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核兵器禁止条約の発効に寄せて ICANのフィン事務局長にインタビュー 2021年1月22日

  • SGIは主導的役割果たした 地域で行動し世界に潮流起こす皆さんの活動は理想形

 核兵器禁止条約の発効に寄せて、ICANのベアトリス・フィン事務局長にインタビューした。(聞き手=南秀一)

 ――いよいよ核兵器禁止条約が発効を迎えます。条約の成立にはICANをはじめ、市民社会が大きな貢献を果たしました。
 
 私たちは核禁条約の批准を目指す国々と、緊密に連携してきました。昨年10月24日、50カ国目の批准国となったホンジュラスから、批准書を国連に提出して受理されたとの連絡を聞いた瞬間は、言いようのない感慨が込み上げてきました。
 
 “まだ50カ国が批准したにすぎない”という見方もありますが、条約が発効した事実には重要な意義があります。とりわけ、広島と長崎の被爆75年の節目に批准国が50カ国に到達し、発効が決まった事実に、私は深い意義を感じます。昨年は各国政府の間でも核兵器に対する意識が改めて高まり、“この条約への批准を通して被爆者に応えたい”という意識が生まれているのを感じていました。
 
 被爆者の存在こそ、私たちがこの運動を続ける理由です。核禁条約も、いわば広島・長崎の悲劇を二度と繰り返さないためにできたものであり、被爆者の証言が実現の原動力になってきました。その意味でも、発効が決定した瞬間は非常に感動的でした。
  
 
 ――2017年7月に国連で条約が採択されてから、3年あまりで50カ国が批准するに至りました。
 
 3年、できれば2年半をめどに発効させたいという思いはありましたが、国際条約に批准する手順は国ごとに異なり、さまざまな手続きが必要ですから、往々にして時間を要するものです。率直に言って、いつ発効に至るかを予測することは困難でした。ですから私たちは、常に高い目標を掲げるように努めてきました。
 
 昨年は新型コロナウイルスの影響を懸念していましたが、結果的には他の大量破壊兵器に関する条約と比較しても非常に良いペースで進んだと思います。
 
 条約に批准しないよう核兵器保有国が猛烈な圧力を掛けていたにもかかわらず、保有国と良好な関係を築いている国も含めた多くの国々が、批准への歩みを止めませんでした。小国が大国に立ち向かうことは、容易ではありません。それでも現在51もの国が批准を断行した事実は、核兵器がそうした国々にとって極めて重要な問題であることの証左であり、この条約が現状を変える力になると彼らが信じている証しです。
 
 一つ一つの国と、そこに暮らす人々の努力が、核兵器廃絶を一歩ずつ現実に近づけていることを忘れてはいけないと思っています。

ICANへのノーベル平和賞授賞式。広島出身の被爆者であるサーロー節子氏と、フィン事務局長が受賞講演。式典には国際パートナーの一員としてSGIの代表も出席した(2017年12月、ノルウェーのオスロ市内で)
ICANへのノーベル平和賞授賞式。広島出身の被爆者であるサーロー節子氏と、フィン事務局長が受賞講演。式典には国際パートナーの一員としてSGIの代表も出席した(2017年12月、ノルウェーのオスロ市内で)

 ――世界では核の近代化が進み、軍拡競争が始まりつつあるといわれています。核禁条約は、こうした現状にどのような影響を与えるでしょうか。
 
 75年以上にわたり、特定の国が核兵器を保有することが“前提”になってきました。
 
 しかし、核禁条約はあらゆる核兵器を「違法」としました。どれほど反対しようと、既に条約は発効したわけですから、核兵器保有国も何らかの関わりをもたざるを得ません。
 
 現在、核兵器は絶大な力を与える魅力的な存在として見られています。経済規模でいえばあまり影響力を持たない国であっても、核兵器を保有した途端、あたかも大国と対等であるかのように交渉する。核兵器が力や特権を与えるものとして重視されることは、非常に危険です。
 
