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【18時配信】電子版連載〈WITH あなたと〉#Z世代 シンガー・ソングライターになった体育大生 2024年3月29日

 連載「WITH あなたと」では、Z世代(1996年から2010年ごろに生まれた世代)について特集しています。第12回は、今月、日本体育大学を卒業したシンガー・ソングライターの佐藤凜太朗さん(神奈川県横浜市、男子部員)を紹介します。“体育大生がなぜ歌手に?”――その歩みを追いました。

●コロナ禍の新入生

 2020年4月、期待に胸を膨らませて、凜太朗さんは日本体育大学に入学した。将来の夢は体育教師になること。青森県八戸市の実家から送り出してくれた両親のためにも、やがては地元の中学校か高校で働き、父と母のように温かな家庭を築きたい――そんなふうに思っていた。

 予想していたキャンパスライフとは、大きく違うことがあった。新型コロナウイルスの感染爆発が起きた。対面の授業は全てなくなり、凜太朗さんは入学から2年時まで、体を動かす実技はおろか、キャンパスにも行かない体育大学生活を送ることになった。

 ただでさえ、親元を離れての1人暮らしは寂しさを覚えがちだが、コロナ禍でのそれは次元が違った。一日の中で声に出す言葉が、外出自粛中のアパートの一室で、食事を前に「いただきます」と言うだけだったことも。

 中学校時代は学級委員長を務め、野球部ではキャプテンを担い、全国大会に出場した凜太朗さん。元来、人と接することと体を動かすことが大好き。そんな彼が、コロナ禍の外出自粛で家にこもる。孤独感は「心身ともにキツかった」。

 ある日、一本の電話がかかってきた。相手は、創価学会の学生部の先輩だった。

●学生部との出あい

 凜太朗さんは、創価学会の活動に励む両親のもと三人兄弟の末っ子として生まれた。祖母を含め6人家族。いつも笑い声の絶えない、にぎやかで仲の良い家庭だった。

 大学生となり、離れて暮らす凜太朗さんを、実家の母が心配し、神奈川県の学生部の先輩と連絡を取ってくれたのだった。
「今度、オンラインで学生部の会合をやるんだけど、参加してみない?」

 先輩に誘われ、「分かりました」と答えた。“味気ない日常が変わるかもしれない”と、心のどこかでワクワクした。

 オンラインミーティングでは、久々に、同世代の人たちと会話した。「初めまして」「よく参加してくれたね」。そんなあいさつの言葉さえも、胸に染みるように感じた。

 学生部の仲間たちは、それぞれの悩みや、夢について語っていた。「世界平和のために貢献したい」と勉強を頑張っている人もいれば、人間関係や就職活動など身近なことで悩んでいる人もいる。“いろいろな人がいて刺激になる”と思った。

学生部の仲間たちと(右端が凜太朗さん)
学生部の仲間たちと(右端が凜太朗さん)

 その後もミーティングに参加し続けるうち、いつしか“自分は何がしたいのだろう”と考えるようになった。

 小学3年から始めた野球で、中学まではプロ選手になりたいと思っていた。強豪校といわれる高校へ進み、試合の出場機会が減るにつれ、プロは無理だと感じ、体育教師になろうと思った。

 しかし、大学に入り、いざ目指してみると、体育教師になることも、並々ならぬことと分かる。青森県なら採用試験の倍率が15倍前後。

 “何をやるにも、そうした大変さに、挑む覚悟が必要だよな”

 そんなことを、家でギターを弾きながら考えていた。

●新たな夢と努力

 ギターは大学の入学前から始めた趣味。YouTubeで動画を見て弾き方を覚え、SNSに弾き語りの動画をアップするようになった。コロナ禍の中、毎日弾くうちに“真剣にやってみたい”と思うようになった。

 大学3年の秋、地域で開催している新人発掘オーディションに出てみることにした。大賞獲得者には、メジャーデビューが約束されている大会だ。

 毎日、勤行・唱題に励み、懸命に練習に取り組んだ。結果は入賞。“大賞をとれなかった”と落ち込んでいる凜太朗さんを、学生部の先輩がこう励ました。

 「仏法には、はっきりと目に見える形で現れる『顕益』と、目には見えなくても、知らないうちに得ている『冥益』があるんだ。長い期間で見れば、はっきりと結果が現れ、幸せを実感できるようになる。この経験を生かしていこう」

 その言葉に励まされ、凜太朗さんは努力を重ねた。

 音楽スクールに入りレッスンに通うとともに、路上ライブを重ねた。SNSでつながったアーティストとコラボし、オリジナルの楽曲も制作。また、音楽スクールでは、SNSの活用についても学んだ。「個人発信の時代」のシンガー・ソングライターには、セルフプロデュースが欠かせない。自分を見せる努力を含め、“できることは全部やる”ことを教わった。

