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〈Seikyo Gift〉 コロナ禍の中で学ぶ皆さんは“かわいそうな世代”じゃない〈危機の時代を生きる〉 2021年4月4日

  • 大阪市立大空小学校初代校長 木村泰子さん

 国内で新型コロナの感染拡大が本格化してから1年。ある意味で、コロナ禍によって大人以上に我慢を強いられてきたのが小・中学、高校生たちかもしれない。大阪市立大空小学校で初代校長を務めた木村泰子さんに、コロナ禍の中で学ぶ子どもたちや巣立ちゆく友、保護者などへのメッセージを語ってもらった。(聞き手=大宮将之、村上進、2021年2月20日付)

チャンスやで!

 ――この一年、生徒の多くは楽しみにしていた学校行事や目標にしてきた部活動の大会等が中止や縮小となりました。彼ら・彼女らは“コロナ世代”とも呼ばれ、「かわいそうだ」との声も聞かれます。
 
 私も学生時代、水泳に打ち込んできたので、試合に出られない悔しさなど少しは分かるつもりです。でも、その上であえて言うのですが、私は今の子どもたちを1ミリも“かわいそうだ”とは思っていないんです。
 
 私はコロナ禍が起こってから、つまらなそうにしていたりする若い人たちには、こう言っています。「あんたら、実はめっちゃ幸せなんやで! こんなチャンスはないんやで!」って。
 
 なぜなら、私たち大人の世代が若い頃に得ることができなかった“経験知”をいっぱい得られるから。「経験値」じゃないですよ。“ち”は「知識」「知恵」の“知”です。経験知は、自分が体験しなければ得られません。体験が経験になり、生きる知恵に変わっていくんですね。
 
 コロナ禍前の学校生活は、言ってみれば「想定内」の学びが多かったといえます。でもこれだけ変化が激しく、10年・20年先が不透明な社会に飛び込んでいく子どもたちには、「想定外」を生き抜く力がどうしても必要になってきます。それを私は、「見えない学力」と呼んでいます。「見える学力」とは違って、テストの点数では測れない「見えない学力」を身に付ける貴重な経験を、今の子どもたちはしていると思っています。

木村泰子さんが初代校長を務めた大阪市立大空小学校の校舎(写真は全て本人提供)
木村泰子さんが初代校長を務めた大阪市立大空小学校の校舎(写真は全て本人提供)

 私が初代校長を務めた大阪市立大空小学校は15年前の2006年、「すべての子どもの学習権を保障する学校をつくる」という理念のもと開校しました。特別支援の対象となる子どもも含めて全ての子どもたちが同じ教室で学びます。校則は一切なし。あるのは、“たったひとつの約束”である「自分がされていやなことは人にしない、いわない」のみ。校則ではなく約束なので、破っても罰せられるのではなく、やり直せばいいということでやってきました。

大空小学校が掲げる「理念」と「たった一つのやくそく」
大空小学校が掲げる「理念」と「たった一つのやくそく」

 それと、大空小で身に付けていく「見えない学力」として掲げた四つの力が、「①人を大切にする力」「②自分の考えを持つ力」「③自分を表現する力」「④チャレンジする力」です。
 
 開校まもない頃、職員室で教職員のみんなと毎日のように対話しました。「正解なんてどこにもない10年後の社会で、どんな力があったら、ええんやろうね?」――そんな中、集約されていったのが四つの力なんです。

 その時、未来がどんな社会になるかを想像し、出てきたキーワードが「多様性」「共生」「想定外」。15年前には今ほど使われていなかった言葉でした。
 
 子どもたちが将来、多様性の社会を幸せに生きられるように――互いの違いを認め、尊重し合うことができ、全ての子どもが安心して学べる学校を目指そうと決めたのです。子どもたちや全教職員はもちろん、保護者や地域の方々も自らが主体者となり、「自分の学校」を自分たちでつくってきました。だから「不登校0」は当たり前です。
 
 もちろんトラブルは毎日のように起きます。困っている子もみんな一緒に学んでいるので、想定外の連続。けれどそのたびに、みんなでどうしたらいいかを考えて、“やり直し”ます。すると不思議と「見えない学力」が、グングンと伸びるんです。「見えない学力」が高まれば、結果として「見える学力」も向上します。大空小は、全国学力調査の平均正答率で全国一の県を上回ることもありました。

 ――「多様性」「共生」「想定外」は、このコロナ禍で一段とクローズアップされているキーワードでもあります。
 
 想定外の危機が日本中を襲う中で、今まで“蓋”をして隠していたものが社会全体に露呈してしまったなというのが、私の実感です。特に心配しているのは、他者に対する偏見や差別、そして排除です。緊急事態宣言のもと、医療従事者や宅配業者の子どもというだけで「保育園の登園を拒否された」「入学式を欠席してほしいと言われた」という声もありました。
 
