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〈Seikyo Gift〉 インタビュー 東京大学大学院 開沼博 准教授 2023年7月2日

  • 人間に寄り添う学会の原動力を探究したい

 第2回「SOKA連続セミナー」の全国配信が昨日、始まった。本紙の連載「識者が見つめるSOKAの現場」に寄稿してきた、東京大学大学院の開沼博准教授(社会学者)が登場し、取材の中で感じた学会の社会的価値や学会員の原動力について語っている。同連載の開始に当たって行われた、開沼准教授のインタビューを再掲する。(昨年3月5日付)

 ――この連載ではまず、学会員が各地の「現場」で繰り広げる、民衆を励ます運動の実像を、本紙記者によるルポ形式で紹介していきます。それと連動して、開沼准教授が創価学会の現場に足を運び、各地で人間に寄り添うネットワークを築く学会の原動力を探究した寄稿を掲載していきます。学会の現場を探究するに当たり、開沼准教授が大事にしてこられた社会への視点を教えてください。
 
 世界を見渡せば、昨今のウクライナ情勢や新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)など、目に見える危機が存在しています。これらの問題は日本の私たちにも大きな影響をもたらしていますが、それでもまだ日本は「自由」と「平穏」を保っている社会のように見えます。
 それは、かつてのように目に見える貧困や暴力が、日常的に近くにある社会ではなくなったからです。路上で中高年のホームレスの人を見掛けることも、学校での体罰、街中での暴力沙汰を見聞きすることも減ってきたといえます。
 
 しかし、それらの問題はなくなったかといえば、決してそうではありません。貧困でいえば女性の貧困や子どもの貧困、暴力でいえばDV(家庭内暴力)や自傷行為というように、見えづらい形で問題は深刻化しているともいえるわけです。
 
 社会全体を見れば、かつてと比べて生活レベルは豊かになって、今では多様性を大事にしよう、地球規模の問題を考えようと、自分の周囲の幸福にも目を向けるようになってきたことは、これは大きな進展だと思います。
 しかしその裏で、かつては分かりやすく存在していた問題はなくなったのではなく、社会に「あってはならぬもの」として、皆の目につかないように周縁に追いやられ、見て見ぬふりをされているだけだともいえます。
 
 私は社会学者として、そうした、中心から外れた「周縁的な」地域や人たちを対象に、研究を続けてきました。そうした地域や人々がはらむ問題にこそ、現代社会の課題の本質が見えてくると考えるからです。

開沼准教授が福島県を訪れ、広野支部の学会員を取材(昨年2月)
開沼准教授が福島県を訪れ、広野支部の学会員を取材(昨年2月)
東日本大震災の被災地での献身

 ――創価学会は、一つの見方からすれば、社会的に弱い立場にある人たちを“見て見ぬふり”することなく、一人一人に光を当て、励まし続けてきた団体だといえます。
 
 周縁的な存在は、当然、社会における見えにくい部分です。しかし、各地でフィールドワークをしていると、そうした地域で困っていたり、困難にぶつかっていたりする人たちの中に入って、創価学会が存在感を発揮している場面を多く目にしてきました。
 例えば、東日本大震災の被災地でも、創価学会の皆さんは、励まし合いや交流の場を積み重ねてこられました。仙台市の会館(※東北文化会館)を訪れたこともありますが、震災直後に会館を開放して被災者を受け入れ、重要な機能を担ったことはもちろん、その後も一貫して、誰も見ていないような現場の中で、最後の一人が立ち上がるまでとの思いで、被災者の心の復興のために寄り添い、励まし続けているのだと感じています。
 
 私のような外部の目から見ても、創価学会は大きな存在感を発揮しているのだから、きっと内部にはそれ以上に強い、大きな論理と原動力が働いているのが想像できるんですね。しかしその論理は、外からはなかなかつかみにくい。日本中、身近なところにも学会員の方は多くいると思いますが、実際、どういった思いで、どんな活動をしているのか、その内実はうかがい知れないというのが正直なところです。
 私は、そうした組織が成り立つ仕組みに興味がありますし、この企画が、「外部から見た創価学会の内在的論理」を紹介していくものになればと思います。

団地部として奮闘する学会員を取材(昨年4月、広島市で)
団地部として奮闘する学会員を取材(昨年4月、広島市で)

 ――東北をはじめ各地で学会員と交流を重ねてこられた中、特に印象に残っていることは何でしょうか。
 
 間もなく東日本大震災から11年(2022年3月時点)となりますが、被災地では、目に見える大きな課題は解決しつつあるともいえます。その中で、当初は“復興のため”という目的で、被災地の外から持ち込まれた対話や集会、ワークショップといった交流の場は、復興が進むにつれて少なくなってきました。しかし、ハード面が大きく整備された今、そうした対話や交流の必要性は、被災地の中でますます高まっていると感じます。
 
