• ルビ
  • シェア
  • メール
  • CLOSE

〈インタビュー〉 大学在学中、ガーナにチョコレート工場を建てた起業家・田口愛さん 2023年2月4日

  • 〈学生記者が取材するSDGs×SEIKYO〉
身近な食べ物の生産者の貧困。
そう思えば自分に関係ないとは
言えないのではないでしょうか

 「学生記者が取材する『SDGs×SEIKYO』」では、本社所属のスチューデントリポーター(学生記者)が、SDGsに関わる人物にインタビューをしていきます。(この取材は学生記者のツクシが担当しました)
 

※写真はこれ以外、本人提供
※写真はこれ以外、本人提供

 〈今月14日はバレンタインデー。ガーナ産のカカオ豆を使った人気ブランド「MAAHA(マーハ) CHOCOLATE」を手がけているのが、Mpraeso(エンプレーソ)合同会社の代表・田口愛さんだ。田口さんが、大学在学中、ガーナにチョコレート工場を建設した意外な理由や目的、そして人気ブランドになった経緯とは?〉
 

今回のテーマは「貧困をなくそう」

 ――チョコレートブランドを手がけるようになったきっかけを教えてください。
  
 大学に入学したばかりの時に、周囲との意識の差を感じたんです。
  
 私は大学生活を楽しむつもりだったんですが、同級生たちは「将来こんな仕事に就く予定だ」とか、「どこのインターンを考えている」とか、卒業後の進路を語り合っていました。“自分がやりたいことは何だろう”――そう考え始めたのが、きっかけです。
  
 私は、幼い頃からチョコレート好きで、ある日、“チョコレートは、誰が作っているんだろう”と思い、日本に輸入されているカカオ豆の約8割を生産するガーナについて調べてみたことがありました。そこで、いつかガーナに行き、感謝を伝えたいと思っていたんです。
  
 意を決して2018年、一人で行ってみることにしました。
  

カカオ豆の品質を上げる取り組みをする田口さん㊧
カカオ豆の品質を上げる取り組みをする田口さん㊧

 ――いきなり単独で渡航するなんて、すごい行動力ですね!
  
 いえいえ。ジャングルだらけのアマンフロム村に行き、まず驚いたのは、村の人たちが、チョコレートを知らなかったことです。
  
 「何で来たの?」と尋ねられたので、「チョコレートが好きで来ちゃった」と答えると、「チョコレートって何?」って言われたんです。思わず、「え⁉」って言ったんですが、それに対し、村の人たちも「何⁉」って驚いてしまって(笑)。よく話を聞いてみると、ガーナでは、高価で手に入れるのが難しいチョコレートを食べる習慣がなかったんです。
  
 加えて、ガーナでは、カカオ豆を「1キロ当たりいくら」という形で政府に買い取ってもらう制度が基本で、生産者さんは品質の追求をやめてしまっていました。「お金がもらえるから、カカオの木を育てているだけ」――そうした認識のもとでは、業界の競争力はつかず、貧困から抜け出すことが難しくなってしまいます。
  
 生産者さんたちとの話を通して、ガーナにおけるカカオ豆生産の現状を変えたいと思いました。
  

 ――衝撃的な事実ですね。
  
 他にも驚くことがありました。ガーナでは、貧しさゆえに、マラリアの薬を買えなかったり、子どもたちを学校に通わせることができなかったりする人が多くいました。
  
 滞在中、私が、マラリアにかかった時、200円ほどの薬を服用しました。私にとって買うのを迷うような値段ではありませんでした。しかし、後に“薬を買えなくて亡くなった人がいる”と知り、驚きのあまり、自身の手が震えたのをよく覚えています。
  

皆で集まってカカオ豆を加工する
皆で集まってカカオ豆を加工する

 ――その後、どんな経緯でチョコレート工場を建てることになったんですか。
  
 2カ月の滞在中は、“現地の皆さんに一人でも多くチョコレートのおいしさを伝えたい”と思い、チョコレートを作るワークショップを行いました。すると、みんなが「自分たちが作ったカカオ豆は、こんな味だったんだ」「こんなにおいしいものを初めて食べた」と、笑顔になって喜んでくれたんです。
  
 これが「みんなが笑顔になれるチョコレートを作る」原点になっています。
  
 やがて現地の皆さんから「シスター・チョコレート」(チョコレートのお姉さん)と呼ばれるようになった私は、帰国する際、「ここにチョコレート工場を建てようね!」と約束しました。
  
 帰国後は、ショコラティエさんのもとを訪れ、ガーナ産のカカオ豆の特徴と、その魅力の引き出し方を教わりました。同時に、日本でもチョコレート作りのワークショップを開き、資金集めをしました。
  
