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“死にたい”と思った私が、“生きること”を伝える理由 2020年10月17日

  • 電子版連載〈with あなたと〉 #SOGI #セクシュアル・マイノリティー
08:41

  
 電子版オリジナルの新連載「with あなたと」をスタートします。
 現代社会を生きる上で直面する、多様な関心ごとや悩みにフォーカスし、当事者や周囲の人たちの思いを一緒に分かち合っていきたいと思います。

 最初のテーマは、「セクシュアル・マイノリティー(性的少数者)」。今、LGBTに変わって注目される「SOGI」という新しい性の捉え方についても、クローズアップします。

 初回は、“生きること”に真摯に向き合ってきた「まぁ~ちゃん」こと、城間勝さん(29)=男子部部長=の歩みを見つめます。(記事=掛川俊明、宮本勇介)
 

「まぁ~ちゃん」こと城間勝さん(写真は全て2018年撮影)
「まぁ~ちゃん」こと城間勝さん(写真は全て2018年撮影)
■初恋――5歳の“おばー”が現れて、職員室からお茶が消える

  
 9月末の沖縄は、まだ半袖でないと汗ばむ暑さだった。
 タンスの奥から引っ張り出した“かりゆしウエア”(沖縄では、これが夏の正装)を着て、那覇空港に降り立った記者は、沖縄市に向かった。
  
 2年ぶりに会う、まぁ~ちゃんの本名は城間勝。でも、みんなは親しみを込めて「まぁ~ちゃん」と呼ぶ。
  
 最近は「LGBT」という言葉も広まり、セクシュアル・マイノリティー(性的少数者)について知られるようになってきた。
 まぁ~ちゃんは、男性として生まれた。自分では「私は男性でも女性でもない性」と認識している。好きになる相手は男の人が多いけれど、女の人にも人間としてひかれる。そんな自分のセクシュアリティー(性)を公表し、“多様な性”への理解を広げる活動をしてきた。
  

  
 まぁ~ちゃんの“初恋”の話は面白い。
 お母さんは働いていて、おじー(おじいちゃん)や、おばー(おばあちゃん)と過ごすことが多かった。だから、幼い頃のまぁ~ちゃんは、おじーとおばーが話す、うちなーぐち(沖縄方言)でしかしゃべれない、ちょっと変わった子だった。
  
 5歳の時、幼稚園に実習生が来た。イケメンの彼の休憩時間を狙って、まぁ~ちゃんは職員室に駆け込んだ。
 「先生、おいくつ?」「21歳だよ」
 「あー、若いですね」「勝くんの方がもっと若いよ(笑い)」
 「ご両親はおいくつ?」「40歳くらいだよ」
 「はあー、ばんじ(沖縄方言で「最盛期」の意味)ですね」
 当時から座談会に参加しまくっていた、まぁ~ちゃんの世間話のスキルは、完全に“おばー”のそれだった。
  

  
 突然、現れた5歳児のおばー。実習生は笑っていた(と思う)。
 まぁ~ちゃんは実習生を気遣って、職員室にあった湯飲みのお茶を差し出した。
 「えっ、これ誰のお茶かな?」と焦る実習生。
 「いいから。気にしないで、ゆっくりしてね」
 周りでは、先生たちが「お茶が消えた!」と騒いでいた。
 
 「今、思うと、これが初恋だったんじゃないかな」と、まぁ~ちゃんは笑った。
  
  

■14歳で決めた“命の期限”――私を殺してください

  
 小学校でも、うちなーぐち全開で話すまぁ~ちゃんは、周りから浮いていた。
 「“俺”とか“僕”はしっくりこなくて。自分のことを“私”と言っていた」
 同級生は、そんなしぐさや話し方が気に入らないらしい。まぁ~ちゃんは、いじめの標的にされた。
  
 ある時、2階の教室のベランダで空を見上げていたら、次の瞬間、視界いっぱいに地上の花壇が映った。
 「足をつかまれて、逆さまに落とされそうになって」
 泣き出したまぁ~ちゃんを見て、クラスメートは「男のくせに、なんで泣くんだ」とゲラゲラ笑っていた。
 男か、女か――押し込められる“その枠”が、いつも自分を苦しめた。
  
 中学に行っても、いじめは続いた。 
 「1メートル以内に近づくな」「ばい菌がうつる」。廊下を歩くたびにホウキで掃かれた。
  

  
 ある日、教師に呼ばれた。「あなた、なんでこんなことされるか、分かる?」
 戸惑うまぁ~ちゃんに、教師は続けた。
 「あなたはね、病気なんだよ」
 その瞬間、心の中で何かが壊れた。
 「分かりました」とだけ言って、席を立った。
 「まだ話は終わってないよ」。後ろから、そう聞こえたけれど、振り返らなかった。
 
