• ルビ
  • シェア
  • メール
  • CLOSE

6・6「牧口先生の生誕日」の記念講演会から(教育本部主催) 創価大学教職大学院 田村修一教授の講演(要旨) 2023年6月10日

  • 教育実践記録運動のこれからと 「開かれた対話」がもたらすもの
講演する田村修一教授
講演する田村修一教授

 今月4日に静岡の下田牧口記念会館で行われた、教育本部主催の6・6「初代会長・牧口常三郎先生の生誕152周年」記念講演会(後援=牧口記念教育基金会)で、創価大学教職大学院の田村修一教授が登壇した。「創価教育学の現代的意義と創価学会教育部員の使命」と題した講演の要旨を紹介する。

目的は価値創造
できる力の育成
6・6「牧口先生の生誕日」の記念講演会に集まった友(4日、静岡の下田牧口記念会館で)
6・6「牧口先生の生誕日」の記念講演会に集まった友(4日、静岡の下田牧口記念会館で)

 牧口常三郎先生は、教育の目的とは人生の目的と同じだと述べられました。その目的とは「幸福」です。そして幸福とは、自分の置かれた環境の中で、より良い価値を創造しながら生きていくことだと示されています。つまり教育の目的は、価値を創造できる力の育成なのです。このことは、1930年(昭和5年)11月18日に発刊された『創価教育学体系』第1巻に記されています。
 牧口先生が教育実践を克明に記録し、それを体系的にまとめたのが『創価教育学体系』全4巻です。創価学会教育本部が取り組む「教育実践記録運動」の淵源は牧口先生にほかなりません。
 第1巻発刊の2年前(1928年)に日蓮仏法と出あい、確信を深めた牧口先生は、創価教育学の研究法として教師の信行学を提示されます。自らの実践と結果を通し、教育の目的である「幸福」のための最高の教えが日蓮仏法だと確信されたのです。
 当時は、外国から輸入した教育理論を教育現場の指導方法に当てはめるような教育学が一般的でした。牧口先生はそれを「二階から目薬」のようなもので、的外れであると喝破されました。そして、「経験より出発せよ」と述べられ、教育現場の実践経験から、より良い教育理論を編み出すことを示されています。

教師から子への
「五つの関わり」
会場となった下田牧口記念会館の敷地内に立つ「牧口常三郎先生 法難頌徳之碑」
会場となった下田牧口記念会館の敷地内に立つ「牧口常三郎先生 法難頌徳之碑」

 教育実践には教師自身の生き方が反映されます。教育本部の教育実践報告大会では、仏法を持った教師の人間革命によって教育実践が変わり、そして子どもたちが変容するという、教師の「信行」のドラマが語られています。
 教育実践記録運動のこれからを考える上での課題は、これまで蓄積された約16万9000事例の実践記録を分析し、現代社会における創価の教育理論を構築するという「学」の部分ではないかと思います。
 2010年(平成22年)に神奈川の教育本部が中心となって3000事例の実践記録を分析し、創価の人間教育の実践原理を、教師の「五つの関わり」としてまとめたことがあります。
 ①「信じぬく」
 ②「ありのまま受け容れる」
 ③「励まし続ける」
 ④「どこまでも支える」
 ⑤「心をつなぐ」
 この「五つの関わり」という実践原理の仮説を踏まえながら、さらに精緻な理論化を目指していく挑戦が大事になってくるのではないでしょうか。
 教育実践記録運動が始まったきっかけは、1984年(昭和59年)に発表された池田大作先生の教育所感です。先生は「具体的な教育実践の中で、新たな青少年観、成長発達観を練り上げ、皆さまの手で今日的な教育理論を構築していっていただきたい」と呼びかけられました。
 世界から注目される創価教育について、実践記録を基にして、いかに現場で使える理論、技術にしていくか。これが今の課題であると思いますし、私自身も多くの方と協力しながら、取り組んでいく決意です。

子育ての悩みを
じっくり話す場
家庭教育懇談会のイメージ図。話を聞く側に専門的スキルは必要ない。相手を尊重し、否定せずに聞く。それが相手の安心感を生む。その際、3人以上で懇談することが大切
家庭教育懇談会のイメージ図。話を聞く側に専門的スキルは必要ない。相手を尊重し、否定せずに聞く。それが相手の安心感を生む。その際、3人以上で懇談することが大切

