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〈SDGs×SEIKYO〉 自動車の「後始末」の取り組みを世界に広げたい 2023年11月14日

  • インタビュー 会宝産業株式会社 代表取締役 近藤高行さん

 モノを大量に生産し消費する社会構造の中で、私たちの生活は豊かになる一方、地球上にはたくさんのごみが捨てられています。廃棄自動車を解体し、中古部品などを販売するリサイクル業を手がけてきた会宝産業株式会社(石川県金沢市)は、資源循環型の社会を築くための地球規模の取り組みが評価され、第2回ジャパンSDGsアワード(2018年)で「SDGs推進副本部長(外務大臣)賞」を受賞しました。SDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」をテーマに、「“後始末の責任”を担って貢献したい」と語る、同社代表取締役の近藤高行さんにインタビューしました。(取材=澤田清美、樹下智)

 ――会宝産業株式会社は、廃車となった自動車をリサイクルする事業を国内外で展開しています。会社を創業した経緯やこれまでの歩みを教えてください。
  
 私の父が1969年に近藤自動車商会を設立し、私は2代目です。当時は、3人ほどの小さな規模で、自動車の解体業を行う会社でした。80年代から、自動車のパーツ(部品)を海外に輸出するのを手がけ始めました。
 
 きっかけは、たまたま外国のお客さまがうちの会社に来られた時のことです。自動車を解体した際に出たスクラップ(鉄くず)が山積みになっているのを見て、その山の中にある部品が欲しいと言ったんです。
 海外では日本と違い、30年間も走行した車が、普通に使われています。日本では売れない中古品でもニーズがあるんです。
 
 “もう使えない”と思うものが海外では、まだまだ使えるんだと気付きました。これをきっかけにわが社は、だんだんと海外市場の開拓へと営業方針を変えていきました。
 現在は、海外にも営業所を置き、グループ全体で130人ほどの従業員がいます。

石川県金沢市にある会宝産業株式会社。自動車のリサイクル技術を世界に伝え、循環型社会の構築に貢献する
石川県金沢市にある会宝産業株式会社。自動車のリサイクル技術を世界に伝え、循環型社会の構築に貢献する

 ――解体業という枠を超えて、自動車のリサイクルそのものを事業として確立し、“静脈産業のパイオニア(先駆者)”として高く評価されていますね。“静脈産業”とはどういう意味でしょうか。
  
 「動脈産業」「静脈産業」というのは、経済活動を人体の血液循環に例えたものです。心臓の圧力に押し出されて血液が動脈を流れるように、生産物が消費者のもとにわたる流れを「動脈産業」と呼びます。
 
 一方、血液が再び心臓に戻る際に通るのが静脈ですが、生産物が廃棄された際、加工することで再び社会に流通させる産業を「静脈産業」といいます。
 静脈産業の担い手というのは、われわれのような“後始末”を行う会社を指しています。

ブラジルなど90カ国と取引

 ――「つくる責任 つかう責任」に「後始末の責任を加えたい」という、近藤さんの言葉がとても印象的です。
  
 エンジンなど、自動車の中古部品として売れるものは全て販売しています。これは、リユース(再利用)に当たります。世界約90カ国と中古部品の取引を行っています。また、鉄や銅、レアメタルなどの素材として売れるものも販売します。これはリサイクル(再生利用)です。
 
 「つくる責任 つかう責任」はキャッチコピーなので短いのですが、SDGsの目標12には、リサイクルやリユースの重要性についても述べられています。循環型社会を実現するために、“後始末”を担う存在は必須ですよね。
 
 でも自動車業界では、“後始末”って、あまり注目されていないように感じます。例えば、最先端の電気自動車の開発など、世界の環境を良くしていくカギを握るのは、大手自動車メーカーだという印象が強い。実際、世界の新車販売台数に占める日本車の割合は、実に30%に上ります。
 
