがきっかけです。紛争によって悲惨な生活を強いられている人たちがいることに衝撃を受け、「私も世界で苦しんでいる人のために仕事がしたい」と思うようになりました。
 その夢をかなえる第一歩として、大学3年の時、独立したばかりのアフリカのエリトリアという国に1年間、ボランティアに行きました。司法試験の合格直後だったので、新しい国の法律を作るお手伝いをしました。
 現地の大学生と交流した時、視覚障がいのある一人の学生のために、同級生が順番に教科書を読んで聞かせている姿に感動を覚えました。私も彼のために何かしたいと、寄付を募って視覚障がい者用のパソコンを送りました。
 法律の資料収集で一時帰国した際には、弱い立場の人のために戦う弁護士の方たちと出会いが。その仕事ぶりに尊敬の念を抱き、人権弁護士として活動したいとの思いが固まったのです。
 弁護士になってしばらく、日本にいるアフガニスタン難民の支援に携わりました。収容施設の彼らを励まそうと一緒にアフガニスタン料理を食べたり、裁判の結果に共に涙したりするなど、忘れられない経験となりました。
  

学校を戦争に使わないで! HRWは紛争下で学校を軍事利用から守るための「学校保護宣言」を支援(©2019HRW)
学校を戦争に使わないで! HRWは紛争下で学校を軍事利用から守るための「学校保護宣言」を支援(©2019HRW)

 
 ――さまざまな人との関わりが原点なのですね。HRWとの出合いは?
 
 ニューヨークに留学中、人権の世界で著名なHRWの本部がこの地にあると知りました。その活動は、武力紛争中でもそうでない時も、虐げられた人の自由と権利を守るために実態を調査して世論を起こし、社会を動かすこと。人権問題のプロフェッショナルとしての意識の高さと行動力に圧倒され、この団体で働きたいと思ったのです。
  

生みの親と暮らせない子どもたち

 ――日本のHRWでは、子どもの人権に関する活動に関して二つの調査報告書を発表されています。
 
 一つは、生みの親と暮らすことができない子どもについてです(2014年発表)。日本には4万人以上いるといわれ、国連の「子どもの権利条約」等に照らして現状を調査しました。
 特に日本は他の先進国と比べ、施設で暮らす子どもの比率が非常に高いです。児童養護施設では年齢も3歳から18歳までと広く、子ども同士のいじめや性虐待が起きているケースもあります。施設にいる子どもたちの多くが常に寂しさを抱え、「安心できる場所がほしい」と訴えていました。
 子どもの健全な発育のためには、本来、安心できる家庭があって、愛されて暮らすことが重要で、それが子どもの権利です。
 報告書では、そうした忘れられがちな側面を取り上げ、里親や養子縁組を後押しする仕組みの必要性を提言しました。多くが政府にも受け入れられ、2016年に児童福祉法が大きく改正されることにつながりました。
 

LGBTの子どもたちへのいじめ

 ――これまで取り上げられてこなかった、子どもの権利の問題に光を当てたご活動です。
 
 もう一つが、学校におけるLGBT(性的マイノリティー※)の子どもについての報告書です(16年発表)。子どもたちがLGBTへの暴言や冗談を聞いた割合は9割近くに上りました。その約3割は学校の先生からでした。
 あるレズビアンの子は「女の子っぽくない」という理由で友達に囲まれ、よってたかってたたかれた。先生も見て見ぬ振り。同級生に助けを求めても「我慢しなよ」と言われたそうです。
 トランスジェンダーの子は自分の性自認と異なる制服を着るのが苦痛なことが多いです。先生に「リボンを外させてください」と頼んでも、「それは君のわがままだ」と言われてしまう。制服がきっかけで結局、通学できなくなったケースは多いです。体育の着替えやトイレに行くのもつらく、不登校の原因になります。
 当時の文科省のいじめ防止対策の中に、LGBTの子どもたちに関する記述がなかったので、対策を明記するよう提言。翌17年、国のいじめ防止基本方針が改定され、教職員への正しい理解の促進や、学校として必要な対応について周知することを通じて、性的指向や性自認を理由とする生徒へのいじめを防止するよう定められました。
 調査したどちらの問題も、まだ現場の子どもたちの状況改善には多くの努力が必要ですが、どんな子どもにも夢を持って生きてほしい――それが私たちの願いです。
 

※同性を好きになる女性(レズビアン)・男性(ゲイ)、同性も異性も好きになる人(バイセクシュアル)、身体の性と心の性が一致しない人(トランスジェンダー)のこと。
 

2児の母として思うこと

 ――土井さん自身、母親になられて人権への意識は変わりましたか?
 
 今、6歳と4歳の子どもがいますが、子育ての経験は人権を考える上でプラスになっていると思います。どんな問題も、子どもの人生に直結する事柄だと現実的に捉えるようになりました。
 例えば、シリアで市民の抵抗運動が始まったのは2011年。当時、アレッポという都市に住んでいた知人は、「ここはとても平和で、大丈夫ですよ」と言っていた。しかし今、アレッポは爆撃を受けて廃墟になってしまった。幸せに暮らしていた人々は故郷を追われ、難民となり、悲惨な状況を強いられている。10年前に予測した人はいなかったと思います。
 同じように、遠くで起きた問題が、あっという間に押し寄せてくるかもしれない。10年後は誰も分からない。まして、子どもたちは100年先まで生きる世代です。子どもたちの未来が平和かどうか。人権や平和は空気みたいに目に見えないし、あって当たり前と思いがちですが、何も努力しなければ、本当になくなってしまうこともあるのです。
 

キラーロボットって何?

