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子どもたちの「体験の貧困」を考える 2022年8月4日

  • 電子版連載【駒崎弘樹の「半径5メートルから社会を変える」】〈32〉
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 連載「駒崎弘樹の『半径5メートルから社会を変える』」では、認定NPO法人フローレンス代表理事の駒崎弘樹さんに、さまざまな社会課題について聞きます。

 今回のテーマは、「子どもたちの『体験の貧困』について考える」です。山に行ったり海に行ったりするなど、学校生活とは違った“体験”は、子どもたちの成長にとって貴重な機会です。今、そんな体験の機会にも格差があるといいます。皆さんと一緒に考えたいと思います。

 ※今後、取り上げてほしいテーマを募集します。記事の最後に記載したメールアドレス宛てにお送りください。

■旅行に行けない子どもたち

 ――社会の中で、子どもの貧困が着目されるようになって久しいですが、その中で「体験の貧困」も指摘されています。「体験の貧困」とは、どういうものでしょうか。

 駒崎 夏休みになると、子どもたちは海に行ったり、山に行ったりなど、普段の学校生活とは違う、さまざまな体験をします。そうした体験は、子どもたちにとって大切な思い出になるとともに、心の成長の糧にもなっていきます。その意味で、夏休みの体験はとても大事なものといえます。
 しかし、残念なことに、心を豊かに育む体験の機会が、家庭の経済状況によって得られない子どもたちがいます。それが「体験の貧困」といわれるものです。

 ――具体的には、経済的な理由によって、どのような体験の機会が得られなくなっているのでしょうか。

 駒崎 認定NPO法人フローレンスでは「こども宅食」という事業を行っています。これは経済的に厳しく困窮する子育て世帯に、企業から提供いただいた食品等を定期的に配送しながら、家庭を見守るという事業です。
 それとともに、アウトリーチ(訪問)型の支援として、配送を通じて築いた信頼関係のもと、何か困りごとが生じた時には気軽に相談してもらい、そこから必要な行政サービスや地域資源につなぐ支援を行っています。

 以前、この「こども宅食」を利用されるご家庭を対象に、アンケートを行ったところ、利用世帯の52.4%に、子どもの体験や所有物の欠如があることが分かりました。 

 詳しく見てみると、経済的な理由によって「できない」と回答した割合では、「海水浴に行くことができない」と回答した方が14.7%、「博物館や美術館などに行くことができない」という方が15.3%、「キャンプやバーベキューに行くことができない」と回答した方が23.5%、「遊園地やテーマパークに行くことができない」と回答した方は28%でした。加えて「家族旅行に行けない」と回答した方は、実に半数以上に及んだのです。
 まさに、夏休みの一般的なイメージとして思い浮かぶ家族旅行などを通じた、海や山で遊ぶ体験の機会が、経済的な理由によって奪われていることが分かります。

■“体験”が非認知能力を育む

 ――体験の機会は、子どもたちの成長に、どのようなポジティブな影響をもたらすのでしょうか。

 駒崎 さまざまなことを体験することは、子どもの「非認知能力」を育むという研究結果が示されています。非認知能力とは、IQ(知能指数)で示される認知能力とは異なり、例えば、一つのことに一生懸命に取り組む力や、物事に好奇心を持つ力など、いわば認知能力を下支えする能力です。
 非認知能力は、友達と遊んだり、何かの体験を通じて感動したり、頑張ったことが報われたりすることなどによって形成され、それが認知能力に影響を与えます。

 ――土台となる非認知能力を育むためにも体験の機会が大切なんですね。
  
 駒崎 文部科学省も体験活動の教育的意義について、「思考や実践の出発点あるいは基盤として、あるいは、思考や知識を働かせ、実践して、よりよい生活を創り出していくために体験が必要である」と示しています。
 また、2000年にノーベル経済学賞を受賞したアメリカの研究者・ヘックマンは“5歳までの教育が、人の一生を左右する”と提唱し、乳幼児期に良質な保育や幼児教育を受けることによって、非認知能力が高まり、大人になった時の犯罪率などを減らすことができるとも指摘しています。

■体験を“寄付”するという文化を

 ――そういった観点からもフローレンスでは、体験の機会を支援することにも取り組まれていますね。

 駒崎 貧困というと“物の不足”だけがイメージされがちですが、困窮状態にある家庭では、物だけではなく、“体験の不足”も見られ、それが心の成長をも阻害してしまいます。こうした状況を打破していくために、フローレンスでは、「こども宅食」を通じて、企業からの「体験寄付」も受け付けています。

 ――体験寄付とは、どのようなものでしょうか。

 駒崎 例えば、ある企業からは、企業スポーツの観戦チケットをいただいています。スポーツに一生懸命な子どもたちは、憧れの選手に会えてすごく喜びますし、そこから良い刺激も受けています。
 あるいはキャンプ場やグランピング場を経営する企業からは、キャンプやグランピングを安価で体験できる機会をいただいています。他にもサーカスやテーマパークのチケットなどの提供も受け入れているんです。

 体験の機会を寄付としていただくことで、経済的な理由によって、いろいろなことができない子どもたちに、体験の機会を補うことができます。
 寄付というと、お金をイメージする人が多いと思いますが、体験の寄付という形もあることを多くの企業の方たちに知っていただき、こうした文化が広がっていってほしいと願います。同時に、やはり社会全体で子どもたちの体験を支えることにも取り組んでいくことが求められています。

■“隠れ教育費”にも目を向けてほしい

 ――社会で子どもたちの体験を支えていくためには、どんなことが必要になりますか?

 駒崎 特に義務教育課程における体験機会については、しっかりと保障していくことが望ましいと思います。美術館や博物館に行く、遠足や修学旅行に行く、部活を通してスポーツに励む。そうしたことは、いずれも良い体験の機会となります。
 ただ、こうした体験には費用が生じます。教育の無償化が進み、授業料については無償化されるようになりましたが、学校生活の中には“隠れ教育費”といえるものが存在します。
 例えば、部活で必要となるスポーツ用品や修学旅行の積み立て費用などは保護者が負担しています。そうした費用についても国や行政が負担するなどして、経済格差によって子どもたちの体験格差が生まれないような社会にデザインしていくことが必要だと考えます。

 ――創価学会では、多様な属性の大人が子どもたちと関わりながら、地域でさまざまな体験の機会をつくる未来部育成の取り組みにも力を入れています。

 駒崎 周囲の大人たちにも、いろいろとできることはあると思います。例えば、僕の地元では、学校に「おやじの会」というパパの集まりがあります。そこではパパたちが子どもたちとバーベキューをしたり、出前授業なんかも行ったりしています。出前授業では、学校の授業ではなかなかできないような理科実験をアクティビティーとして提供し、子どもたちが楽しみながら学びます。そんなふうにPTAやボーイスカウトなど、地域のさまざまな集まりを通じて、子どもたちに体験という、すてきなプレゼントをしてあげてほしいと思います。

 ●最後までお読みいただき、ありがとうございます。ご感想、取り上げてほしいテーマなど、ぜひお寄せください。
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