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国連世界食糧計画(WFP)日本事務所の津村康博代表に聞く 2024年3月14日

〈SDGs×SEIKYO〉 飢餓ゼロを目指して

 紛争や気候変動による自然災害など、さまざまな要因で引き起こされる飢餓。今も世界の多くの人々が、食べ物を手に入れられない状況にあります。どうすれば飢餓をなくせるのでしょうか。SDGsの目標2「飢餓をゼロに」をテーマに、国連世界食糧計画(WFP)日本事務所の津村康博代表にインタビューしました。(取材=木村輝明、澤田清美)

 
 ――WFPは1961年の発足以来、世界最大規模の人道支援組織として活動しています。どのようなことを目指して活動されているのでしょうか。
  
 
 私たちの活動目的は、飢餓を終わらせることです。まさにSDGsの2番目にある「飢餓をゼロに」ですね。世界120カ国・地域を拠点に食料支援を行っています。
 
 日本事務所では、WFPの活動の重要性、飢餓の問題、食の大切さを、メディアを通して日本社会に発信し、さらに資金調達等の任務を遂行しています。
 
 また、日本における公式支援窓口である「国連WFP協会」では、一般市民の方や、民間企業・団体からの寄付を受け付けています。
 
 政府にも訴えかけますが、一番大切だと思うのは、一般市民の方々に強いメッセージを伝えていくことだと考えています。
 
  
 ――津村代表は民間企業・団体での勤務を経て、98年にWFPに入職されて以来、25年にわたり、支援活動に取り組んでこられました。人道支援の現場で働くことになったきっかけを教えてください。
 
  
 大学生だった90年代、東西冷戦が終結し、いよいよ平和が来るかと思った時に、湾岸戦争の勃発や、ユーゴスラビアでの民族紛争、またルワンダでの大虐殺などをメディアで目にし、人道支援に関心を持ちました。

アフガニスタンとパキスタンを結ぶ国境付近。移動式倉庫を設置し、緊急食料支援を行う(2023年) ©WFP/Philippe Kropf
アフガニスタンとパキスタンを結ぶ国境付近。移動式倉庫を設置し、緊急食料支援を行う(2023年) ©WFP/Philippe Kropf

 ちょうどその頃、明石康さんや緒方貞子さんなど、日本人の国連幹部が活躍されていました。こうした方々を見るにつけ、自分も何かできたらなと思ったんです。
 
 一度、民間企業に就職しましたが、退職して大学院で地域紛争や民族紛争と国際機関の関わりを専門に学びました。
 
 まだ本当に若かったので、後先を考えず、未熟ではありましたが、身軽に動けた時期でした。
 
 大学院生時代に、各国政府の費用負担を条件に国際機関が若手人材を受け入れる「JPO(ジュニア・プロフェッショナル・オフィサー)派遣制度」に応募し、WFPに入職しました。
 
  
 ――最初はどのような任務を担われたのですか。
 
  
 イタリアのローマにあるWFP本部に所属しました。ここでは食料支援というよりも、国連本部との調整や連絡・連携を担いました。
 
 国連総会や国連の安全保障理事会、経済社会理事会などで議論されていることをWFPに伝え、WFPがどのように関わっていくかを検討する、渉外的な部門でした。
 
 ローマでの勤務の後、初めての支援現場は、旧ユーゴスラビアのコソボでした。ここで初めて食料の入った袋を見て、“これがWFPなんだ”と実感しました。ここでは小麦や豆、食用油、塩、栄養強化食品を配りました。
 
 ちょうどユーゴスラビア紛争が終わりに差しかかっている時期でした。私は支援した食料の使用状況を確認する「モニタリング」を担当しました。車で現地視察に向かうと、沿道に新しいお墓がたくさんあったんです。ここは、やはり紛争地なのだと改めて感じました。初心に戻るというか、思いを新たにしました。

エチオピアの難民キャンプに到着したWFPのトラック(2023年) ©WFP/Michael Tewelde
エチオピアの難民キャンプに到着したWFPのトラック(2023年) ©WFP/Michael Tewelde
学校給食の喜び