 こうした状況を変えるためには、どうすればいいか。
 
 核禁条約は、核兵器に「恥ずべきもの」という“汚名”を着せ、使用を困難にします。保有国だけでなく、核兵器に依存する国、さらには核兵器の製造に携わる企業やそうした企業に投資する銀行、核兵器製造の研究に関わる大学など、社会のあらゆるレベルで議論を巻き起こし、核兵器を“問題だらけの不名誉な存在”として使用や保有を難しくするのです。
 
 こうした取り組みを通して、核兵器の「価値」を失わせることが、核廃絶を可能にする、おそらく唯一の道であると思います。
  
 
 ――条約を生み出す力となったのは、核兵器の非人道性を訴える被爆者の声でした。フィン事務局長は2018年に広島、長崎を訪問し、各国の指導者は被爆地を訪れるべきと訴えられました。
 
 核兵器の問題を難しくしている理由の一つは、非常に“抽象的”であることです。ほとんどの人は核兵器を見たこともなければ、どんなものかも知りません。ですから、核兵器廃絶といってもどうしても机上の論になりがちです。しかし広島、長崎の地に立てばそれが現実の兵器であり、実際に存在し、同じ悲劇が起こり得ることを実感できます。
 
 国の政策決定に携わる人々は、核兵器で他国を脅すことばかりを考え、「使用したら何が起きるか」に目を向けようとしません。各国のエキスパートといわれる人々も、核兵器の実像については何も知りません。核兵器がどんなもので、家族や街に何が起きるのかを本当に知るのは被爆者だけです。被爆者こそ核兵器のエキスパートなのです。
 
 ですから、全ての国のリーダーが広島・長崎を訪れて被爆者の声に耳を傾け、核兵器を使うとはどういうことかを知るべきだと思います。

ノーベル平和賞授賞式で受賞講演するフィン事務局長(2017年12月、ノルウェーのオスロ市内で)
ノーベル平和賞授賞式で受賞講演するフィン事務局長(2017年12月、ノルウェーのオスロ市内で)

 ――現下の新型コロナウイルスの感染拡大は、核兵器を巡る議論にどのような影響を与えたでしょうか。
 
 感染が広がる中で、ICANとしても従来のように核兵器の議論を推し進めていくことに慎重になった面もありました。ですが見方を変えれば、これが21世紀の安全保障問題であるということです。人類は今、パンデミック(世界的大流行)や気候変動と戦っていますが、こうした脅威に対して核兵器は何の力も持ちません。
 
 アメリカでは既に30万人以上が新型コロナで亡くなっています。核兵器に投資される莫大な費用は、医療の充実や失業給付に充て得るものです。現在の危機から国民を守る上で求められているのは、人々に寄り添い、団結し、長期的な視野を持ち、社会保障を考えることです。何をもって自分たちの身を守るのか、そこに核兵器は必要なのかということを改めて見直さなければならないと思います。
 
 もう一つは、科学の視点です。パンデミックにしろ気候変動にしろ、科学者は繰り返し警鐘を鳴らしてきました。そして現在、彼らが訴えていた通りになっています。
 
 科学者たちは核戦争の危険についても警告しています。私たちが何も行動を起こさなければ、こうした最悪のシナリオが現実になってしまう可能性があることを学ばなければなりません。核戦争は、起きてからでは手遅れなのです。
  
 
 ――今回の感染症との闘いが、世界が協調に向かう契機になってほしいと思います。
 
 ある出来事が世界のあり方を変えた例は、これまでにもありました。例えば二度の世界大戦の惨禍と記憶は、国連やEU、ASEANのような多国間協調の機構、生物兵器や化学兵器、対人地雷を禁止する法規範などの創設につながりました。不完全かもしれませんが、世界大戦を通して協調のあり方は急速に変化したのです。
 
