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インタビュー 東京オリンピック・パラリンピック 南スーダン代表――スポーツが開く未来 2021年7月20日

  • 企画連載 私がつくる平和の文化Ⅲ 第7回
取材に応じたマイケル選手㊨とジョセフコーチ
取材に応じたマイケル選手㊨とジョセフコーチ

 今月23日に東京オリンピックが、来月24日に東京パラリンピックが開幕します。今回の「私がつくる平和の文化Ⅲ」では、大会出場を目指す南スーダン代表の陸上選手たちを取材。同国では、紛争や貧困の影響で練習環境が整っていないため、4人の選手たちが一昨年11月に来日し、群馬県前橋市で事前合宿を行ってきました。クティヤン・マイケル・マチーク・ティン選手(パラリンピック陸上男子100メートル)と、コーチのオミロク・ジョセフ・レンシオ・トビアさんに、今大会に懸ける思いなどについて聞きました。(取材=木﨑哲郎、歌橋智也)

紛争なき世界へ

 ――国連では、オリンピックの開催に際して「五輪休戦決議」を採択しており、五輪開会式の7日前からパラリンピック閉会式の7日後までの間、あらゆる紛争の休戦を加盟国に求めている。紛争なき世界の実現は、まさに南スーダンの人々の悲願だ。同国は、2011年にスーダンから独立した「世界で最も新しい国」。だが、その後も国内の争いが絶えず、国民の3分の1に当たる400万人が難民・国内避難民となっている。同国の五輪出場は前大会に次ぐ2度目。やむなく祖国を逃れ、難民の立場で参加する選手もいる。
  
 <マイケル選手> 私は、パラリンピック出場を目指す南スーダン初の代表選手です。今、こうして日本の地にいられるのも、オリンピックのおかげです。私にとって、オリンピックは「平和のシンボル」であり、スポーツは「平和のための活動」です。
 祖国の人々、また障がいのある全ての人々の希望になりたいと思っています。
  
 <ジョセフコーチ> オリンピックは、世界から集まった選手たちが、競技を通して「平和」というメッセージを分かち合うことができる大会です。
 祖国の子どもたちも、オリンピックに注目し、期待に胸をふくらませています。私は、オリンピックに関心を持つ各国の人々に、「共に平和に生きましょう。子どもたちが自由に生きられる世界をつくりましょう」と呼び掛けたい。

群馬・前橋で合宿中の南スーダン代表の陸上選手©EPA=時事
群馬・前橋で合宿中の南スーダン代表の陸上選手©EPA=時事
日本の“当たり前”に驚く

 ――前橋市では、ふるさと納税等で資金を調達し、選手たちの合宿生活をサポートしてきた。オリンピックの延期により、選手たちの日本滞在は、すでに1年半を超える長期間となっている。生活習慣にもある程度、慣れたようだが、当初は、さまざまなカルチャーショックを受けたという。
  
 <マイケル選手> 日本に来てからは、毎日食事ができています。これにはとても驚きました。私の実家は首都のジュバから遠く離れた貧しい村にあり、食べ物がなかなか手に入りません。何も食べられない日もありましたし、一日一食でも、ちゃんとした食事ができれば幸運でした。だから、日本で一日三食も食べられることが信じられなかったのです。

 日本の食事は、とてもおいしいですね。特にオムライスが好きです(笑い)。最初は、すぐにお腹がいっぱいになってしまい、食べ切れませんでした。

マイケル選手
マイケル選手

 <ジョセフコーチ> 南スーダンでは、紛争だけでなく、自然災害による食糧不足など、たくさんの課題があります。選手たちの多くは、食べる物も、練習着も満足にありません。まして、グラウンドなどの練習環境はまだまだ整っていません。練習に集まるにも、車も自転車もないので、長時間、歩いて来ないといけないのです。こうした状況ですから、週3回くらいの練習が精いっぱいでした。
 
 日本では、トレーニングの器材も含め、全てがそろっています。支援してくださる皆さまに、心から感謝しています。

ジョセフコーチ
ジョセフコーチ

 <マイケル選手> 日本に来て、もう一つ驚いたのが、子どもたちが当たり前のように学校に通っていることです。南スーダンでは、経済的な理由から、多くの子どもたちが学校に行くことができません。家の手伝いをしていたり、街でたむろしていたりします。
 学校自体も不足しています。ほとんどの校舎では、水道やトイレ、電気も整備されていません。日本では考えられないですよね。
 日本の若い皆さんには、ぜひ学校での勉強を頑張ってほしい。教育を受けるということは、将来、何か素晴らしいものを手にするチャンスを得た、ということなのです。
  
 <ジョセフコーチ> 日本の子どもたちは、あいさつもしっかりできるし、本当に礼儀正しいですね。私は、子どもが大好きなんです。私自身、17人の子どもの父親ですから(笑い)。
 来日以来、小学校や中学校の子どもたちと何度も交流をしました。一緒になって走り回ったことは、とても良い思い出になりました。皆さんには、これからも親や先生の言うことをしっかり聞いて、伸び伸びと成長してほしいと願っています。

祖国への思いを胸に、練習に励む
祖国への思いを胸に、練習に励む
陸上って何?