 ――特に印象に残っている現場はありますか。
 
  
 悲しいこともありますが、ポジティブな記憶もあります。
 
 最近、一番印象に残っているのは、西アフリカのガンビアにいた時です。ちょうどコロナ禍によるロックダウンがあり、学級閉鎖が非常に長く続きました。
 
 この間、学校給食も行われていませんでした。貧しい家の生徒は、給食と合わせて2食など、1日3食を食べられない家庭も少なくありませんでした。
 
 子どもたちに話を聞くと、学級閉鎖中は「家の農作業を手伝っていた」「家事をしていた」「弟や妹の面倒を見ていた」など、もう勉強どころではなかったそうです。
 
 学校が再開され、給食も再開されると、皆、すごく喜んでいました。

学校菜園を視察するガンビアの農業大臣(手前左)と津村代表(2021年)©WFP
学校菜園を視察するガンビアの農業大臣(手前左)と津村代表(2021年)©WFP

 この学校給食は、国連WFP協会を通じて、日本の一般市民の方や、民間企業からの寄付によって実施されたものでしたので、現地に行くと、子どもたちが日の丸を描いた旗を持って、「ありがとう」と歓迎してくれたんです。本当にうれしかったです。
 
 その日の献立は、ご飯に、オクラを混ぜたソースをかけたもので、そこに魚や野菜が入っていて、唐辛子が利いており、食が進む味付けでした。私も大好きな味で、日本人にも合うと思います。
 
 我々は栄養に気を使っていますので、タンパク質や野菜を入れ、バランスの良い食事を提供しています。みんな、とてもおいしそうに食べていました。
 
  
 ――一昨年、WFPは過去最多となる1億6000万人の食料支援を世界で実施しました。現在の飢餓の状況を教えてください。
 
  
 2023年に出た最新のリポートでは、22年の推定で最大7億8300万人が飢餓に陥っているとの報告がありました。
 
 約20年前に、私が日本事務所で勤務していた時の飢餓人口が約8億人。ほとんど変わっていません。しかし、10年から19年までは、実は6億人程度にまで下がっていました。新型コロナウイルスのパンデミックなどもあって、20年に激増し、7億人を突破。さらにウクライナ情勢の影響があり、また8億人近くにまで増加してしまったのです。

イエメンの難民キャンプで、姉が幼い弟に食事を与える(2023年) ©WFP/Sayed Asif Mahmud
イエメンの難民キャンプで、姉が幼い弟に食事を与える(2023年) ©WFP/Sayed Asif Mahmud

 飢餓人口の内訳では、ヨーロッパや中南米、東アジアは減少しています。増加しているのは、中東、そしてアフリカなんです。
 
 また、生命や生活に支障をきたす危険のある「急性食料不安」に該当する人数が3億3000万人です。78カ国に集中しています。
 
 「急性」なので、主な原因は武力紛争や気候変動による異常気象で起こる自然災害です。
 
 具体的に言えば、パレスチナ自治区のガザ地区。ここは極めて厳しい状況にあります。あとはイエメン、アフガニスタン、シリア、さらにはスーダン、エチオピア、ソマリアなど、挙げればきりがありません。

紛争のため食料不足が深刻化する中東のガザ地区(本年2月) ©Majdi Fathi/NurPhoto/共同通信イメージズ
紛争のため食料不足が深刻化する中東のガザ地区(本年2月) ©Majdi Fathi/NurPhoto/共同通信イメージズ
四つの要素

 ――なぜ、飢餓は起こるのでしょうか。また、どうすれば飢餓をなくしていけるのでしょうか。
 
  
 根強い貧困、不平等、紛争、気候変動と、飢餓の発生原因はいろいろとあります。しかし、じつはこの地球上には、全人口を賄えるだけの食料を生産する力はあるんです。
 
 食料は十分にあるのに、行き渡らない。つまり「分配」の問題なんです。 私たちが「食料安全保障」と言うときに、四つの要素があります。
 
 第一に「食料が十分にあること」が大事です。
 
 第二に「食料にアクセスできること」。食料があっても買えない、市場が遠すぎて買いに行けない、自然災害で道が遮断されている等の問題があります。
 
 第三が「摂取」です。栄養や衛生について正しい知識がないと、食事で十分に栄養が取れなかったり、水が悪いなどの理由で、たとえ食べても、ちゃんと栄養にならないというような問題です。
 
