電子版連載〈WITH あなたと〉 ♯Z世代化する社会 東京大学大学院講師・舟津昌平さん
電子版連載〈WITH あなたと〉 ♯Z世代化する社会 東京大学大学院講師・舟津昌平さん
2024年8月31日
- 若者は世の中の“映し鏡”
- 違和感を学びのきっかけに
- 若者は世の中の“映し鏡”
- 違和感を学びのきっかけに
時代の変化に伴い、「上の世代はZ世代から学ぼう」という言葉をよく耳にするようになりました。
では、「学ぶ」とは、Z世代をそのまま「まねる」ことを指すのでしょうか。
今回は、『Z世代化する社会』(東洋経済新報社)の著者で、東京大学大学院講師の舟津昌平さんに話を聞きました。(取材=久保田健一、宮本勇介)
時代の変化に伴い、「上の世代はZ世代から学ぼう」という言葉をよく耳にするようになりました。
では、「学ぶ」とは、Z世代をそのまま「まねる」ことを指すのでしょうか。
今回は、『Z世代化する社会』(東洋経済新報社)の著者で、東京大学大学院講師の舟津昌平さんに話を聞きました。(取材=久保田健一、宮本勇介)
■「陰キャです」は謙譲語
■「陰キャです」は謙譲語
――舟津さんが感じるZ世代の特徴や価値観について教えてください。
最近、学生と接していると、「私、陰キャですから」という言葉によく出合います。
「陰キャ」とは、陰気なキャラクターの略で、言動や雰囲気が陰気で、後ろ向きな人を指します。
話を聞いている限り、そうは見えないのですが、分かったのは、「私、陰キャですから」という言葉は、“令和の謙譲語”であるということです。彼ら彼女らの多くは目立つことを避けます。
ですので、「陰キャだけど本物の陰キャじゃない、ちょっと陰キャ」で、「あわよくば他者からは陽キャ(陽気なキャラクター)と言ってもらえる」こと、要はイケてるけど、イタくない(見ていて恥ずかしくない)ポジションを目指しているんです。
あとは、授業で学生に「レポートの提出期限が遅れたら単位は認めない」と伝えると、「でも、先生は授業で使うスライドの更新が“遅れて”います」との言葉が返ってくるというエピソードをよく聞きます。
言われたら言い返す、殴られたら殴り返すような習性で、「若者の動物性」と呼んでいますが、何というか、まるでSNSの振る舞いのように、すぐに相手を“アンチ”と認定して敵対してしまう人がいます。
相手に絶対に屈してはならないと思ったり、逆にバカバカしいと見切ってスルーないしミュートして、無視したりしてしまうのです。
――舟津さんが感じるZ世代の特徴や価値観について教えてください。
最近、学生と接していると、「私、陰キャですから」という言葉によく出合います。
「陰キャ」とは、陰気なキャラクターの略で、言動や雰囲気が陰気で、後ろ向きな人を指します。
話を聞いている限り、そうは見えないのですが、分かったのは、「私、陰キャですから」という言葉は、“令和の謙譲語”であるということです。彼ら彼女らの多くは目立つことを避けます。
ですので、「陰キャだけど本物の陰キャじゃない、ちょっと陰キャ」で、「あわよくば他者からは陽キャ(陽気なキャラクター)と言ってもらえる」こと、要はイケてるけど、イタくない(見ていて恥ずかしくない)ポジションを目指しているんです。
あとは、授業で学生に「レポートの提出期限が遅れたら単位は認めない」と伝えると、「でも、先生は授業で使うスライドの更新が“遅れて”います」との言葉が返ってくるというエピソードをよく聞きます。
言われたら言い返す、殴られたら殴り返すような習性で、「若者の動物性」と呼んでいますが、何というか、まるでSNSの振る舞いのように、すぐに相手を“アンチ”と認定して敵対してしまう人がいます。
相手に絶対に屈してはならないと思ったり、逆にバカバカしいと見切ってスルーないしミュートして、無視したりしてしまうのです。
■若者はアーリーアダプター
■若者はアーリーアダプター
――そうした話を聞いていると、「だから若者は」なんて言葉が、つい出てしまいそうになりますが……。
理解しがたいという感情が湧くのも、無理はないのかもしれません。
ただ、確認しておきたいのは、若者の価値観といっても、それは彼ら彼女らの自力のみで築かれたものではないということです。
