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〈Switch――共育のまなざし〉 沖縄の家庭教育懇談会 2023年6月10日

  • 子育ての「ゆんたく」をしよう

 「ゆんたく」と言えば、うちなーぐち(沖縄の方言)で「おしゃべり」の意味。その「ゆんたく」を、沖縄の創価学会は本年、「未来部育成の柱の一つ」に据えています。地元組織と未来本部と教育本部とが連携して行う「家庭教育懇談会」(通称=家庭コン)です。子育て・孫育てについて、あれやこれやと、大人たちがおしゃべりするだけでいい――それがなぜ、未来部育成につながるのでしょうか。(記事=大宮将之)
  

古島支部の家庭教育懇談会。「ありのままの自分、ありのままのわが子でいい」との思いを込めて、“桜梅桃李の子育て会”と掲げた(那覇市で)
古島支部の家庭教育懇談会。「ありのままの自分、ありのままのわが子でいい」との思いを込めて、“桜梅桃李の子育て会”と掲げた(那覇市で)

 「そろそろ時間です」と司会が言っても、おしゃべりは終わりそうにありません。子育ての“あるある”が次々と飛び出して笑いが絶えないグループもあれば、赤裸々な“失敗談”に「実は自分も……」と別の人が続いて止まらないグループもあります。
  
 先月28日、那覇市で行われた那覇池田県・古島支部の家庭コンは終始、にぎやかでした。印象的だったのは「悩み」「苦労」といった“マイナス”に思われがちな話題を話していた人の“変化”。話をじっくり聞いてもらったり、同じような経験を持つほかの人の話を聞いたりしているうちに、“マイナス”を“プラス”の意味に捉え直す人が少なくなかったのです。
  
 「うちの子の欠点ばかり見えて叱ってばかりいたんですけれど……本当は『生きているだけ』で、すごいことなんですね」「“親なら、こうあらなきゃいけない”って自分で自分を追い込んでいたかも。課題のあるわが子が、私に“ありのままでいいんだよ”って教えてくれた気がします」「子どもの“反抗期”は、親である私自身の“成長期”でもあるんですね」等々――。
  
 ある親御さんは、特別な支援を必要とするお子さんとの歩みを振り返っていました。
  
 「ほかの子と比べると発達の遅いわが子だけれど……初めてスプーンを使ってご飯を食べられた時、初めて階段を上れた時、初めて『お母さん』って言ってくれた時、どんなに幸せな気持ちでいっぱいになったか」。もちろん大変なことも、たくさんあったに違いありません。けれど、涙でほおをぬらしたその笑顔は、“大切な何か”を学ばせてくれるわが子への感謝を、かみ締めているように見えました。
  

笑顔のワケ

 それにしても不思議です。家庭コンの内容は、SOKAチャンネルVODにある「教育セミナー」を視聴した後、少人数で感想を共有しながら語り合うだけ。ただそれだけなのに、主催する地元組織のリーダー自身も驚くような盛り上がりを見せるのです。
  

「教育セミナー」を食い入るように視聴する(那覇市で)
「教育セミナー」を食い入るように視聴する(那覇市で)

  
 強い地縁・血縁を通して子育て・孫育てをしてきた沖縄ならではの“ゆんたく文化”がもたらすものなのでしょうか。「いえ、決してそうではないと思うんです」と、沖縄総県未来本部長の宮城和也さんは語ります。「むしろ近年は、沖縄といえど、子育てについて何でも“ゆんたく”できる文化が弱まっているように感じてなりません」
  
 宮城さんは小学校の校長まで務めた、教職歴41年の教育部員。その言葉の理由は、数えきれないほど多くの親御さんと接してきた実感に加え、孫を連れて近所の公園に出かけた際に見る光景の“変化”にあるそうです。「かつては公園内で出会った親子連れ同士で、自然とおしゃべりを始める姿が当たり前のようにありました。けれど最近は……遊具の近くで、ずっとスマホを見ている親御さんたちの姿も珍しくないですし」
  
 当然ながらこの事例だけをもって、子育ての“ゆんたく文化”が弱まっているとは言い切れないでしょう。ただ、総県女性未来本部長の大城美奈子さんも、同じような実感を抱いていると言います。不登校のお子さんと親御さんを支える「教育相談支援員」として活動してきました。
  
 「親御さん自身が仕事や子育てに疲れ、“誰かとつながろうとする力”が弱まっているように思います。沖縄は離婚率も高く、ひとり親家庭も多い。コロナ禍もあって日々の生活を送ることに精いっぱいで、誰かに話を聞いてもらおうという考えも余裕も、持ちづらいのかもしれません」
  
 だからこそ、大城さんがじっくり話に耳を傾け、「大変だよね」「無理しないでいいさあ」と受け止めるだけで、親御さんたちは本当に安心するそうです。
  

沖縄都市モノレール「ゆいレール」の古島駅から望む
沖縄都市モノレール「ゆいレール」の古島駅から望む

 
 沖縄の両未来本部長は感じています。子育ての“ゆんたく文化”が弱まっているように見えるからといって、現代の親御さんたちが皆、「子育ての話をしたくない」わけじゃない。むしろ、こちらから「悩みも弱音も安心して話せる場」をつくれば、たくさんのことを話してくれる。その話をじっくり聞くことで、親御さん自身に「ああ。私は誰かに話を聞いてもらいたかったんだ」「話を聞いてもらうって、大事だな」という気付きも生まれる――と。
  
