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変化する東京富士美術館――大シルクロード展に行ってみた! 2023年11月23日

 東京富士美術館(八王子市)の海外文化交流特別展「世界遺産 大シルクロード展」が好評開催中です(12月10日まで)。

 今回は、同館の学芸員で展示の企画に携わった、西野正恵さんに、美術好きの学生記者すわんが直撃取材しました。

■東京富士美術館の新しい取り組みとは?

――本年11月3日で開館40周年を迎えられましたね。

 学生の方に取材をしていただけるなんて、とてもうれしいです。

 最近は、SNSやデジタルアートの普及により、美術館は“堅苦しい”というイメージから、“映え”スポットとして、子どもたちや、すわんさんのような若い人たちも楽しめる場所になってきているんです。

 今、東京富士美術館でも10年後の開館50周年に向けて、ブランドコンセプトを「アートを身近にする平和と美の発信地」とし、新たな取り組みを始めています。

――「アートを身近にする平和と美の発信地」には、どんな思いが込められているんですか。

 「アートを身近にする」という言葉は「アートをより多くの人に開かれた存在にすること」はもちろん、「自分の中にある美(アート)を発見していくこと」も意味しています。また、アートの力で「平和」を目指す姿勢には、東京富士美術館の大切な「らしさ」を込めています。

 昨年には、平和のメッセージを書いてもらう「柿の木プロジェクト」を行い、「被爆柿の木2世」を植えた「柿の木庭園」も開設しました。地元の八王子市民や大学生の皆さんとのつながりも広がり、うれしく思います。
 また、本館出口にあった「勝利」のブロンズ像は新館入り口に移転し、フォトスポットとして生まれ変わりました。

「世界を語る美術館」との永遠の指針のもと、発展を続ける東京富士美術館。フランスの彫刻家・ブールデル作「勝利」のブロンズ像が来館者を迎える
「世界を語る美術館」との永遠の指針のもと、発展を続ける東京富士美術館。フランスの彫刻家・ブールデル作「勝利」のブロンズ像が来館者を迎える

――若者に身近に感じてもらうという意味では、何か工夫はありますか。

 ミュージアムアプリ「ポケット学芸員」を導入しました。このアプリは無料で利用でき、自分のスマホでどこにいても聞くことができるので、とても便利です。

 また、シルクロード展では、「敦煌莫高窟」と呼ばれる中国・敦煌の洞窟の再現模型を作り、実際の空間を体感してもらえるように工夫をしています。

――私も体験しましたが、新感覚でした。美術や歴史などに苦手意識がある方にもオススメかなと思いました。

 そうですね。美術鑑賞は、もちろん知識があった方が、その作品をより楽しむことができますが、まずは「自分の感覚で観ること」が大事だと思うんです。

 その中で、何かすてきだな、好きだな、と心に留まった作品について、いろいろと掘り下げていくと、新たな発見があるかもしれません。ぜひ、一つでも良いので、お気に入りの作品を見つけてみてください。鑑賞を通して、アーティストと心で対話し、その生き方や時代の文化を感じていただけたら、うれしいです。

■国宝級の作品も見られる!?

――10月31日より、大シルクロード展の展示作品が追加されたと伺いました。

 よくご存じですね。「半人半馬および武人像壁掛」を含む20点が加わりました。

――ハンジンハンバ……。すごい長い名前ですね!

 難しい名前が多いと、やっぱりシルクロードって堅いイメージになってしまいますよね。

 でもこの作品は、一級文物といって、日本の国宝にあたる中国の文化財なんです……。できるだけ易しくお伝えするので、もう少し語ってもいいですか?

――もちろんです。

 「半人半馬および武人像壁掛」は、毛織物の断片で、埋葬されていた人のズボンの一部として見つかりましたが、もとは大きな壁掛だったんです。上下二段に異なる模様が描かれていて、斬新なデザインですよね。上には、半人半馬、つまりギリシャ神話に登場するケンタウロスが表され、下には長槍を持ち、頭に白い鉢巻きをしめた武人像が描かれています。顔の表現は写実的で、糸の色の濃淡によって立体感を見事に表現していて、当時の織物の制作技術の高さがうかがえます。

 と熱弁している私も、学芸員になろうと決めたのは大学生になってからだったんですけどね……(笑)。

「半人半馬および武人像壁掛」 前2-後2世紀 高116センチ 新疆ウイグル自治区博物館蔵 一級文物
「半人半馬および武人像壁掛」 前2-後2世紀 高116センチ 新疆ウイグル自治区博物館蔵 一級文物

――そうだったんですね!? とても詳しいので、もともとお好きなのかと思っていました。

 実は、高校生の時に、ルーブル美術館で本物の美術品に触れて、教科書の写真でしか知らなかった作品を間近で直接見られたことに感動したんです。そして、大学生の時に留学した地で訪れた美術館で、さらに美術の奥深さに引かれ、専門的に学んでいこうと決めました。

