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〈クローズアップ ~未来への挑戦~〉 イタリア㊤ 社会課題に立ち向かう青年の連帯 2024年4月9日

 世界の同志の姿から、創価の哲学と運動の価値を考える「クローズアップ 未来への挑戦」では、3回にわたって、イタリア創価学会の躍進を紹介します。㊤では、人類的課題である気候変動と核兵器廃絶に取り組むメンバーを、識者のインタビューとともに掲載します。(記事=萩本秀樹、写真=石井和夫)

地元民や観光客でにぎわうイタリア・フィレンツェ市
地元民や観光客でにぎわうイタリア・フィレンツェ市
環境展で意識啓発

 2016年に実施が始まった、国連のSDGs(持続可能な開発目標)。達成期限の30年へ、道のりはすでに“後半戦”である。
 
 イタリア創価学会はコロナ禍の20年、SDGsの達成を後押しすべく、市民の意識啓発を促す「私が変われば、世界が変わる」キャンペーンを開始。その一環で、エコロジー移行省の協賛を得て「生の継承」展を企画・制作した。
 
 ステラ・ビアンキさん(婦人部員)は、国会議員として環境分野を担当した経験を生かして、展示の制作に中心的に関わった。
 「気候変動を引き起こしたのは私たち人間です。その問題の本質を理解すれば、打開の道筋も見えてくる。意識と行動の変容が、一人から次の一人へと広がっていくことの大切さを訴える展示です」

ステラ・ビアンキさん
ステラ・ビアンキさん

 コロナ禍の時はオンラインで、22年夏からは各都市で展示を開催している。展示のガイドは、主に青年部のメンバーが務めてきた。
 
 パロマ・メッシーナさん(州副女子部長)も、その一人。
 イタリアの人々は一般的に、気候変動への危機意識がまだまだ低いと彼女は感じている。中でも青年世代は、問題が大きければ大きいほど、“自分一人には何もできない”と無力感を抱いてしまう。それゆえ目を向けない傾向にある、と。「だからこそ、未来は変えられるという希望を、人々の心にともすことが重要です」

パロマ・メッシーナさん
パロマ・メッシーナさん

 心が変われば、行動が変わる。一人の行動が変われば、世界が変わる。展示に込められた未来への希望は、学会活動の底流にある思想でもある。ガイドを通して、一人を励ます活動の意義を、メッシーナさんは実感している。
 
 プリシラ・マッシメイさん(女子部員)は、17年の入会。仏法の「依正不二」の法理を学び、環境問題に興味を持った。21年から展示のガイドを務める。
 内容を学び深めるたびに、誰もが変革の主体者であるとの自覚を新たにするという。自身も信心を通して、悩みの種だった家庭不和を乗り越えた体験を持つ。
 
 その信仰の確信を友人に語り、一人一人の幸せを真剣に祈る。展示をきっかけに、「信行学の三つを深めることができました」とマッシメイさんは笑顔で言う。

プリシラ・マッシメイさん
プリシラ・マッシメイさん

 環境NGOに勤務するサラ・コッツォーネさん(女子地区リーダー)は、一昨年から展示のガイドを務める。ガイドの人材育成にも携わってきた。
 「環境活動家の間では、SDGs達成を巡る現状が、いかに絶望的かが強調して語られます。恐怖ではなく、希望で人々の連帯を育むこの展示は、大きな社会的意義を持つものだと確信します」

サラ・コッツォーネさん
サラ・コッツォーネさん

 展示に訪れた人々が、驚く点があるという。若い人には荷が重いと思われがちなガイドのような役割を、青年が担っていることだ。
 青年こそ「変革の世代」であると、池田大作先生は語った。その師の心を継承し、社会課題の解決へと行動する青年の連帯に、イタリア社会が注目している。

核兵器なき世界へ

 長期化するウクライナ危機を背景に、核使用のリスクが叫ばれる中、イタリアでは昨年11月に新たな核廃絶展示がオープンした。同国創価学会による「センツァトミカ(核兵器はいらない)」運動の一環として、2011年に始まった展示をリニューアルしたものだ。
 
 池田大作先生は09年9月、恩師・戸田城聖先生の生誕110周年を記念して、提言「核兵器廃絶へ 民衆の大連帯を」を発表。“世界の民衆の声を結集する”という先生の呼びかけに呼応して、青年部有志が中心となって、キャンペーンと展示をスタートさせた。
 
 その一人が、副男子部長だったダニエレ・サンティさん(副本部長)。「核軍縮に取り組む団体はありましたが、活動はバラバラでした。共通目的のために人々を連帯させるのが、私たちの使命だと皆で確認し合いました」

ダニエレ・サンティさん
ダニエレ・サンティさん

 展示の準備や広報活動なども、地域のメンバーが担った。パン店や喫茶店などを訪ねて運営費の寄付を募った。趣旨に賛同する協賛企業は徐々に増え、他の団体との協働関係も築かれていった。
 青年部を先頭に、各地で展示を支えてきた運営役員は、1万6000人を超える。「師匠の期待に応えたいという真心の結晶です」とサンティさんは語る。
 
 エンツァ・ペレッキアさん(方面副婦人部長)は、法学と平和学が専門のピサ大学教授。立ち上げ当初からキャンペーンに携わり、さまざまな分野の有識者に対話を広げていった。
 
 専門家としてではなく「一人の市民」として、核廃絶のために何ができるか。それを考え、語り合うことを促すのが展示であると、ペレッキアさんは言う。
 「核兵器のない世界は、全ての人にとってより良い世界。対話を通して、多くの人が核廃絶を自分の問題と捉えることが、目標達成のための第一歩です」