――今、強く懸念している問題は何ですか?
 
 「キラーロボット(殺傷ロボット)」をご存知でしょうか。人工知能(AI)を搭載したロボット兵器で、自分で標的を決めて、自分の判断で攻撃するのです。「自律型致死兵器システム(LAWS)」とも呼ばれます。ハリウッドのSF映画のような話ですが、現在、十数カ国が開発中で、近い将来、実戦で使用される可能性が高まっています。
 キラーロボットは、気候変動などと並んで、人類の将来に大きな影響を与える問題とされています。攻撃には人間が関与しないため、法的責任も問えないのです。だから、手遅れになる前に法的な枠組みを作り、禁止条約を結ばなければと世界各国に呼び掛けています。
  
 ――池田SGI会長もキラーロボットを憂慮し、禁止条約の制定を訴えています。
 
 キラーロボットによって代償を払わされるのは、未来を生きる子どもたちです。この存在を許してしまうことは、今の大人たちが犯す最大の過ちです。だから私たちの世代の責任として、何としても阻止したいのです。
 

「声に出すこと」から始まる

――私たちが平和と人権のためにできることは?
 
 難しく考える必要はないと思います。自分の周囲で何か気付いたこと、胸を痛めるようなことがあったら、発信してみたり、人に話したりして「声に出すこと」です。そこから社会が動いていきます。
 その上で、自分にできることから始めればいいと思う。幸せは自分の家庭から始まるものです。そこを一番大事に考えて、小さなことから気負い過ぎず、長く続ける。そうすれば変化は起きていくのではないでしょうか。
 
 

どい・かなえ 神奈川県生まれ。東京大学法学部卒。2000年弁護士登録。06年、ニューヨーク大学ロースクール修士課程(国際法)修了。07年、ニューヨーク州弁護士に。08年からHRW日本代表となる。著書に『巻き込む力』(小学館)などがある。
 

ヒューマン・ライツ・ウォッチのホームページ
https://www.hrw.org/ja
 
 

ご感想はこちらまで
heiwanobunka@seikyo-np.jp
 
 

池田先生の写真と言葉
1995年1月、ハワイで
1995年1月、ハワイで

 
 子どもたちの笑顔が
 輝いているかどうか、
 笑い声がはつらつと
 弾んでいるかどうか――
 それが、その国、その社会の
 本当の豊かさを示す
 一つの指標ではないでしょうか。
 
 ◆◇◆
 
 すべての子どもたちに平和を!
 これこそ、人類の悲願です。
 世界のどの子どもにも、
 平和に生きる権利があります。
 
 
(上は『新しき地球社会の創造へ』、下は『母と子の世紀』3から)
 
 
 

<2月13日付への読者の声>

 大分県別府市 宮田富子さん(主婦 37歳)
 2月13日付の国境なき医師団・日本の加藤寛幸会長の記事を読み、紛争地域などでの医療活動の話に胸が熱くなりました。 私にとって平和の実践とは何だろう――そう思った時、昔よく母に言われた「食べ物がなくて苦しんでる人がいるんだから残したらあかん!」との言葉を思い出しました。これを実践に移そうとすることが平和に繋がると思います。また、わが家の5歳の息子は発達障害ですが、近所の方に元気にあいさつしたり、誰にでも笑顔で接したりできる子です。どんな命も尊く、宝の存在だと教えられます。これからも、目の前の事をおろそかにせず、一人を大切にする実践を、親子で続けていきます。
 

 東京都墨田区 川西信明さん(専門学校職員 62歳)
 かつて高校の教員時代に海外の里親制度を知りました。生徒たちと「月に1本ジュースを我慢して誰かを助けよう」と語り合い、学校や保護者の了承のもと、そのお金を持ち寄って寄付し、貧困家庭の子を支援しました。その子の成長を皆で支えると共に、自分たちの生活がいかに恵まれているかを再認識しました。加藤会長の言葉に「『他の誰かではなく、自分の助けを必要としている人がいる』。そう考えてほしい」とありました。地元でできること、遠く離れた人々にできること――それを考えながら地域と世界に目を向けた生き方をしていきます。
 

 東京都港区 神崎あゆみさん(主婦 32歳)
 4カ月の次女の出産の時、陣痛から病院まで間に合わず自宅で自ら産みました。救急の方、かかりつけの病院の連携のおかげで、母子共に元気に退院することができました。加藤会長の話で、南スーダンでは助かる見込みのない子は入院を断るとあり、衝撃を受けました。
 今後は子どもたちと世界のことを学びつつ、自分の周りから感謝の心を広げ、地道に「平和の文化」を築いていきます。

 
(2月13日付 国境なき医師団・日本会長の加藤寛幸さんのインタビューはこちらから)

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