• ルビ
  • シェア
  • メール
  • CLOSE

〈ライフスタイル〉 「プライベートロスしたくない」 子育て世代の本音から“新しい当たり前”を 2024年7月2日

  • 【Colorful】インタビュー

 今の子育て世代は、これまでとは違うキャリア観や夫婦観を持つといわれています。今回は、『<共働き・共育て>世代の本音』の著者で、DEI(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)促進とハラスメント防止を軸に企業向け研究、調査、コンサルティング等を行う公益財団法人21世紀職業財団の上席主任・研究員の本道敦子さんにインタビューしました。子育て世代の「声」から、世代間ギャップを埋めるヒントが見つかるかもしれません。

公益財団法人21世紀職業財団 上席主任・研究員 本道敦子さん
■最もハードルが高い選択肢

 「子どもが生まれてからは、残業なしで回していこうと思うようになりました。朝は5時に起き、自分で朝ごはんを作って出勤します」
 「男性ももっと育休を取って、女性が育児をしながら仕事をすることへの理解が深まればよいと思います」
 
 これらは、子どものいるミレニアル世代で、共に正社員の夫婦(1980~95年生まれ)を対象にした調査で聞いた、男性の声です。育児における夫婦の役割について「妻も夫も同じように行うべき」と回答した男性は、約7割に上りました。妻に言われたから「仕方なくやる」のではなく、自ら「やりたい」と思っている人が多いのです。
 
 夫婦の目指すキャリア形成についても、「お互い、キャリアアップ(昇進・昇格だけでなく、仕事の幅を広げることも含む)を目指していく」と回答した男性が4割を超えました。
 
 男女平等の意識が強く、妻のキャリアも尊重し、夫婦で子育てをしたいと考えていることが分かります。

 一方、次のような声もありました。
 
 「子どもをつくる以上、何かを犠牲にする必要がある。社会の側がいまだ育児に理解がなく不利益な扱いを受けることも多い中、双方のキャリアを上げることはまず無理。どちらかが諦める必要があり、経済的に利益が得られる選択を、望まずともせざるを得ない」(男性)
 
 夫婦で共に「キャリアアップ」も「子育て」もしたいと願いつつ、現実はどちらか一方を諦めなければいけない。そして、妻か夫、どちらかが犠牲にならなければ、生活が成り立たない……。子育て世代の悩みは、今の日本を映し出していると言えます。
 
 子育てしながら夫婦共に正規雇用で働いている人たちに対して、「勝ち組」という認識があります。共働きは増えましたが、夫婦で正規雇用の割合は30~34歳の約4割にとどまるからかもしれません(2022年総務省調べ)。しかし、先ほど紹介した声のように、何かしらの犠牲を払いながら必死にもがいているのが実情です。
 
 今の日本では、夫婦で共にキャリアアップと子育てをしていくことが最もハードルの高い選択肢となっています。それを「普通」に選べるものにしていかなければ、各人の希望する選択ができる多様な社会にはなりません。家庭を持つこと、子どもを持つことが女性や夫婦にとって、何らかの犠牲を伴うのであれば、少子化も好転しないでしょう。

■仕事に無限には時間を使わない

 今の管理職世代が子育てをしていた頃は、長時間労働や定時で帰れないのが当たり前でした。それによって、男性は育児や家庭時間を仕事のために顧みることができない「プライベートロス」、女性は家事・育児のためにキャリアを中断する「キャリアロス」に陥ってきました。
 
 企業の風習や労働慣行をすぐに変えることは簡単ではありません。しかし、悲観したり諦めたりするのではなく、自ら考え行動している人がいるのも、ミレニアル世代の特徴です。
 
 ある男性は、第1子を育てる中で子どもと関わる時間を増やさない限り、子どもからの信頼を得られない、手をかけないと好かれないと思うようになりました。第2子が生まれた後は、資料やアウトプットの精度を高めることに時間を無限に使わないようにするなど、仕事への向き合い方を変えたそうです。その姿を部下にもありのまま見せていると語っていました。
 