 そして、活動開始後約1年で、現地に小さな工場を建てることができたんです。
  

 ――チョコレート作りはうまくいったんでしょうか。
  
 ちょうどその頃、新型コロナウイルスのパンデミックが起きました。現地はもとより、日本での活動も全て中止となり、それまで協力してくれていたメンバーも、徐々に離れてしまいました。
  
 それでも、私はオンラインでコミュニケーションを取りながら、現地の皆さんだけでチョコレート作りができるようにリーダーの育成に努めました。
  
 また、サポート体制を整えようと、20年6月に「Mpraeso合同会社」を立ち上げ、SNSとクラウドファンディングで、ガーナ産のカカオ豆の魅力を発信し、「ガーナのチョコレート工場を稼働させ、生産の現状を変えたい」と訴えました。
  
 そんな中、クラウドファンディングの投稿を見てチョコレートを購入した、あるデパートのバイヤーさんが「すごくおいしい。ぜひ来年のバレンタインに出してほしい」と声をかけてくださったんです。
  
 21年のバレンタインデーでは、有名なチョコレートブランドと同列に、「女子大生が作るチョコレート」として、多くの人に手に取ってもらうことができました。
  

ガーナの子どもたちと
ガーナの子どもたちと

 ――生産の現状に変化はありましたか。
  
 ガーナ政府と交渉を重ねた結果、現在、私たちの会社は、実証実験として、アマンフロム村で採れたカカオ豆は「質」を基準とした価格でトレードさせてもらっています。
  
 また、生産者の皆さんとは、あくまで対等な立場でトレードするようにしています。これは、貧困に陥っている生産者さんへの「情け」で値段を付けるのではなく、本当に良いカカオ豆だからこそ、その分の対価を付けるという意味です。
  

 ――他にも心がけていることはありますか。
  
 同じ目線で語り合うようにしています。
  
 2軒目の工場建設を準備していた頃、私が“良いカカオ豆を作りたい”と思うあまり、上から一方的に指示してしまうことがありました。すると、「カカオの採れない国から来たお前に何が分かるんだ」と言われてしまったんです。いつの間にか「みんなが笑顔になれるチョコレートを作る」という原点から離れてしまっていたと反省しました。
  
 また、コロナ禍でしばらく現地と連絡が取れない時期を経てからガーナに渡航した際には、皆さんから「あなたを待っている間も毎日、改良を重ねていたんだよ」と言われた時はうれしかったですね。
  
 「MAAHA CHOCOLATE」の「MAAHA」は、ガーナの言葉で「あいさつ」を意味します。ガーナの皆さんとの出会いに感謝の思いを込めました。また、ブランドロゴは、ガーナで生産されるカカオ豆を“ダイヤモンド”に見立てたものです。
  
 皆さんの努力によって作られる、この宝石のようなチョコレートを、一人でも多くの人に食べて、知ってもらいたいというのが、私の思いです。
  

カラフルな彩りが特徴的な「MAAHA CHOCOLATE」のパッケージ
カラフルな彩りが特徴的な「MAAHA CHOCOLATE」のパッケージ

 ――身近に感じにくい貧困問題の解決の鍵は何ですか。
  
 “貧困は縁遠いもの”と思う方も、普段食べているチョコレートの原料の生産者さんの問題と思えば、自分に関係ないとは言えないのではないでしょうか。
  
 まずは、さまざまなことに興味をもち、行動することだと思います。
  
 そして、もし、何とかして解決したいと思う問題に直面したら、身近な人や地域、物事の良いところを生かす方法を考えてみてください。必ずそこに解決の鍵はあります。
 

カカオ豆
カカオ豆

 〈プロフィル〉たぐち・あい 岡山市生まれ。チョコレートブランド「MAAHA CHOCOLATE」を手がける起業家。大学在学中の2018年、ガーナを初訪問。カカオ農家の抱える課題を目の当たりにし、「みんなが笑顔になれるチョコレートを作る」と決意。20年、Mpraeso合同会社を設立。クラウドファンディングで資金を調達し、現地にチョコレート工場を建設した。

 
 
 
●最後までお読みいただき、ありがとうございます。ぜひ、ご感想をお寄せください→sdgs@seikyo-np.jp

動画

創価大学駅伝部特設ページ

創価大学駅伝部特設ページ

SDGs✕SEIKYO

SDGs✕SEIKYO

連載まとめ

連載まとめ

Seikyo Gift

Seikyo Gift

聖教ブックストア

聖教ブックストア

デジタル特集

DIGITAL FEATURE ARTICLES デジタル特集

YOUTH

劇画

劇画
  • HUMAN REVOLUTION 人間革命検索
  • CLIP クリップ
  • VOICE SERVICE 音声
  • HOW TO USE 聖教電子版の使い方
PAGE TOP