 中学の授業で、“10年後の自分に手紙を書こう”という課題があった。
 周りのみんなの手紙は「プロ野球選手になってますか?」「結婚して子どもがいるよね」。
 けれど、まぁ~ちゃんは……。
 手紙には「お空の上から、皆さんの活躍を見ていることでしょう」と書いた。
 「あの頃は、“20歳までは頑張って生きる”。でも、それより先なんて、私にはないって思ってた」
  

  
 親にも言えない、誰も知らない苦しみ。当時、14歳のまぁ~ちゃんは御本尊に訴えた。
 「何でも願いがかなうなら、どうか私を殺してください」
  
  

■高校デビューを飾ったら、“伝説の人”に祭り上げられた

  
 同じ中学からは誰も行かない、地元から離れた高校に進学した。
 それからは、いじめられることはなくなった。
  
 まぁ~ちゃん自身にも変化があった。というか、変化しすぎた。
 「“命の期限”を決めたから、それまでは、もう自分のやりたいようにやろうって。誰が覚えてくれなくてもいいから、自分が生きた証しを残したいって思いもあった」
  
 制服に真っ青なストールを巻いて、「グッドモーニング!」と陽気に登校。
 「“青いアザ”かって感じで、目の上を青いシャドーでお化粧して。ショウガでもつけてるのってくらい、真っ赤な口紅をして」
 まぁ~ちゃんの鮮烈な高校デビュー。学校中に衝撃が走った(と思う)。
  

  
 ある日、涙を流しながら近寄ってきた先輩がいた。
 「この高校には、いつか救世主が現れるって伝説があって。それが、あなたなんですね。“伝説の人”に会えて感動です!」
  
 高校デビューを飾ったら、“伝説の人”として祭り上げられた話。これも、まぁ~ちゃん“事件”ファイルの一つ。
  
  

■遺書のつもりで書いた作文を、全校生徒の前で“カミングアウト”

  
 2007年(平成19年)の冬。
 高校2年生のまぁ~ちゃんは、全校生徒を前に、演壇に立っていた。まぁ~ちゃんの作文が教師の目にとまり、全校集会で発表することになったのだ。
  
 「私の恋愛対象は男性です。でも、自分自身の性別については、男性とも女性とも言い切れません。“男らしさ”や“女らしさ”という概念に、自分の感覚は当てはまらないんです」
  
 数百人の前での“カミングアウト”。まぁ~ちゃんにとって、この作文は「遺書を書くような思いだったんです」。
 インパクトは大きかった。強く生きようとする姿は共感を集め、後輩や先輩からも悩みを相談されるようになった。
  

  
 「自分の悩みに振り回されてちゃだめよ。人の前に火をともせばねー、自分の前も明るくなるのよ」
  
 幼い頃から創価学会の会合で耳にしてきた“言葉”で励ますと、どんどん評判になり、相談を求める行列が、教室の外まで続いた。
 
 

■LGBTは「ベーコン・レタス・トマト」ではない

  
 全校集会での発表が話題になって、PTAの集まりでも話すことになった。
 「LGBTって知っていますか?」と聞くと、一人の保護者が笑顔で話しだした。
 「私も大好きです。おいしいですよね」
  
 よくよく聞いたら、LGBTを「ベーコン・レタス・トマト(BLT)」のハンバーガーと勘違いしていた。
 「ハンバーガーの話じゃないんですよって(笑い)。そういうところから始まったんです」
  
 それでも、お母さん〈貞子さん(66)=支部副婦人部長〉にだけは、自分の性を打ち明けられずにいた。けれど、周りの保護者から話が伝わってしまう。
 「“息子が、おかまになってかわいそう”って言われる気持ちが、あんたに分かる? 沖縄じゃ、まだ10年早いんだよ」
 母は泣いていた。
  

  
 大学生になってからは、沖縄の各地でセクシュアル・マイノリティーについての講演もした。
 でも、母が泣いた“あの日”以来、家では一切、そのことは話さなくなった。
 
 

■「私が牙城会に入ったら、後悔しませんか?」

  
 20歳を迎えた。この先は――。
 就職、結婚、子育て……。周りの学生が思い描くような“幸せな未来”は、自分にはないように思えた。
 大学に行けなくなり、自主退学した。
  
 体調も崩して起き上がれない日もあった。
 それでも唯一、行ける場所が創価学会の座談会だった。
 おばーからもらった池田先生の書籍『希望対話』。そこには書かれていた。
  
 〈君が自分で自分を、だめだと思っても、私はそうは思わない。あなたが自分で自分を見捨ててしまっても、私は見捨てない〉
  
 ある時、男子部の先輩から言われた。
 「牙城会に入ってほしいんだ」
 最初は“絶対、無理”と思った。勇ましい男たちの勢いには、ついていけない。
 だからニコニコしながら「お断りします」と言った。
 だが、先輩は引かなかった。「男性とか女性とかじゃなく、一人の青年として、学会員として一緒にやりたいんだ」
  

  
 「本当に私でいいんですか?」「いいよ」
 こんなやり取りを3回、繰り返した。
 「私が牙城会に入ったら、後悔すると思いますよ」
 先輩は目をそらさずに言った。「絶対にしない。大歓迎だよ」
  
