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〈ブラボーわが人生 信仰体験〉第129回 負けん気ナンバーワン 2024年1月6日

  • 「天が晴れちゃったのよ」
「心の財を積ましてもらいました」と語る萩原くに子さん
「心の財を積ましてもらいました」と語る萩原くに子さん

  
 【横浜市鶴見区】目がほぼ見えない。白い霧に包まれたような視界にあって、手あかのついた御書を道しるべに、この人は生きてきた。インクのかすかな匂いにさえ、指の腹から感じる紙質にさえ、萩原くに子さん(96)=地区副女性部長=は命を震わせる。
  
 ◇◆◇
  
 信心したら絶対良くなるんだ。どんな病気も治るんだ。そういう意気込みが、御書を読み込んだら、体の中にボンと入っちゃった。だからね、目が悪いってことを自分では忘れたというか、悲しむってことがないねえ。なんたって人に会うと、うれしくなってしゃべっちゃう。そんなんだから言われんの。「実は見えてるんじゃない?」って。
 創価学会に入って私、どんどん明るくなったのよ。戸田先生の声が響いてる。うちの人(夫・正雄さん)が質問したの。「妻の目は治りますか」。戸田先生は「信心で治るぞ。ただ、当たり前のことをやってちゃだめだ」。家帰ってきて「おまえは創価学会に預けたんだから、今日から家のことやらなくていいよ」。うちの人、料理を毎日作ってくれた。だからもう、前に前に進めばいいのよって感じ。
  

訪問看護師さんが来てくれる時間がいつも楽しみだという
訪問看護師さんが来てくれる時間がいつも楽しみだという
パルスオキシメーターで血中酸素濃度を測るくに子さん。「問題なしですね」と訪問看護師さんの明るい声
パルスオキシメーターで血中酸素濃度を測るくに子さん。「問題なしですね」と訪問看護師さんの明るい声

  
 〈幼少期を群馬の山里で過ごす。小学4年生で柿の木から落ち、視神経を損傷した〉
 黒板の字も見えないし、広げた教科書も分からなくなったの。そんなんでもう、小学校に通えなくて、しくしく泣いてたら、担任の先生が紙にバラを描いてくれたのよ。
 一番下が蕾で、中間が五分咲きで、てっぺんは大きな花だった。それを一つずつ指さして、「今は蕾で堅いけど、だんだんほころび始めて、萩原が大人になったら幸せ満開になるからね」って私にくれたの。それが卒業証書みたいなもんね。
  

たった一言を伝えるために正雄さんは、北海道の摩周湖までくに子さんと旅をした。「霧の摩周湖」という曲がはやっていた頃。目がほぼ見えない妻にカメラを構えて、言った。「いつか必ず霧がはれて、目が開くからね」
たった一言を伝えるために正雄さんは、北海道の摩周湖までくに子さんと旅をした。「霧の摩周湖」という曲がはやっていた頃。目がほぼ見えない妻にカメラを構えて、言った。「いつか必ず霧がはれて、目が開くからね」

  
 〈医師から結婚を諦めるよう告げられたが、18歳で正雄さんから短い恋文のプロポーズをされた。若い二人は横浜の文化住宅で、つましく暮らす。しかし……〉
 空気のいい田舎で育ってるじゃないですか。それが京浜工業地帯のド真ん中に来たから、環境に負けちゃったんだね。年中寝床で起きられなくって。
 うちの人も体が弱かったけど、溶鉱炉で夜勤でしょ。苦しかったと思う。枕元の畳に、かきむしった跡があったから。
 だから近所のおばさんに「いい薬を持ってきたよ」って言われると、うれしくなるじゃないですか。カバンからどんな薬が出るんだろって待ってたら、南無妙法蓮華経の話だった。
  

負けん気は母ハルさん譲り。くに子さんが目が見えなくて「困った」とこぼした時、ハルさんに「困ったって言うから困るんだ。困っても困ったって言わなけりゃ、困んなくなる」と返されたらしい
負けん気は母ハルさん譲り。くに子さんが目が見えなくて「困った」とこぼした時、ハルさんに「困ったって言うから困るんだ。困っても困ったって言わなけりゃ、困んなくなる」と返されたらしい

  
 〈芽吹きの春を迎える。1953年(昭和28年)4月、くに子さんは信心を始めた。次の日、さっそく先輩2人が来て「萩原さん、折伏行くよー」と〉
 困っちゃうよ。信心の「し」の字も知らないでしょ。先輩が「寝てた頃の話をしなさい」っつーの。「寝てる人を起こすのが、あんたの仕事だ」って。
 くっついて行くと、1人の先輩が信心の話をして、もう1人は聞こえないように題目あげてんのね。いい頃合いで、先輩が私の膝をつっつくの。「つらいよね。本当は起きたいよね」ってそれだけよ。
 家に帰ると、食が湧くんだね。「私も信心したい」って声がうれしくてさ。その日の朝まで箸も持てなかった人間が、夜にはご飯をぱくぱく食べてる。うちの人、不思議がって信心した。
 それこそ「およげ!たいやきくん」じゃないけど、毎日毎日、折伏よ。行った先でも、あんまり変なのがいると、“コノヤロ、頭からしょうゆかけて食っちゃうぞ”っつー本性が出ちゃうくらい元気になったわけ。
 やっぱり、題目を真剣勝負であげたら、向こうから飛び込んできちゃうのね。私のきょうだいが8人、うちの人の親戚が12人、全員信心したんだから。
  

