子どもの発達障がい――全員を特別扱いします。子どもたちに同じ景色を見せたいので
子どもの発達障がい――全員を特別扱いします。子どもたちに同じ景色を見せたいので
2023年2月11日
- 【電子版連載】〈WITH あなたと〉 インタビュー 香川大学教授 付属坂出小学校校長 坂井聡さん
- 【電子版連載】〈WITH あなたと〉 インタビュー 香川大学教授 付属坂出小学校校長 坂井聡さん
4月に迫る小学校の入学式。“学校でうまくやっていけるかな?”。子ども以上にそわそわしている親御さんも少なくないと思います。今回は「子どもの発達障がい」をテーマに、香川大学教育学部教授で、同大学付属坂出小学校校長と付属幼稚園園長を務める坂井聡さんに話を聞きました。
4月に迫る小学校の入学式。“学校でうまくやっていけるかな?”。子ども以上にそわそわしている親御さんも少なくないと思います。今回は「子どもの発達障がい」をテーマに、香川大学教育学部教授で、同大学付属坂出小学校校長と付属幼稚園園長を務める坂井聡さんに話を聞きました。
■「ボタンのとめ方」でなく「服の選び方」を
■「ボタンのとめ方」でなく「服の選び方」を
――わが家には、4月から小学1年生になる子がいます。かなりの偏食なので、小学校の給食でなく、弁当を持たせようと思っています。かんしゃくを起こしたり、こだわりも強かったり。家だとおむつになる時もあり、親としては周囲と比べて焦る時があります。
ご家庭ごとに悩みや苦労は違いますよね。
発達障がいは、生まれつきみられる脳の働き方の違いによって、幼児のうちから行動面や情緒面に特徴がある状態です。そのため、親御さんが育児の悩みを抱えたり、子どもが生きづらさを感じたりすることがあります。
ただ、そんなに焦らなくても大丈夫ですよ。発達障がいは治す必要はありません、その人の気質ですから。うちの小学校は先生方に「気質っていう言葉を使ってください」と言ってるんです。持って生まれた、その人の性質なので、「その子の気質に応じて、どういうふうに教えていこうか」と先生たちは工夫しています。
――わが家には、4月から小学1年生になる子がいます。かなりの偏食なので、小学校の給食でなく、弁当を持たせようと思っています。かんしゃくを起こしたり、こだわりも強かったり。家だとおむつになる時もあり、親としては周囲と比べて焦る時があります。
ご家庭ごとに悩みや苦労は違いますよね。
発達障がいは、生まれつきみられる脳の働き方の違いによって、幼児のうちから行動面や情緒面に特徴がある状態です。そのため、親御さんが育児の悩みを抱えたり、子どもが生きづらさを感じたりすることがあります。
ただ、そんなに焦らなくても大丈夫ですよ。発達障がいは治す必要はありません、その人の気質ですから。うちの小学校は先生方に「気質っていう言葉を使ってください」と言ってるんです。持って生まれた、その人の性質なので、「その子の気質に応じて、どういうふうに教えていこうか」と先生たちは工夫しています。
外ではお手洗いにちゃんと行けるのだったら、家ではできない場合があったとしても、そのうち家でも面倒くさくなってオムツでなくトイレに行って用を足すようになりますから。
――そういうものですかね。
そういうものです。本人が「自分でこうできるようになりたい」と思う時が絶対にくると思うので、こっちから強制的に「もう紙パンツなんて恥ずかしいよ」とか言わなくていいんです。その代わり、「紙パンツは持ったままでいいから、一緒にトイレに行ってみない」と聞くのはありです。
――子どもの主体性に目を向けよう、ということでしょうか。
例えば、子どもたちが自分で服を着る練習をする時のことを考えてみてください。
もし、「ボタンがとめられない」となったら、「ボタンをつまむ練習をしましょう」と教え、「服の前後が分からない」なら「タグを見て確認できるようにしよう」とやると思います。このような訓練を否定しませんが、私の考えはちょっと違います。
外ではお手洗いにちゃんと行けるのだったら、家ではできない場合があったとしても、そのうち家でも面倒くさくなってオムツでなくトイレに行って用を足すようになりますから。
――そういうものですかね。
そういうものです。本人が「自分でこうできるようになりたい」と思う時が絶対にくると思うので、こっちから強制的に「もう紙パンツなんて恥ずかしいよ」とか言わなくていいんです。その代わり、「紙パンツは持ったままでいいから、一緒にトイレに行ってみない」と聞くのはありです。
――子どもの主体性に目を向けよう、ということでしょうか。
例えば、子どもたちが自分で服を着る練習をする時のことを考えてみてください。
