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「性的マイノリティー」――当事者の視点が社会に新たな価値を生む 2023年5月6日

  • 【電子版連載】〈WITH あなたと〉#家族の理解 子どもたちの居場所をつくるトランス男性 一般社団法人にじーず代表 遠藤まめたさん  

 トランスジェンダー(※)の当事者としての体験を生かし、一般社団法人にじーずを運営する、遠藤まめた代表は、女性として生まれ、男性として生きています。自身の性に悩む子どもや若者への啓発活動に、10代後半から取り組んできました。親や教師などの大人、当事者の子どもたちに伝えたいことを聞きました。(取材=宮本勇介、橋本良太)

 (※)トランスジェンダー:生まれた時に割り当てられた性別と性自認が異なる人

■女子の制服を着たくなかった

 中学・高校時代はセーラー服の制服に苦しんだ。遠藤まめたさんは、七五三で女児用の着物を勧められると泣いて嫌がるなど、幼い頃から「女の子」であることに違和感を抱いていた。しかし、当時はLGBT(※)という言葉も浸透しておらず、教員に制服のことなどを相談しても「それが決まりだからとか、いつかは気分も変わると言われてしまいました」。

 (※)LGBT:レズビアン(Lesbian 女性同性愛者)、ゲイ(Gay 男性同性愛者)、バイセクシュアル(Bisexual 両性愛者)、トランスジェンダー(Transgender 生まれた時に割り当てられた性別と性自認が異なる人)

 当時と比べると、スカート・ズボンなど、制服を選べる学校が増え、現在の状況は変わってきている。「先生たちも性的マイノリティーの子たちに配慮しようと、いろいろと頑張ってくれています。でも、問題は山積みです。悩みの渦中にいる中高生からしてみたら、昔よりマシになったと言われても、何の励ましにもなりません。今を生きているわけですから、そこを大切にしないと」

 にじーずは、「10代から23歳までのLGBTやそうかもしれない人が友達を作ったり、遊んだり、のんびりしたりできる無料の居場所」を提供している。利用する人たちは、親にカミングアウト(自分の性のあり方を自覚し、誰かに伝えること)して通ってくる人もいるが、親にカミングアウトせずに自分一人で調べて訪れる人もいる。

 わが子の性のあり方について、すぐに受け入れられる父母は増えてはいるが、例えば男子がスカートをはけば、「恥ずかしいからそんな格好で出歩かないで」などと言われることも多いという。
 「家族に受け入れてもらえないって、すごく苦しいんです」。遠藤さん自身、高校生の時に、親にカミングアウトをしたが、母からは「間違いであってほしい」と言われた。父は「職場にトランスジェンダーの人がいるよ」と割と理解が早かったものの、男性ホルモンの注射などの治療には反対した。ただ、就職祝いでは、メンズの時計を買ってくれた。

 遠藤さんは当事者も孤立しやすいが、カミングアウトされた家族も同時に孤立しやすいと指摘する。「カミングアウトしたわが子を、すぐに応援できる親もいれば、家族としてどうしていいか分からずに苦しむ親もいます。中には、自分はダメな親なんじゃないかと責めてしまう人も。当事者の家族にも、電話やSNSなどの相談機関や家族会があるので、ぜひ活用してもらいたいです」

■何でも打ち明けられる「場」

 当事者、家族それぞれに葛藤がある。しかし、何でも打ち明けられる、自分を肯定できる「開かれた場」があることで変化が生じるという。

 「性的マイノリティーの子どもたちは、当事者の人たちと会って話をしてみたくても、周りでカミングアウトしている人がいないので、出会う機会があまりない。それは都市部よりも地方の方が顕著です。当事者の子どもは、同じような性的マイノリティーの友達がほしいと切実に願う人が多くて、にじーずに参加した子の中には、たくさん当事者がいるのを見て、感激して泣く子もいる。それぐらい、人によっては、ものすごい孤独を感じながら生きているんです」

