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〈SDGs×SEIKYO〉 捨てられてしまう野菜を救う八百屋の“ポップスター” 2023年8月19日

  • 青果店「青果ミコト屋」代表 鈴木鉄平さん

 横浜市青葉区にある青果店「青果ミコト屋」。ここでは全国各地のえりすぐりの野菜を販売する傍ら、規格外などで廃棄されてしまうはずの野菜や果物をアイスクリームやジュースに加工して話題になっています。

「青果ミコト屋」代表の鈴木鉄平さん
「青果ミコト屋」代表の鈴木鉄平さん
今回のテーマは「つくる責任 つかう責任」
――鈴木さんの営んでいる「青果ミコト屋」は、“旅する八百屋”をコンセプトに掲げています。“旅”は重要なキーワードなんでしょうか。

もともと私たちの「青果ミコト屋」は、横浜市青葉区に2021年に店舗を構える前まで、車での移動販売のみで商売をしてきました。大きなバンに乗り、生産者を直接訪ね、仕入れた野菜を各地のマルシェや住宅地の空きスペースで売る。そうやって全国各地を回っていました。“まさに旅する八百屋”でした。

農作物を乗せて全国を駆け巡った鈴木さんのバン
農作物を乗せて全国を駆け巡った鈴木さんのバン

私たちにとって旅をすることは、新しいアイデアや気づき、学びを深め、農家さんのリアルを知る旅でもありました。農家さんを巡る中で、野菜や果物の良しあしを見るのではなく、農作物が育った背景やストーリー、生産者の思いなどに耳を傾けることを大切にしてきました。

それらが分かれば、農作物への“愛”があふれていきます。その“愛”が食卓に広がれば、おいしさを感じるのとともに、自然と感謝があふれてくる。それは万能調味料にもかなわない最強のスパイスになると思ったんです。

一方で、2010年に「青果ミコト屋」を立ち上げてから11年間、日本全国を旅する中で目にしたのが、地に根を張って、汗水垂らす人々の姿でした。それは昔からある在来種を守る農家さん、地域の名を冠した農作物を懸命にアピールする販売スタッフや、地産地消の食材を振る舞うレストランや旅館の人々。そんな人たちとの出会いの中で、自分も生まれ育った横浜市青葉区に店舗を構え、地域に根を張って恩返しをしていきたいと思ったんです。

――でも、なぜ八百屋をやろうと思ったんでしょうか。

20代の頃、サラリーマンとして働いていました。仕事、休みの繰り返しで、お金を稼ぐことに対して、漠然と心が満たされない感じがあって。同じ場所にいても変化はないし、どうすれば“気づきが生まれるんだろう”“本当の豊かさって別の場所にあるんじゃないか”と考えるようになり、バックパックを背負って、インドやバングラデシュ、ネパールに旅に出たんです。

木箱に並べられる色とりどりの野菜。自分で野菜の重さをはかって購入するスタイル
木箱に並べられる色とりどりの野菜。自分で野菜の重さをはかって購入するスタイル

特にネパールの山間地で暮らす人たちの働き方や、生き方は、豊かでポジティブに見えました。派手に生活するわけでもなく、ミニマルに、自分たちが食べる分だけの食材を栽培して暮らす。私の求めていた“豊かさ”を見た気がしたんです。そんな原始的な生き方に引かれ、日本に戻って、農家に弟子入りしました。そして、2年ほど農業に携わる中で気づいた多くの課題が八百屋を始めるきっかけになりました。

――どんな課題があったんでしょうか。

私たちに農業を教えてくれた親方は、農薬も肥料も使わない自然栽培の農作物を市場や自然食品店に卸していました。自然食品店では、農作物の“味”や“作った経緯”などを評価してくれる一方で、市場では、味を確かめるどころか、ほとんどが見た目で判断します。見た目が悪いだけで値段は下げられました。

皆さんが、スーパーでよく見かける農作物のほとんどは、色や形、大きさのそろった厳しい規格を通ったものです。見た目が良くないだけで、汗水流して作り上げた農作物を大量に廃棄しなければならない農家の現実を目の当たりにしました。

――私たち“消費者”側にも問題があるのかもしれません。

消費者一人一人が、少しの傷や、見栄えが悪い野菜を心広く受け止めてあげれば、農薬や肥料を使わない農作物がもっと世に出回ることができると思うんです。私たちも、店舗を構えた当初は、野菜や果物が売れ残ってしまい、廃棄せざるを得ないこともありました。廃棄するということは、私たちの店舗に並ぶまでのストーリーを捨てるということなので、とても心苦しかったです。

――その経験はどのように生かされていったんでしょうか。

八百屋は、農家さんとお客さんをつなぐ仕事。つなぐ役割を担う野菜や果物が、どんな場所で、どのように、栽培されたのか、生産者はどんな人なのか。この本質と背景を伝える責任がある仕事が八百屋だと思っています。

私たちが小学生ぐらいの頃は、地元の商店街にねじり鉢巻きをしたおじさんが、威勢のいい声でお客さんを呼び止め、野菜を買ったお客さんには調理方法をアドバイスしていました。そんな昔ながらの地域の八百屋さんのようなつながりを生かして、自然栽培のことや、フードロス問題などを伝えていくべきだと思ったんです。しかし、野菜を通じて伝えると、話が堅くなったり、説教じみてしまったりするので、お客さんに伝えるのが難しくて。