もし、「ボタンがとめられない」となったら、「ボタンをつまむ練習をしましょう」と教え、「服の前後が分からない」なら「タグを見て確認できるようにしよう」とやると思います。このような訓練を否定しませんが、私の考えはちょっと違います。
そういったことよりも、「この服が着たい」と選べるようにすることの方が大事だと思うんです。だって、着たい服があったら、必死になって着ようとしますよ。
何か興味関心があることを先に考えていく。いわゆる、QOL(生活の質)を高めることを先に考えた方がいい。ADL(日常生活動作)は後からついてきますから。
僕は、子どもがね、将来、今のことを振り返った時に「僕、あの時つらかったんや」って言ってもらいたくないんですよ。「僕、生まれてきてよかったわあ」って言ってもらいたい。
だから、「“今”生きてることが楽しいと思えているかどうか」に集中したいんです。先が読めない「未来」にばかり目を向けていると不安になりますが、「今」に目を向けると、いろんな知恵が湧いてきます。
例えば、うちの小学校ではデジタル教科書で授業を始めているんですが、「読みにくい。勉強したくない」という子もいます。「これからのデジタル時代についていけないのでは」なんて考えなくていい。紙の方がいいなら紙で読めばいいし、「イヤホンで聞いて本の内容にアクセスしたい」と言えば、「どうぞ」とすすめればいい。
そういったことよりも、「この服が着たい」と選べるようにすることの方が大事だと思うんです。だって、着たい服があったら、必死になって着ようとしますよ。
何か興味関心があることを先に考えていく。いわゆる、QOL(生活の質)を高めることを先に考えた方がいい。ADL(日常生活動作)は後からついてきますから。
僕は、子どもがね、将来、今のことを振り返った時に「僕、あの時つらかったんや」って言ってもらいたくないんですよ。「僕、生まれてきてよかったわあ」って言ってもらいたい。
だから、「“今”生きてることが楽しいと思えているかどうか」に集中したいんです。先が読めない「未来」にばかり目を向けていると不安になりますが、「今」に目を向けると、いろんな知恵が湧いてきます。
例えば、うちの小学校ではデジタル教科書で授業を始めているんですが、「読みにくい。勉強したくない」という子もいます。「これからのデジタル時代についていけないのでは」なんて考えなくていい。紙の方がいいなら紙で読めばいいし、「イヤホンで聞いて本の内容にアクセスしたい」と言えば、「どうぞ」とすすめればいい。
■“暗く陰気でおとなしく”でもオッケー
■“暗く陰気でおとなしく”でもオッケー
――今、目の前にいる子どもにフィットするものを認められるようになると、学校はもっと学びやすいところになりますね。
こんなこともありました。ある時、「私は明るくできん」という児童から相談がありました。
よく学校の校訓で「明るく強く元気よく」とあるんですが、そんなことを言われても、できない時がある、と。そりゃあ、「元気にやれよ」と言われたって、元気が出ない時もありますよね。
でも、その子は、真面目やから、先生や上級生から、「おはよう」って言われると、一生懸命、元気を装ってあいさつを返していました。気持ちが追いつかなくなったんでしょう、ある日の帰り道、日が沈む西の空を眺めていると、「自分も消えてなくなりたくなった」と言うんです。僕は「無理して元気であろうとしなくていい、あいさつせんでもおじぎでも何でもオッケーやで」って伝えました。
――今、目の前にいる子どもにフィットするものを認められるようになると、学校はもっと学びやすいところになりますね。
こんなこともありました。ある時、「私は明るくできん」という児童から相談がありました。
よく学校の校訓で「明るく強く元気よく」とあるんですが、そんなことを言われても、できない時がある、と。そりゃあ、「元気にやれよ」と言われたって、元気が出ない時もありますよね。
でも、その子は、真面目やから、先生や上級生から、「おはよう」って言われると、一生懸命、元気を装ってあいさつを返していました。気持ちが追いつかなくなったんでしょう、ある日の帰り道、日が沈む西の空を眺めていると、「自分も消えてなくなりたくなった」と言うんです。僕は「無理して元気であろうとしなくていい、あいさつせんでもおじぎでも何でもオッケーやで」って伝えました。
学校には、障がいのある子もいれば、病気の子、ヤングケアラーの子もいるし、性的マイノリティーの子もいる。外国に籍がある子もいます。子どもにもそれぞれ事情があって、疲れている時もあるわけです。
土日の休みの後、月火水ぐらいは元気にいられるけど、木金は疲れてできない。だったら、週の後半は「明るく強く元気よく」でなくて、「暗く陰気でおとなしく」でも大丈夫よと話しました。
――そうした配慮によって、安心する子もいる。こちらの想像力が試される気がします。