――西野さんも実際に展示を鑑賞して、美術に関心を持つようになったんですね。

■ファッションに注目!?
展示品の説明をする西野学芸員㊨
展示品の説明をする西野学芸員㊨

――若者が楽しく見られるポイントってありますか。

 昔の最先端のファッションをまとった一級文物の「女子俑」を見ると、当時の流行を知ることができるので、オススメです。

 当時は、積極的に屋外で活動をしている人が多かったこともあり、一般的に健康的で体格が立派な女性が好まれていたので、その証拠に「女子俑」も体格がいいものが多いんです。

 唐代の女性の服装や髪型、メークを見ると、ふっくらした頬、細い眉、切れ長の目、すっと通った鼻筋、小さな口、上品な顔立ちなど、当時の流行も分かるので、ファッションに注目して鑑賞してみるのも面白いですよ!

「女子俑」 唐・8世紀 高45・2センチ 陜西歴史博物館蔵 一級文物
「女子俑」 唐・8世紀 高45・2センチ 陜西歴史博物館蔵 一級文物
■ど迫力の馬・馬・馬!

――今回の展示で私が一番、魅力的だと思ったのは「車馬儀仗隊」という作品でした。主人を囲み守っている馬の迫力にも、とても引かれて……!

 私もこれはお気に入りです。この作品は、中国の漢時代の雷台漢墓と呼ばれる墓から出土した、青銅製の車馬隊です。同じ墓から、100点近くもの馬や歩兵、騎兵、車などの大部隊が見つかりました。
 漢時代の全盛期に活躍した武帝が強く魅了されたのが汗血馬でした。「汗血馬」とは、“一日に千里(約3900キロメートル!)を走り、ひとたび走れば血の汗を流す”名馬のことで、現在のウズベキスタン東部にあった大宛(フェルガナ)という国家から、シルクロードを通って中国にもたらされました。

 この車馬儀仗隊はその汗血馬をモデルにしています。いななく馬の表情や、片足をあげて駆け出そうとしているポーズなど、2000年前に作られたとは信じられないほど精巧に作られています。

「車馬儀仗隊」 後漢・1―3世紀 高30~55センチ 甘粛省博物館蔵(本展では、このうち9体を展示)
「車馬儀仗隊」 後漢・1―3世紀 高30~55センチ 甘粛省博物館蔵(本展では、このうち9体を展示)
■シルクロードから学ぶ平和の心

――展示を通して西野さんが感じてほしいこととは何でしょうか。

 異文化を受け入れる心です。その心があれば、争いのない平和な世界が築かれていくように感じました。

 今回の展示のテーマである、シルクロードの時代は、異文化への理解や尊重の気持ちが人々に根付いていました。たとえば、ペルシャ人が中国まで絹を買いに行ったり、中国の人が仏教を学ぶためにインドに行ったり、そして日本も遣唐使を派遣したりなど、商売のためだけではなく、他の国や民族が持つ「すてきなもの」「善きもの」に憧れ、それを求める旅がシルクロードの道だったのです。

 美術鑑賞も、まさに、他者や異文化を知るアクションであり、尊重する行動です。戦争が起こっている今こそ、シルクロードの時代に生きた人々の心に、思いをはせることが大事なのではないでしょうか。アートは、私たちの精神を良い方向へと高める、平和への一歩であると思います。

――最後に、学生やZ世代の人たちへメッセージをお願いします。

 今、目の前にある作品は、何千年、何百年と人々が大切にしてきたおかげで、現代の私たちが見ることができています。これは本当に奇跡的なことだと思います。
 芸術の秋。ぜひ、その奇跡的に残っている作品に会いに東京富士美術館に来てみてください。お待ちしています。

■編集後記

 今回、東京富士美術館が「民衆に開かれた美術館」として、変化を遂げていることを実感しました。美術館初の取り組みとして、OiTr(オイテル)社生理用ナプキンを設置するなどSDGsの推進にも力を入れています。

 東京富士美術館の魅力はまだまだ語り尽くせないので、同じZ世代の皆さんはもちろん、このインタビューを読んでくださっている読者の皆さんも実際に足を運んで新たな発見をしていただきたいです。

【プロフィル】にしの・まさえ 東京富士美術館学芸員。創価大学卒業後、英国グラスゴー大学大学院で美術史学の修士号を取得。2017年より現職。展覧会の企画に携わり、主に海外文化交流特別展を担当。専門は西洋絵画、ジャポニスム。

◆海外文化交流特別展「世界遺産 大シルクロード展」
 会期は12月10日(日)まで。月曜休館。
 開館時間は午前10時~午後5時(入館は同4時30分まで)。
 【特別展の詳細はこちら

 【東京富士美術館ホームページ

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認定NPO法人フローレンス会長。2004年にNPO法人フローレンスを設立し、社会課題解決のため、病児保育、保育園、障害児保育、こども宅食、赤ちゃん縁組など数々の福祉・支援事業を運営。厚生労働省「イクメンプロジェクト」推進委員会座長

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