 その夜、お母さんに報告した。
 「私、牙城会になります」
 じっと聞いていた母から、初めて聞く話が飛び出す。
 「あなたがこうやって学会で頑張るのが、ずっと私の夢だった。うれしいよ」
 母は笑いながら、ちょっと泣いていた。
 
 

■10年がたったら、母と買い物に行ける世界になっていた

  
 実際に牙城会に入ってみると、印象がガラッと変わった。
 みんなそれぞれ悩みがあって、信心で立ち向かっていた。
  
 自然と自分の全てを話せた。先輩は「よく分からないんだけどさ」とポリポリ頭をかきながら、それでも“一人の人”として、まぁ~ちゃんの話をじっくり聞き、一緒に考え、一緒に祈ってくれた。
  
 「男か女かじゃなくて、真っすぐに人間として受け止めてくれた。全部は分からなくても、真剣に分かろうと寄り添ってくれたんです」
 まぁ~ちゃんは、学会活動が大好きになった。
  

  
 その後も、県内各地の学校で講演したり、ラジオ局でレギュラー番組も持ったりして、“多様な性”があることを伝えた。
 そんな活動が注目され、全国放映のテレビ取材が決まった。東京での取材を告げると、お母さんは言った。
 「ちょうど、10年たったね」
  
 お母さんから「買い物に行こう」と誘われ、初めて一緒に婦人服コーナーへ。
 「こういうのが似合うと思うよ」と、取材で着る服を母がコーディネートしてくれた。
  
 自分でもすっかり忘れていた。
 母に自分の性のことを話さなくなった、あの日から10年。まぁ~ちゃんの話はテレビ放映され、感動と共感が大きく広がった。
 「あなたがやるって決めたことは、いくらでも応援するから」
 母が笑った。まぁ~ちゃんは泣いていた。
  
  

■本当の「自分らしさ」は「他者を重んじる」ことから

  
 まぁ~ちゃんは、講演やラジオを通して、セクシュアリティーに限らず、いじめや家庭の問題、人間関係の悩みなど、さまざまな“生きづらさ”を抱える人たちの心に寄り添っている。
  
 そこでは「自分らしく輝ける場所が、誰にもきっとある。だから、生きてほしい」と話し掛ける。
  

  
 “自分らしさ”とは何なのか、ま~ちゃんに聞いてみた。
 「それは、押し付けたり、無理やり出すものではないと思う。何もせずに、変わらなくていいってことでもない。周りの人とお互いを思いやる中で、お互いを知って、お互いに変わって。そうやって磨かれて引き出されていくもの。本当の“自分らしさ”は、“他者を重んじる”ことから始まるんじゃないかしら」
  
 かつて“殺してください”とまで、御本尊に願った。
 「御本尊様は、そんな私の諦めの心、卑屈になってしまう心を殺してくださったんです」
  
 今でも、まぁ~ちゃんは、おばーからもらった池田先生の『希望対話』を大切に持っている。そこには、何度も読み返した一節がある。
  
 〈だれよりも苦しんだ君は、だれよりも人の心がわかる君なんです。だれよりもつらい思いをしたあなたは、だれよりも人の優しさに敏感なあなたのはずです。
 そういう人こそが、二十一世紀に必要なんです!〉
  

  
 「また会いましょうね。お元気で」
 取材が終わり、空港に向かう記者の車から見えなくなるまで、まぁ~ちゃんは手を振っていた。
  
 きっと今日も、まぁ~ちゃんは“生きる”ことを語り、伝えている――。
  
  

■メモ――これからを語る言葉「SOGI」

  
 今、まぁ~ちゃんは「SOGI(ソジ)」という考え方に注目していると話してくれた。
 SOGIは、以下の二つの言葉の頭文字からなるという。
  
・Sexual Orientation(性的指向)
 セクシュアル・オリエンテーション=どんな性を好きになるか
・Gender Identity(性自認)
 ジェンダー・アイデンティティー=自身の性をどのように認識しているか
  
 広く知られる「LGBT」は、女性同性愛のレズビアン(L)、男性同性愛のゲイ(G)、両性愛のバイセクシュアル(B)、生まれた時に割り当てられた性別に違和感があったり、距離を置きたいと感じたりするトランスジェンダー(T)の四つを指す言葉。
 ただ、これだけだとその四つ以外の多様な性が取りこぼされ、多くの異性愛者も含まれない。
  
 「SOGI」は、どんな性を好きになるか、自分の性をどう認識しているか、を表す言葉なので、全ての人を対象にできるという。
 まぁ~ちゃんは言う。「枠をつくると、そこから取りこぼされる人が出てきてしまう。だから、全ての人が自分と関係するものとして捉えられる『SOGI』という言葉は、すてきだなと思います」
  
 ※連載〈with あなたと〉の2回目は、この「SOGI」について、識者にインタビューしていきます。
  

  
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