うちの学校は、子どもたちに同じ景色が見えるように「台」を用意しています(別掲)。入学の際、保護者にも、先生方にも、そして子どもたちにも、「困っている子がいたら特別扱いする学校です」と伝えているんです。
学校には、障がいのある子もいれば、病気の子、ヤングケアラーの子もいるし、性的マイノリティーの子もいる。外国に籍がある子もいます。子どもにもそれぞれ事情があって、疲れている時もあるわけです。
土日の休みの後、月火水ぐらいは元気にいられるけど、木金は疲れてできない。だったら、週の後半は「明るく強く元気よく」でなくて、「暗く陰気でおとなしく」でも大丈夫よと話しました。
――そうした配慮によって、安心する子もいる。こちらの想像力が試される気がします。
うちの学校は、子どもたちに同じ景色が見えるように「台」を用意しています(別掲)。入学の際、保護者にも、先生方にも、そして子どもたちにも、「困っている子がいたら特別扱いする学校です」と伝えているんです。
EQUITY(エクイティ)=公正。壁の向こうでサッカーの試合が行われている。小さな子どもにも見えるようにするには、「台」が必要になる。坂井さんは、それぞれの子に適した「台」を用意できる学校を目指す。「それが合理的配慮です」
EQUITY(エクイティ)=公正。壁の向こうでサッカーの試合が行われている。小さな子どもにも見えるようにするには、「台」が必要になる。坂井さんは、それぞれの子に適した「台」を用意できる学校を目指す。「それが合理的配慮です」
■社会は歩み寄る必要がない?
■社会は歩み寄る必要がない?
――そうした学校生活では、すくすく育っていけるかもしれませんが、「社会はそんなに甘くないぞ」という意見もあると思います。
それは、甘やかすんじゃなくて、その子どもたちが、大きく育っていったらね、「それって社会がおかしいよな」と言うようになりますよ。社会に子どもを合わすんじゃなくて、苦しんでいる同級生の○○ちゃんに思いをはせる人たちが増えたらいい。
私が養護学校(現・特別支援学校)の教員を始めた頃から40年がたって、「あなたはあなたでいい『はず』」と言われる社会にはなったと思います。そして、これからは「あなたはあなたでいい『よね!』」という未来に向かっていく。そのための教育であり、学校でありたいです。
「社会が歩み寄る」というフレーズを聞くようになりましたが、これね、社会は歩み寄る必要はないんですよ。だって、もう社会の中に、既にみんないるんですから。社会の中にいる人に対して、社会が歩み寄るって変じゃないですか。だから、「社会は甘くない」という言い方自体もおかしな表現なんです。
――そうした学校生活では、すくすく育っていけるかもしれませんが、「社会はそんなに甘くないぞ」という意見もあると思います。
それは、甘やかすんじゃなくて、その子どもたちが、大きく育っていったらね、「それって社会がおかしいよな」と言うようになりますよ。社会に子どもを合わすんじゃなくて、苦しんでいる同級生の○○ちゃんに思いをはせる人たちが増えたらいい。
私が養護学校(現・特別支援学校)の教員を始めた頃から40年がたって、「あなたはあなたでいい『はず』」と言われる社会にはなったと思います。そして、これからは「あなたはあなたでいい『よね!』」という未来に向かっていく。そのための教育であり、学校でありたいです。
「社会が歩み寄る」というフレーズを聞くようになりましたが、これね、社会は歩み寄る必要はないんですよ。だって、もう社会の中に、既にみんないるんですから。社会の中にいる人に対して、社会が歩み寄るって変じゃないですか。だから、「社会は甘くない」という言い方自体もおかしな表現なんです。
「社会もまんざら悪くないよ」という人もいるかもしれません。悪くないよっていうのは、受け入れられている場面ではそうなんですよ。
でも、排除されている家庭とか、悩んでて、一生懸命、訓練したりする家庭があるという事実を社会は知っているんですかと伝えたい。同じように生まれてきて、なんでその子たちだけが、社会に適用するための訓練をしなければならないのか。ちゃんと配慮する社会に変わっていくことを望みますね。
「社会もまんざら悪くないよ」という人もいるかもしれません。悪くないよっていうのは、受け入れられている場面ではそうなんですよ。
でも、排除されている家庭とか、悩んでて、一生懸命、訓練したりする家庭があるという事実を社会は知っているんですかと伝えたい。同じように生まれてきて、なんでその子たちだけが、社会に適用するための訓練をしなければならないのか。ちゃんと配慮する社会に変わっていくことを望みますね。
■障がいは経験するもの
■障がいは経験するもの
――坂井さんにとって「障がい」とはなんでしょうか?