 子どもがぐずったり、懐かなかったりすると、「やっぱり子どもはママが好きなんだよ」と諦めるのではなく、子どもとの時間を増やすしかないと気付く。また、仕事に無限には時間を割かない。それは、仕事も子育ても全力でしたいからこその判断なのです。ミレニアル世代を象徴する新しい価値観であり、「脱プライベートロス」の在り方だと思います。
 
 「自分の会社に子どもを入れたいか」と聞かれたら今のままならすごく嫌だから管理職になって変えていきたいと考えている人、子育ての時間をつくるために転職した人もいます。


 

■上司からの期待

 女性の場合はどうでしょうか。調査では約半数の女性がマミートラック(難易度や責任の度合いが低い仕事を任され、キャリアの展望もない状態)に陥っていると回答しました。仕事の継続はできたとしても、出産前に形成してきたキャリアが失われる「キャリアロス」が女性には生じやすいのです。
 
 ミレニアル世代の女性には、出産前から戦略的に経験を積んだり、上司に直談判したり、キャリアロスを回避しようと積極的に行動している人がいます。

 もちろん、仕事と家庭の両立はパートナーとの協力態勢、親戚など頼れる人の有無や外部委託の可否、仕事内容や職場環境によるところが大きく、困難の度合いはさまざまです。しかし、マミートラックに陥らなかった女性に共通していることがありました。それは「上司からの期待」でした。
 
 ある女性は「自分がキャリアをここまで頑張ろうと思っているのは、入社した時の上司に『良き妻、良き母、良き上司になってほしい。よくばりでいい』と言われたから」と教えてくれました。良き妻、良き母を押し付けてはいけませんが、上司は「諦めないで」ということを伝えたかったのではないでしょうか。
 
 また、入社時は3年で辞めて結婚したいと思っていた別の女性は“こだわって成果を出す”という仕事のやり方を上司が教えてくれ、かつ、それをやるとすごく褒めてくれたそうです。「やればやるだけ褒めてくれて、のせられて仕事を続けようと思った」と話してくれました。
 
 マミートラックに陥ってしまった場合もそこから脱出するには「上司の関わり」と「働き方の変更」、そして「自分の家事・育児の負担減」が必要です。
 
 家庭と仕事の両立に悩んでいる方は、上司に率直に相談したり、家事・育児の分担や互いのキャリアについて夫婦で話し合ったりしてみてください。管理職世代の方は、自分自身のバイアスに気を付けながら子育て世代の本音を聞き出し、仕事の分担や進め方、働き方を一緒に考えていただけたらと思います。

 それが“新しい当たり前”をつくる一歩になります。

本道さん共著『〈共働き・共育て〉世代の本音』(光文社新書)
本道さん共著『〈共働き・共育て〉世代の本音』(光文社新書)

【プロフィル】
 ほんどう・あつこ 公益財団法人21世紀職業財団の上席主任・研究員。子どものいるミレニアル世代夫婦のキャリア意識に関する調査研究、DEI推進の課題や展望を研究する調査を実施、企業や社会への提言を行っている。これら調査研究の知見を生かし、企業向けの従業員満足度調査にも従事している。キャリアコンサルタント(国家資格)。https://www.jiwe.or.jp

●ご感想をお寄せください
 life@seikyo-np.jp

【編集】荒砂良子 【本道さんの写真】本人提供 【その他の写真・イラスト】PIXTA

 

動画

SDGs✕SEIKYO

SDGs✕SEIKYO

連載まとめ

連載まとめ

Seikyo Gift

Seikyo Gift

聖教ブックストア

聖教ブックストア

デジタル特集

DIGITAL FEATURE ARTICLES デジタル特集

YOUTH

三井住友銀行が、閉鎖した出張所を改装した施設「アトリエ・バンライ」のプレオープンイベント。子どもたちが金融経済教育を体験した=3月26日、東京都板橋区

劇画

劇画
  • HUMAN REVOLUTION 人間革命検索
  • CLIP クリップ
  • VOICE SERVICE 音声
  • HOW TO USE 聖教電子版の使い方
PAGE TOP