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【電子版連載】若者よ、好きに生きればいい!――天文物理学者 BossBさん 2024年1月20日

  • 〈WITH あなたと〉#Z世代

 Z世代の記者がZ世代をテーマに特集しています。第7回は、天文物理学者BossBさん(信州大学准教授)の登場です。ポジティブでパワフルな“宇宙トーク”の動画が、SNSを中心に若者の間で注目されています。「次世代を育てる大人の在り方」について聞きました。(取材=松岡孝伸、菊池優大)

■なりたい自分になれる

 ――BossBさんのTikTokは34万人、YouTubeは24万人のフォロワーがいます。
 アップされた動画を見て以来、「宇宙を知れば、自分が輝いていることに気づく。みんな、輝いてるよ!」「ピース!」といった、勢いあふれるBossBさんの姿が目に焼きついて離れません(笑)。

 視聴いただいているようで、ありがとうございます(笑)。私は、特に若い世代の子どもたちには、なりたい自分になって、自分の色で輝いてほしいんです。そんな思いからの“叫び”を動画にして発信しています。

BossBさんのTikTok
BossBさんのTikTok

 ――本社所属の学生記者である「まなっち」と申します。私は大学で研究をしているのですが、失敗が重なると、“これ以上続けていてもうまくいくんだろうか”と、自信が持てなくなる時があります。そうした際、「自分の色で輝いてほしい」というメッセージは、とても励みになります。

 私たちには、物理法則に反しない限り、無限の可能性があるんですよ。例えば、背中から急に羽が生えて、飛べるようになるだとか、高層ビルから飛び降りて生還する、というようなことはありえない。しかし、物理法則に従ったあなたのあらゆる可能性が体現していく未来は無数にあります。その可能性をつかみとってほしいです。

 だから、「お前にはそんなことできない、無理だ」といった声は無視してください。なりたい自分になれる未来に向かって、選択を重ねていってください。

 その上で、結果が出なかった。それって、その方法では結果が出ないという素晴らしい結果が出たということじゃないですか。それが分かれば、次は別の方法でやってみよう、それでいいんです。

 ――日本では「自分に自信がある」という人は少なく、特にZ世代など若い世代には顕著です。背景の一つにSNSの存在があげられます。SNSでは、常に他者の生活が可視化されているため、どうしても自分と他者を比べてしまいやすく、「自分なんて」と感じてしまう。
 社会課題に関する意識が高く、行動を起こしているZ世代も多いのですが、自分の意見を出さない傾向があるように思います。

 例えば、豊富な経験がなかったり、理解が難しかったりすることで一見、意見が優れたものでなかったとしても、自信をもって発言していいんです。あなたが、あなた自身で考えた意見であれば、それだけでユニークであり、素晴らしいんです。

 だから、勇気をもって手を挙げてほしいし、発言してほしい。もしかしたら批判されることがあるかもしれないけれど、批判は実はいいことなのです。より良い解決策をともに模索する試みですから。そういう勇気の一歩が大きく広がって、世界を変えていくんだと私は信じています。

 確かに、自分という存在が揺らぐというか、価値が分からなくなるようなことは、私が若い時にもありました。高校生の頃、「人の生きる意味ってなんだろう」と、疑問を持ちました。

 別に私がいなくても、地球は回り続けるし、宇宙も存在している。その中で、私自身が生きている意味ってあるのかな、と。その時、たまたま宇宙に関する動画を見て、なんだか心を動かされたんです。

 だから、宇宙を哲学的に理解した先に、その答えがあると考えて、結果的に天文物理の研究の道を進んできました。そうして「宇宙」と「哲学」をつなげて考察してきたことを、「宇宙思考」として、TikTokなどで発信するようになったんです。

■「観測法」を増やせ

 ――なぜ、BossBさんは若者たちの可能性をそこまで信じることができるのでしょうか。 

 私には全ての人間の輝きが見えるからですよ!(笑)

 実は、温度を持つ全てのモノは、光を発しているんです。ですから、これを読んでいるあなたも、ピカピカ輝いているし、宇宙そのものも輝いています。

 宇宙をつくる原子は、それぞれユニークな光を発しています。その中には私たちが普段、目にしている光もあれば、そうではない光もある。この見えない光を観測するためには、それぞれに合わせた「観測法」が必要になります。

 これは、原子からなる人間についても同じことが言えるんじゃないでしょうか。誰一人として同じ原子の組み合わせはありません。よって、誰もが、その人にしかない輝きを放っている。しかし、それを見る周りの人が、その輝きを観測できる観測法、言い換えれば“視点”をもっていないと、その輝きを見ることができない。