ICF(国際生活機能分類)にもある通り、障がいは経験するものなんですよ。
例えば突然、言葉の通じない国で飛行機から降ろされたら、もう言語障がいです。コンタクトレンズを落としたことで、車が運転できないという状態は視覚障がいを、アキレス腱を切ったことで、身体障がいを経験するんです。
だから、今、障がいがある子っていうのは、環境が整っていないからだと考えることができる。すると、環境を整えることが、障がいをなくすことだと気づけます。
書字(文字を書くこと)に障がいがある子が、本当は自分の思いを書きたいんだけど、字で書けない。じゃあ、パソコンを使って書いたらどうなるかといったら、書ける子がいるんです。
親や周囲の大人は、「子どもが参加したり、活動したりできるようになるためには、どんな環境があったらいいんだろう」という視点で考えていくといいわけです。学校の先生にも良き理解者になってもらいましょう。あとは、どんと構えて、「大丈夫、行っておいで!」って送り出したらいいと思います。
ご感想をお寄せください。youth@seikyo-np.jp
――坂井さんにとって「障がい」とはなんでしょうか?
ICF(国際生活機能分類)にもある通り、障がいは経験するものなんですよ。
例えば突然、言葉の通じない国で飛行機から降ろされたら、もう言語障がいです。コンタクトレンズを落としたことで、車が運転できないという状態は視覚障がいを、アキレス腱を切ったことで、身体障がいを経験するんです。
だから、今、障がいがある子っていうのは、環境が整っていないからだと考えることができる。すると、環境を整えることが、障がいをなくすことだと気づけます。
書字(文字を書くこと)に障がいがある子が、本当は自分の思いを書きたいんだけど、字で書けない。じゃあ、パソコンを使って書いたらどうなるかといったら、書ける子がいるんです。
親や周囲の大人は、「子どもが参加したり、活動したりできるようになるためには、どんな環境があったらいいんだろう」という視点で考えていくといいわけです。学校の先生にも良き理解者になってもらいましょう。あとは、どんと構えて、「大丈夫、行っておいで!」って送り出したらいいと思います。
ご感想をお寄せください。youth@seikyo-np.jp
■坂井教授に聞いてみました。記者たちの子育ての悩み!
■坂井教授に聞いてみました。記者たちの子育ての悩み!
