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「自分の中のZ世代」を見つめ、ヘルシーに生きてみては――博報堂若者研究所・リーダー ボヴェ啓吾さん 2023年11月4日

  • 電子版連載〈WITH あなたと〉#Z世代

 電子版連載「WITH あなたと」では、Z世代(1996年から2010年ごろに生まれた世代)の記者がZ世代をテーマに特集しています。第3回は、博報堂若者研究所でリーダーを務めるボヴェ啓吾さんに話を聞きました。
 バリバリZ世代の大学生を中心とした研究員と一緒に働くボヴェさんに、Z世代の「面白さ」、ポジティブな面を教えてもらいました。(取材=松岡孝伸、菊池優大)

■Z世代はある種の“進化”

 ――いきなりですが、ボヴェさんを見ていると、ありのまま、いきいきと、楽しく仕事されているように感じます。Z世代と一緒に若者研究するのって面白いですか?

 めちゃくちゃ面白いです(笑)。前提として、僕が大切にしていることは、若者を自分の外部にあるターゲットや、攻略すべき対象として捉えないことです。博報堂若者研究所のテーマは「若者“と”、未来の暮らしを考える」です。

 あくまでも若者は研究対象ではなく、一緒に未来を考える仲間だと考えています。何より、彼らと一緒に働く中で気が付いたことは、「自分の中にもZ世代がある」ということです。僕のようなミレニアル世代のおじさんが何を言ってるんだと思うかもしれません(笑)。

 しかし、彼らと話していると、その考え方かっこいいな、すてきだなと感じられることがたくさんありました。僕は、Z世代をある種の“進化”だと思っているんです。

 簡単に言うと、Z世代の子たちは、ありのまま、自分らしさを大切にした“ヘルシーな生き方”をしながらも、しっかりと他者を尊重している。

 一方で僕たちの世代や、さらに上の世代って、これまで少し無理をして頑張って生きてきた分、他人にもそれを強要しがちな面がある。会社の考えを優先し過ぎたり、「嫌なことも耐える」という選択肢に固執したり。

 だから、これまで抑圧されてきた“自分らしく生きる”という、僕の中にあるZ世代的な部分が、彼らと触れ合うことで、自分の生き方として“表”に出てくるんですよね。

■「個性的である必要はないけど、個性は大事にしたい」

 ――ある種の“進化”ですか! Z世代の当事者としては、あまり実感はありません。もう少し詳しく教えてもらってもいいでしょうか。

 まずは、Z世代が育ってきた背景を考えてみましょう。今20歳くらいの人たちだと、だいたい小学生の時にスマートフォンが普及したり、東日本大震災が起きたりしています。また高校生・大学生の時にコロナウイルスの流行に直面しました。

 VUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)の時代と、よくいわれますが、不安定で変化の多い世の中で育ってきた世代です。彼らにとって未来とは、何が起こるか分からず、非連続的なものなんです。情報量も莫大になり、これが正解と言える選択肢は存在しない。

 そうした背景の中で、どう生きていくのかを考えた時、彼らが大切にするようになったのが、「自分らしさを大切にしたい」ということです。この「自分らしさ」というのは、周りと比べてユニークだとか、優位性があるということではなく、自分自身が納得感を持てるか、自然だと思えるかということが重要です。

 ある若者が言っていた「個性的である必要はないけど、個性は大事にしたい」という言葉が、私はすごく好きです。この言葉にZ世代の価値観が象徴されていると思います。

 無理に自分をつくって目立とうとしたり、人と違う自分を見せようとしたりするのではなく、自分の中で、自分が感じている個性を大切にしたいということですね。

■友達と外部情報を通して「自分」を拡張する

 ――確かに、私も、こういう時代だからこそ、自分にとって何が幸せか、何が心地いいのか、こういうとき自分はどんな気持ちになるんだろうとか、自然と考えていました。
 そう考えると、Z世代は「自己理解」ということも、とても大切にしている気がします。


 まさに、「自己理解」はとても大切なキーワードだと思います。Z世代の面白いところは、“自分”という感覚を柔軟に捉えているところです。

 友達といる時の自分、職場にいる時の自分、推し活のコミュニティーにいる時の自分など、それぞれ違うけど、どれも本当の自分で、「ここではこういう気持ちになるんだな」と、他の人との関わりの中で、自分を知ろうとしている。

 また、インターネットなどの情報もうまく活用しています。最近は16タイプの性格診断や、ファッションのための骨格診断、カラー診断などが若者にとっては、SNSを通して常識になっていますよね。

 そうすると、ネット上にある自分と同じタイプの人たちの情報が役に立ったり、アルゴリズムによってそうした自分好みの情報がさらに選別されていったりする。

 自分という個別の存在だけでなく、周りの人や、外部の情報などを通しながら、自己理解をしていくという意味で、自分の存在を柔軟に拡張して捉えていると思います。

■「感情検索」とは

 そして、こうしたZ世代の特徴が分かりやすく表れているのが、「感情検索」という行動です。上の世代からすると、「感情を検索する」ということに想像がつかないかもしれません。