 また、“みんなと同じことができない人”に対して、ものすごくバッシングを浴びせることもありますよね。例えば「マスク」の着用。実は、嗅覚や触覚などの「感覚過敏」で、マスクを着けることがしんどいという人は少なくないんです。子どもたちの中にも“マスクをすることが怖い”“息もできない”って思っている子がいっぱいいますよ。でも「マスクをせえへんかったら学校に来たらあかん」と言われた子もいるんです。
 
 オンライン授業が広がり始めた時に、自宅にWi―Fi環境がない子や、スマートフォンやタブレット端末を持っていない子が、学習から取り残されてしまう懸念もあることが報道されていました。

胸を張っていい

 ――「多様性が大事」「これからは共生社会」と、いくら大人が口で言っても、子どもたちは現実をよく見ています。
 
 インターネット上でも、自粛しない人をバッシングする“自粛警察”がいっぱい現れましたね。高校生の皆さんも、スマートフォンでそんなSNSの投稿を見る機会が、この一年、たくさんあったでしょう。
 
 実はそんな時こそ、皆さんにとって「見えない学力」である四つの力が自分に身に付いているかを問い直してみる、絶好のチャンスのはずなんです。
 
 みんなと同じことができない人の状況を想像する。みんなが違って当たり前。マスクを着けられない子がいるなら、オンラインができない子がいるなら、他のやり方はないか、どうしたらいいか考える――これが「①人を大切にする力」ですよね。
 
 SNSでみんなが書き込んでいる内容やマスメディアが発信している内容を鵜呑みにせず、「この言葉は誰かを傷つけていないだろうか」「自分はみんなの意見に振り回されていないだろうか」「自分自身はどう思うのか」と問う――これが「②自分の考えを持つ力」です。
 
 そこで自分なりの考えを言葉にして周囲の人に伝えたり、SNSで発信したりした人もいるかもしれません。それはまさに「③自分を表現する力」ですよね。
 
 もちろん、自分の思いを伝えたことでそれを否定されたり、嫌なことを言われたりするケースもあるでしょう。一方で、自分が発言したことで相手の考え方が変わったり、「教えてくれてありがとう!」と感謝されたりすることだって、きっとあるはず。どちらにしても自分自身を表現しなかったら、自分をアップデート(更新)することもできないんですよね。
 
 失敗してもいい。失敗したらそこからまたやり直せばいい。とにかく表現してみよう、伝えてみよう、行動してみようとする力――そう、これが「④チャレンジする力」なんです。
 
 そう考えると、コロナ禍を生きる若い皆さんは、「見えない学力」を毎日毎日、高めているんですよね。特に学校を卒業して、新しい舞台に進む皆さんは「これからの社会で生きる力、柔軟な対応力を磨いてきた世代なんだ」と、胸を張ってほしいと思います。

正解を持たない

 ――「見えない学力」の四つの力は、義務教育を終えた私たち大人にも求められるものではないでしょうか。
 
 もちろんです。むしろ、大人が身に付けなかったら、子どもたちも身に付きませんよ(苦笑い)。大人自身が常に「自分には今、四つの力が足りているだろうか」と問い直す姿や、実践している姿を子どもたちに見せてこそ、子ども自身も「四つの力を大事にしよう」と思えるんじゃないでしょうか。
 
 その上で大事なことは「対話」です。よく、「大空小学校では四つの力について、どんなふうに子どもたちに教えていたんですか」と聞かれることがあります。けれど、実は特別な教え方は一切ないんです。わざわざ説明もしません。その代わりよく質問をしていました。「10年後の社会って、どうなっていると思う? 想像してみて」って。
 
 これは、私が教員生活を終えた後、全国各地の教育現場などに伺った時に、そのまま子どもたちに投げ掛けてきたことでもあるんです。
 
 「ロボットが人間の代わりをするようになるよね」「そんな社会になったら、自分が生きていくのに、どんな力が必要だと思う?」「どんな力があったら幸せになっていけると思う?」――こう聞くと、子どもたちは自分の考えを伝えてくれるんですよ。小学1年生でも、「人の話をたくさん聞いたらいいと思う」とか、「怖がらんと何でもやったらいいと思う」とか言いますから。

多様性が尊重される時代へ「見えない学力」を身に付ける

 そこで出てきたことを四つの力に集約していくんです。例えば、「人の話を聞くことって、『人を大切にする力』だよね」とか、「怖がらないで何でもやるって、『チャレンジする力』だよね」って。面白いことに、どんなことも、四つの力に集約できるんですよ。
 