ここからは、ご興味のある方は、お付き合いください。記者たちにも、子育ての悩みは尽きません。取材の中で坂井教授が話してくれたワンポイントアドバイスを、Q&A形式でご紹介します。
――6歳の娘の「かんしゃく」についてです。組み立て式の人形で遊んでいて、いつもは立つはずの人形が立たないことがありました。そうしたら、「なんで立たないんだ!」と言って娘が暴れだしたんです。その後も似たようなことがいっぱいあるのですが、そんな時は「あ! そういえば今、面白いテレビやってるよ」と言って、注意をそらそうとしています。どう思われますか。
なるほど、僕だったら例えば、紙粘土で台座を作っておいて、その台の上に人形を立たせたら、必ず立てるような環境をつくっておきますね。
記者さんの試みも、子どもに通用する部分はあるんです。例えば、子どもの目の前に、バッと画用紙なんかをかざして注意をそらす。その間におもちゃ自体を隠してしまうというようなことは、従来、特別支援教育の分野でも一つの方法として知られています。
ただ、今のご質問の場合、子どもにおもちゃが見えている状態で「テレビもやってるよ」と言うのは、本人が納得するまでに少し時間がかかる可能性があります。むしろ、人形が転ばないようにすることを考えて、「ほら、この前一緒に作った、こけない台があるやん。この台に乗せたらこけんよー」とか言うと、かんしゃくの原因を取り除けるわけです。
そして、娘さんがもうちょっと大きくなってきて、「お父さん、私いつもイライラすんねんけど、そういう時どうしたらええの?」と聞いてきたら、「気分転換っていうてな」と言って、「あなたの場合は、おもちゃを見えんようにして、テレビつけたり、好きな音楽かけたりしたら、うれしい気持ちになるかもよ」と伝えてあげてみてほしい。
自分の感情が分かるようになって、言語にできるようになったら、伝えればいいのではないでしょうか。
ここからは、ご興味のある方は、お付き合いください。記者たちにも、子育ての悩みは尽きません。取材の中で坂井教授が話してくれたワンポイントアドバイスを、Q&A形式でご紹介します。
――6歳の娘の「かんしゃく」についてです。組み立て式の人形で遊んでいて、いつもは立つはずの人形が立たないことがありました。そうしたら、「なんで立たないんだ!」と言って娘が暴れだしたんです。その後も似たようなことがいっぱいあるのですが、そんな時は「あ! そういえば今、面白いテレビやってるよ」と言って、注意をそらそうとしています。どう思われますか。
なるほど、僕だったら例えば、紙粘土で台座を作っておいて、その台の上に人形を立たせたら、必ず立てるような環境をつくっておきますね。
記者さんの試みも、子どもに通用する部分はあるんです。例えば、子どもの目の前に、バッと画用紙なんかをかざして注意をそらす。その間におもちゃ自体を隠してしまうというようなことは、従来、特別支援教育の分野でも一つの方法として知られています。
ただ、今のご質問の場合、子どもにおもちゃが見えている状態で「テレビもやってるよ」と言うのは、本人が納得するまでに少し時間がかかる可能性があります。むしろ、人形が転ばないようにすることを考えて、「ほら、この前一緒に作った、こけない台があるやん。この台に乗せたらこけんよー」とか言うと、かんしゃくの原因を取り除けるわけです。
そして、娘さんがもうちょっと大きくなってきて、「お父さん、私いつもイライラすんねんけど、そういう時どうしたらええの?」と聞いてきたら、「気分転換っていうてな」と言って、「あなたの場合は、おもちゃを見えんようにして、テレビつけたり、好きな音楽かけたりしたら、うれしい気持ちになるかもよ」と伝えてあげてみてほしい。
自分の感情が分かるようになって、言語にできるようになったら、伝えればいいのではないでしょうか。
――6歳の息子がいます。私が出張に出て、夜に家にいないと、情緒が不安定で暴れ出します。「明日の〇時には帰ってくるからね」「どこどこに行ってくるよ」と細かく説明してから出発するのですが、少しでも本人が安定する方法は、あるでしょうか。
お父さんが出張に行くと、かんしゃくを起こすというのは、“居るべき人が居ない”という思いが引き金になっているかもしれないし、“どこに行ったのか分からなくなっちゃった”ということもあり得るんですよね。
僕がお父さん、お母さん方にお伝えするのは、ホワイトボードなどに「家の絵」と「会社の絵」と「保育園(や幼稚園)の絵」を書いておいて、「〇〇ちゃんは今日、保育園に行きます。お父さんは会社に行きます。お母さんは家にいます」と言って、居場所の確認ボードを見せるということですね。
