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〈クローズアップ ~未来への挑戦~〉 スペイン㊤ 2024年3月24日

 世界の同志の姿から、創価の哲学と運動の価値を考える「クローズアップ 未来への挑戦」。スペインでは近年、社会の多様化を背景に、宗教間対話が進められ、スペイン創価学会のメンバーも参加しています。対話に臨んだ青年部の様子と、識者のインタビューを掲載します。(記事=萩本秀樹、写真=石井和夫)

胸襟を開いて語り合える対話の場が、日々の学会活動にあふれている(昨年9月、バルセロナ市内で)
胸襟を開いて語り合える対話の場が、日々の学会活動にあふれている(昨年9月、バルセロナ市内で)
多様化する宗教観と人々を結ぶ対話

 ヨーロッパ大陸の南西端に位置するイベリア半島は、幅十数キロのジブラルタル海峡を隔ててアフリカ大陸と向き合う。同半島の5分の4の面積を占めるスペインは、さまざまな文化や文明が共存し、時に対峙しながら、多様性豊かな国家を形成してきた。
 15世紀末以降はキリスト教カトリックが中心的な宗教となり、19世紀に国教化された。その後のフランコ独裁政権下(1939~75年)では、国家がカトリック教会との関係性を特に重要視し、教会は絶大な権威を誇った。
 
 78年に成立した現行憲法で国教制は廃止され、「信教の自由」は保障された。今もカトリックは中心的な宗教だが、他の宗教も等しく尊重される社会づくりへ、宗教間対話の取り組みが広がる。
 先駆けたのは、バルセロナがあるカタルーニャ州。2004年から市民による宗教間対話の取り組みを推進し、スペイン創価学会も当初から関わってきた。同年にバルセロナで開かれた世界宗教会議では、スペイン創価学会がシンポジウムの議長団体を務めている。
 
 また、首都マドリードにある、スペイン首相府の外郭団体「多元性と共生」財団は、青年向けの宗教間対話の場を主催してきた。
 男子部のガブリエル・ソカックスさんと女子部のエレナ・ベナビデスさんは、18年から19年にかけて同財団のプロジェクトに参加。10の異なる宗派と無宗教の若者が毎月、集まって語らいながら、特に人権の観点から、信仰の自由と多様性への理解を深め合った。

ガブリエル・ソカックスさん
ガブリエル・ソカックスさん
エレナ・ベナビデスさん
エレナ・ベナビデスさん

 ソカックスさんは、ムスリムの女性らと親交を深め、毎日のように連絡を取り合ったという。「相手のことをよく知りたいというのは、皆に共通の関心であると実感しました。調和と共生という共通目的のために、手を取り合っていこうと決意を深めました」
 ベナビデスさんは、17歳の時にプロジェクトに参加した。学会を代表して自分が参加したことに、「青年に対する信頼と期待を感じました」と。
 
 二人と共に女子学生部のラウラ・カプートさんは、昨年初頭に財団が主催した宗教間対話に参加。皆でテーマを考える企画では、ウクライナでの戦火を思い浮かべ、「平和こそ私たちの共通目的」と提案した。するとある参加者から、「でも、この国は戦争していないよね?」と驚かれたという。
 カプートさんは語る。「他の国や地域の出来事を、自分のことと捉えて平和を祈る。私たち学会員の実践が、いかに意義あるものであるかを改めて実感しました」

ラウラ・カプートさん
ラウラ・カプートさん

 世界の平和と一切衆生の幸福を日々、祈念し、目の前の一人に尽くしていく。それが確かな平和への道であると確信するからこそ、創価の青年は、垣根を越えて人間の中へと飛び込み、共生の未来を開く対話を進めている。

インタビュー①
カタルーニャ・ユネスコ宗教間対話協会
フランセスク・トラデフロート 元事務局長

 ――スペインでは、1978年に憲法で「信教の自由」が認められました。
 
 独裁政治を敷いたフランコが1975年に死去し、さまざまな側面で民主化が始まりました。78年に制定された現行憲法で「信教の自由」は明記されましたが、一方で、真の意味での自由はまだ確立されていないと考えます。
 
 信教の自由をうたった憲法の条文には、「公権力は、スペイン社会の宗教的信条を考慮し、カトリック教会及びその他の宗教とも協力関係を維持する」とありますが、スペインでは、宗教団体は四つに大別され、国家から与えられる権利にも差があります。
 ①カトリック教会、②カトリック以外で国家と協定を結んだ宗派、③協定を結んでいないがスペイン社会に定着している宗派、④それ以外の宗派の四つです。こうした区分が存在すること自体、宗教が平等には認められていないことを意味します。
 
 私たちは、信教の自由が真に保障されることを目指して活動しています。
  
 ――具体的な活動内容について教えてください。
 
 主に二つの分野で活動しています。一つは、異なる宗派の人たちを招いて宗教間対話を主催することです。そしてもう一つは、スペインが持つ宗教的多様性の価値を、出版などを通じて発信していく活動です。
 