 にじーずではまず、呼ばれたい名前を名札に書く。自己紹介をして、その後はボードゲームやカードゲームをするなど、放課後のようなラフな時間を過ごす。後半はトークメインで、今、話したいことを紙に書き、スタッフがそれを見てグループ分けをする。
 「自分のセクシャリティーに気付いたきっかけみたいなことを話すグループもあれば、どの生き物が一番かわいいか選手権みたいなものまで幅は広いです(笑)」。もちろん、話をしたくない場合は無理せず、聞いているだけでもいい。

 学校生活の中で困ることは、たくさんある。プールの授業で水着をどうしても着たくない。自分に適したトイレがなくて困る。しかし、大体はなかなか周囲の大人に言い出せない。
 「子どもたちにとっては、家と学校の往復だけだと、視野が狭くなりやすい。学校に通っていなければ家だけが『世界の全て』になってしまう。“これは嫌だ”と思いながら、その状態が続くことは、本人にとってものすごいストレスなんです」

 そうした子どもたちが、にじーずのような居場所を見つけるとどうなるのか。「例えば、『この前、英語の先生が、男子は、女子はとか、すごく性別で分けた話し方をしていたのが嫌だったから、やめてほしいって言った』という参加者の発言を聞いて、別の子がびっくりするんですよね。“えっ、そんなことも、言っていいんだ!”みたいに」

 当事者の話を聞くことで、自分のことを俯瞰して見ることができるようになる。「自分に問題がある」「自分だけの悩み」と思い込んでいたのが、そうでないことを知る。

 にじーずに通う子どもたちにアンケートを取ってみると〈性格が明るくなった〉〈友達がたくさんできました〉〈今までは自分が変だからしょうがない、我慢しようと思っていたけれど違っていた〉というようなコメントが目立つ。

 「誰にも言えず、SNSやネットに情報を求めても、悲観的な話題が多いですから、お先真っ暗になり、自分のセクシャリティーのことばかりを考えるようになります。一人で抱え込んでしまうと、気持ちが病むだけであまり良い効果はないと思うんです。
 でも、当事者同士で会話していく中で、『トランスジェンダーの〇〇さん』は、『ハリネズミが好きな〇〇さん』でもあることに気付く。そうか、セクシャリティーも自分の属性の一つであって全てではないんだ、って」

■友達からカミングアウトされたら

 思春期の子どもたちは、悩みや困りごとを同世代の友達に相談する傾向があるが、性的マイノリティーの問題についても同様だ。

 「アウティングという言葉を聞いたことはありますか? 本人が望まない形で、その人のセクシャリティーを第三者が広めてしまうことを指します。アウティングは、その人の尊厳を大きく傷つけてしまうことがあるんです」

 からかったり、ネタにするつもりでなくても、カミングアウトされた側は「どうしたらいいか分からないので、とりあえず周りに聞こう」と思う場合もある。

 「まずは周りに話すんじゃなくて、いったん、自分の中だけでとどめておいてください。どうしてもそれが無理そうなら、LINE相談など公的な相談窓口で『友達からカミングアウトされたんだけど、話がめっちゃ重かったんで、どうしたらいいか分からない』と話してみてほしい」

■大人へのアドバイス

 親や教師といった大人にはどんなことができるのか。「子どもたちから相談を受けたことがなくても、子ども同士でカミングアウトが起きているかもしれない。大人の見ていないところで、子どもたちが傷ついている可能性が高いことを想定しておいてください」

 また、学校の廊下や保健室に性の多様性に関するポスターやリーフレットがあることで、〈ここは安全な場所だ〉〈安心して話せる人がいる〉というメッセージを伝えることができるという。「テレビをよく見る家庭だったら、ニュースなどでたまにLGBTが話題になることがあるじゃないですか。そういう時に、日頃から『自分の職場にもいるな』とか、『何人に1人いるらしいよ』みたいな『その話題できますPR』をするといいと思います」。実際、にじーずでも〈親が詳しくてびっくりした。それで話せると思った〉という子たちもいるそうだ。

 2013年に行われたある調査では、親や教師といった大人よりも、同級生にカミングアウトする子どもの割合の方が多かった。「依然として、親にカミングアウトするハードルは高い」とした上で、遠藤さんは子どもたちと接する現場感覚から、その状況にも変化が生じ始めていると感じる。