また、お父さんが出張する場合は、カレンダーに印を付けて、「この日とこの日とこの日に出張に行って、この日にお父さん帰ってきます」と見せる。
子どもはね、自分の置かれた状況を分かりたいと思っています。それで、大人は言葉で伝えるわけやけど、言葉で分かったら、かんしゃくは起こさない。お父さんは一生懸命伝えたつもりになっているけれど、子どもは理解できておらず、「どうしてお父さんは帰ってこないの!」と、家で暴れる事態になる。
そのギャップを埋めないといけないですよね。やはり、言葉って消えてなくなっちゃうので、絵やカレンダーといった視覚的な情報を見せることで、子どもの安心が生まれやすくなると思います。
――6歳の息子がいます。私が出張に出て、夜に家にいないと、情緒が不安定で暴れ出します。「明日の〇時には帰ってくるからね」「どこどこに行ってくるよ」と細かく説明してから出発するのですが、少しでも本人が安定する方法は、あるでしょうか。
お父さんが出張に行くと、かんしゃくを起こすというのは、“居るべき人が居ない”という思いが引き金になっているかもしれないし、“どこに行ったのか分からなくなっちゃった”ということもあり得るんですよね。
僕がお父さん、お母さん方にお伝えするのは、ホワイトボードなどに「家の絵」と「会社の絵」と「保育園(や幼稚園)の絵」を書いておいて、「〇〇ちゃんは今日、保育園に行きます。お父さんは会社に行きます。お母さんは家にいます」と言って、居場所の確認ボードを見せるということですね。
また、お父さんが出張する場合は、カレンダーに印を付けて、「この日とこの日とこの日に出張に行って、この日にお父さん帰ってきます」と見せる。
子どもはね、自分の置かれた状況を分かりたいと思っています。それで、大人は言葉で伝えるわけやけど、言葉で分かったら、かんしゃくは起こさない。お父さんは一生懸命伝えたつもりになっているけれど、子どもは理解できておらず、「どうしてお父さんは帰ってこないの!」と、家で暴れる事態になる。
そのギャップを埋めないといけないですよね。やはり、言葉って消えてなくなっちゃうので、絵やカレンダーといった視覚的な情報を見せることで、子どもの安心が生まれやすくなると思います。
――息子は、この4月から小学生ですが、人とのかかわりが苦手で、幼稚園へは行き渋りがあり、たまに行っても、親が一緒でないと教室に入れません。大きな音や声が苦手といった特徴もあります。就学予定の小学校にも、あらかじめ状況を伝えようと思うのですが、どのように伝えるのがよいでしょうか。
自治体では、幼稚園などでの成長・発達の様子や必要な支援について記入する「就学支援シート」を用意し、子どもの小学校生活や学習内容を検討する際に活用しています。
また、こうした書式がなくても、お子さんを知ってもらうように、書面をつくるなどすると円滑にコミュニケーションが図れると思います。
その際に僕が大切だと思うのは、親御さんの見た子どもの姿に加えて、「子どもの言葉で書く」ということ。「これとこれは食べるのが嫌いだから、残し方を教えてください」とか、「大きな音が嫌いです」とかさ。それこそ、記者さんは聞くのが仕事だから、お子さんを取材するつもりで聞いてあげて、どうしたら楽しいかを見つけてみたらええんやないかな。
――息子は、この4月から小学生ですが、人とのかかわりが苦手で、幼稚園へは行き渋りがあり、たまに行っても、親が一緒でないと教室に入れません。大きな音や声が苦手といった特徴もあります。就学予定の小学校にも、あらかじめ状況を伝えようと思うのですが、どのように伝えるのがよいでしょうか。
自治体では、幼稚園などでの成長・発達の様子や必要な支援について記入する「就学支援シート」を用意し、子どもの小学校生活や学習内容を検討する際に活用しています。
また、こうした書式がなくても、お子さんを知ってもらうように、書面をつくるなどすると円滑にコミュニケーションが図れると思います。
その際に僕が大切だと思うのは、親御さんの見た子どもの姿に加えて、「子どもの言葉で書く」ということ。「これとこれは食べるのが嫌いだから、残し方を教えてください」とか、「大きな音が嫌いです」とかさ。それこそ、記者さんは聞くのが仕事だから、お子さんを取材するつもりで聞いてあげて、どうしたら楽しいかを見つけてみたらええんやないかな。
――頭では分かっていても、子育てには気力と体力が必要なことを感じています。妻とも協力しておこなっているつもりですが、それでも、お母さんの大変さは甚大だと思います。パートナーと励まし合いながら子育てしていくための工夫など、ありますか。
