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〈ルポ〉 「あれから10年 これから10年」の取材現場を訪ねて 2023年8月31日

  • BS-TBS 土曜 午後8時54分
◆被災地の“今”を伝え続けたい

 東日本大震災の発生当時10代だった若者らが、“今”を懸命に生きる姿を紹介するBS―TBSのドキュメンタリー番組「あれから10年 これから10年」(土曜、後8・54=提供・聖教新聞社)が、今月26日に放送100回の節目を迎えた。見る人に励ましと感動を伝える同番組は、どのように制作されているのか。その取材現場を訪ねた。

南相馬市内で取材する土岐さん(左端)たち
南相馬市内で取材する土岐さん(左端)たち
◆福島・南相馬市で

 今月16日、午後0時30分。JR福島駅で、同番組のディレクターである土岐真大さんたちと合流した。番組開始前から、震災で被災した人々とその地域の取材に精力を注いできたという。

 「以前、震災でご家族を亡くされた女性が、『つらい記憶は忘れてもいいけど、“福島第一原子力発電所がこうなってしまった”とかという事実は、記録として伝え続けないといけない』と話していました。そういった言葉を聞くと、区切りをつけずに被災地の“今”を伝え続けることの大切さを感じます」

 緑豊かな山あいの道を、車で走ること約1時間30分。伝統行事「相馬野馬追」で知られる福島県南相馬市に着いた。同市では震災後、地震と津波の被害に加え、原発事故の影響で約3万2000人が市外避難を余儀なくされた。

 同番組の出演者の人選などに携わるコーディネーターの案内でロケを進めるのは、土岐さん、テレビカメラ担当者、音声・照明担当者の計3人。これまで数十カ国の現場で撮影を経験してきたベテランの“精鋭チーム”だ。土岐さんはロケの進行のほか、色調整やテロップ入れなどの映像編集も担当する。

◆心に迫る取材を

 今回取材したのは、南相馬市出身の坂内直美さん(9月23日放送予定)。震災当時、神奈川県内の大学に通っていた彼女は、帰省中に被災。現在は東京の美術学校で教壇に立つ傍ら、画家として故郷の風景を描き続けている。南相馬市内で開かれていた個展を訪れると、彩り豊かな作品がずらりと並んでいた。

 同番組の放送時間は5分間だが、ロケでは一人の取材に最短でも1日半をかけ、場所を変えながら震災当時の話やこれまでの来し方、現在の仕事内容などを取材する。時に、緊張のため普段通りに話せない人もいるという。そんな時、土岐さんは相手に寄り添い、じっと耳を傾ける。

 「一般の方に、いきなりカメラを向けて『しゃべってください』と言っても難しいので、(事前に相手のことを学んで)相手の心に迫るインタビューをするよう心がけています」

 個展会場での取材が終わり、震災と原発事故の教訓をアートで伝える「おれたちの伝承館」(同市内)へ。そこにも坂内さんが描いた縦90センチ、横7メートルにも及ぶ“南相馬の海岸の朝焼け”の絵が展示されていた。

海岸の朝焼けを描いた絵の前で
海岸の朝焼けを描いた絵の前で

 「毎回、1時間ほどのインタビューを5分間に編集していますが、取材相手の思いをくみ取って、ちゃんとまとめられているのか自問自答の日々です。えりすぐりの映像だけを残すため、スタッフからは“あんなに一生懸命撮ったのに、ここはカットなの?”と言われることもよくあります(笑)」

 この取材をもって初日の行程は終了。時刻は午後6時30分。ロケの内容もさることながら、移動中に市外を巡り、避難指示が解除されて間もない地域の姿も目の当たりにし、復興が道半ばであることを痛感した一日となった。
 

◆“わがこと”として

 翌17日、午前8時。同市内の烏崎海岸でロケが始まった。澄み渡る夏空の下、坂内さんにインタビューし、彼女が海の絵を描く姿を撮影。全身から筆先まで、角度を変えながら映像に収めていた。

烏崎海岸での取材現場
烏崎海岸での取材現場

 50分ほどで海岸での撮影を終えると、前日に続き「おれたちの伝承館」へ。番組では毎回、登場する若者が「10年後の目標」を黒板に記し、披露している。坂内さんも思いを込めて“目標”をしたため、カメラの前で将来への展望を力強く語った。

 ロケの終了後、坂内さんに番組の魅力を聞いた。

 「多くの同世代の人が出演していて、どれも涙なしには見られなかったです。みんな“地元のために”という思いで頑張っていますし、私も同じ気持ちで画家として活動しています。同じ志の人たちがいるのは、とても心強いです」

 ロケの間、笑顔の絶えない彼女だったが、その言葉からは固い決意がうかがえた。

 いざという時の備え――災害を経験した人だけでなく、どうすれば全ての人が“わがこと”として捉えられるのか。

 土岐さんは「直接、被災しない限り“自分事に思う”ことは無理な話かもしれません」と前置きしつつ、「それでも、この番組を通して“被災者に寄り添おう”とか“避難警報が出たら(本当に)避難しよう”など、命を救えるメッセージを1ミリでも届けられたらいいなと思います」と言葉をかみ締めた。

 制作チームに同行した2日間、“災害の教訓の風化”という危機感を抱きながら、真剣勝負で取材に臨むスタッフの姿が垣間見られた。
 放送100回を迎え、番組プロデューサーの髙安恵司さんは強い意気込みを示す。

 「“3・11”への思いは、人によってさまざまです。そこには今も、葛藤や生きづらさがあります。それでも、前を向いて生きようとする被災地の若者たち――その姿を、これからも届け続けていきたいです」

【記事・写真】鈴木政己、木村英治

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