 これは、家庭でもできますから、ぜひやってみてください。真面目に話していてもつまらないので、「四つの力の中で、今の自分に一番身に付いている力は何だと思う?」と、ゲームみたいにやってもいいかもしれませんね。親子でやると面白いですよ。親が「私は『人を大切にする力』かな」と言ったら、お子さんが「えー⁉ 信じられない」と言うかもしれません(笑い)。それでいいんです。自己評価ですから。
 
 コロナ禍に関するニュースを見ながら「これ、どう思う?」って質問するだけでも、対話は生まれます。
 
 でもその時、親が気を付けなければならないのは「親の正解を押し付けないこと」。親が正解を持ってしまうと、子どもが語る言葉を最後まで聞けないんですよね。途中で自分の正解を言ってしまう。でも今の社会を見ていても、正解なんて簡単には出せないことばかりじゃないですか。まして10年後の社会は、なおさらです。
 
 未来の社会を生きるのは「大人」ではなく「子ども」ですよね。大人の思っている正解は、決して子どもたちの正解とは限りません。だから子どもが自分で考えて、判断して、行動していく力を付けるためにも、親子で一緒に「問い続ける」ことが大事なんです。

豊かな問い直し

 ――コロナ禍は今までの「当たり前」を問い直すチャンスだともいわれています。
 
 何のために学ぶのか。学校はどうあるべきか。そんな問い直しが社会全体で、少しずつ始まっていると思います。
 
 「オンライン授業ができるなら、学校に行く必要はないんじゃないか」という声もありましたよね。こういう問い直し自体は、いいことだと思うんです。
 
 けれど間違ったらいけないのは、「オンライン授業がいいのか、それとも対面授業がいいのか」という二項対立でしょう。これは分断と不幸を生んでしまいます。
 
 そうではなくて、「オンラインだと、こういうメリットがあるよね」「オンライン環境がない人には、こういうやり方でサポートできるよね」といった具合に、いろんな考え方が生まれてきたり、「ああ、やっぱり人と直接向き合って語り合えるって、素晴らしいことだなあ」と心から感じられる自分になれたりと、全てをプラスの方向へ持っていくのが、豊かな問い直しのあり方ではないでしょうか。
 
 学力についても、そうです。これまで日本社会は、数字で測れる「見える学力」を第一に考え、それを高めるのが学校教育の当たり前だと思われてきました。もちろん、私は決して「見える学力」を否定するわけではありません。将来、なりたい自分や就きたい職業があって、そのために「見える学力」が必要な子も、確かにいるでしょう。学校も「見える学力」で評価する方が楽だから、ついそうしてしまうんです。
 
 けれど「多様性社会」「共生社会」そして「想定外の未来」を生き抜くには、見えない学力――つまり「①人を大切にする力」「②自分の考えを持つ力」「③自分を表現する力」「④チャレンジする力」が必要なんです。
 
 コロナ禍で生きる若い皆さんには全てを「学びのチャンス」にしていってほしい。過去は過去。これは、いくら頑張っても変えられません。けれど、今から1秒先は未来です。未来は、この瞬間からいくらでもつくれます。どんな失敗をしても、悔しい思いをしても、命がある限り、生きている限り、やり直せばいい。そこに「学び」があるんですから。
 
 周囲の大人の皆さんにも、子どもたちや若い人たちが安心して学び、チャレンジできる環境をつくっていただきたいと、心から願います。
 
 こんな時代だからこそ、新しい発想で、新しい社会を、みんなと一緒につくっていける――そう思うと、何だかワクワクしませんか。

 〈プロフィル〉 きむら・やすこ 大阪市生まれ。1970年から教員に。大阪市立大空小学校では2006年の開校時から2015年3月まで校長を務めた。障がいの有無などにかかわらず全ての子が同じ教室で学び合う様子は、ドキュメンタリー映画「みんなの学校」(文部科学省特別選定作品)にもなり、大きな話題を呼んだ。教員生活を終えた現在、各地で講演活動などを行う。著書に『「みんなの学校」が教えてくれたこと』『10年後の子どもに必要な「見えない学力」の育て方』など多数。

 こちらから、大空小学校のドキュメンタリー映画「みんなの学校」を巡って、木村泰子さんにインタビューした過去の記事(2016年5月7日付)をご覧いただけます。

 また、こちらから「危機の時代を生きる」インタビューの過去の連載の一部もご覧いただけます。

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 kansou@seikyo-np.jp
 ファクス 03―5360―9613

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