 一方、自動車のリサイクルに関しては、販売先の国に任せてしまっています。リサイクルに関する技術や規制は、発展途上国の方が遅れていて、環境への負荷も大きい。車を売るだけ売って、あとは好きに処分してくださいというのは無責任です。
 
 だからこそ、この“後始末”の取り組みを世界に広げたいという使命感で、これまで国際的に事業を展開してきました。

工場内にある巨大な重機を使い、自動車の解体作業が行われる
工場内にある巨大な重機を使い、自動車の解体作業が行われる
解体作業後、バラバラになったパーツは、作業員の手によって分類。取り出したエンジンの状態をチェックするなど、点検が行われる
解体作業後、バラバラになったパーツは、作業員の手によって分類。取り出したエンジンの状態をチェックするなど、点検が行われる
工場内には、分類されたパーツが並べられる。後に海外向けに中古品として販売される
工場内には、分類されたパーツが並べられる。後に海外向けに中古品として販売される

 ――具体的に、どのような事業なのでしょうか。
  
 例えば、ブラジルなど南米の国々から技術者が来日し、直接わが社に来て、解体や部品を分別する方法を学ぶ場合もあります。
 
 またインドでは、人口増加に伴い、もっと多くの車が売れることが予想されています。現地にあるシートベルトの会社の中で、“やがて後始末が必要とされる未来が来る”と見越していた方がいました。私たちの理念と合致していましたので、その方の会社と合弁会社を設立し、昨年にはリサイクル工場を建てました。
  
 ――世界では、廃棄自動車の処理に関する問題が深刻なようですね。
  
 特にアフリカなどの発展途上国では、自動車を廃棄する際に環境破壊が生じています。例えば、タイヤやプラスチックがそのまま捨てられ、オイルやフロンガスが垂れ流しになっていることがあります。
 
 また、廃車が違法に投棄されている場合もあります。必要な部品だけ抜き取られ、山に捨てられているのです。

投棄され、山積みになっている自動車。発展途上国で問題となっている ©会宝産業
投棄され、山積みになっている自動車。発展途上国で問題となっている ©会宝産業

 そして、健康被害の問題もあります。自動車を解体する中で、プラスチックやタイヤを野焼きにし、有害なガスが発生することもあります。
 
 でも、ちょっと前の日本でも、規模は違えど同じような問題を抱えていました。変わったのは、2005年に「自動車リサイクル法」が施行されてからです。“ものが売れてお金になればそれでいい”という社会の風潮が変わってきたのは、つい最近のことです。
 
 “であるからこそ”なのかもしれませんが、自分たちがきちんとリサイクルできているからといって、他の国のリサイクルについて無関心なのは、間違いだと私は思うんです。

「結果」は絶対に返ってくる

 ――なぜ「間違い」だと思えるのでしょうか。環境問題に限ったことではありませんが、他の地域で起きている問題は、なかなか自分のことと捉えるのは難しいように感じます。
  
 地球って丸い一つの球体ですよね。気候変動が一番の例だと思いますが、たとえ自分たちから遠く離れた地域であっても、環境破壊が進めば、必ず自分たちに返ってくる。廃棄自動車の処理についても、他の地域でリサイクルがうまくいかなければ、そのしわ寄せは自分たちにもくると思うんです。
  
 「コスモポリタン」、つまり「地球人」という意識を持つことが大切なのではないでしょうか。人種や国籍の差異を超えて、同じ「地球人」として、互いを助け合っていく。差異にこだわるから奪い合ってしまうわけです。
  
 わが社は「利他」の精神を大切にしています。“自分たちさえ良ければいい”では、自分も周囲も結局は損をする。与えることによって、最終的には自分たちも得をすると考えるからです。
  
 こうした「利他」による「自利」の精神を、“後始末”の分野で広げていければ、「地球人」としての意識を持てる人が増えていって、世界を変えていくのに少しでも貢献できるのではないか――。私はそう信じています。