 今回のパンデミックを経て、私は、世界が同様の変化をたどっていくと思います。第2次大戦終結当時は未来を描くことが難しかったように、今も、この瞬間は考えにくいかもしれませんが、未来には必ず良い方向に向かうと信じていますし、良くするために行動していかねばならないと思います。

SGIとICANが共同制作した「核兵器なき世界への連帯――勇気と希望の選択」展の長崎展(2018年11月、長崎原爆資料館で)
SGIとICANが共同制作した「核兵器なき世界への連帯――勇気と希望の選択」展の長崎展(2018年11月、長崎原爆資料館で)

 ――先ほども話に出ましたが、核兵器については“身近な問題に感じない”“自分にできることがあると思えない”といった声も聞かれます。
 
 これは本当に重要なテーマです。いくつかの世論調査が示すように、大半の人は核兵器に嫌悪感を抱き、身近に存在してほしくないと思っています。しかし、自分に何かできるとは考えていない。
 
 事実は逆で、できることはたくさんあります。ICANや核禁条約自体、一般の市民が知恵を出し合い政府とも協働する中で生まれたものです。
 
 核兵器について考える時、私たちは保有国の指導者にばかり焦点を当てがちです。例えば、“彼らの考えをどうやって変えるのか”と考えても、自分とかけ離れたことのように感じるでしょう。
 
 まず身の回り――自国の政府や自治体、企業や大学などに目を向けることです。世界はさまざまなネットワークやグループによってできています。遠くにある最終目標ばかりを見過ぎて、自分たちにできることを忘れてはいけません。
 
 ICANのような連合体の力の一つが、ここにあります。小さなグループが集まって触発し合い、“まずは自分がいるネットワークを変えていこう”と、それぞれが行動を起こしたのです。さまざまな団体が協力し合うことで大きな国際問題さえも動かすことができるのです。
 
 国や地域レベルでできることを考えながら、それが世界的な潮流にどうつながるかを見ていく――その素晴らしい具体例が、SGIの運動です。
 
 どこの国を訪れてもSGIのメンバーとお会いします。皆さんはそれぞれの地域で活動しながら、同時にSGIとしてグローバルな運動を行っている。地域の視点を持ち、グローバルにつながる理想の形だと思います。

フィン事務局長とSGIの代表が核兵器廃絶の取り組みなどを巡り語り合う(2018年4月、スイスのジュネーブで)
フィン事務局長とSGIの代表が核兵器廃絶の取り組みなどを巡り語り合う(2018年4月、スイスのジュネーブで)

 ――ICANが発足した2007年から、SGIは国際パートナーとして協力を重ねてきました。
 
 SGIはICANが誕生して間もない頃から苦楽を共にしてきた重要なパートナーであり、皆さんと深い交流を結んでこられたことを大変光栄に思います。
 
 ICAN全体の運動のほか、日本における活動、信仰を基盤とした団体との連携など、幅広い分野で深い協力を重ねてきましたし、私たちのキャンペーンにおいて、SGIは主導的な役割を果たしてきました。
 
 大きな成果を上げた協働の一つが、カリブ海地域での取り組みです。2019年にはガイアナ共和国で条約の発効促進のための地域会合が開催され、SGIとICANが運営を担いました。こうした尽力もあり、カリブ海諸国の批准が加速し、条約発効に向けた弾みがつきました。あの会議がなければ、まだ50カ国の批准に至っていないでしょう。
 
 また、SGIをはじめとする信仰を基盤とした団体は、市民が核兵器の問題について行動を起こしていく上で非常に重要な役割を果たしています。いくら核兵器に関する事実を学んだとしても、“自分事”として捉えられなければ行動にはつながりません。その点、宗教者は人々に行動を促す上で極めて重要な役割を担っています。
 
 核兵器廃絶は短距離走ではなく長距離走ですから、引き続きSGIと協力を深め、さまざまな活動に取り組んでいきたいと願っています。

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