 ――生まれつき右腕に障がいがあるマイケル選手。祖国では、母と2人の妹が、日本での活躍を心待ちにしているそうだ。生い立ちと、今に至る道のりを尋ねた。
  
 <マイケル選手> 私が生まれたのは1990年、南スーダンの独立前です。首都から離れた村で生活していたので、首都を中心に発生した独立後の紛争の影響は、直接には受けずに済みました。ですが、友人の中には、紛争に巻き込まれた人もいます。

 陸上競技との出あいは2012年です。当時は、スポーツといえばサッカーしか経験したことがなかったので、「陸上」と聞いても、一体何を意味するのかさえ分かりませんでした。学校の先生に「走ってみないか」と声を掛けられ、挑戦してみたのです。その後、いくつかの大会で良い成績を収めることができ、陸上選手を志すようになりました。

 ですが、南スーダンでは、障がい者を支援する社会体制が整っていません。まして、障がいのある陸上選手は、私以外にほぼいない状況でした。

 そうした中、世界に目を向ける転機となったのが16年のリオデジャネイロ・パラリンピックです。テレビを通して、各国を代表する選手たちの姿を目にし、心に火が付きました。「いつの日か、僕もパラリンピックに出場しよう。それまで、絶対にあきらめないぞ」と。以来、東京パラリンピックへの出場が大きな目標となったのです。

軽やかに疾走するマイケル選手㊨
軽やかに疾走するマイケル選手㊨
多民族の結束めざし

 ――今年で独立10年を迎えた南スーダン。独立後も紛争が絶えなかった背景には、民族間の不信や、若い世代の暴力を容認する風潮がある。そうした中で、国民の相互理解と青年交流の推進を目的とした、年に1度の全国イベントが、日本の支援により2016年に誕生した。「国民結束の日」というスポーツ大会だ。毎年、国際協力機構(JICA)が企画・運営を全面的にサポートしている。
  
 <マイケル選手> この「国民結束の日」は、スポーツ選手だけでなく、全国民にとって非常に大事なイベントになっています。私自身、第1回と第2回の参加者です。
 開催期間中、全国からさまざまな民族の若い選手が首都ジュバに集まり、合宿をします。そこでは、競技だけでなく、平和をテーマにした講演会やワークショップも開かれます。祖国の未来について考え、語り合うのです。それぞれの地域に帰った後は、学んだことを家族や友人に伝えていきます。
  
 <ジョセフコーチ> 「国民結束の日」は、まさに南スーダンに平和をもたらすイベントです。私自身、来日前にこの大会に参加しました。南スーダンには、64の民族が暮らしています。異なる民族の若者たちが一堂に会し、スポーツで汗を流し、平和について学び合う。その姿に、感動で胸がいっぱいになりました。
 南スーダン人にとって、スポーツは娯楽ではありません。「特別なもの」なのです。スポーツには、政治的、民族的な分断を越えていく力がある。そして、教育を受けることができない多くの子どもたちに、自らの可能性に気付く貴重な機会を与えるものなのです。

南スーダンの全国スポーツ大会である「国民結束の日」(2019年1・2月)。 写真提供:久野真一/JICA
南スーダンの全国スポーツ大会である「国民結束の日」(2019年1・2月)。 写真提供:久野真一/JICA

 ――南スーダンにおいてスポーツ選手は「平和の大使」にほかならない。パラリンピックへの出場を目指すマイケル選手は、「民族と民族」の間に横たわる壁だけでなく、「障がいのある人と、ない人」の間に存在する壁もなくしたいと願う。彼は力を込めた。
  
 <マイケル選手> 僕には人生のモットーがあるんです。それは、「Disability is not inability(障がいがあることは、無能力ではない)」。つまり、障がいがあっても、人生の障がいにはならないということです。

 障がいがあろうとなかろうと、私たちは皆、同じ人間です。だから、一人一人が同じ競技の舞台に立つことができるよう、支援の手を差し伸べることが重要です。その先にこそ、平和な社会の実現もあると思っています。

 将来、障がいのある子どもたちが活躍できる舞台をもっと広げていきたい。自分自身がその先頭を走って、後に続く人たちの道を開いていきます。

 <参考・引用資料> 古川光明著『スポーツを通じた平和と結束』佐伯印刷株式会社出版事業部
  
  
  

池田先生の写真と言葉
2004年8月、群馬で
2004年8月、群馬で

 これから大切なのは、文化や民族、思想などの相違があっても、「人間」という普遍的な次元では一体である、という連帯感を創出していくことです。
 
 ◆◇◆
 
 人間と人間、人間と自然を生き生きと結んでいく、アフリカの若々しき生命の輝きこそが、地球文明に新しい「創造の活力」を贈り、「人間の顔」をもたらしうる――私はそう確信しています。
 
 (対談集『世界の文学を語る』<アフリカ文学の世界から>より)

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heiwanobunka@seikyo-np.jp

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