 また、学生部では部長を務め、折伏にも挑戦。2年生の1月には友人に弘教を実らせた。

●自分にできることを、真剣に楽しく

 2024年、大学卒業の年を迎えた。同級生は、プロのアスリートになったり、教師になったり、会社員になったりと、それぞれの道へ進んでいく。その中で、凜太朗さんはシンガー・ソングライターになった。「卒業するので“体育大生のアーティスト”とはもう言えませんね。セルフブランディングの50%が失われちゃいました」と笑う。

 卒業する大学の仲間とは、互いに頑張ろうとエールを交わした。アーティスト活動をする中で、SNSのフォロワーを増やそうとしたとき、真っ先に力を貸してくれたのが、大学の同級生たちだった。

 凜太朗さんが大学3年、4年と進路を模索する中で、制作した楽曲がある。タイトルは「僕の、あなたの応援歌」。社会人1年目の知人が懸命に働く様子を見ていて、“少しでも力になりたい”と思って作って曲だ。路上ライブやSNSで反響を呼んだ。周囲と違う進路へ進むことについて、凜太朗さんはこう思っている。

 「明日がどうなるかなんて、誰にも分からない。だからって、ちゃらんぽらんに生きて幸せになれるわけでもない。“努力と決断”のバランスを、いい感じに、信心はもたらしてくれています」

 一緒に動画をアップするなど、コラボレーションするアーティストは20代後半の先輩が多い。

 壮絶な生い立ちや、経験をしてきた人も少なくない。その思いを歌に込め、凜太朗さんが驚くほど素晴らしい楽曲を作り歌う。それでも、売れるかどうかは、分からない。

 「自分は恵まれた環境で育ってきましたが、経験を比べて焦っても価値的じゃない。今の自分にできることを、真剣に、楽しんで頑張る。夢がかなわなかったら? 頑張った自分を褒めてあげて、またその先に何かを目指せばいいと思います」

 3月には、サブスクリプションサービスでの楽曲をリリース。また、自身初のワンマンライブを行うことができた。

 音楽一本で生計が立てられるか――25歳を一つのめどに、“背水の陣”で挑んでいる。

●取材を終えて

 記者は23歳のZ世代。私にも中学校時代から思い描いた夢があった。それは研究者になること。夢をかなえるため、工業高校、工業大学に学んだ。しかし“狭き門”であることを自覚し、断念した。それまで費やした時間と、行動の全てが無駄に思えた。それ以来、心のどこかで“夢って、言葉の響きは美しいけれど、実際は、無慈悲で、無責任で、残酷だな”と思うようになった。
 Z世代に関する連載をする――この企画が立ち上がり、さまざまな分析やオピニオンを読み込む中で、“Z世代の若者は将来を緻密に計算し、先の見えない賭けはしない”という論調をしばしば目にして、その通りだと思った。
 だから、今回の佐藤さんをはじめ、本連載で“夢に向かう”同世代の人たちを取材する際、“夢がかなわなかったらどうするのか”という思いが、私の頭から離れなかった。
 しかし、取材を重ねるうち、その人たちに、共通した考え方があると感じるようになった。

 例えば佐藤さん。プロ野球選手、体育教師を目指し、今はプロのシンガー・ソングライターになるという夢がある。さらにもう一つ、「幸せな家庭を築く」という夢もあると明かしてくれた。
 「僕の生き方は、悪く言えば“中途半端”と言われると思います。でも、どう思われたっていい。夢を目指す時も、あきらめる時も、自分は、誰にだって胸を張れるくらい、真剣に考えてきたと言えます。今はプロのシンガー・ソングライターとして生計を立てるという夢を全力で追いたい。夢はいくつあってもいいし、変わってもいいんじゃないでしょうか」
 そう言える理由の一つには、彼が学生部の先輩から、顕益と冥益の話をされたことも大きいのだろう。
 夢をかなえられなかったとして、それまで積み上げてきたことは無駄にはならない――そのメッセージが記者自身の胸に響いた。自分が背負ってしまっていた“夢は必ずかなえなければ意味はない”“夢は一貫していなければならない”という固定観念を打ち砕かれ、肩の荷が下りた気がした。
 この一つの気づきをとってみても、記者として本紙で記事を書くことの喜びを感じる。しかし、まだまだ新人記者。私も夢の途中にいる。

 ●最後までお読みいただき、ありがとうございます。ご感想をお寄せください。
 メール youth@seikyo-np.jp
 ファクス 03-5360-9470

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