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〈Seikyo Gift〉 エッセンシャルワーカー ICU看護師〈信仰体験〉 2021年3月7日

  • 自分が決めた使命の舞台で

 【埼玉県】新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。年末年始も医療現場の逼迫が報じられ、きょう1都3県を対象にした緊急事態宣言の発令が決定される見込みだ。古山勝規さん(35)=圏男子部書記長(本部長兼任)=は、総合病院にある集中治療室(ICU)の看護師。世間で不安があおられるほどに、古山さんは冷静であろうとする。目の前にいる患者、その家族の声に耳を傾けるために――。(1月7日付)

家族を遮る“壁”を取り除く

 1月2日は夜勤だった。箱根駅伝の話題が男子部員とのグループLINEで盛り上がった後、仕事の準備に取り掛かった。冷え込んだ夕方、いつもの道を歩き、職場に向かった。
  
 ICUでは重篤な患者を24時間体制で、集中的に治療・看護を行う。疾患を問わずに患者を受け入れるため、さまざまな診療科の知識が必要とされる。古山さんは外科、脳神経外科を経て、ICUに配属されて3年になる。
  
 もはや誰が新型コロナウイルスに感染してもおかしくない状況が続く。出口の見えない事態に不安は募る。「だからこそ、いつも通りでありたい、と思うんです」

  
 ささいな変化を感じ取る観察力、注意力が問われる職場。第1波の頃は、未知のウイルスに恐怖を覚えた。限りある医療物資をやりくりし、ゴミ袋を代用してガウンも作った。手探りの中での看護だった。
 古山さんが勤務するのは2次救急病院。軽症、中等症のコロナ患者を受け入れており、症状が悪化すればICUで人工呼吸器をつけるなどの対応をする。これまで重症化した患者は指定病院へ転院させてきたが、今後の先行きは見えない。
 冬季は心筋梗塞、脳出血が増える。コロナ患者で病床が埋まれば、そうした患者を受け入れられなくなる可能性もある。

医療従事者は緊迫した局面に置かれている。ケニアで(ロイター)
医療従事者は緊迫した局面に置かれている。ケニアで(ロイター)

 古山さんが感じるのは、もどかしさだ。「コロナ禍で一番心苦しいのは、患者のご家族への対応なんです」
  
 コロナ以前の集中治療室は家族が入ることができ、患者のそばに居られる場所だった。
 「ほら、ここまでできるようになったんですよ」。意識不明だった患者が回復する様子を、家族と分かち合う。看護師として何よりの喜びであり、やりがいだった。それをコロナ禍が奪った。
  
 意識はあるのか、苦しんでないのか。家族であれば、ささいな情報でもいいから知りたいだろう。面会を阻む壁1枚が厚い。
 「一目でいいから会わせてください!」。泣きながら訴える人をなだめ、状況を説明する。例外を許せば、院内感染の可能性もある。やり場のない不安が怒りとなって、看護師に向けられることもある。
 「当然、納得できるはずはありません。それでも信頼してもらうために何ができるか。私たちにしかできない役目なんです」
 

 母も看護師だった。小さな病院で、院長は周囲から「赤ひげ先生」と親しまれるほど、誰にでも等しく優しかった。
 母はそこで働くことを喜びとし、一人っ子の古山さんは、幼少から当直室に預けられて育った。
  
 母とスーパーに買い物に行くと、知らない人によく声を掛けられた。「あの時はお世話になりまして」「いえいえ、そんな」。短い会話には深い感謝がにじんでいた。人に喜ばれている母が誇らしかった。
 高校はラグビー部に所属。体をぶつけて心を通わせる世界に夢中になった。胸は熱くとも、頭は冷静に。そんな心構えを身に付けた。
 進路は看護師と定めたが、挫折を知る。国家試験で不合格に。自暴自棄になり遊び歩いた。だが心の空白は埋まらない。そんな時、男子部の先輩が心配し、通ってくれた。翌年の試験3カ月前に再挑戦を開始。正月返上で参考書に向かい、行き詰まっては唱題に励んで合格をたぐり寄せた。
 看護師になってもうまくいかず、自信が持てない日々。「法華経の剣は信心のけなげなる人こそ用る事なれ鬼に・かなぼうたるべし」(御書1124ページ)。先輩は御聖訓を拝して、「目には見えないけれど、君の中には法華経の剣があるんだよ」と元気づけてくれた。行き詰まった時には、いつも“励まし”があった。

父・敏夫さん㊥、母・静江さん㊨と。不規則な生活を両親が支えてくれる
父・敏夫さん㊥、母・静江さん㊨と。不規則な生活を両親が支えてくれる

 
 医療従事者に注目が集まる中、小学生からエールの手紙をもらった。感謝の言葉を胸に、やるべきことに全力を尽くす。
 マスク、フェースシールド越しでの会話はもどかしい。面会が許されない家族を前に、いつも自身に問う。“母のように信頼関係を築けているだろうか”
 古山さんは患者の枕元にICレコーダーを置き、再生ボタンを押した。流れるのは、扉の向こうで待っている家族の声援だ。「頑張って!」
 効果は抜群だった。この時、薄かった意識が戻りだし、瞳孔や手が動き始めた。急いで家族の元へ知らせに行く。家族の思いをくんで、回復の一歩につながった時、皆に一体感が生まれる。そんな瞬間がたまらなくうれしい。
 

ドイツ(ロイター)
ドイツ(ロイター)
ノルウェー(ロイター)
ノルウェー(ロイター)

 1度目の緊急事態宣言から9カ月。外出はコンビニやスーパーに行く程度。学会活動もリモート中心で、新年のあいさつも画面越しだった。寂しさはあっても、自らを律して接触を減らす暮らしを続ける。
  
 胸に刻む池田先生の指導がある。
 「脚光もない。喝采もない。それでも、自分が決めた使命の舞台で、あらんかぎりの、師子奮迅の力を出し切って、勝利の金字塔を、断固、打ち立てていく。その人こそが、最も偉大なのである」
  
 古山さんの考えも一貫する。「私たちの仕事だって、シーツを洗ってくれる業者さんをはじめ多くの支えで成り立っている。感染を防ぐ行動も含め、誰一人欠けても乗り切れない局面と思っています」
 ICUは一期一会。緊急患者が危機を乗り越えて一般病棟に移るまで、医師をはじめとしたチームで向き合う。その一員たる誇りをもって、責任を果たし続ける。
 

男子部の仲間との新年あいさつは、テレビ会議で(本人提供)
男子部の仲間との新年あいさつは、テレビ会議で(本人提供)

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