夫婦の働き方やお父さんの子育てへのかかわり方も、以前に比べて変わってきましたけど、まだまだ、お母さんの苦労は多いと思います。
だからね、子どもに寄り添えたとか、寛容になれたとか、何か一つでいいからできた日には、カレンダーにシールを1個貼る。それが30枚たまったら、パートナーへ指輪をプレゼントするとか、どうでしょう。そしたら、その指輪を見た時に“子どものおかげで買えた指輪やな”って思えるやん。
何が言いたいかというと、子育てってやっぱり、ご褒美がいると思うんです。自分の子どものことになったら、多くの親御さんが、ものすごく一生懸命に取り組まれている。それなのに、僕のところに相談に来られた親御さんに「自分にご褒美ありますか?」って聞いたら、みんな「無い」って言う。
自分で 自分に、またパートナーに、ぜひ、ご褒美をあげてください。
――頭では分かっていても、子育てには気力と体力が必要なことを感じています。妻とも協力しておこなっているつもりですが、それでも、お母さんの大変さは甚大だと思います。パートナーと励まし合いながら子育てしていくための工夫など、ありますか。
夫婦の働き方やお父さんの子育てへのかかわり方も、以前に比べて変わってきましたけど、まだまだ、お母さんの苦労は多いと思います。
だからね、子どもに寄り添えたとか、寛容になれたとか、何か一つでいいからできた日には、カレンダーにシールを1個貼る。それが30枚たまったら、パートナーへ指輪をプレゼントするとか、どうでしょう。そしたら、その指輪を見た時に“子どものおかげで買えた指輪やな”って思えるやん。
何が言いたいかというと、子育てってやっぱり、ご褒美がいると思うんです。自分の子どものことになったら、多くの親御さんが、ものすごく一生懸命に取り組まれている。それなのに、僕のところに相談に来られた親御さんに「自分にご褒美ありますか?」って聞いたら、みんな「無い」って言う。
自分で 自分に、またパートナーに、ぜひ、ご褒美をあげてください。
【後記】
記者たちも、家庭に戻れば一人の親。子どもを心配する気持ちが先に立ち、頭では分かっているつもりでも、忘れがちなことがある。坂井教授のアドバイスの中に、「子育ての核心があったね」と取材後に同僚記者と語り合った。
それは、ずばり! 「どこまでいっても、子どもが主役だなあ」ということ。坂井教授のアドバイスは、その方法もさることながら、最後は常に子どもの目線に立っていた。
親は“転ばぬ先のつえ”で、わが子がこの先、悲しい思いをしないようにと願う。親として、不安とは向き合いながらも、子どもの声を聞き、子どもの気持ちに寄り添うことに、もう一歩、力を使いたいと思いました。
【後記】
記者たちも、家庭に戻れば一人の親。子どもを心配する気持ちが先に立ち、頭では分かっているつもりでも、忘れがちなことがある。坂井教授のアドバイスの中に、「子育ての核心があったね」と取材後に同僚記者と語り合った。
それは、ずばり! 「どこまでいっても、子どもが主役だなあ」ということ。坂井教授のアドバイスは、その方法もさることながら、最後は常に子どもの目線に立っていた。
親は“転ばぬ先のつえ”で、わが子がこの先、悲しい思いをしないようにと願う。親として、不安とは向き合いながらも、子どもの声を聞き、子どもの気持ちに寄り添うことに、もう一歩、力を使いたいと思いました。
【プロフィル】
さかい・さとし 香川大学教育学部教授。香川大学バリアフリー支援室室長、香川大学教育学部付属坂出小学校校長、付属幼稚園園長。言語聴覚士、公認心理師。1962年、京都生まれの奈良育ち。2018年IAUDアワード(国際デザイン賞)金賞など受賞多数。著書に『知的障害や発達障害のある人とのコミュニケーションのトリセツ』など。
【プロフィル】
さかい・さとし 香川大学教育学部教授。香川大学バリアフリー支援室室長、香川大学教育学部付属坂出小学校校長、付属幼稚園園長。言語聴覚士、公認心理師。1962年、京都生まれの奈良育ち。2018年IAUDアワード(国際デザイン賞)金賞など受賞多数。著書に『知的障害や発達障害のある人とのコミュニケーションのトリセツ』など。
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メール youth@seikyo-np.jp
ファクス 03-5360-9470
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