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〈クローズアップ ~未来への挑戦~〉 イタリア㊥ 国家と締結したインテーサ(宗教協約) 2024年4月22日

 世界の同志の姿から、創価の哲学と運動の価値を考える「クローズアップ 未来への挑戦」。9日付のイタリア㊤に続き、今回は、イタリア共和国とイタリア創価学会との間で結ばれたインテーサ(宗教協約)の歴史と意義に、識者のインタビューとともに迫ります。(記事=萩本秀樹、写真=石井和夫)

イタリアの首都ローマ。ヴェネツィア広場(手前中央)などを眼下に見下ろす
イタリアの首都ローマ。ヴェネツィア広場(手前中央)などを眼下に見下ろす
発効までの道のり

 2015年6月、イタリア共和国とイタリア創価学会との間で、インテーサ(宗教協約)が調印された。調印式は、フィレンツェのイタリア文化会館で、マッテオ・レンツィ首相(当時)が出席して厳粛に執り行われた。
 そして翌16年、インテーサは上下両院の満場一致で可決・承認され、大統領により発布。7月15日付の官報(164号)に協約の法令が記載され、同月30日、正式に発効された。
 
 インテーサとは、イタリア共和国憲法の第8条に基づき、国家と宗教団体が結ぶ法的な取り決めのこと。同国の首相府に申請されたインテーサは、厳正な審査を経て決議される。イタリア創価学会は01年に申請し、15年越しの発効となった。
 
 イタリアでは長い間、キリスト教カトリックが、国家に認められた唯一の宗教だった。今も国民の大半はカトリックの信徒である。そのイタリアにあって、カトリック以外の宗派との協約であるインテーサが動き出したのは、1984年。それは国家にとっても各宗派にとっても重要な歴史であったと、首相府のインテーサ審査委員会で中心を担った、アンナ・ナルディーニ氏は述べる(インタビューを別掲)。
 
 インテーサ発効の陰には、多くの同志の奮闘と祈りがあった。リカルド・グロッシさん(地区部長)は、弁護士としての知見を生かして、審査に必要な条件の整備や見直しに携わった。
 当時をこう回想する。
 「政府がインテーサの審査を進めるのは、その団体が社会に有益だと判断した場合においてです。政府の指示の下、組織の活動形態や、団体関係者の過去なども徹底的に調べ上げます。創価学会に関しては、審査を揺るがす重大な問題が見当たらなかった上で、荒れた青春を過ごした人が信仰を通して更生したといった事例を、数多く見聞きしたようでした。イタリア社会に日蓮仏法が広がり、それが市民にポジティブな変化をもたらしていることが、高く評価されたのだと思います」

リカルド・グロッシさん
リカルド・グロッシさん

 グロッシさんは、79年に折伏を受け、信心を始めた。81年には、フィレンツェを訪問した池田大作先生と出会いを刻んだ。85年に弁護士に。学会が社会に開かれ発展していくのを、自分の立場からサポートしようと誓った。
 インテーサ申請後も多くの困難があったが、「決して諦めませんでした」とグロッシさん。左右両極の政治勢力を代表する国会議員が、そろって承認を後押しするような発言をしたことに、驚き、誇らしく感じたという。
 
 長い歳月を経てインテーサが発効された時の感動は、地道に信心を貫いてきたイタリアの同志の生命に焼き付いている。

1000分の8税

 国家との間にインテーサを結んだ団体には、教育機関を設立する権利や、会員が宗教的祭日を遵守する権利などが認められる。
 また、ほかにも優遇措置の一つとして、「1000分の8税」が配分される。
 
 イタリアでは年間所得税の0・8%(=1000分の8)に当たる額を、国家の社会・人道活動、または国家が選定した宗教団体に分配することが法律で定められている。納税者はどこに納めるかを選択できる。イタリア創価学会はインテーサに基づき、こうした宗教団体の一つに選定されている。
 
 イタリア創価学会には「1000分の8税」委員会が設置され、その下に事務局がある。国内外の社会的な活動や人道支援活動をはじめ、税金の配分の適切な使途を決定し、管理・公開している。
 
 ダニエラ・ディ・カプアさん(方面副婦人部長)は、難民支援の活動に約20年間従事した後、事務局で働く。池田先生の平和提言を読み深めながら、イタリア社会に貢献できるような活動を調べ、提案している。
 これまで、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)やセーブ・ザ・チルドレンなどと協働して、教育や人道支援のプロジェクトを推進してきた。
 「仏法の人間主義をいかに体現できるかを、常に祈り、思索しています。そうして取り組んできたことが、結果的に、社会の課題解決の前進につながっていると感じています」

ダニエラ・ディ・カプアさん
ダニエラ・ディ・カプアさん

 同じく事務局で働く、キアラ・デ・パオリさん(副青年部長)は昨年、アラブ首長国連邦のドバイで開かれた気候変動対策の国連会議「COP28」に参加した。
 イタリア創価学会が1000分の8税で支援する活動にも、環境保護や気候変動対策に関するプロジェクトが多くある。プロジェクトを推進してきたUNDP(国連開発計画)とは、COP28でもイベントを共催した。
 
 「社会に開かれた活動を進める中で、触発の連鎖が生まれていきました」とデ・パオリさん。税の分配先としてイタリア創価学会を選択する納税者は、年々、増加しているという。イタリア創価学会に対する、認知と信頼が広がっている証しでもある。

