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〈ヒーローズ 逆境を勝ち越えた英雄たち〉第41回 ルネ・ユイグ 2024年4月21日

1987年5月、フランスで再会した池田先生とユイグ氏。氏は“池田先生の真摯で誠実な生き方が「平和」を生み出す基本”であると語り、先生の人格、平和への行動に大きな期待を寄せた
1987年5月、フランスで再会した池田先生とユイグ氏。氏は“池田先生の真摯で誠実な生き方が「平和」を生み出す基本”であると語り、先生の人格、平和への行動に大きな期待を寄せた
 
〈ユイグ氏〉
我々は、人間の心の奥底からの
願いである世界平和の構築を
創価学会に期待しています。

 「私たちの出会いは、ゲーテの言う“選ばれた友情”による出会いです」――フランスの美術史家ルネ・ユイグ氏は、池田大作先生との絆をこう語った。

 両者の初めての出会いは半世紀前。1974年4月19日、名画「モナ・リザ」の日本展のために来日したユイグ氏が、東京の旧・聖教新聞本社を訪れた。約1時間半の対談で二人は意気投合。同席したリディ夫人は、氏にとって“一目ぼれの友情”が生まれた瞬間だったと振り返る。

 以来、語らいは10度を超えた。氏と先生が論じ合ったのは、環境破壊や戦争の脅威など、人類自らが招いた「現代の危機」についてである。氏は物質的な欲望に振り回される現代人に警鐘を鳴らした。そして、物質主義を克服する道は「精神の復興」にあると訴え、そのために必要なのが真の「芸術」であり「宗教」であると結論した。

 “フランスで最も優れた美術史家”と評されるユイグ氏。その一方で「歴史学者、批評家であると同時に、人間の本質やその運命に鋭い思索をこらす思想家」ともいわれた。その氏が「退廃の局面にある」と指摘した時代に、民衆の大地に根差し、世界に台頭していたのが創価学会だった。フランスの英知はそこに希望の光を見た。

 「池田SGI(創価学会インタナショナル)会長に指導される宗教活動が、この狂気に立ち向かおうとするものであることは明らかです」

 「人間の内面革命の方向に個人及び人類を向かわせる善への歩みのみが、人類にとって平和への原動力となるのです。我々は、人間の心の奥底からの願いである世界平和の構築を創価学会に期待しています。そして創価学会の戦いこそが正義であり、かつ実りあるものであると信じています」

 「精神の復興」へ“共同戦線”を張った二人は、友情の結晶として対談集を発刊する(フランス語版=80年、日本語版=81年)。タイトルは『闇は暁を求めて』。その中で氏は述べている。

 「人間の内に、具体的な物への執着から離れて、創造的な源泉に結びついていく精神的源泉を再建することが必要です」「私は、あなたの人間革命というお考えに完全に同感です」

 「私たちにとって明らかなことは、あすの第一の仕事は、人間の本性に働きかけ、それを内面的豊かさへ導くことでなくてはならないということです」

池田先生とユイグ氏の対談集『闇は暁を求めて』は、世界の各言語で翻訳され、出版されている
池田先生とユイグ氏の対談集『闇は暁を求めて』は、世界の各言語で翻訳され、出版されている
 
〈ユイグ氏〉
闇の後には必ず暁が来る。
人間革命の夜明けへ、
一人の義勇兵として戦います!

 ユイグ氏は青年時代、心理学者や文学者を目指し、パリの高等師範学校に入学する。

 しかし、友人からのアドバイスで芸術の道に進むことを決め、美術館の館長・職員育成のための学校に入り直す。そこで優秀な成績を収め、世界最大級として名高いルーブル美術館の職員に抜てきされる。24歳の若さで副館長、30歳で絵画部長に就いた。

 1939年、第2次世界大戦が勃発。氏はナチス・ドイツのパリ侵攻から美術品を守るため、4000点の絵画を搬出し、地方の城館に避難させる。その中には「モナ・リザ」などの重宝があった。

 翌年、パリが陥落。フランスは国土の5分の3を失った。ナチスは氏に「美術品を全てよこせ」と脅しをかけてきた。だが「命をかけて、芸術を守る」と決心していた氏は、銃殺される危険もある中で、敢然と言い放った。「ここにある美術品はフランス一国の文化遺産ではない。全人類の財宝だ」「もし破壊するなら、あなた方は野蛮人というほかにない」

 氏の気迫は敵を圧倒した。その後も続くナチスの要求に対して氏は、相手が手放しそうにない作品との交換を条件に提示するなど、巧みな交渉術で時間を稼いだ。結局、終戦の日まで、ルーブルの至宝に指一本、触れさせなかったのである。

 60年には、フランスの知性の最高峰である「アカデミー・フランセーズ」の会員に選出される。また同国学術界の頂点に立つ教育機関「コレージュ・ド・フランス」の教授や、国立博物館協議会の会長などを歴任。こうした輝かしい功績をたたえ、国家功労勲章等が贈られた。