くに子さんに好きな言葉を、とお願いしたら、真っ先に「一ばん」と書いてくれた
くに子さんに好きな言葉を、とお願いしたら、真っ先に「一ばん」と書いてくれた

  
 〈目が見えないことは、何かと不自由に違いない。くに子さんはそれを肯定しつつ「でも」と続けた。「目が見えないことで、はっきり見えるものもあるのよ」。矛盾するようなこの表現の裏には、人知れぬ努力の蓄積がある〉
 池田先生に観心本尊抄の一節を教えてもらったんですよ。
 「天晴れぬれば地明らかなり。法華を識る者は世法を得べきか」(新146・全254)
 御書を開いて、どこに書いてあるか探すんです。それこそ顔をくっつけるようにして。小学校も卒業できなかったから、漢字が難しくて苦労した。「ここだよ」って、うちの人が指でなぞらせてくれたの。
 当たり前のことをやってちゃだめでしょ。つっかえ、つっかえ読んで、正の字書いて。題目あげて、題目あげて、朝まで題目あげて。折伏に歩いたら「あんたの目が見えたらな」って山ほど言われて。それは大変なことだったけど、歩くとこ歩くとこ折伏ができていくと、池田先生の心が分かってきたの。
 「萩原さん、あなた自身が太陽だよ」
 「あなたは周りを照らす存在なんだよ」
 人生が明るくなったっていうか、自分のなかで天が晴れちゃったのよ。ああ、これが心の財っていうものか。「地明らかなり」ってことは、全てを見通せるってことだもん。うれしくて、たまんないですよ。
 よーし、信心の眼でみんなを励ますぞ。そういう人生を、私は見つけちゃったのよ。
  

「御書は『読む』というか『たたきこむ』。そうしないと自分のものにならない」
「御書は『読む』というか『たたきこむ』。そうしないと自分のものにならない」
くに子さんの御書。ほとんどのページの余白に、正の字が並んでいた。1本の線に人生が詰まる
くに子さんの御書。ほとんどのページの余白に、正の字が並んでいた。1本の線に人生が詰まる

  
 〈くに子さんの周りにいると、みんな笑顔になる。取材でも「人の良いところを引き出す天才」と自称して笑いを誘っていた〉
 信心は何でもやっといた方が得だね。信心してなかったら私、へんてこりんなおばあちゃんになってたと思うよ(同席の家族が大きくうなずく)。
 だいたい、ここまで生きられる人間じゃなかったから。ほんとに創価学会の中で、病気を治していただいたって感じね。
 なんたって、先生が鶴見と大田を行ったり来たりした時代に信心したんだもん。とにかく勝たなきゃいけないってのが常にある。だから折伏も、みんなの後ろについてくのは、ヤだね。先頭を走ってたい。1番になるんだ。それが私の使命だと思うよ。私まだ若いもん。まだ96歳だよ。広布の山に花咲かせなきゃね。そんな感じ。
  

自宅近くの公園で。移動はスムーズに車いすだった。次男の正博さんが押して、嫁の由美子さんと談笑
自宅近くの公園で。移動はスムーズに車いすだった。次男の正博さんが押して、嫁の由美子さんと談笑
  
●後記

  
 宝物は?と尋ねたら、即答で「子どもたちだねえ。子どもたちが信心して、孫とかひ孫に続いてるから最高だね」。次男・正博さん(72)=副本部長=の証言がある。
 かつて文化住宅の4畳半に、家族が川の字になって寝ていた。子どもたちが夜中に目を覚ますと、仏壇の明かりの前で、くに子さんが正座していた。わが子の給食費も払えない貧窮のなか、御書に顔をくっつけるようにして音読していた。
 何年かして正博さんが未来部の会合で御書を読むことがあった。初めて読むはずなのに、不思議とすらすら読めた。「信心が毛穴から入るとは、母の姿のことだと思う」
 鶴見のトップランナーは今年97歳。まだまだ若いとあっけらかん。なるほど、孫が「ボス」と呼ぶのも分かる。
 「とにかく何もかも楽しいんだよ、信心してれば。だからいつも『おもしろや、おもしろや』って自分で言ってる」
 「池田先生と一緒に戦わせてもらって良かったなあ。今も一緒にいるって感じだもん。こういう幸せって、なかなかないね。もう宇宙大だ」
 くに子語録に元気をもらった、ではちょっと足りない。打ちのめされた。そんな感じ。(天)
  

くに子さんに心で見える景色を聞いた。「富士山だね」。幼少期に仰ぎ見た四季折々の富士の雄姿。ちなみに今何合目ですか。「富士のてっぺんだ」
くに子さんに心で見える景色を聞いた。「富士山だね」。幼少期に仰ぎ見た四季折々の富士の雄姿。ちなみに今何合目ですか。「富士のてっぺんだ」

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