 例えば、テレビゲームが好きなお子さんがいるとします。その子は心からゲームが好きで、ゲームをしている時はキラキラ輝いている。

 しかし、親御さんが「ゲームなんか無意味だ」という考えしか持っていなかったら、その子が放っている輝きに気づくことはできないでしょう。自分の脳が当たり前だと思う視点で子どもを見るのではなく、自分は間違っているかもしれない、というオープンな視点で子どもを見ると、その子の可能性はもっと広がっていくと思うんです。

 もしかしたら、いずれゲーム開発で多くの人を幸せにするかもしれないし、バーチャルリアリティーの技術革新を起こして、世界を変えるかもしれない。すべての可能性は決してゼロとは言えないんです。

 誰しもが、好きなことをやっている時、生きがいを感じている時、必ずキラキラと輝いているはずです。家庭内のそれぞれの事情もあるでしょうが、できれば、好きなことはトコトンやらせてみてほしいと思っています。

■本質を見よう

 ――著作『宇宙思考』では、「『視点』を増やすことでモノゴトの本質が見えてくる」と言われています。なぜ、視点がそこまで大切なのでしょうか。

 あなたが見ている現実は、あなたが持っている視点によって制限されるからです。見えること、理解できることは、あなたがそのモノゴトをどう観察するかという観測法、つまり視点が決めます。

 その観測法はあなたの脳にあるデータ、例えば過去の経験や情報が作り上げた仮説によって決定しています。従って、見えること、理解できることには、個人のバイアス(先入観)が入ったり、一側面しか見えていなかったりするのです。

 私たちの目に見える太陽は、太陽の一側面でしかありません。光には波長があります。その中で、私たちは可視光と呼ばれる、限られた光の波長の範囲しか見ることができていない。

 そのため、もっと長い波長の光で見た太陽と、もっと短い波長で見た太陽は、まったく変わった姿になるんです。さらに、太陽が発するのは光だけではありません。ニュートリノという素粒子で観測することもできるし、太陽の質量が歪める周りの時空の様子も観測できます。

 このように、観測法=視点が増えれば増えるほど、現実のあるゆる側面が見えるので、モノゴトの本質が見え始めるのです。

■未知の世界に飛び込め

 ――どのようにすれば日常生活の中で新たな観測法(視点)を増やしていけるでしょうか。

 これはやっぱり、年齢、ジェンダー、国籍、経済状況や教育状況など、とにかく自分とは異なる人々と対話したり、今まで行ったことのない場所に行ってみたりと、「未知」の世界に飛び込んでいくしかないでしょう。

 私自身も、TikTokを始めたのは全く新しい挑戦でした。もともとSNSとかは一切触ったことがなくて、むしろ嫌いなタイプだったんです。ただインターネット上でつながって、何の意味があるの?みたいな(笑)。

 しかし、コロナ禍になって外に出られなくなり、自分の内面と向き合った時、考えが変わったんです。10代の2人の息子たちのアドバイスも聞きながら、少しずつ、嫌っていた未知の世界で私なりに発信を始めたら、発信が好きになり、さまざまな学びや、自分を向上させるチャンスが訪れるようになりました。

 親や先生は「言うことを聞きなさい」と子どもたちに言ってしまいがちじゃないですか。でもこの時点で、すでに子どもたちの無限の可能性をつぶしていることに大人は気づくべきです。

 確かに、大人には「経験」や「知識」があるかもしれません。しかし、誰であっても、必ず間違いがあります。逆に間違いがなければ、そこから新たな発展はないということを意味するので、いいことではありません。

 私自身、今は正しいと思って言っていることでも、きっと間違いがあるでしょう。大人の発言も同様です。ある時、ある状況においては正しくても、未来はどうなるかわからないので、間違いはあります。

 科学知識を含め全ての知識や知恵は批判的に考え直すこと。また、人間は視点に制限されているため、間違っている可能性があること。これらを理解した上で、大人も子どもも、それぞれが視点を増やしていき、自分の頭で考えることが大切だと思います。

 ――話を聞いていて、宇宙思考は「未来思考」ともいえるのではないかと思いました。

 これからの未来を考えると、子どもたちが本来、生まれながらに持っている可能性――想像力に期待するしかないんです。

 気候変動やジェンダー、貧困、戦争など、世界にはまだまだ、たくさんの問題が存在します。それらを解決していくためには、私たち大人にはない、子どもたちの柔軟な考え方、新しい発想が必要です。

 だから私は、子どもたちにありのまま、自由に生きてほしいという思いを発信しているんです。

 大人たちは、子どもたちが今の大人たちを超えていけるように、育てていくことが求められているんだと思います。

【プロフィル】

 てんもんぶつりがくしゃ・ぼすびー 信州大学准教授。理学博士。アメリカのコロンビア大学博士課程修了、ドイツのマックス・プランク天文学研究所などで研究活動後、10年間、子育てに専念し、2014年からアカデミアにカムバック。著書に『宇宙思考』(かんき出版)。

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