海外では自動車リサイクルの研修を行う ©会宝産業
海外では自動車リサイクルの研修を行う ©会宝産業

 ――企業にとっては自社の利益の最大化を図るのが一般的だと思いますが、どのようにして「利他の精神」を重視するようになったのでしょうか。
  
 もちろんビジネスなので、つい目先の利益を考えてしまいがちですが、やっぱり大切なことは、独り善がりではなくて、まず相手のことを考える気持ちだと思うんです。
  
 前社長の父が「たらいの法則」という話をよくしてくれました。たらいに水が張ってあるのを思い浮かべてください。そこに泡が浮かんでいるのですが、集めようと、自分のもとにたぐり寄せても集まらないんです。むしろ、前に押し出す方が、へりに当たって、自分の方に泡が返ってきます。この話を通じて分かるのは、相手やお客さまに喜んでいただいた結果が、自分たちに絶対に返ってくるということです。
  
 実は、私が社長に就任して2年目に、赤字を出してしまいました。当時の私は、創業以来の売り上げを超えて格好良い社長になりたかった。“とにかく売れ、売れ”と社員を追い立ててしまって……。でもそれって、不思議と、お客さまに伝わるんですよね。嫌がって商品を買いません。
  
 その時に「たらいの法則」や、「利他の精神」を思い出して、原点に立ち戻りました。気持ちを切り替えて、社員にも“お客さまに喜んでもらえることをしよう”と話して、取り組んだ結果、何と業績をV字回復できたんです。
  
 「自分が、自分が」となってしまう利己主義の精神では生き残っていけない。そう強く確信できた経験でした。お客さま、自動車業界、そして地球への感謝を「利他の心」に変えて、恩返しできる企業を目指しています。

外国から来日した技術者を対象に自動車リサイクルの研修を行っている ©会宝産業
外国から来日した技術者を対象に自動車リサイクルの研修を行っている ©会宝産業

 ――2018年には、SDGs推進副本部長(外務大臣)賞に輝かれました。御社の理念に即して言えば、SDGsを推進するカギは何でしょうか。
  
 やはり「コスモポリタン」の精神が大切なのではないでしょうか。
 
 もちろん他の遠い国に思いを馳せるのは、簡単なことではありません。個人においても、自分の生活にすら満足できていないのに、自分以外の他人、ましてや遠く離れた国の人のために行動するなんて、普通は考えにくいですよね。
 
 でも、そこで思考が停止してしまえば、本当に何もできなくなってしまう。他者のために、そして世界のために、むしろ思い切って自分の視野を広げていくところに、企業にとっても、そして個人にとっても、これからの社会を生き抜いていくカギがあるような気がします。
 
 今の若者世代って、枠にはまらない生き方が得意だと思うんです。SDGsについても、決められた目標をいつまでに達成しなければならないといった、枠にはめられた捉え方をするのではなくて、もっと自由に、決められた目標以上のものに挑戦し続けても別にいいわけです。
 
 若者のような柔軟な発想を大切に、「コスモポリタン」と「利他」の視点に立って、SDGsに取り組み続けることが求められているのではないでしょうか。

こんどう・たかゆき1974年、石川県金沢市生まれ。地元の工業高等専門学校卒業後の96年に会宝産業株式会社に入社。その後、創業者の父の後を継ぎ、2015年に代表取締役に就任した。世界にリサイクル技術を広めるために、これまで政府機関や、国際協力機構(JICA)などと協力して事業を展開。SDGsの観点からも高い評価を受けている。

  
●ぜひ、ご感想をお寄せください。
sdgs@seikyo-np.jp
  
●聖教電子版の「SDGs」特集ページが、以下のリンクから閲覧できます。
https://www.seikyoonline.com/summarize/sdgs_seikyo.html
  
●海外識者のインタビューの英語版が「創価学会グローバルサイト」に掲載されています。
https://www.sokaglobal.org/resources/expert-perspectives.html

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