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〈防災――身を守る行動〉 三重・紀宝町の取り組み 防災をわがことに! 2024年4月10日

 「防災――身を守る行動」の第8回。前回に続き、防災行動計画「タイムライン」を活用し、町を挙げて防災・減災を進める三重県・紀宝町の取り組みを紹介します。今回は、南海トラフ巨大地震対策についてです。
 

●南海トラフ巨大地震とは●
南海トラフ巨大地震の想定震源域
 
南海トラフ巨大地震の想定震源域  

 南海トラフ地震は、東海地震、東南海地震、南海地震などの震源域に分かれ、およそ100~150年の間隔で繰り返し発生してきた。
 東南海・南海は約80年、東海は約170年にわたって大規模な地震が発生しておらず、いつ発生してもおかしくないといわれる。過去に三つの地震が連動し、大きな被害に見舞われたこともあった。
 国は、近年の激甚化する地震・津波災害を踏まえ、科学的に想定される最大クラスの地震を予測。マグニチュード9・1で、震源域は東海・東南海・南海地震より広域となる「南海トラフ巨大地震」が起こる可能性があると警鐘を鳴らしている。
 巨大地震の被害は広域にわたり、関東から九州にかけての沿岸部では10メートルを超える津波に襲われる可能性がある。被災地域が増えれば増えるほど、支援の手は行き届かない。
 国の防災対策が重要なのは当然として、命を守るためには自助、共助が欠かせない。
 一方、震災対策の基本の一つである「家具固定」を行っている人は約35%にとどまるとのデータがある(2022年9月、内閣府世論調査)。
 これまで本連載に登場した防災の専門家は「『わがこと』として捉えられないと防災は進まない」と一様に口にしていた。この壁をいかに打ち破るのか。
 タイムライン防災の第一人者である東京大学大学院の松尾一郎客員教授は「タイムラインの作成は何よりも過程が大事。家族や地域で何度も話し合いを重ねる中で、主体的な防災行動が生み出されていく」と力説する。
 全国に先駆け、水害対策にタイムラインを導入した三重県・紀宝町では昨年から南海トラフ巨大地震対策にもタイムラインを取り入れようと動き出した。それは、町民が防災を「わがこと」と捉える挑戦でもあった。
 

●犠牲者ゼロへ●

 紀伊半島の南東部に位置し、熊野灘に面する紀宝町。南海トラフ巨大地震の震源域でもある。三重県などによれば、町の広い範囲で震度6強、一部の地域で震度7の強い揺れが約3分間も続くと想定される。
 そして、地震発生から間もなく最大11メートルの巨大津波が押し寄せてくると予測。避難が後手に回れば、人口の1割近くにあたる900人もの犠牲者が出るといわれている。
 中でも甚大な被害が想定されているのが鵜殿地区。地震発生から約7分で大津波が襲来すると想定され、揺れが3分続けば、津波から逃げる時間はわずか4分だ。
 町では犠牲者ゼロを目指し、同地区を対象にワークショップ(WS)を昨年2月から6回開催。地域の役員や自主防災組織、民生委員や消防団員、警察署や消防署、国や県、町の行政機関のメンバーなどが参加し、議論を重ねてきた。随所に「わがこと」の防災対策になるよう、工夫が凝らされていた。
 

必ず来る南海トラフ巨大地震・津波への備え――昨年7月の三重・紀宝町鵜殿地区のワークショップ(生涯学習センター、同町提供)
 
 
必ず来る南海トラフ巨大地震・津波への備え――昨年7月の三重・紀宝町鵜殿地区のワークショップ(生涯学習センター、同町提供)    

 実際に一人一人が歩行速度を計測。4分で、どこまで自分は逃げられるのかというイメージを膨らませた。さらに、避難経路や避難に要する時間も確認。その結果を踏まえ、皆で避難行動の在り方、要支援者の支援などを議論した。
 その結果、新たな津波避難タワーを建設する場所が決まり、町も予算化。地区内の2カ所で建設がスタートする。
 さらにWSでは避難路も点検した。ブロック塀が崩れたり、家屋が倒壊したりする可能性のある場所をピックアップ。また夜の避難を想定し、街灯が必要な場所も明確にした。対応策を皆で話し合った結果、町の各種整備事業につながった。
 例えば、町は夜間の停電時にも、津波避難を迅速に行えるよう、「蓄電式避難誘導灯」を主要避難路に設置する事業を進めている。
 

ブロック塀が倒れる可能性あり――昨年7月のワークショップで避難路の危険箇所を確認(同町提供)
 
ブロック塀が倒れる可能性あり――昨年7月のワークショップで避難路の危険箇所を確認(同町提供)  

 そして、WSの成果をまとめた「南海トラフ巨大地震・津波への備え 地震・津波ルールブック」(全28ページ)を昨年10月に完成させた。
 ここには、見開き2ページにわたって「家族と私の命を守る――地震・津波タイムライン」(マイタイムライン)も盛り込まれた。揺れから身を守った後は「津波てんでんこ」。自分の命は自分で守るのが基本だ。
 だからこそ、家族や個人の行動計画を定める「マイタイムライン」を活用している。
 左ページ(下の画像)は家族・個人が書き込む。①地震発生直後②約3分後(揺れが落ち着く)③約10分後(高台に到着)などの時系列に分けて防災行動が記載できるようになっている。
 もう一方のページには、その記入例、自主防災組織や民生委員等の行動が時系列で紹介されている。
 
 

三重・紀宝町で作成した「地震・津波ルールブック」から転載
 
三重・紀宝町で作成した「地震・津波ルールブック」から転載  

 ルールブックは地区の全住民に配布され、最後のWSは2月に行われた。ここでは参加者が実際にマイタイムラインを書き込んだ感想や、記載を全住民に広げるために必要なことが話し合われた。タイムラインを実際に作成して「非常持ち出し品をしっかりと用意するようになった」「いつ地震が起きてもおかしくないとの危機感が増した」などの声が聞かれた。
 そして、最も多かった感想は「地震や津波の対策を家族で話し合うきっかけになった」こと。タイムラインの作成自体が、防災を「わがこと」として捉えるきっかけになることを如実に物語っている。
 マイタイムラインの作成をどう全住民に広げていくのか。
 地区の6地域別にその取り組みが宣言された。
 「全世帯を対象にルールブックの勉強会を開きます」
 「個別に訪問し、タイムラインの意義を訴えたり、記載のお手伝いをしたりします」
 「防災訓練の場で、記入の時間を設けます」
 「記載の仕方を動画にし、いつでも学べる環境をつくります」
 防災が人ごとでなくなり、行動に主体性が生まれると、対策はどんどん進化する。南海トラフ巨大地震のタイムライン防災は始まったばかり。町を挙げてさらに動いていく。
 

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