そんな時、妻から助言されたんです。
「アイスクリームなら、みんな好きだし、冷凍するから長持ちするんじゃない?」って。

「これだ!」と思いましたね。

――ミコト屋の名物・アイスクリームの誕生ですね。

農家さんたちの労力や時間、コストを無駄にしたくなくて、アイスクリームは、店頭で売れ残った野菜や、取引のある農家さんの畑で、傷んでいたり、間引きしたものだったり、大量に取れて余った野菜や果物を材料にしました。

保存できるものといったら、真っ先に「漬物」も考えたんですけどね(笑)。やっぱり、アイスクリームにしようと思ったのは、みんながポップに受け取ってくれると考えたから。野菜の前でフードロスの話をすると、話が重くなりますが、アイスクリームをきっかけにして気軽に伝えることができました。

ここにあるのは、廃棄されてしまう農作物から生まれたフレーバーばかり。聞きなじみのないグリーンピースやゴボウ、ニンニクのような珍しいフレーバーもあります。レシピも考案を重ね、実際にリリースしたものは、100種類以上にもなりました。季節の農作物を味わえるのも特長です。

イートインで使用されているアイスクリーム用のスプーンは、真ちゅう作家の工房から出た端材で作ったもの
イートインで使用されているアイスクリーム用のスプーンは、真ちゅう作家の工房から出た端材で作ったもの

「甘い」「かわいい」「おいしい」そして「農家さんを助けられる」。アイスクリームを食べるだけで、こんなに気持ちの良い消費ができるなんて、素晴らしいじゃないですか。だから僕は、お店のアイスクリームのことを“ポップスター(大衆向けのスター)”と呼んでいます!

――ゴボウ、グリーンピース……。聞き馴染みのないフレーバーがたくさんありますね。

確かに、初めてくるお客さん、みんな驚いていかれます。規格外、ふぞろいといった、一見、ネガティブなようなことも、アイスクリームはみんなポジティブにしてくれるから「全然、傷が付いている野菜を使ってるとは思えないよ」「捨てちゃうような皮とか花とかも香りが付くからおいしさが増すね」といったような声も聞くことができました。

プラスチックフリーをうたう店内には、購入した野菜を、客自身で包むための新聞紙が設置されている
プラスチックフリーをうたう店内には、購入した野菜を、客自身で包むための新聞紙が設置されている

実際に廃棄されてしまう農作物に、アイスクリームという新たな価値を付けてあげることで、訪れるお客さんからフードロス問題の話をしてくれることもありました。

――最後に、私たちが気軽にできるSDGsってあるんでしょうか。

外食のフードロスも大きいけど、家庭のロスもいっぱいあります。例えば、ご飯の食べ残しだったり、冷蔵庫内で腐らせてしまったりすることとか。でも、その農作物が食卓に来るまでのストーリーを聞けば、大事に食べてくれるようになるんです。「皮も使える」と教えた後、残さずに料理をしたことを話しにきてくれたお客さんもいました。

私たちの店では、無理にお客さんに声掛けはしないんです。自分で気になった農作物を手に取って、自分で重さを量って、買ってもらっています。手間はかかるんですけど、確実に農作物との距離が縮まります。

うちで扱っている野菜や果物は、スーパーなどと比べたら、価格は高めですが、私たちは高いとは思っていません。むしろ、なぜ、スーパーの野菜や果物が安いのかを考えてほしいんです。企業努力だったり、廃棄しないために安く売ろうとしていることもあるので、一概に“悪い”というわけではありません。でも、負担や無理があって、店頭に並んでいたりもするんです。

だから、キュウリ1本買う時も、ニンジン1本買う時も、安いからだけではなく、少しでいいので「想像力」を働かせてほしいんです。そうすれば、栽培の苦労や生産者の思いを調べたり、考えるきっかけになったり。それが、おのずと愛着に変わります。その愛着があれば、“おいしく食べよう”“もったいないから根っこまで食べてみよう”とか、そんな思いが湧いてくると思うんです。

それがみんなに伝われば、きょうから、食卓を彩る食べ物に感謝できるようになる。その経験をみんなで伝え合っていけば、目の前の課題に風穴を開けられるんじゃないかな――。

※SDGs(エスディージーズ)=持続可能な開発目標


〈プロフィル〉
すずき・てっぺい 1979年生まれ。高校卒業後アメリカ西南部を1年かけて放浪し、ネイティブアメリカンの精神性を体感。2010年に高校の同級生、山代徹氏と、旅する八百屋「青果ミコト屋」を立ち上げる。2021年、地元・横浜市青葉区に八百屋の実店舗と「KIKI NATURAL ICECREAM」を併設した「micotoya house」をオープン。

【SDGs×SEIKYO特設HPはこちら】※バックナンバーが無料で読めます※

●最後までお読みいただき、ありがとうございます。ぜひ、ご感想をお寄せください→ sdgs@seikyo-np.jp

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