 私は、そういった地域の交流を、見えないところで下支えしている学会員の方にも、これまでお会いしてきました。そこで感じたのは、被災地で行われているさまざまなNPO・ボランティアの活動や住民の共助の動きと、創価学会が組織として日常的にやっていることは非常に似ている部分があるということであり、興味深いと思っています。例えば座談会や訪問による激励、前向きに生きていくための思想や教えの研さん、政治や社会についての勉強。地域の人々を元気づけ、勇気づけるという点で共通しているので、活動が似てくるのは当然かもしれません。
 しかし、日本の災害NPOやボランティア活動に厚みが出てきたのは、阪神・淡路大震災以降、25年ぐらいの歴史である一方で、創価学会は戦後一貫して、その仕組みと組織を日本全国の隅々にまで築いてきたわけです。
 
 被災地の人々はもちろん自覚しているわけではありませんが、各地にいわば「ミニ創価学会」のような居場所ができるようになって、それが地域を支えてきたようにも見えます。
 
 会社も学校もそうですが、コミュニティーというのは、何か目的を持って人々が集まり、設定されたゴールに向かうというのが一般的です。しかし被災地では、これといった目的や正解がなくても、ただ集まって、お互いの価値を否定せず、ひたすら話を聞いて、励まして……といった場所が、まだまだ必要とされています。
 
 かつては同窓会や業界団体、あるいは労働組合などの強い絆がありました。現代は、社会全体でつながりが希薄化し、若い世代を中心に何かに所属することに違和感を抱く人も多い。有事の際のセーフティーネットとなりうる中間集団が、崩れている時代です。
 そうした中で創価学会は、変わることなく人々をつなぐ機能を持ち続けています。その機能を稼働させる原動力は何なのかを知りたいと思っています。

高知県を訪れ、漁業に従事する学会員を取材(昨年7月)
高知県を訪れ、漁業に従事する学会員を取材(昨年7月)
地縁・血縁を超えたコミュニティー

 ――目的や正解がなくても集まれるということが、大事であると感じました。創価学会の日々の活動も、世界平和と人類の幸福という根本目的を掲げた上で、目先の目標ばかりにとらわれるのではなく、「集まること」「対話すること」それ自体に価値を置いています。
 
 それもまた、言われなければ気付かないことですよね。
 目的との距離感って、とてもむずかしい。復興支援活動をしている中でよく目にするのは、復興それ自体を目的とした人・集団が、いろいろと息詰まる瞬間です。例えば、“復興のために”と掲げてイベントを催してきた人たちにとって、復興が進むことは、自分たちのレゾンデートル(存在理由)を脅かすことにもなりえます。極端に言えば、“完全に復興してしまうのは困る”といった気持ちになっていたりする。
 このことは、現代社会の病に通じる問題だと感じています。
 
 例えば、“自分は○○のために生きている”と考えている人は、その○○という目的を見失った時に、生きる意味さえ見いだせなくなることがある。目的を無理やりでっち上げたり、一つの目的に固執したりすると、道をそれてしまった自分を許せず、別の目的を持つ他者に対しても、不寛容になります。自傷行為や暴力に走る人の背景にも、同じような状況がある場合が考えられます。
 この目的との距離感についても、普段から悩みを打ち明けられる身近なコミュニティーがあれば、調整しやすいですよね。
 
 コミュニティーには、三つの種類があります。
 第一に、生まれながらにして所属が決まっているような、地縁や血縁といったコミュニティー。第二に、学校や会社など、何かの目的を持ったコミュニティーのことで、それは社縁などと呼ばれます。
 人間は、これらの二つだけだとなかなか生きていけません。だから遊んだり、観光に行ったり、趣味を持ったりするのですが、そこで所属するのが第三のコミュニティー、いわゆる「サードプレース」といわれるものです。
 
 このサードプレースを増やすのが近代の基本だったのですが、これも限界が見えつつあるように見える。別に無駄な交流をしたくない、一人でいるのが一番自由だと。それはそれで良いのですが、孤立して生きることのリスクと表裏一体であることも事実です。
 地縁も血縁も超え、目的を一つに集約することなしに、どういったコミュニティーをつくっていけるのかというのは、日本社会における課題です。
 その中で、創価学会は、学会員の方々を軸として、各地に強固なコミュニティーの基盤をつくり続けてきました。

大阪では、青年世代にとっての信仰の魅力に迫った(昨年9月)
大阪では、青年世代にとっての信仰の魅力に迫った(昨年9月)
「見て見ぬふり」をする時代に
幸福への責任を担って立つ団体

