• ルビ
  • シェア
  • メール
  • CLOSE

ひきこもりを正しく認識するには――ひきこもり新聞・木村ナオヒロ編集長に聞く 2020年2月15日

  • 聖教新聞2017年2月18日付〈スタートライン×グローバルウオッチ〉から再掲

 本日2月15日付の聖教本紙「ライフウオッチ」では、精神科医の斎藤環さんへのインタビュー記事を掲載。長期化するひきこもりの背景や対話(ダイアローグ)の重要性などを語ってもらっている。

インタビューの詳細はこちらから



 ここでは、ひきこもりと向き合う視点を深め、より多角的に考えてもらうため、「ひきこもり新聞」編集長の木村ナオヒロさんへのインタビュー記事(2017年2月18日付掲載)を再掲する。ひきこもりの当時者として、斎藤氏のサポートを受けてきた木村さんの言葉は、私たちにさまざまな示唆を与えてくれるだろう。

きむら・なおひろ 1984年生まれ。ひきこもり新聞編集長。全国ひきこもり当事者連合会代表理事
きむら・なおひろ 1984年生まれ。ひきこもり新聞編集長。全国ひきこもり当事者連合会代表理事
■苦しかった経験は無駄ではない。

 ――「100万人が追い詰められないために」。ひきこもり新聞創刊号を手に取ると、大きな見出しが、まず目に飛び込んでくる。全国に100万人以上いるといわれる、ひきこもり当事者のために2016年11月に創刊された。8ページ建てで隔月の発行。率直な疑問に答えてくれる識者インタビューに学びは多いが、本当の魅力は実は他にある。
  
 当事者の生の声を集めて載せています。既存のメディアの報道の仕方とは違った、自分たちの切り口でしか伝えられないことがあるんじゃないかと思って始めました。

 当事者のほとんどは、自分を強く責めています。そして、どうしたらいいのか分からないでいます。当事者を抱える家族も同じです。

 でも、決して絶望しないでほしいんです。

 自分では言語化できていなかったけれども、他の当事者の声、人生を懸けて紡ぎ出した物語を聞くことで、“そうだ”と思い、癒やされる。この苦しみは自分だけじゃなかったと感じ、少し楽になれたりします。

 だから苦しかった体験は無駄ではない。苦しい状況は変えていけるし、その体験はきっと誰かを癒やし、救っていけるんじゃないかと僕は信じています。

 ――3月に第3号の発行を控える。これまでに数多くの反響が寄せられた。
  
 創刊号に対しては、「もっと情報を載せてくれ」とありました(苦笑い)。2号になって情報はぐっと増えました。親御さんから、「息子の気持ちが分かりました」とか、当事者の方から「新聞を創刊してくれてありがとうございます」「僕も1回就労したけど、働けなくなってダメでした。でも、自分と同じ経験をした人の話を読むことができてよかった」とか、さまざまな声がありました。
  
 ――定期的に編集会議が行われているが、心掛けていることはどんな点なのだろうか。
  
 やっぱり自分たちの言いたいことを言っていこうという姿勢ですかね。といっても、載っている記事はサクセスストーリーばかりではないんです。「自分は就労支援に通ったら働けるようになりました」という成功体験だけ聞いて、「ああ、自分はできないのに」ということで追い詰められる人もいる。だから素直に、「何回もチャレンジしたけどどうしてもダメだった」という体験も載せています。

 ちなみに新聞を制作する、ほとんど全員がひきこもり経験者です。ひきこもり当事者が集まる居場所があるんですけど、そこで「今度、ひきこもり新聞を作ります」と呼び掛けたら集まってきたメンバーです。

■「ひきこもり」=「怠け、甘え」という考えは危険。

 ――経験者や当事者で集まり、新聞を作る。その行動力に「それって、ひきこもりなの?」と疑問を抱く人も多いという。
  
 ひきこもりというと、部屋から出てこられない、というイメージがあると思うんですけど、全員がそうではありません。全く部屋から出てこられない状態を「閉じこもり」といいますが、その数はひきこもりの中の3%です。本当にひどい状況に追い込まれた、その人たちは救わなければいけません。

 一方で、ひきこもりの51%は外に出ているという事実も知ってほしいんです。分かりにくいですが、外に出ていても、実は社会参加していない、社会的に孤立している状態の人も、そのままにはできません。段階や程度に差がありますし、抱える苦しみは多種多様ですので、一人一人の声を拾っていく必要があると思います。

