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〈インタビュー〉 社会の歪みの凝縮である少子化を乗り越えるには? 2023年3月29日

  • 放送大学名誉教授 宮本みち子さん

 コロナ禍を経て少子化が加速している。課題克服のために必要なものは何か。(「第三文明」4月号から)
 

1947年、長野県生まれ。東京教育大学(現・筑波大学)文学部経済学専攻卒業。同大学社会学専攻卒業後、お茶の水女子大学大学院修士課程修了。博士(社会学)。専門は社会学、生活保障論。ケンブリッジ大学社会政治学部客員研究員、千葉大学教授、放送大学教授・副学長などを経て現職。中央教育審議会委員、社会保障審議会委員など公職経験多数。著書に『若者が無縁化する』(ちくま新書)、『アンダークラス化する若者たち』(編著、明石書店)など
 
1947年、長野県生まれ。東京教育大学(現・筑波大学)文学部経済学専攻卒業。同大学社会学専攻卒業後、お茶の水女子大学大学院修士課程修了。博士(社会学)。専門は社会学、生活保障論。ケンブリッジ大学社会政治学部客員研究員、千葉大学教授、放送大学教授・副学長などを経て現職。中央教育審議会委員、社会保障審議会委員など公職経験多数。著書に『若者が無縁化する』(ちくま新書)、『アンダークラス化する若者たち』(編著、明石書店)など  
出生数77万人の衝撃

 昨年暮れ、同年の出生数が推計で約77万人となる見通しが報じられ、波紋を広げました。国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口(2017年度)によれば、出生数が80万人を下回るのは、2030年ごろとされていました。つまり、国の想定を超えて少子化が進行し、その深刻な度合いが、政府をはじめ各界に衝撃を与えたのです。
 
 実際、最近の国会論戦においても、少子化克服の文脈で児童手当の所得制限撤廃が主要議題の一つに挙げられています。それも、いわゆる保守系政治家たちから、「子ども・子育て支援」の大切さが語られているのです。これは、10年前には想像もし得なかった光景です。
 
 では、なぜ少子化克服が重要なのでしょうか。理由は、少子化が深刻な労働力人口の減少と、社会保障の担い手不足に直結し、やがては日本社会そのものを支えきれなくなるためです。
 

 特に懸念するのは、世の中にはどれほど科学技術が発展しても、人間にしか担えない仕事が存在することです。介護は、その最たる例といってよいでしょう。
 
 政府予測によれば、高齢者(65歳以上)の数は2040年に約3900万人に達し、全人口の3分の1を占めるようになります。また、高齢者を支える介護職も約280万人必要とされています。
 
 ところが、現在の介護職の数は約211万人で、差し引き70万人も不足しているのです。そして、こうした慢性的な人手不足の状況は、介護福祉のみならず、建設など他の産業分野に及んでいることにも注意が必要です。
 
 加えて、少子化によって社会保障の担い手が不足すれば、年金・医療制度も支障をきたします。それは社会不安へ結びつき、日本社会の存立自体を危うくしかねない大きなリスクと言えるのです。
 

求められる「継ぎ目」のない支援

 少子化は長く日本の課題と言われ、これまでも多くの対策が施されてきました。しかし、歯止めがかからない現状を見る限り、不十分であったと言わざるを得ません。その意味では、あらためて少子化の要因を探り、抜本的な対策を講じる必要があります。
 
 私は、少子化の背景には若者の結婚への分厚い壁が存在すると見ています。日本では、文化的社会規範も影響し、結婚しないまま子どもを出産するケースは非常に少ない。厚生労働省の人口動態統計によれば、全出生数の3%未満とされています。
 
 こうした前提に立てば、出生率の改善には、まず婚姻率を高める必要がありますが、若者は結婚への高いハードルを感じているのです。その理由の一つとして、非正規雇用の増大で、若者が安定した暮らしを営めなくなっていることが挙げられます。
 
 実際、複数の学術調査では、年収と結婚・出産の関係が明らかにされています。最近の東京23区の独身男性(30代から60代)を対象とする調査でも、年収300万円未満の約4割が、「経済的理由で結婚できない(できなかった)」と回答しているのです。
 