 例えば、賛否が分かれるような難しい映画を見た時、複雑な感情になったとします。そこで、ネットでレビューを検索し、「あ、自分もそうだな」と思うものが見つかると、それが自分の感想になる、といったことです。

 ――それ、私も映画を見た後、毎回やります。むしろ上の世代には当たり前じゃないことの方が驚きです。また、それだけではなく、自分の気分が何か落ち込んでいる時や、モヤモヤしている時、そのまま検索することもあります。

 そうですよね。一つは、はっきりと分からない、なんとなく自分の中にある感情を探りたい時に、「感情検索」するんだと思います。

 実際に、Web行動ログのデータベースを持っているVALUES社との共同研究で、若者の検索履歴から感情検索といえそうなものを探してみたところ「疲れると不機嫌になる」「誕生日を祝われたいけど祝われたくない」など、比較的ネガティブな感情の時が多いようです。

 これは“自分を知る”ための検索なんですが、一方で、“他人を知る”ために検索することもある。例えば、「高級ホテルに泊まる意味」「子どもをつくらない理由」など、自分にはないような他人の感情を理解したいと考えて感情検索を行っています。

 こうして、「自己理解」だけではなく、他の人は他の人でまた自分とは全然違う背景や思いを持っているんだろうなという想像力を持って、「他者理解」にも努めようとしているんです。

 身近な例だと、骨格診断や性格診断の話もしましたが、自分には似合わないけど、友達はあのタイプだから、これ教えてあげようとか、普段からその子の持っている特性や長所を見つめ、それを褒めたり補い合ったり、そういったことをすごく自然にやっています。

■多様性の“骨肉化”

 Z世代の学生と接していると、自分と他者を違いも含めて理解し、それを尊重しながらも、無理なく自然な形で協力し合っている光景をよく見かけるんです。

 ――確かに。私も友達同士でよくお互いの性格や、どうすればお互い成長できるかについて話すことが多いです。それぞれ違うことが分かった上で、みんなでどうやってうまく生きていくか、考えている気がします。

 Z世代のもう一つの進化として、多様性の“骨肉化”ということがいえると思います。昨今、多様性や個性を大事にするということが言われ続けていますが、Z世代はそのことが本質的に理解できていて、当たり前の大前提になっている。

 これまでの世代は、平気で人の自尊心や自己肯定感を削るようなコミュニケーションを取ることがありましたが、そこに関してはZ世代と大きなギャップがあると思っています。

 Z世代は一人一人が、他の人には分からない苦しみがあるということを理解しているからこそ、可能な限り分かろうと努力するし、お互いに感情をケアし合うということを大切にしています。

■「自分の中のZ世代」を見つめ、ハッピーでヘルシーに

 ――本当にその通りだと思います。相手の状況に対して想像力を働かさず、自分の考えだけで傷つけるような発言を聞くと、悲しさや怒りを覚えます。
 Z世代にとっては、お互いをケアしながら多様性を守り合うコミュニケーションは当たり前かもしれません。

著作者:vecstock/出典:Freepik
著作者:vecstock/出典:Freepik

 とはいえ、Z世代といっても、いきなり生まれてくるものではなく、上の世代との連続性の中で誕生してくるものです。矛盾を感じながらもさまざまな課題を背負って、克服しようと挑戦してきた上の世代がいたからこその「Z世代の進化」ともいえる。

 その意味では、Z世代の進化は、上の世代の進化でもあるんじゃないでしょうか。そうやって自分のこととして捉えてみると、若い世代のすてきだなと思うところに気づきやすくなりますし、応援したいという気持ちも湧いてきます。

著作者:snowing/出典:Freepik
著作者:snowing/出典:Freepik

 なので、上の世代の皆さんも、「自分の中のZ世代」を見つめ、取り出すことができれば、自分にとってだけではなく、若者にとってもハッピーでヘルシーな方向に進んでいくんじゃないでしょうか。また、その中に、今の世の中をより良くする希望や突破口があるようにも感じています。

【プロフィル】

 ぼゔぇ・けいご 1985年生まれ。法政大学社会学部社会学科卒。2007年(株)博報堂に入社。2012年から東京大学教養学部全学ゼミ「ブランドデザインスタジオ」の講師を行うなど、若者との共創プロジェクトを多く実施し、2019年から博報堂若者研究所リーダー。

 ※次回以降、Z世代当事者のヒューマンストーリーや、NPO法人あなたのいばしょ理事長の大空幸星さんのインタビューを載せる予定です。

●最後までお読みいただき、ありがとうございます。ご感想をお寄せください。
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ファクス 03-5360-9470

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