 「近年、にじーずには、親から勧められて、また、学校の先生から聞いて来たという児童・生徒が増えてきたと感じます。性的マイノリティーに対する社会の認知度が高まっています。もし、子どもからカミングアウトをされたら、家庭や学校を安心の居場所になるようにしてもらいたいです」

■オス同士のペンギンカップル

 高校生の頃の遠藤さんは「死んでしまいたい」と考えることもあった。「でも、今、死んだら、遺影に写る自分は女の服を着ているかもしれない。それが飾られるのだけは避けたいなと。絶望より、大人たちの無理解に、めちゃめちゃ怒っていたんですね、当時」

 大学は獣医学部へ進み、そこで「多様性こそ自然のルール」であることを学んだ。
 「同性愛は自然の摂理に反するという人がいますが、自然界では1500種を超える動物において、同性間の性行動が確認されています」。聞けば、ペンギンにはオス同士のカップルが存在していて、日本の水族館でも何組か確認されているという。

 「恐竜がいた、もっと昔の時代から生物は進化してきました。その進化の生き残りの過程で、性的マイノリティーが人間にとって必要でないものなら、とっくに淘汰されてなくなっています。そう思うと、35億年もの生物の歴史で存在してきたものなんだから、生物学を使って否定するのはやめてほしい。多様な生物がこの地球で暮らしている、それ自体が答えです。種の保存の理論も単純に『全てがオス・メスのペアになって、子どもを残す』ということではないです」

■多様性は楽しいだけじゃない

 違いがある分だけ、社会に多様性が生まれる。「重要なのは、社会を構成する人たちが、その多様性とどのように向き合い、他人と関わっていくかということ」と遠藤さんは言う。

 「マイノリティーであることが固定化されて、『理解が必要な人』みたいに言われることが、私は好きじゃないんです。マイノリティーは、新たな視点を社会に提供している存在であって、“少数者=弱者”ではないと思うんです」
 近年、学校生活での頭髪、服装に関する「ブラック校則」などの問題が話題だ。2016年、文部科学省は、性別に違和感のある生徒に対して「自認する性別の服装・衣服や、体操着の着用を認める」等の個別配慮を明記したリーフレットを教職員向けに発行している。
 「ブラック校則と個別配慮は厳密には別のものですが、私は、その底流でつながっていると思います。性的マイノリティーの視点は、マイノリティーでない生徒にも通じます。意識の変革です。新たな視点の提供によって、社会全体も変化していくということだと思います」

 ただ、「多様性は面倒くさい」とも遠藤さんは言う。多様な人が同じ環境で過ごそうとすれば、当然、摩擦は起きやすくなる。

 「自分が気にもとめないようなことが、相手にとってはダメージになっていることもある。多様性は楽しいだけじゃない。いろんなことに傷ついている人がいることでもある、そうした部分にも思いをはせながら、言葉を選んで生活していきたいと思います。
 まあ、日々、私もいろんな地雷を踏んでいますが……でも、話さないと人って分かりませんから、なるべく安心して話せる環境を、今後も増やしていきたいです」

【プロフィル】
 えんどう・まめた 1987年、埼玉県生まれの横浜市育ち。LGBTの子ども・若者の居場所づくりをする一般社団法人にじーず代表。著書に『みんな自分らしくいるためのはじめてのLGBT』『先生と親のためのLGBTガイド――もしあなたがカミングアウトされたなら』『オレは絶対にワタシじゃない―トランスジェンダー逆襲の記』などがある。

【相談窓口】
 ■にじーず
https://24zzz-lgbt.com/

 ■よりそいホットライン セクシュアルマイノリティ専門ライン
https://www.since2011.net/yorisoi/n4/
 0120-279-338
 0120-279-226(岩手県、宮城県、福島県からかける場合)
 ガイダンスが流れたら、「4」を押してください。セクシュアルマイノリティ専門ラインにつながります。

 ■にじいろtalk-talk
https://page.line.me/ebx1820z
 性のあり方に関する無料LINE相談ができます。

 ■NPO法人LGBTの家族と友人をつなぐ会
http://lgbt-family.or.jp/
 LGBTの家族や友人による会。ミーティングや講演会などを行っています。


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 ファクス 03―5360―9470

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