 宗教間対話は、2004年にカタルーニャ州で始まりました。フランコ政権下で、特に迫害を受けたカタルーニャでの開催という点に意味がありました。独裁時代の暗い歴史を背景に、市民の宗教離れが進んだ地域でもあります。
 対話では20人ほどの参加者が、平和、人権、生態系などさまざまなテーマについて語り合います。各宗派の代表と共に、無宗教者が入っているのも特徴です。同じテーマでも、人によって捉え方は全く異なります。そうした対話を毎回、同じ参加者たちが集って重ねていきます。
 
 今、カタルーニャ州で60、スペイン全土で100程度のグループが活動しています。
  
 ――宗教間対話にはどんな“ルール”があるのですか。
 
 何よりも、相手を尊重することです。自分の信念を熱く語るのは結構ですが、対話の場では参加者を改宗させるような行為は認められません。また、相手の名誉を傷つけるような発言も慎まなければなりません。私の知る限り、参加者の中で改宗した人はいませんし、他の宗教者の意見を聞くことで、自らの信仰への理解を深められたと喜ぶ人が多くいます。

協会の事務局があるバルセロナの旧市街
協会の事務局があるバルセロナの旧市街

 ――スペイン創価学会も、長年、宗教間対話に参加してきました。
 
 深く感謝しています。創価学会は、スペインの宗教間対話の柱のような存在です。
 皆さんは多様性を尊重し、対話を推進しようという純粋な気持ちをお持ちです。“誰もが仏になれる”との普遍性を根本とした仏教を信奉していることと、関係があるのかもしれません。また、在家信徒の団体であるからでしょうか、自由であり、精神的に自立しています。これは対話に臨む上で重要な要素です。
 
 仏教徒は社会的な貢献が少ないと、あるキリスト教徒の友人から言われたことがあります。私は即座に、「それは違う。創価学会は社会に尽くしている仏教団体だ」と言いました。皆さんが取り組んできた、核軍縮や環境問題に対する取り組みなどは特筆すべきものです。創価学会は、現代的な価値観を有しつつ、宗教の多様性を尊重する素晴らしい団体です。
 
 その精神性や運動で、他の宗教団体をさらに啓発していかれることを願っています。特に私は、若い人たちに期待しています。スペイン創価学会にはたくさんの青年がいます。より良い社会を築くためのリーダーシップを、大いに発揮していってください。

インタビュー②
「多元性と共生」財団
イネス・マサラサ 事務局長

 ――「多元性と共生」財団が設立された経緯を教えてください。
 
 近年、スペイン社会で起こっている変化の一つに、若者を中心とした“教会離れ”が挙げられます。加えて、移民が急増する中で、カトリック以外の信仰を持つ人たちが増えました。
 “世俗化”と“多様化”が同時進行するような社会にあって、諸宗教との「協力関係を維持する」との憲法の精神は、重要性を増しています。スペイン政府として各宗教団体をサポートすべく、私たちの財団は2004年に首相府の外郭団体として設立され、05年に活動を開始しました。
  
 ――どのような活動を行っているのでしょうか。
 
 各宗教団体の活動をサポートするとともに、宗教的多様性の現状を周知するよう努めています。国家によって宗教の多様性は認められてはいるものの、現実にどれほど多様な宗教が存在しているかは、あまり知られていません。
 例えば、仏教の寺院ではカトリック教会と同じような儀式が行われていると想像する人が多くいます。長年、カトリックが唯一認められた宗教であったことを踏まえれば、無理もありませんが、こうした誤解や偏見は、認識不足からくるものでもあります。多様な宗教について「知る」ことは、とても重要なのです。
 
 私たちは、宗教団体の施設が検索できるような地図を作成したり、アンケートを用いた意識調査なども行っています。また、墓を建てるにも宗教それぞれで慣習が違うことなどに配慮し、各自治体や役所でも、多様性の理解促進に取り組んでいます。

スペインの首都マドリードの街並み
スペインの首都マドリードの街並み

 ――青年に光を当てて、活動を進めてこられました。
 
 調査から分かったのは、多くの青年にとって、特定の宗教組織に所属している意識は低い一方で、スピリチュアルなものには強い興味があるということです。組織としてではなく個人での信仰を望む傾向性は、コロナ禍でより顕著になったようにも思います。
 
 もちろん、宗教に熱心な青年も多くいます。しかし社会では、信仰は“年配者がするもの”というイメージが根強い。宗教団体に所属する青年が、偏見の的になってしまうケースもあります。
 こうした現状を変えるために、多様な宗教の青年たちが交流できる機会をつくってきました。スペイン創価学会の青年も参加してくださっています。創価学会には活発な若者が多く、いつも建設的な意見をいただいています。
 
 これらの活動は、私たちが青年から学ぶ機会でもあります。宗教が現実生活から遊離しがちなのは、なぜなのか。どんな言葉遣いをすれば、相手に伝わるのか。若い人たちには知恵があります。彼・彼女らが自由に語り合う場、彼・彼女らから学ぶ場は、もっとあって良いと思うのです。
 財団として、そうした活動をより一層進めていきます。創価学会とも、さらに強い信頼関係を結び、協力し合えることを願っています。

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高知県出身。IT企業勤務を経て独立。エンタメから古典文学まで評論や解説を幅広く手がける。新刊『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)発売中。

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