 家庭コンで多くの笑顔が広がるワケも、どうやらそんなところにありそうです。
  

古島支部の家庭コンに参加した友が、感想を書いた画用紙を手に
古島支部の家庭コンに参加した友が、感想を書いた画用紙を手に
聞いてほしくて

 「大人が1センチ変われば子どもは1メートル変わる」――これは、全国の教育本部の友が教育実践の中で積み重ねてきた確信です。
  
 子どもにとって最も身近な存在である親の「表情」「言葉掛け」などがほんの少し豊かになるだけで、子どもはその“1センチの変化”を大きく感じ取り、大きく成長します。こうした親の変化をもたらす急所こそ「話を聞くこと」にほかなりません。
  
 未来部の育成も同じでしょう。だからこそ沖縄の創価学会は、家庭コンを育成の柱の一つに据えたのです。
  
 沖縄平和県・糸満本部は3月と5月に家庭コンを開催。2回とも参加した親御さんは「不登校のわが子に対して、『何とか学校に行かせたい』と思っていた私が、『わが子の気持ちをまず受け止めよう』と思えるようになりました」と語ったそうです。何か特別な助言をもらったわけではありません。親御さん自身が話を聞いてもらうことで、「わが子の話を聞ける」自分になれたというのです。
  
 沖縄創価県でも、不登校気味の少女部員が母親と一緒に家庭コンに参加。その安心感に満ちたやり取りを通して生まれた母の笑顔に、何か感じるものがあったのでしょう。少女はその後、自ら御本尊の前に座って題目を唱えるようになり、学校にも元気に通えるようになったといいます。
  

沖縄市の中頭文化会館で行われたコザ本部の家庭教育懇談会では、子連れの保護者が安心して参加できるように「キッズコーナー」も設けられた
沖縄市の中頭文化会館で行われたコザ本部の家庭教育懇談会では、子連れの保護者が安心して参加できるように「キッズコーナー」も設けられた

  
 沖縄戸田県コザ本部が先月30日、「子育てゆんたく会」と題して開催した家庭コンも盛況でした。話題は、子どもの「食の好き嫌い」の悩みから父親の関わり方まで多彩。2回目の参加だという母親が、その心情を語っていました。
  
 「前回参加した時、初めて自分の本音を人に打ち明けられたんです。不登校のわが子の悩みや、自分自身を責めていたこと……話しているうちに、何だか自然と涙が出てきて。けれど心はすごく軽くなって。だから今日もまた話を聞いてもらいたくて、楽しみに参加しました!」
  

コザ本部の家庭コン。キッズコーナーで「ぬりえ」をする子どもたち
コザ本部の家庭コン。キッズコーナーで「ぬりえ」をする子どもたち
沖縄戸田県コザ本部(村田良秀本部長、阿多利栄子女性部本部長)の家庭教育懇談会に参加した創価家族。地縁でも血縁でもない、「子どもたちのために」との心で幅広い世代がつながる「子縁(こえん)」ともいうべき支え合いの世界が、家庭コンを通して広がっている
沖縄戸田県コザ本部(村田良秀本部長、阿多利栄子女性部本部長)の家庭教育懇談会に参加した創価家族。地縁でも血縁でもない、「子どもたちのために」との心で幅広い世代がつながる「子縁(こえん)」ともいうべき支え合いの世界が、家庭コンを通して広がっている
胸を開けば

 沖縄の創価学会は今、12月に開催予定の文化祭「OKINAWA未来祭」に向かって進んでいます。
  
 演目は「青年世代」が中心となるものだけでなく、「中・高等部員」が主体となるものや「少年少女部のメンバー」が保護者と一緒に参加できる「ファミリー演目」も予定されているそうです。
  
 現在の活動の焦点は「一人一人といかにつながり、その絆を広げ、強めていくか」。地区や支部の創価家族が、わが地域の未来部員とつながるための“最初の窓口”は「保護者」にほかなりません。
  
 その保護者を支え励ますことこそが、未来部員を育む第一歩であることを考える時、家庭コンは小さな単位の集いとはいえ、その意義は決して小さくはないでしょう。
  

コザ本部の活動の舞台・沖縄市に立つ「沖縄アリーナ」。先月、バスケットボール男子Bリーグで初優勝を果たした琉球ゴールデンキングスの本拠地だ。今夏開催の「バスケットボールワールドカップ」1次ラウンドの会場でもある
コザ本部の活動の舞台・沖縄市に立つ「沖縄アリーナ」。先月、バスケットボール男子Bリーグで初優勝を果たした琉球ゴールデンキングスの本拠地だ。今夏開催の「バスケットボールワールドカップ」1次ラウンドの会場でもある

   
 沖縄のことわざに「他人ぬ 胸 開きれー 自分ん 胸 開きゆん」とあります。意味は「他人が胸を開ければ、自分も胸を開く」。人が胸のうちを語ってくれたら、こちらも心を開いて応じるものだ――との教えです。
  
 学会の家庭コンは、誰もが自然と胸のうちを開ける“安心の居場所”とも言えるでしょうか。一人が子育てについての思いを語り始めた途端、また一人もう一人と、心の扉が次々と開いていく様子が、ありありと伝わるのです。
  
 「子育ての『ゆんたく』をしましょう」。その一言から開ける未来があります。
  

  
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<ファクス>03-5360-9613
   
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