 第四は「分配」の問題です。「食料システム」という言葉がありますが、これは生産から収穫、貯蔵、流通、販売、摂取、さらには食品ロスなどの問題を包括的に見る概念です。
 
 こうした観点に立つと、問題に対処するためには、パートナーが必要ですので、姉妹機関であるユニセフ(国連児童基金)やFAO(国連食糧農業機関)と協力しますし、民間のセクターも大切です。SDGsの目標17に「パートナーシップで目標を達成しよう」とありますが、まさにその実践が重要になります。

バングラデシュの難民キャンプで食料引換券を使い、配給を受ける女性(2023年) ©WFP/Lena von Zabern  
バングラデシュの難民キャンプで食料引換券を使い、配給を受ける女性(2023年) ©WFP/Lena von Zabern  
困難な地域へ

 ――多様な活動をされていますが、今、WFPが特に力を入れている取り組みは何でしょうか。
 
  
 まず、緊急食料支援は、命を救うためのもので、やらなくてはなりません。
 
 また、「未来を救うための支援」を行っていく必要があります。
 
 例えば、気候変動の影響を抑えることです。自然災害を防いだり、洪水が起こらないようにしたりするための支援ですね。
 
 洪水が発生する地域は、土地が荒れていたり、貧しい地域が多く、インフラが整っていません。そこで堤防や用水路、土手、水門などを構築する「自立のための支援」という取り組みを行っています。乾燥地域に貯水池を造り、干ばつがあっても支援を必要としなくなった例もあります。
 
 国が、WFPや人道支援機関のサポートがなくても、自分たちでやっていけるようにするためのシステム構築も重要です。
 
 WFPは120カ国・地域に拠点を置き、活動していると言いましたが、資金は限られています。できる所は支援を終了して、一番困っている地域にフォーカスするようにしています。

半月型農法と呼ばれる、雨の水の流出を抑え、水を効果的に使う伝統的農法。荒廃した土地を再生し、農業用地に変える(2021年、セネガルで) ©WFP
半月型農法と呼ばれる、雨の水の流出を抑え、水を効果的に使う伝統的農法。荒廃した土地を再生し、農業用地に変える(2021年、セネガルで) ©WFP

 ――世界で起きている飢餓の問題も、日本ではなかなか「自分ごと」と捉えることは難しいように感じます。
 
  
 日本にも“相対的な貧困”が存在します。子どもの貧困や、ひとり親家庭の貧困といった課題に目を向けることも大切です。
 
 アフリカ赴任から帰国して思ったのは、やっぱり日本の「食」は豊かだということです。日本に観光で来られる海外の方々も、日本のおいしい「食」を求めて来ていますよね。
 
 日本では、スーパーやコンビニに行けば、すぐにさまざまな食品が手に入ります。その際に生産国を見て、食品がどの国から来たのかを知ることも、食料問題に関心を持つきっかけになると思います。
 
 日本は食料の多くを輸入に依存しています。海外で戦争が起きれば、食料が入ってこなかったり、価格が高騰したり、ということも実際にあるわけです。
 
 また、地震などの災害時には、日本でも「食料がいつでも手に入る」という当たり前が、当たり前でなくなります。飢餓の問題は、必ずしも人ごとではないということを、知っていただければと思います。

WFPの支援で提供される学校給食を口にするエチオピアの子どもたち(2023年) ©WFP/Michael Tewelde
WFPの支援で提供される学校給食を口にするエチオピアの子どもたち(2023年) ©WFP/Michael Tewelde

 つむら・やすひろ 東京大学卒。上智大学大学院修了。1998年から国連WFPに勤務。イタリア・ローマ本部、コソボ、中央アフリカ共和国など9カ国を拠点に、現地食料支援活動の調整、災害準備対応と緊急支援活動、農村自立促進プロジェクトなどに携わってきた。2023年7月から現職。

  
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sdgs@seikyo-np.jp
  
●聖教電子版の「SDGs」特集ページが、以下のリンクから閲覧できます。
https://www.seikyoonline.com/summarize/sdgs_seikyo.html
  
●海外識者のインタビューの英語版が「創価学会グローバルサイト」に掲載されています。
https://www.sokaglobal.org/resources/expert-perspectives.html

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