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〈Seikyo Gift〉 「涙活」で癒やしの時間を〈健康PLUS〉 2023年3月5日

東邦大学医学部名誉教授 有田秀穂さん

 涙には、悲しみや悔しさ、疲れなどネガティブなイメージがあるかもしれません。しかし、泣くことにはストレスを発散させ、心や体を整える効果があります。今回は、能動的に泣く「涙活」のメリットや泣き方について、東邦大学名誉教授の有田秀穂さんに聞きました。(1月17日付)
  
  

〈ポイント〉

 ① 心と体がリラックス
 ② ドラマや歌など泣き方は自由
 ③ たった一粒でもOK
  
  

心が動いて泣くのは人間だけ

 涙には3種類あります。一つは「基礎分泌の涙」。目の表面を常に潤す働きがあります。もう一つは「防御反射の涙」です。目にごみが入った時やタマネギを切った時に、刺激から目を守ります。
 今回注目したいのは、悲しさや共感など心が動いた時に流す「情動の涙」です。これは人間にしかない機能といわれています。中でも、悔し涙や悲しみの涙と違って、共感の涙は、経験を積み、自分以外の人や出来事に感情移入できる年齢になってから流す“大人の涙”とも言えると思います。ちなみに、悲しくて流す涙と、うれしくて流す涙には、同様のリラックス効果があると考えてよいでしょう。
 感動して涙を流す時の脳を調べると、前頭前野(脳の前の部分)が激しく興奮していることが分かります。集中力や意欲などをつかさどるので、脳科学では近年、“人間性の脳”といわれています。
 前頭前野の中でも、共感して活性化する部分が、額の中央の奥にあり、共感脳と呼ばれます。そこから脳全体に信号が広がり、脳幹の指令によって、涙が生成されるのです。
  
  

副交感神経に切り替わる

 泣いて気持ちが軽くなるのは気のせいではありません。心身に良い変化が起こります。
 まず、自律神経の働きが切り替わります。自律神経は、活動的な時に優位になる交感神経と、休んでいる時に優位になる副交感神経の二つで成り立っています。涙を流した瞬間、交感神経から副交感神経に切り替わり、体がリラックスしている状態になるのです。
 スマホやパソコンが身近な現代社会は、脳を酷使し、うまく眠れない人が増えています。眠れないと心も体も脳も休まりません。しかし、泣くことで副交感神経のスイッチが入り、上手に休めるのです。現代人にはぴったりの、究極の癒やし術だと思います。
 次に、心の状態も改善します。POMS(ポムス)という心理テストを使い、泣く前後で比較すると、緊張や不安、心の混乱状態が緩和されることが分かりました。つまり、体も心も癒やす、特別な状況をつくるのが情動の涙ということになります。
 もし、日常的に泣くことが長く続く場合、脳神経内科で一度診てもらうことをお勧めします。特に、女性はホルモンの影響で泣きやすくなることがあります。
 逆に、「本当は泣きたいのに泣けない」症状が続く時も、受診を検討しましょう。うつ病の人の前頭前野の血流を調べると、血流が下がり、共感脳の機能が落ちていることがよくみられます。
  
  

涙もろいのは豊かな経験の証し

 能動的に泣くためのきっかけは、ドラマや映画などの映像作品、本、歌、泣いた記憶などなんでも構いません。ある歌を聴くと必ず泣く方や、亡くなったお母さんに心の中で話しかけることで涙を流す方もいました。泣ける方法を複数持つことは、涙活するための知恵と言えます。ちなみに、内容が分かっていても泣きにくくなることはありません。
 何が原因で涙を流すかは十人十色です。共感するポイントは自身の経験による部分が大きいからです。例えば動物の物語は、ペットを飼っている人の方が涙を流しやすく、スポーツ番組ならスポーツ経験のある人の琴線に触れやすいかもしれません。泣きのツボはそれぞれですから、あなたにぴったりの泣き方を見つければいいのです。
 「年齢を重ねると涙もろくなる」とよく言いますが、これも共感脳が関係します。経験を重ねれば重ねるだけ、泣きのツボは多く、幅広くなります。涙もろいのは決して悪いことではありません。より多くの経験を重ねたからこその幅であり、脳が共感しやすくなっている好ましい状況と言えるわけです。
  
  

準備は万端に 余韻も感じて

 泣いた日の翌日、目が腫れた経験がある人もいるでしょう。涙は体から出てくるものなので、皮膚に直接刺激を与えることはありません。涙以外の汚れが入ったり、こすったりして肌が刺激を受けることで目が腫れるのです。メークを落として準備万端。涙は流れるままにして、目をこすらないようにしましょう。
 泣いた後の時間も大切です。良い映画には余韻があるように、しばらくは副交感神経が優位のままになります。眠くなるのも癒やされている証拠です。可能なら、ゆっくり休めるような状態で、“さあ泣くぞ”と始めることがリラックス効果を長く維持するコツです。
 一人になれる場所へ行くことも、思い切り泣くためにできる工夫の一つです。ストレスを感じている人ほど、普段から積極的な涙活で、心身の健康をコントロールするようにしてください。
  
  

笑いとの組み合わせも効果的

 今回は泣くことによるストレス解消や心身の癒やし方を紹介しましたが、もちろん他の方法もあります。
 例えば、「笑う」ことはNK(ナチュラルキラー)細胞を活性化させて免疫力を高めることが知られています。笑うことは手軽なストレス解消法です。その上で、癒やし効果は泣く方が大きいといわれています。普段は笑いを心がけて元気に、一気に癒やされたい時は泣いてスッキリと、組み合わせるのも効果的です。
 普段、あまり涙を流すことがない人にとっては、涙活しようとしても難しいかもしれません。声を上げて号泣しなくても、たった一粒の涙でもいいのです。涙がこぼれた瞬間、自律神経が切り替わって体と心は癒やされます。難しく考えず、泣く練習をしてみるとよいと思います。場所や状況さえ気を付ければ、泣くことは自分を癒やし、守るための一種の生活法とも言えます。「今日は頑張ったな」「最近ストレスがたまっているから解消したいな」という時に、積極的に「泣き」を活用してみてはいかがでしょうか。
  
  

 ありた・ひでほ 1948年、東京生まれ。医師。脳生理学者。東邦大学医学部名誉教授。セロトニンDojo代表。東京大学医学部卒業後、東海大学病院で臨床、その間、ニューヨーク州立大学に留学。帰国後、筑波大学基礎医学系で脳神経の基礎研究に従事。東邦大学医学部統合生理学で座禅とセロトニン神経・前頭前野について研究、2013年に退職し、名誉教授となる。
  
  

 イメージ写真:PIXTA

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