 これまで学校現場の話を述べてきましたが、子どもの教育において「家庭」が大切なことは言うまでもありません。
 子育てで悩んでいる保護者はとても多いと思います。私も例外ではありません。そうした保護者を支えることが、間接的に子どもを支えることにつながります。
 子育ての悩みを対面でじっくり聞いてもらったり、互いに教育について語り合ったりする場は、意外と少ないかもしれません。あるいは、場があってもなかなか本音で話せないこともあるでしょう。
 そうした保護者の声に皆で耳を傾ける場として、教育本部では地域で行われる「家庭教育懇談会」(通称=家庭コン)を重視しています。開催に当たって大切な点をいくつか述べたいと思います。
 まず確認したいのは、家庭コンでの対話は「開かれた対話」であって、治療的対話ではないということです。カウンセリングのような治療的対話には専門的スキルが必要です。
 家庭コンでは、そうしたスキルは必要ありません。参加した保護者の話を尊重して聞けばいいのです。
 保護者の思いにひたすら耳を傾けていくと、“否定されずに受け止めてもらえた”と、安心感を持ってくれるのです。
 逆に、話の途中で「そういうやり方は駄目ですよ」と横やりが入ると、もう話す気がなくなりますよね(笑)。家族での会話などで、ありがちではないでしょうか。
 さえぎられずに自分の話を聞いてもらえた人は、他の人の話もさえぎらずに聞くことができるようになります。すると、他の人の話から、自然と学ぶことができます。
 対話それ自体が目的なので、焦って悩みの解決を目指さなくていいのです。
 もちろん、教育部員として答えられる範囲のことを聞かれた場合は、知識や情報を提供していいと思います。無理をして答えなければいけないというものではないということです。
 また重要なのは、浅い関係でも定期的につながれる場と時間を持つということです。結論を求めない対話の場を、継続して持つことが大切なのであって、家庭コンには綿密な計画がなくてもいいのです。
 その際、懇談する人数も大切になります。懇談が一対一になると、話す側が「どうしても相手から答えをもらいたい」となってしまい、話を聞いた側は「この人のために尽くさなければ」と責任を感じすぎてしまう「共依存」の関係に陥りやすいのです。
 互いに心が軽くなるよう、家庭コンの開催に当たっては、3人以上で行っていただきたいと思います。
 最後に「ポリフォニー(多声性)を大事に」という点についてです。ソプラノやアルトなど、さまざまな音を一つの曲に合わせるハーモニーとは違い、ポリフォニーには、一人一人の声をそのまま寄せればいいという意味があります。
 教育観や価値観は一人一人違います。「自分はこうして良かったから、あなたもこうしたら」と安易に自分と相手を同一化することなく、それぞれの声を大事にしましょう。
 これまで述べてきたとおり、参加者の心に「しっかり話を聞いてもらえた」「自分を尊重してもらえた」という気持ちが残れば、家庭コンは大成功だと思います。

教育部員には
大きな使命が

 池田先生は、小説『新・人間革命』第24巻で「教育部員は、一騎当千の勇者であり、社会を変革する大きな使命をもっている」とつづられています。
 また、1977年(昭和52年)に行われた東京教育部の会合では、「先師・牧口初代会長、恩師・戸田前会長をはじめ、学会の草創期を築き上げた先輩の多くは、教育者でありました。したがって、第二章の広宣流布、すなわち、世界の平和と文化の本格的な興隆の時代にあっても、教育部は、その先駆者であっていただきたい」と語られました。
 池田先生が期待を寄せてくださる教育部員としての使命を果たすべく、教育実践記録運動と家庭コンをはじめとする取り組みをさらに推進できるよう、私自身も尽力していきたいと思っています。

プロフィル

 たむら・しゅういち 1959年生まれ。博士(心理学)。専門は学校心理学、カウンセリング心理学、教育心理学。創価大学を卒業後、筑波大学大学院博士課程人間総合科学研究科ヒューマン・ケア科学専攻(発達臨床心理学分野)修了。現在は創価大学教職大学院教授。著書に『教師の被援助志向性に関する心理学的研究』(風間書房)など。教育本部・副社会教育部長。

動画

SDGs✕SEIKYO

SDGs✕SEIKYO

連載まとめ

連載まとめ

Seikyo Gift

Seikyo Gift

聖教ブックストア

聖教ブックストア

デジタル特集

DIGITAL FEATURE ARTICLES デジタル特集

YOUTH

劇画

劇画
  • HUMAN REVOLUTION 人間革命検索
  • CLIP クリップ
  • VOICE SERVICE 音声
  • HOW TO USE 聖教電子版の使い方
PAGE TOP