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〈ブラボーわが人生 信仰体験〉第112回 90歳 サンディエゴの月光 2023年2月18日

  • 「生涯青春、ピースだね」
グラント・シェリー・イクヨさん
グラント・シェリー・イクヨさん

  
 【横浜市中区】どうして右手親指に、ばんそうこうを貼っていたのか――。
 グラント・シェリー・イクヨさん(90)=支部副女性部長=は、やっぱり取材を断ろうと思った。
 まだ年寄りじゃないという自負がある。
 だけど娘に「私には信心のことは断っちゃダメって言うくせに」と痛いところを突かれてしまった。
 ぷんぷんになって扉を閉めた。
 そしたら右手親指を挟んだ。
 あいたたた。
 次の朝、記者が現れた。
 「いや~お元気ですね~」
 陽気なコイツに腹が立つ。
 なぜなら、言われたくないワード第1位だったから。
  

2月。シェリーさんの庭に春の足音が
2月。シェリーさんの庭に春の足音が
  
●ロスの支部結成大会

  
 だから、それがいけないんですよ。年だったら、みんなヨボヨボだと思ってる。元気じゃいけないの? 
 池田先生が「生涯青春」っておっしゃってるでしょ。何のために朝から1時間も2時間も足しびらせて題目あげるんですか。
 (焦る記者。「赤いマニキュアがいいですね~」と褒める。これがまさかの逆効果)
 私これでも女性ですからね、オシャレしてもいいじゃない。ダメなの?
 あなたねえ、90歳だからふらふらのおばあさんが出てくるって思ったんだろうけど、そうはいかないわ。池田先生に少しでもお応えしようとしてんのに、くたびれちゃってどうすんの。
  
 あのね、1956年(昭和31年)に信心してすぐ、アメリカに渡ったんです。主人(ハロルドさん)が海軍でしたから転勤で。
 サンディエゴにいた60年の秋でした。メンバーが来てね、「池田先生がお見えになるよ」って。それがロサンゼルスの支部結成大会だったの。
 

ロサンゼルスで行われた会合の帰り。地区の人と。2列目左端がシェリーさん
ロサンゼルスで行われた会合の帰り。地区の人と。2列目左端がシェリーさん
  
●ギラギラの目

  
 狭いホールにみんなが詰めて座ってた。
 誰かが「地区部長の名前を読み上げます」って言ったの。あら、地区部長って兵隊さんみたいね~ってのんきにしてたら、私の名前が呼ばれたの。
 ポカンとなりますよ。池田先生が私の顔をじーっと見て、「自分の名前を忘れちゃった?」。
 冗談じゃないですよ。信心のこと分かんないんだもん。
 でも不思議ね。池田先生の話を聞いてると、よしやるぞって気持ちがどんどん出てくんだから。
  
 マンガのような話だと思ってください。とにかく大変でした。
 座談会なんかも1日がかり。メンバーの家が離れてるから、迎えに5時間かかるの。
 フォードの8人乗り。夜中の高山を登ったら、エンジンが止まりそう。周りに家なんかないですよ。獣の目がギラギラ光ってる細い道だから怖くって、後ろの人は題目あげてましたね。
  

お話になる時も全力で。お笑いになる時も全力で
お話になる時も全力で。お笑いになる時も全力で
  
●ゴホンゾン・パワー

  
 お金も大変。ものすごくガソリン食うしさ、会場を借りるのも自費だもん。
 3時間で60ドル。働いてたっていやあ体裁いいけど、200人くらいのパーティーで、見よう見まねの日本舞踊を1人でやったの。踊る時は無我夢中だけど、帰りは何でこんなことしてんだろって、情けなくなるの。
 でも地区部長をやめようとは思わなかった。私がやめたら、つらい思いしてる人は、それこそ逃げ場がなくなっちゃうわけだし。
 子どもにミルク買うお金がないってメンバーが泣いてるの。冷蔵庫はタマネギ1個だけ。近くのバーで飲んだくれてるダンナの所に一緒に行って、ミルク代をもらいました。
 ダンナのDVで顔が腫れてるメンバーもいたわ。会合も出させてくれないから、その人の家にみんな集まって題目あげましたよ。
 砂漠の中にもメンバーはいましたし。とにかく、一緒に題目あげて、そして折伏したんです。
 「ゴホンゾン・パワー」
 「ウィー・ハブ・ミーティング」
 外国の人と結婚してるからって、みんな英語ができるわけじゃないの。
  

