• ルビ
  • シェア
  • メール
  • CLOSE

〈インタビュー〉 トイレから地球革命を トイレ研究家・白倉正子さん 2022年10月11日

  • 〈学生記者が取材するSDGs×SEIKYO〉
世界中で安全で衛生的なトイレを
利用できない人の数は20億人
そうした現状を私の手で変えたい

 「学生記者が取材する『SDGs×SEIKYO』」では、本社所属のスチューデントリポーター(学生記者)が、SDGsに関わる人物にインタビューをしていきます。(この取材は学生記者のまなっちが担当しました)
 

白倉正子さん
白倉正子さん

 〈世界のトイレ事情や、その改善に向けた取り組み、そして自身のトイレに対する熱い思いを発信する、トイレ研究家・白倉正子さん。9月に発刊された『SDGsとトイレ』(日本トイレ協会編、柏書房)では、編集者の一人に名を連ね、身近なトイレから地球環境問題に目を向ける大切さをつづっている〉
 

今回のテーマは「安全な水とトイレを世界中に」

 ――トイレとSDGsはどのようにつながっているのでしょうか。
 
 現在、世界中で安全で衛生的なトイレを利用できない人は20億人もいるんです。
 
 国連は、トイレについて、その環境や衛生状態に応じて5段階で分類し、普及と改善を呼びかけています。
 
 中でも最も劣悪な状態を指す「野外排泄」(いわゆる野糞)を日常的に行っている人は約5億人もいて、そのし尿が線路脇や河川敷に放置され、近くの土壌や川を汚染しています。
 
 また、一部の発展途上国では水が貴重なため、十分に手洗いすらできません。そんな不衛生な環境が感染症を引き起こし、ひどい下痢などにつながります。
 
 特に5歳未満の子どもは、免疫力や体力が十分でないため、感染症である下痢性疾患で1日800人近くが命を落としています。この下痢性疾患は世界の子どもの死因の第2位で、毎年52万5000人が亡くなっている深刻な状況です(数値は2017年時点)。
 

SDGsのロゴの前で(写真は本人提供)
SDGsのロゴの前で(写真は本人提供)

 こうした状況を踏まえ、国連はSDGsの6番目に「安全な水とトイレを世界中に」を掲げています。そこでさまざまな国際機関やNGO・企業が、水を使わないトイレの開発や資金援助などを行っています。
 
 ただ、私は、トイレは、SDGsの全ての目標と根底でつながっていると捉えています。
 
 例えば、SDGsの3番目にある「すべての人に健康と福祉を」には、病気や障がいで排泄するのが困難な人のために、できることがあるはずです。また5番目の「ジェンダー平等を実現しよう」は、女性がトイレで性被害に遭わないようにすることや、トランスジェンダーの方たちがトイレで違和感を抱かない配慮の必要性が思い浮かびます。こんなふうに他のSDGsの項目にも、トイレは案外関わっているのです。
 

実際のトイレで説明する白倉さん(写真は本人提供)
実際のトイレで説明する白倉さん(写真は本人提供)

 ――トイレ研究家とは、どんな仕事ですか。
 
 活動内容は多岐にわたりますが、主にトイレの調査・研究やセミナーなどを行っています。
 
 実際に全国各地へと足を運び、トイレのアンケート調査や清掃員の方への聞き取りをしたり、誰でも使いやすいトイレのための啓発活動をしたりしています。
 
 例えば、日本を訪問する外国人観光客にとって、日本のトイレは機能が多すぎるため、正しく使えないことがあります。その結果、清掃の方の負担が増えたり、トイレが故障したりするため、多言語での説明や、外国人でも直感的に分かるイラストの掲示を考えたことがありました。
 
 また、セミナーでは、正しいトイレ掃除や災害時のトイレ対策などを教えています。日本の学校では、教育の一環として子どもたちにトイレ掃除をさせますが、トイレの授業はほぼ存在しません。そのため、セミナーでは正しい洗剤や道具の知識を伝えています。
 

韓国で節水便器を見る白倉さん(写真は本人提供)
韓国で節水便器を見る白倉さん(写真は本人提供)

 ――日本国内だけにとどまらない活躍をされていると伺いました。
 
 そうですね。トイレは世界中にありますから……。私は世界トイレ協会という団体に、日本で唯一の会員として所属しています。世界各国・地域で開かれるフォーラムに参加し、発展途上国を含んだ世界のトイレ問題の解決に向け、技術や情報の発信・共有をしています。
 
 水洗トイレや温水洗浄便座などが普及している日本のトイレ技術は、下水道などの設備が整っていない発展途上国では役に立ちません。それぞれの現場の状況に見合う、低価格で衛生的なトイレが求められるからです。
 