フランス・パリに立つルーブル美術館。ユイグ氏は同館の絵画部長として、戦火やナチスの手から名宝を守り抜いた
フランス・パリに立つルーブル美術館。ユイグ氏は同館の絵画部長として、戦火やナチスの手から名宝を守り抜いた

 
 池田先生との友誼を重んじ、東京富士美術館の開館にも支援を惜しまなかった。

 83年6月、先生とパリで再会した氏は、自ら奔走して集めたオープニング展示の出展作品の目録を先生に贈呈。名誉館長となった氏の尽力により、同年11月の開館記念展「近世フランス絵画展」には、ルーブル美術館やベルサイユ宮殿美術館など、同国を代表する八つの美術館から珠玉のコレクションが出品された。誕生したばかりの美術館に名品の数々が並ぶことは、異例の出来事であった。
 続く「栄光の18世紀フランス名画展」(86年)、「フランス革命とロマン主義展」(87年)の成功や、現在に至る西洋美術コレクションの充実ぶりも、氏の絶大な協力によるものである。

 88年、パリのジャックマール・アンドレ美術館で開かれた「池田大作写真展」では、作品の選定から額装の仕方、展示の配列まで氏自身が手がけた。「池田会長のポエムは口で詠まれた詩であり、写真は眼で詠まれた詩です」と氏は語っている。

 氏の誕生日は06年5月3日。同じ「5・3」が先生の第3代会長就任の日である「創価学会の日」に当たることを喜び、90歳で生涯の幕を閉じるまで“精神闘争の盟友”との友情を大切にした。

 リディ夫人は述懐する。

 「夫は、亡くなる寸前まで、池田会長への変わらざる友情を語っていました。これまで考え続けてきた哲学が、池田会長の哲学と完全に一致していることに衝撃を受けていました」

1983年11月、東京富士美術館の開館記念展となった「近世フランス絵画展」。ユイグ氏の尽力で、フランス絵画史を代表する作品が並び、多くの人々を魅了した
1983年11月、東京富士美術館の開館記念展となった「近世フランス絵画展」。ユイグ氏の尽力で、フランス絵画史を代表する作品が並び、多くの人々を魅了した
 
〈ユイグ氏との対談を通して語る池田先生〉
「いかなる自身であるのか」という
問いを手放してはならない。
長く激しい精神闘争にあって、
何ものにも侵されぬ確固たる自分、
本物の自身をつくりあげるのだ。

 池田先生との対談集の発刊後、ユイグ氏は本紙のインタビューに応じ、こう宣言した。

 「闇の後には必ず暁が来る。その“暁”を用意する必要がある。この対話を一冊の本として世に問うたのは、そのためです」

 「結局、私が最も要請しているのは『人間革命』です。私は、この人間革命の夜明けへ、一人の『ヨーロッパの義勇兵』として戦います!」

 人類の未来を志向する同志として、固い絆で結ばれた池田先生とユイグ氏。先生は、ヨーロッパを代表する美術史家との対談や長年にわたる交流を通して、新たな出発の春を迎えた若人たちにエールを送ってきた。

 1982年4月、関西創価中学・高校の入学記念懇談会では、氏の「足は大地につけて」「目は希望の未来に向かって」との言葉を紹介しつつ訴えた。

 「生活、現実というものは、あくまでも大地に足をつけていなければならない。(中略)
 つらくてもたゆまずに、大地に足をがっちりつけながら、一歩一歩、努力をお願いしたい」

 90年4月、創価大学・創価女子短期大学の入学式では、次のように呼びかけている。

 「名声とか人気、人々の評価などに基準を求める。自分がどこに所属し、何を所有しているかによって自身の価値を推し量る。そして、他人と比べては一喜一憂する――そうした虚栄の波間を漂う、はかない根なし草のような生き方があまりに多くなってしまった」

 「いたずらに人目を気にし、世間の風潮に流され、揺れ動く人生ははかない。愚かであり、不幸である。皆さんは、一生涯『いかなる自身であるのか』という問いを手放してはならない。そして今は、自分自身の精神の『根』を人知れず、じっくりと張っていただきたい。(中略)
 皆さんは、長く激しい、これからの精神闘争にあって、何ものにも翻弄されず、何ものにも侵されぬ確固たる自分、輝く“本物”としての自身をつくりあげてほしいのであります」

 ――ユイグ氏との最初の出会いから45年に当たる2019年、先生は青年たちに指針を贈った。

 「氏が誇りとする原点は、20代の若さでルーブル美術館の重責を担い、二つの重要な展覧会を任されたことであった。若くして、たじろぐほどの責務に挑むことで、どんな困難も克服してみせるという積極果敢な人格になれたと言われるのだ。
 『常に自分自身を超越し、自身以上を目指せ』とは、青年への万感のエールである」(同年10月21日付本紙「池田先生と共に 新時代を築く」)
 

 【引用・参考】『闇は暁を求めて』(講談社、『池田大作全集』第5巻所収)、ルネ・ユイグ著『見えるものとの対話』中山公男・高階秀爾訳(美術出版社)、池田大作著『新たなる世紀を拓く』(読売新聞社)、同著『忘れ得ぬ出会い』(毎日新聞社、『池田大作全集』第21巻所収)ほか

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