ハロルドさんの写真。ベースの中に犬がいて、ハロルドさんの姿を見つけるといつも寄ってきたという
ハロルドさんの写真。ベースの中に犬がいて、ハロルドさんの姿を見つけるといつも寄ってきたという
  
●クジラの鳴き声

  
 御書もないし、ともすれば心細くなりますよ。だからロサンゼルスまで運転して、支部長に「苦しいです」って言ったら「題目しかないよ」だけ。それでまた4時間、海沿いを走るの。
 あったかいから、窓を開けて運転するじゃない。サンディエゴの海って、大きなお月さまが出るのね。クジラのしっぽが月に照らされてる。鳴き声があちこちから聞こえてさ、私も泣きたくなっちゃった。
 だけど池田先生が「幸せになるんだよ」っておっしゃったから、帰って朝まで題目あげて……その繰り返しですよ。
 主人は船に乗ってたから、家にいるのは1年のうち、たった3週間。車のエンジンが聞こえた途端、玄関から飛びつくの。
 胸の内を話すと、もう涙は出るわ、鼻水は出るわ。そしたら優しい声で「いいじゃないか」って。
 「池田先生があなたのことを絶対に分かってくれてる」
 そんな話をしてくれたから、持ちこたえたんだと思います。
  

取材に同席してくださった地元の女性部の方と。玄関にはクジラの尻尾の大きなパズル
取材に同席してくださった地元の女性部の方と。玄関にはクジラの尻尾の大きなパズル
  
●靴底のようなステーキ

  
 主人がリタイアするまで、日本とアメリカを行ったり来たりでしたね。
 横須賀のベース(基地)にいました。初めて教えてもらった御書は、開目抄の「我ならびに我が弟子、諸難ありとも疑う心なくば、自然に仏界にいたるべし」(新117・全234)。ずっと頭に入ってる。
 サンディエゴの地区部長になって、良かったと思うかですって? 思いません。それぐらい想像を絶するものがあったから。
 でもそこまでしないと、私は人間革命できなかったと思う。池田先生はそれを分かっててくださったんですよ、きっと。
 私ね、小説『新・人間革命』を読んで、すごく涙出たの。
 先生はお金を節約して、靴底のように硬いステーキを食べたって。体調も悪くて、熱も相当出たって。そこまでして来てくれた。池田先生の大きな心に包まれて、私たちは出発したんですね。
 師匠が「生涯青春」っておっしゃってる。自分が弟子になったからには、それをとことん守っていくだけですよ。難しいこと考えてません。
 なのに、あなた(記者)が何回も「おばあさん、おばあさん」って言うでしょ(言ってない)。年齢なんかどうでもいいのよ、まったく。
 お月さまを見るとね、池田先生のお顔が浮かぶの。返事しなかった私を見ていた優しいお顔。サンディエゴの時に、ご迷惑をおかけしました。だから少しでも恩返しできたらいいな。
 今、お友達を折伏してます。生涯青春、ピースだね。
  

英字の御書。線が引かれていた
英字の御書。線が引かれていた
  
後記

  
 シェリーさんは、池田先生が撮影したイギリス・ウィンザー城の道の写真が大好きと言った。かなたへ伸びる一本の道。夫・ハロルドさんの言葉に重なるという。
 「池田先生の話だけを聞いて、池田先生だけを見ていればいいんだよ」
 ハロルドさんもまた、道なき道を題目で進んだ人だ。矛盾に悩んだ時もある。
 広宣流布は「平和」。
 軍人は「戦争」。
 自分はどっち?
 池田先生に質問する機会があったそうだ。
 「主人が帰ってきたら、『ボクは船で世界広布していくよ』って晴れ晴れとしてたの」
 ハロルドさんは、キャプテンの許可をもらい、船内の一室を仏間にして祈った。1カ月もすると50人ほど集まった。世界の港に寄ると、民族を超えた輪をつくった。
 そして最期まで優しかった。12年前、病床からシェリーさんに「あいしてる」。最初で最後の5文字を贈った。
 「主人は静かで強いサムライでした」
 先日、シェリーさんに会いに行くと、親指のばんそうこうが取れていた。
 「良かったじゃないわよ。あなたがお出ましになってから、年を意識するようになっちゃった。どーしてくれんのよ」
 それはぶっきらぼうにも、はたまたおどけているようにも聞こえる名調子であった。(天)
 

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