 ――開沼准教授は、現代社会の問題の本質を「漂白」という言葉で表現されています。どのような意味を込めたのでしょうか。
  
 上述した、「あってはならぬもの」として周縁化された存在は、問題それ自体がなくなったわけではないのに、「色」を取り除かれ、あたかもなくなったかのように見えます。そうした状態を「漂白」と呼んでいます。
 見て見ぬふりをされてきた、彼ら、彼女らに目を向けるということは、漂白されてしまった問題に色を付け、描き直していく作業ともいえます。
 そうした周縁的な存在に寄り添い続けてきた創価学会員の様子を紹介することもまた、「色を付け直す作業」になるのではないでしょうか。
 
 また、色を付けるということは、ある種の立ち位置を明確にするということでもあると思います。現代は決まった立ち位置がない方が、その時々で好き勝手にきれい事が言える分、楽ではあります。しかし、自分の姿勢を示さないふらふらした態度というのは、欺瞞でもあるし、長期的に見たら危険ですらあります。
 
 創価学会が批判を受けることもあるのは、常に立ち位置を取って、現場の幸福への責任を担って行動してきたからだと思います。表面上できれい事を言っているだけの団体には、そもそも批判はありません。社会的に影響力を持つ団体でありながら、学会は、学会ならではの立ち位置を取って行動してきた。
 
 そうした学会の立ち位置を象徴する一つが、仏教の「中道」ですね。中道とは、自分の立ち位置を意識しながら、今は右に行っているな、今は左に行っているな、だから戻そうという感覚を持つことです。「意識的である」ことが中道であり、それは、ただ中立を装ってふらふらすることとは、対極にあります。

沖縄での取材。会館に設置された平和展示を観賞した(昨年11月)
沖縄での取材。会館に設置された平和展示を観賞した(昨年11月)
外部の目線から答えを見いだす

 ――生活の現場で苦しむ人を“見て見ぬふり”してこなかった創価学会の活動の根底には、あらゆる複雑な事態にも耐え、目の前の課題に粘り強く向き合い続ける「中道」の姿勢があります。そうした学会員の実像に迫るルポ取材は、東日本大震災からの復興に立ち向かう福島から始まります。
 
 フィールドワークを続けてきて思うのは、どんな問題も「見た目ほどシンプルではない」ということです。例えば、福島第一原発(1F)の廃炉作業に取り組んでいる人々の生活や気持ちが報じられるようなことは、今ではほとんどありません。しかし、そうした人がいなければ長期にわたる廃炉が進まないのも重要な事実ですし、そうしたことへの理解と想像力がなくては、一時は人が住まなくなったこの周辺地域が、どんな未来に向かっていくのか、そして私たちはどのように向き合っていけばよいかが分からないのではないでしょうか。
 
 どんな課題にも、見た目以上に複雑な背景があるし、その複雑さの中に入ってこそ、解決する道が見えてくると思います。「答えの芽」は、常に現場にあるというのが私の確信であり、一つの信仰心に近いものだといえます。
 そういった答えは、外部の者が簡単に、偉そうに言い切れるものでは決してないと思う一方で、“外部の目線から”答えを見いだしていくこともまた必要だという、両方の感覚が私にはあります。そういった意味でも今回の連載では、現場の学会員の思いを直接聞いて、思いを知る機会を少しでも多く持てれば、とてもうれしいですね。
 
 創価学会の皆さんが、日々の現場でどのような課題や困難と向き合っているのか、そしてその姿が、組織のあり方とどのようにつながっているのか、大変に興味がありますし、きっと、それを追究していくことで、学会の存在意義や価値が新たに見えてくるのかなとも思います。
 創価学会の“リアル”に迫っていけるのを楽しみにしています。

<プロフィル>

 かいぬま・ひろし 1984年、福島県いわき市生まれ。東京大学大学院情報学環・学際情報学府准教授。専門は社会学。東京大学文学部卒。同大学院学際情報学府博士課程単位取得満期退学。福島大学特任研究員、立命館大学准教授などを歴任。主な著書に『「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか』(毎日出版文化賞)『漂白される社会』『はじめての福島学』『日本の盲点』など。

 こちらから、「SOKAの現場」の過去の連載をご覧いただけます(電子版有料会員)。

第2回「SOKA連続セミナー」配信中

 第2回「SOKA連続セミナー」の全国配信が、SOKAチャンネルVODで昨日、始まった(9日まで)。
 東京大学大学院の開沼博准教授が登場。学会の社会的価値や学会員の原動力について語っている。また、好評のポッドキャスト番組「ラジオ SEIKYO LABO」が、本紙の多彩なコンテンツを紹介する。
 ※約31分(番組コード=DB14)。会館や個人会場(配信の会場と時間等は各県・区で決定)、「モバイルSTB」(インターネットを通してダウンロードが必要)で視聴可能。「SOKAnet会員サポート」では配信しません。

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