それよりもむしろ、外部からの刺激を受けながら形成されたものが大部分になります。家族や教師など、上の世代や社会のルールから多分に影響を受けているのです。
若い人は単純に経験に乏しく、良くも悪くも、新しいものを素直に受け入れやすく、適応力も高い。
例えば、「推し活は人を幸福にする」という言説や、不安を利用したビジネスなどには、年上世代も影響を受ける。言い換えると、社会の構造が出来上がろうとする時は、多かれ少なかれ、社会の誰しもが影響を受けるものです。
しかし、その中で、若者はその構造に、いち早く反応して言動に移すので、上の世代は理解しがたいと感じる。
つまり、若者は、時代の最先端を走るトップランナーであり、「アーリーアダプター」(最初期に適応する人)であるということです。
――いずれ私たちも、Z世代と同じような行動を取るようになるのでしょうか。
その可能性は大いにあります。
入社3年以内に転職する若手に頭を悩ませる管理職もいますが、上の世代の人たちだって同じような風潮はある。“同じ会社でずっと働いていて大丈夫か”と心配したり、自分らしさやワーク・ライフ・バランスを重視したり。人材の流動化が進み、以前よりも転職がスムーズになったのは周知の通りです。
それは、上の世代がZ世代の価値観にどんどん近づきつつあると見ることもできる。そうした変化を私は、「Z世代化する社会」と呼んでいます。
Z世代は、地球外から来た“エイリアン”ではなく、上の世代と地続きの存在です。
ですから、若者を観察すれば、私たちが置かれた社会の課題や構造が浮き彫りになってきます。その意味では、若者は、大人と社会の“映し鏡”ともいえます。
先ほど挙げた、陰キャやアンチなどのZ世代の価値観に共通するのは、一言で言うと「不安」なのだと思います。
先行きが見えず、希望を見いだしにくい世の中では、人はどんどん余裕をなくします。他者を信頼しにくくなり、「自分の身は自分で守ること」が促されるような社会の構造があるということです。
――そうした話を聞いていると、「だから若者は」なんて言葉が、つい出てしまいそうになりますが……。
理解しがたいという感情が湧くのも、無理はないのかもしれません。
ただ、確認しておきたいのは、若者の価値観といっても、それは彼ら彼女らの自力のみで築かれたものではないということです。
それよりもむしろ、外部からの刺激を受けながら形成されたものが大部分になります。家族や教師など、上の世代や社会のルールから多分に影響を受けているのです。
若い人は単純に経験に乏しく、良くも悪くも、新しいものを素直に受け入れやすく、適応力も高い。
例えば、「推し活は人を幸福にする」という言説や、不安を利用したビジネスなどには、年上世代も影響を受ける。言い換えると、社会の構造が出来上がろうとする時は、多かれ少なかれ、社会の誰しもが影響を受けるものです。
しかし、その中で、若者はその構造に、いち早く反応して言動に移すので、上の世代は理解しがたいと感じる。
つまり、若者は、時代の最先端を走るトップランナーであり、「アーリーアダプター」(最初期に適応する人)であるということです。
――いずれ私たちも、Z世代と同じような行動を取るようになるのでしょうか。
その可能性は大いにあります。
入社3年以内に転職する若手に頭を悩ませる管理職もいますが、上の世代の人たちだって同じような風潮はある。“同じ会社でずっと働いていて大丈夫か”と心配したり、自分らしさやワーク・ライフ・バランスを重視したり。人材の流動化が進み、以前よりも転職がスムーズになったのは周知の通りです。
それは、上の世代がZ世代の価値観にどんどん近づきつつあると見ることもできる。そうした変化を私は、「Z世代化する社会」と呼んでいます。
Z世代は、地球外から来た“エイリアン”ではなく、上の世代と地続きの存在です。
ですから、若者を観察すれば、私たちが置かれた社会の課題や構造が浮き彫りになってきます。その意味では、若者は、大人と社会の“映し鏡”ともいえます。
先ほど挙げた、陰キャやアンチなどのZ世代の価値観に共通するのは、一言で言うと「不安」なのだと思います。
先行きが見えず、希望を見いだしにくい世の中では、人はどんどん余裕をなくします。他者を信頼しにくくなり、「自分の身は自分で守ること」が促されるような社会の構造があるということです。