 新聞を発行しようと思った動機の一つは、一部のマスメディアの報道の仕方に疑問を持ったからです。

 「ひきこもり」=「怠け、甘え」とメディアが印象付けていることがありますが、僕自身、それは許せなかった。

 ひきこもりの人を悪者に見立てて、無理矢理にひきこもり当事者を連れ出すような暴力的な支援団体の手法が、美談として取り上げられていた。これはとても危険なことです。

編集会議の様子(本人提供)
編集会議の様子(本人提供)

 ――木村さん自身がひきこもりを経験しているが故に言えることがある。
  
 今も病院に月1回通っていて、僕もまだ、ひきこもりは終わっていません。僕自身は司法試験を目指していたんですけど、「努力しよう、努力しよう」と頑張っていましたが、試験に失敗。でも、その事実を僕は周囲に隠していました。そのうちにプレッシャーで追い詰められてしまい、ひきこもりになりました。

 親は「早く働いてほしい」と言い、ささいなことで、けんかになりました。ずっとけんかしていると、心身共に消耗してしまう。このパターンは他の人も多いと思います。皆、どうにかしたいとは思っている。そこに親とのけんかが始まると、今度は、どうにかしようという気力すら消耗してしまう。

 本当に苦しかった時は、体が“石”のようになって動けなくなりました。

 朝、晴天で「気持ちの良い朝」なんですが、目が覚めた瞬間に、自分は絶望的な気持ちに襲われます。起きた瞬間にです。外は、チュンチュンとスズメが鳴いて、いい日なんでしょうけど、朝の光も入ってくるんですけど。食事を取る気もしない。トイレだけ、床をはって何とか行くという感じでした。

■じっくり聴いてあげる。味方になってあげる。

 ――木村さんは、ひきこもりから、どのようにして回復していったのか。
  
 第三者の介助がありました。専門家としては、僕の場合は斎藤環先生(精神科医)でした。

 支援には、社会的な視点が必要だと思うんです。今までは個人に焦点を当てられすぎて、「当事者をどうにかしよう」としていました。でも、斎藤先生の行われたことは、僕をどうにかしようというのではなく、家族全体をどうにかしようとされた。さらに、家族だけだと限界があり、もっと視野を広げて、社会とどうつながるかという次の段階まで考えてくださいました。

 家族以外の居場所が必要です。そのためには、やっぱり周囲が声を掛けていくことが大切だと思います。

 斎藤先生は、「人薬」と言われていたんですけど。人とのつながりが最良の薬になるという意味です。斎藤先生は、ご自分がされているランニンググループに僕を入れてくれました。そこで人間関係ができてきて楽になった。ちょっと不思議なんですけど。
  

©PIXTA
©PIXTA

 ――声掛けをする際に心掛けたい点はと聞くと、すぐに答えが返ってきた。
  
 一人一人の中にある「こうしたい」という感情を育てていければ、外に出やすくなると思うんです。型にはめた一方的な支援ではなく、じっくりと聴いてあげる。味方になってあげる。ひきこもりって周りは敵だらけですから。世間のバッシング、家族の一方的な意見、押し付け。説教すると多分傷つくと思うんです。
  
 ――確かに親子の会話は、時にどちらが正しいかを白黒付けようとする「ディベート型」になってしまいがちだ。
  
 ひきこもりはどうしたら解決できるか。すぐには答えは出ないと思います。むしろ、ないと思った方がいい。そこからどうするかを話し合っていく、まさに「ダイアローグ(対話)」によって道ができる。道ができれば歩んでいけるんです。

 今、働いている人でもひきこもりになる可能性はあるし、誰がなっても不思議ではありません。自分に関係ないと思うのではなく、みんなが自分事として捉えるようになってくれたらうれしいですね。

 ひきこもりの問題は、就労したら終わりとか、短期的なものさしで測れることじゃない。実はすごく長期的で、難しい問題だということです。正しい認識が広がれば、ひきこもったことを「責める社会」じゃなくて「理解する社会」が出来上がってくると信じます。


ひきこもり新聞のサイトはこちら
http://www.hikikomori-news.com/

動画

デジタル特集

DIGITAL FEATURE ARTICLES デジタル特集

YOUTH

  • HUMAN REVOLUTION 人間革命検索
  • CLIP クリップ
  • VOICE SERVICE 音声
  • HOW TO USE 聖教電子版の使い方
PAGE TOP