キアラ・デ・パオリさん
キアラ・デ・パオリさん

 「池田先生が示された平和構想の遠大さを実感する日々です。その実現を祈り、行動する中で、人生も大きく深まっていきました」
 ディ・カプアさんが語り、デ・パオリさんもうなずいた。師への報恩感謝が、社会貢献に尽くす友の原動力になっている。

<インタビュー>
元イタリア首相府参事官
アンナ・ナルディーニ 氏

 ――イタリアで長年続いたカトリックの国教制は、1984年に廃止されました。こうした歴史について教えてください。
 
 イタリアの政教関係については、サルディーニャ王国時代の1848年を出発点としてお話ししたいと思います。この年に制定された「アルベルト憲章」の第1条では、カトリックが「国家の唯一の宗教」であるとし、国教制を定めました。この国教制の原則は、ファシズム政権下の1929年に、国家とローマ教皇庁との間で締結された「ラテラノ協定」においても、再確認されました。
 
 戦後、イタリアは共和国制に移行し、48年に現行憲法が施行されました。その第8条には、全ての宗派が「法律の前に等しく自由である」と明記され、カトリック以外のあらゆる宗派も、国の法律に反しない限り、自己の規約により団体を組織する権利が認められました。
 一方、第7条では、イタリア共和国とカトリック教会との関係性は、「ラテラノ協定により規定する」とあり、事実上、カトリックの国教制は維持される形となりました。
 
 こうして、国教制と信教の自由との間に、齟齬が生じることとなったのです。
 それを“調整”したのが、84年に締結された「ヴィッラ・マダーマ協約」でした。カトリックが唯一の宗教であるという原則は、「効力を有しないものとみなす」とされ、これをもって、アルベルト憲章以来の国教制は廃止されました。
  
 ――カトリック以外の宗派と国家との関係性は、どのように発展したのでしょうか。
 
 共和国憲法の第8条でも、すでに信教の自由はあらゆる宗派に認められ、国家との関係は「各宗教代表者との合意に基づき、法律により規定する」と定められていました。一方で、実際にカトリック以外の宗派と協約を結ぶまでには、長い時間がかかったのが現実です。
 
 転換点となったのは84年、ヴィッラ・マダーマ協約に続き、キリスト教の少数宗派であるワルドー派と国家との間で、協約が結ばれたことです。これが、国家と宗教団体の協約である「インテーサ」を結んだ宗派(confessione con intesa)の第1号となりました。
 インテーサを締結することで、カトリック以外の宗派もさまざまな優遇措置を受けることが可能になりました。

ローマの名所の一つ「スペイン広場」
ローマの名所の一つ「スペイン広場」

 ――ナルディーニ氏はイタリア首相府で、インテーサの審査等にも携わられました。この宗教協約の重要性をどうお考えですか。
 
 憲法で定められた、信教の自由と平等を確実に保障する上でも、非常に重要なものです。長くカトリックが国教であったイタリアで、国家が他の宗派との協約を結び始めたことには、大きな意義があるでしょう。
 
 宗教団体がインテーサの締結を望む場合、協約の草案を首相府に提出することから、審査が始まります。団体は、法人格を有した団体でなくてはなりません。首相府の指示の下、法人の定款が国の法制度と矛盾していないかなどの確認がなされます。
 首相府には専門の委員会が立ち上がり、申請者である団体の代表も参加して、協約について意見交換を重ね、必要に応じて修正を加えます。そうして完成した協約の最終案は厳正に審査され、承認された後、首相が調印することとなります。
 
 その後、国会に提出され、上下両院を通過すれば、共和国大統領による発布、官報への掲載を経て、インテーサは発効されます。
  
 ――国家とイタリア創価学会とのインテーサは、2015年に調印、翌16年に発効されました。イタリア創価学会には、どのような印象をお持ちですか。
 
 インテーサが審査を経て首相による調印に至った場合、首相官邸で調印式を行うため、その準備を首相府が担うのが通常です。ところが、イタリア創価学会の場合はその必要はありませんでした。レンツィ首相(当時)が、創価学会の会館で調印式を執り行いたいと言ったからです。前例のないことでしたので、よく覚えています。
 
 私も地域の創価学会の会館を訪れたことがありますが、とても洗練され、落ち着いた雰囲気でした。創価学会の皆さんが、協力し合って課題に取り組んでいる様子も見ることができました。
 また、イタリア創価学会が長年にわたって、平和運動や宗教間対話、環境運動などに熱心に取り組んでこられたことも、よく理解しています。皆さんの活動を、私は高く評価しています。
 
 創価学会をはじめ、インテーサを通じてさまざまな宗教の人と知り合いましたが、自らの信仰に真っすぐに生きている人ばかりでした。イタリアでは今もカトリック教徒が大半ですが、一方で、仏教をはじめ他の宗派を信じる人の割合は増加しています。あらゆる団体が、より良い社会を築くための活動を積極的に進めていくべきです。
 そして、排他主義や民族差別を乗り越えるために、宗教間対話の重要性はますます高まっています。差異を超えた友情と対話があってこそ、平和的な共生が可能になると、私は思います。

 イタリア㊤(9日付)の記事はこちら

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