 よって少子化克服には、出産の前段階にある若者の結婚を支援する必要があり、彼ら・彼女らの“壁”を突き崩すためにも、ライフステージ(人生の段階)に応じたシームレス(継ぎ目のない)な支援が必要となります。
 

 この点、公明党が取りまとめた「子育て応援トータルプラン」は、従来の施策に有意な改善提案がなされているだけではなく、施策同士を結びつけ、多様な状況にある人々が幅広く、かつシームレスに支援されるよう配慮がなされています。
 
 とりわけ印象深いのが、少子化を取り巻く社会的要因を探り、当事者の苦境に寄り添う思索的な深みも感じさせる点です。具体例を示すと、出産・子育ての自助から公助への転換、いわゆる「自己責任論」からの脱却が打ち出されています。
 
 例えば、「児童手当の拡充」でいえば、所得制限撤廃の是非ばかりが論じられていますが、撤廃は経済負担の緩和といった表層的な意義にとどまりません。本質は、子育て支援に対する国の価値観の発信にあります。すなわち、「日本に生まれたすべての子どもを社会全体の公助(公的負担)で育てる」との価値観を発信しているのです。
 
 また、同プランの「基本的な方向性」に、「男女間の不平等解消」が明記されたのも印象深く感じます。戦後の日本社会は、男性が働き、女性が家事・育児を担うことが一般的でした。このため女性は、結婚や出産を機に自身のキャリアを絶ち、乏しい公的支援の中で子育てに専念せざるを得なかった。いわば従来の子育て政策は、女性の犠牲の上に成り立っていたのです。
 

 同プランでは、こうした背景を踏まえつつ、経済的給付の一層の拡充と併せて、「伴走型支援」の充実も打ち出しています。一例を挙げれば、妊娠・出産期における訪問型の家事・育児支援や、専業主婦家庭でも未就学児を抱える場合には、保育所を定期利用できる制度の創設を提唱しています。
 
 すでに学術研究では、母親への支援が、幼児虐待防止につながることが立証されています。ゆえに同プランの提案は、子どもの健やかな成長のためにも、また女性活躍推進のためにも、非常に有益なものといえます。
 
 その他、子育て支援の枠組みに、若者世代が包摂されたことも意義深いと感じます。従来、児童福祉の分野では、「18歳の壁」が指摘されてきました。虐待や貧困など困難に直面する子どもには、国・自治体の公的支援がなされるものの、18歳になった途端に自立を求められたのです。
 
 困難な環境で育った若者が、18歳になった途端に安定した職を得て、良縁に巡りあい、出産・子育てに励む――そのような事例はごく少数でしょう。むしろ、そうした若者が安心して結婚・出産し、子育てに励めるよう、息長く見守っていくことこそ必要です。こうした状況を踏まえて、年齢で一律に支援期間を区切る現行制度は変更されました。
 
 その点、同プランは困難を抱えて生きる現在の若者世代を支えるのみならず、将来、彼ら・彼女らが築く家庭に育った子どもたちが安定して成長し、独立し、再び新たな家庭を築くことまでを展望しています。その意味では、日本社会の「循環の輪」を維持していく希望のプランと言ってもよいでしょう。
 

シニア世代による理解と共感こそ

 現在のシニア世代は、戦中から戦後復興期に生まれ、高度経済成長期を牽引し、平和で豊かな社会を築いてきました。しかし、その社会が今、「結婚したいのにできない」「子どもを持ちたいのにかなわない」「家計が苦しくて子どもを育てるのが困難」という深刻な危機に直面しています。
 
 一方で、コロナ禍の現在は多くの人が傷つき、大変な思いをされている方も多いことでしょう。「私だって助けてほしい」と思ったとしても、何ら不思議ではありません。
 
 けれど少子化は、目に見えない日本の“歪み”が凝縮し、社会に表面化した課題なのです。もちろん、子どもを持つことを強制するつもりはありませんが、少子化こそ社会全体で優先して取り組むべき課題であり、なかんずく、私も含めたシニア世代が、人生の総仕上げとして取り組むべきテーマではないかと考えます。
 
 どうか私たちの孫世代である子ども・若者たちが、安全・安心の暮らしを営めるよう、また「幸せな人生」を送れるよう、子ども・子育て支援に理解と共感を寄せていただきたいと思います。私自身も、「もうひと踏ん張り」との思いで、当事者支援に取り組んでいく決意です。

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