■終わりではなく始まり
■終わりではなく始まり
――若者を知ることで社会の構造や課題が見えてくることは分かりました。それでは、そうした現状に対応していくためには、上の世代は具体的にどんなことができるでしょうか。
魔法のような解決策はありませんが、他者への信頼が薄れつつある社会を変えたいのであれば、まずは大人が相手を信頼することの大切さを若者に伝えていったり、自身が実践する姿を見せていったりすることではないでしょうか。
以前、大学生と話していた時のことです。
僕が「そうした言動は良くないんじゃない」と諭すと、その学生は“この世の終わり”のような顔をして、落ち込んでしまいました。
彼は他者への配慮を欠いたという後悔もあったようですが、自分の人生の“失点”につながったという感覚が強かったようです。
誤りを指摘されることは誰にだってあります。
恥ずかしながら僕も先日、他国の慣習について無知な発言をして、たしなめられました。
しかし、人は、他者を介したプロセスを踏むことで真の学びを得ていくものです。それに、そのプロセスは信頼関係なしでは成立しない。
こうしたことを、学生にも丁寧に伝えていくのが教育の役割なんだと改めて感じました。
上の世代が、若者から学べることはたくさんありますが、それは若者の価値観をそのまま受け入れたり、全面的に肯定したりすればいいという意味ではないと思います。
上の世代は、若者に対して違和感を表明してもいいし、むしろ、そこを足掛かりにして関係を深め、互いに学び、考えられる環境をつくっていけるといいですね。
――若者を知ることで社会の構造や課題が見えてくることは分かりました。それでは、そうした現状に対応していくためには、上の世代は具体的にどんなことができるでしょうか。
魔法のような解決策はありませんが、他者への信頼が薄れつつある社会を変えたいのであれば、まずは大人が相手を信頼することの大切さを若者に伝えていったり、自身が実践する姿を見せていったりすることではないでしょうか。
以前、大学生と話していた時のことです。
僕が「そうした言動は良くないんじゃない」と諭すと、その学生は“この世の終わり”のような顔をして、落ち込んでしまいました。
彼は他者への配慮を欠いたという後悔もあったようですが、自分の人生の“失点”につながったという感覚が強かったようです。
誤りを指摘されることは誰にだってあります。
恥ずかしながら僕も先日、他国の慣習について無知な発言をして、たしなめられました。
しかし、人は、他者を介したプロセスを踏むことで真の学びを得ていくものです。それに、そのプロセスは信頼関係なしでは成立しない。
こうしたことを、学生にも丁寧に伝えていくのが教育の役割なんだと改めて感じました。
上の世代が、若者から学べることはたくさんありますが、それは若者の価値観をそのまま受け入れたり、全面的に肯定したりすればいいという意味ではないと思います。
上の世代は、若者に対して違和感を表明してもいいし、むしろ、そこを足掛かりにして関係を深め、互いに学び、考えられる環境をつくっていけるといいですね。
〈プロフィル〉
〈プロフィル〉
ふなつ・しょうへい 1989年、奈良県生まれ。2012年、京都大学卒業。19年、京大大学院博士後期課程修了、博士(経済学)。同大学院特定助教、京都産業大学准教授などを経て、23年より現職。著書に『制度複雑性のマネジメント』(白桃書房)など。
ふなつ・しょうへい 1989年、奈良県生まれ。2012年、京都大学卒業。19年、京大大学院博士後期課程修了、博士(経済学)。同大学院特定助教、京都産業大学准教授などを経て、23年より現職。著書に『制度複雑性のマネジメント』(白桃書房)など。
舟津さんの著書『Z世代化する社会 お客様になっていく若者たち』
舟津さんの著書『Z世代化する社会 お客様になっていく若者たち』
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メール youth@seikyo-np.jp
ファクス 03-5360-9470
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