 例えば、2019年には韓国を訪れ、節水便器の視察を行ったほか、日本のトイレ支援活動を世界中から集まった参加者に向け、スピーチしました。
 
 今年の11月には、アフリカ大陸のザンビアとケニアに行く予定です。渡航費が高額で、言語の壁もあるため苦労は絶えませんが、“トイレから地球革命をしてみせる!”という強い意志で、積極的に参加しようと思います。
 

トイレ清掃員にインタビューする白倉さん(写真は本人提供)
トイレ清掃員にインタビューする白倉さん(写真は本人提供)

 ――そんな強い意志を持つ白倉さんですが、トイレ研究家を目指した経緯を教えてください。
 
 一番大きなきっかけは、ある学校の先生が、子どもたちに向けて放った一言でした。
 
 その先生は、一生懸命にトイレ掃除をする人たちを見た時、「しっかり勉強をしないと、あのようにお便所掃除しかできない人になるから、気をつけましょう」と言ったそうです。
 
 私は当時、阪神・淡路大震災などの災害を目の当たりにし、トイレが大切な存在だと強く感じていたので、トイレに関わる人をさげすむような言動は、非常に残念に思いました。しかしその背景には、トイレを取り巻く「構造的な課題」もあるのではないかと思ったのです。
 
 例えば「汚い」「臭い」といったイメージから、トイレのことを人前で話すことははばかられる文化が根付いています。またインドでは、トイレ掃除はカースト制度の一番身分の低い人がするべきであるという慣習で命を落とす人も少なくありません。世界的に見てもトイレは悪いイメージがある場合がほとんどです。
 
 また、マナーの悪い使い方をする人や、設備を破壊する人は後を絶ちません。こうしたトイレを軽んじる姿勢を少しでも改善していきたいのです。
 
 このような現状から、トイレの正しい知識や重要性を広める専門家となり、トイレからできる社会変革をしなければと強く感じました。
 

編集者の一人に名を連ねた「SDGsとトイレ」(写真は本人提供)
編集者の一人に名を連ねた「SDGsとトイレ」(写真は本人提供)

 ――世界のトイレ環境を良くしていくため、私たちには何ができるでしょうか。
 
 トイレの支援は国連や企業がするものであり、個人では何もできないと諦める人もいるかもしれませんが、情報の発信や寄付などを含め、できることは多いです。
 
 例えば、日本のある高校生が「Plunger」というグループを作り「SDGsを漫画で学べるトイレットペーパー」を作成したことがありました。それはたった一人の女子高校生の思いからスタートしました。
 
 また、中央大学トイレ研究会の学生3人は、オリジナルのLINEスタンプを作成し、売上金を海外のトイレ支援活動に寄付しています。
 
 このようにアイデア次第で、個人から輪を広げ、協力し合いながら活動していくことは可能だと思います。
 

 ――トイレやSDGsに興味・関心のある若者や学生にメッセージをお願いします。
 
 まずは「自分にできることを探す」努力をしてほしいです。それが楽しく継続できることなら、なお良いですね。
 
 身近なトイレの環境を良くすることは、誰でもすぐにできます。例えば、水や紙の節約、小まめな清掃、公共トイレを適切に使う……などです。
 
 最後に、自分の興味のある分野とSDGsとのつながりを、調べてみてはいかがでしょうか。疑問を持ち、深く知っていく中で、今まで気づかなかった課題が見えるかもしれませんよ?
 

〈プロフィル〉
 群馬県生まれ。多摩大学経営情報学部を卒業。22歳でトイレ研究家になろうと決意。以後、トイレ掃除の修行から始め、独学でトイレを学んだ。2012年にはTBS「マツコの知らない世界」に出演。現在、トイレ研究家として活躍する。日本人女性初の世界トイレ協会会員。
 
 
 
●最後までお読みいただき、ありがとうございます。ぜひ、ご感想をお寄せください→sdgs@seikyo-np.jp
 

お知らせ「全国トイレシンポジウム」

 白倉正子さんが登壇するイベント「全国トイレシンポジウム」が10月27日(木)、東京ビッグサイトで開催されます(オンライン配信もあります)。詳細・参加申し込みはこちら

動画

SDGs✕SEIKYO

SDGs✕SEIKYO

連載まとめ

連載まとめ

Seikyo Gift

Seikyo Gift

聖教ブックストア

聖教ブックストア

デジタル特集

DIGITAL FEATURE ARTICLES デジタル特集

YOUTH

1983年、宮城県生まれ。一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。博士(社会学)。専門は労働社会学、社会政策学。2006年に若者の労働・貧困問題に取り組むNPO法人「POSSE」を設立。以来、数多くの労働・生活相談に関わる。ブラック企業対策プロジェクト共同代表。著書に『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『賃労働の系譜学――フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)など多数。大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞
 

劇画

劇画
  • HUMAN REVOLUTION 人間革命検索
  • CLIP クリップ
  • VOICE SERVICE 音声
  • HOW TO USE 聖教電子版の使い方
PAGE TOP