エンツァ・ペレッキアさん
エンツァ・ペレッキアさん

 展示は国内外の約80会場を巡回し、36万人以上が見学した。17年には核兵器禁止条約が国連で採択され、核兵器なき世界への挑戦は新たな段階に入った。これを受けてリニューアルされたのが、昨年始まった展示である。VR(仮想現実)技術を活用しながら、広島・長崎の被爆の実相や核兵器の脅威を伝える内容となっている。
 
 ソーレ・ベカーリさん(州副女子部長)は、15年からセンツァトミカの活動に携わる。同年8月に広島で「核兵器廃絶のための世界青年サミット」に参加。被爆者の体験を直接聞き、世界各国の青年と絆を結んだことが、核廃絶のために行動し続けようと誓った原点である。17年の禁止条約の交渉会議にも市民社会の代表として参加し、条約採択の瞬間を見届けた。
 
 宗派や信条を超え、多くの運動家らと友情を結ぶ。「心を開いて対話を重ねれば、必ず分かり合える。池田先生に教えていただいた通りの実践が、平和に直結しているのを実感します」

ソーレ・ベカーリさん
ソーレ・ベカーリさん

 12年にイタリア創価学会にセンツァトミカ事務局が発足し、21年にはさらに重厚な体制に。サンティさんのほか、マルタ・モデナさん(副女子部長)、アレッシア・トラマさん(女子部書記長)ら青年部メンバーが活躍する。
 
 「核廃絶を縁遠いテーマだと捉えている人は、まだ多くいます。誰にでも、その人にしかできない貢献がある。それを訴える私自身が、日々、人間革命に挑戦していく決意です」(モデナさん)
 
 「センツァトミカについて話すと、多くの人が学会への理解と共感を深めてくれます。池田先生の弟子の誇りを胸に、仏法者としての社会的使命をさらに果たしていきます」(トラマさん)

マルタ・モデナさん㊧とアレッシア・トラマさん
マルタ・モデナさん㊧とアレッシア・トラマさん
<インタビュー>
平和と軍縮のためのイタリアンネットワーク
フランチェスコ・ヴィニャルカ 氏

 ――主な活動内容について教えてください。
 
 「平和と軍縮のためのイタリアンネットワーク」は70以上の団体からなり、数百万人が関わる、イタリア最大規模の組織です。各団体の専門分野は、核軍縮や軍事支出、武器輸出、キラーロボットなど多岐にわたります。互いの情報共有と連携を助けるのが、キャンペーンコーディネーターとしての私の役割です。
 団体それぞれの強みを引き出すことが、あらゆるキャンペーンには大切です。例えば労働組合には、多くの人を動員する力があります。一方で大きな団体は、時にアイデアや専門性に欠けるのもまた事実であり、それらはより小規模の団体が得意とすることでもあるのです。互いの特長を生かし、苦手を補い合うことで、多くの問題に向き合うことができています。
  
 ――近年のイタリア社会では、核軍縮に対する意識は高まっているのでしょうか。
 
 そう思います。かつては私たちのネットワーク内でも、核軍縮は優先事項ではありませんでした。それでも、この問題に取り組むべきだと主張し続ける同僚がいました。彼女は正しかったのだと、今はよく分かります。核軍縮はあらゆる平和活動に通ずることを、皆が理解しています。
 
 2017年に核兵器禁止条約が採択され、ICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)がノーベル平和賞を受賞しました。加えて、カトリック教会のフランシスコ教皇が核廃絶を強く訴えたことも、イタリア社会に大きな影響を与えています。核兵器の使用のみならず、存在それ自体を否定したことは、カトリックの倫理観の転換でした。核兵器のない世界を実現する動きは加速し、市民の間でも核軍縮への意識が高まっているのを、私たちは実感しています。
   
 ――センツァトミカを通じて、イタリア創価学会とも運動を共にしてこられました。
 
 協働は長年にわたります。17年に禁止条約が採択される前、私が参加できなかった国連での交渉会議に、イタリア創価学会のメンバーが参加していました。「あなたは私たちのネットワークの代表でもあるんだよ。ありがとう!」と私は言いました。心から信頼できる友人が、国際レベルでの議論に参加していたことをうれしく思いました。
 センツァトミカには多くの青年が加わっており、それは私たちのネットワークに新たな強みをもたらしています。昨年、ローマで開かれた行事には1000人の青年が集いました。これだけの若者が、核軍縮について考え、語り合っている光景は圧巻でした。
   
 ――カトリック社会における創価学会の役割を、どう見ていますか。
 
 創価学会の存在は非常に重要であると考えます。近年、イタリアでは仏教やイスラム教に関する団体が活発であることもあり、カトリック系の団体は、“プレッシャー”を感じているでしょう。
 多様な人々や視点を大事にすることは、本来、カトリック的な価値観でもあります。イエスの言葉に、“あなたがたは地の塩である”とあります。塩が食べ物に占める割合はごくわずかですが、しかし全体の味付けをします。一つの宗教だけが多数派であり続ければ、いつしか惰性に流されてしまいます。だからこそ、社会全体にとって“塩”の存在が欠かせないのです。
 
 創価学会をはじめとする多様な宗教のおかげで、カトリック教会は以前にも増して、社会貢献に意欲的です。これは革命的なことです。核兵器なき世界を目指すイタリア社会の前進を、私たちもサポートしていきます。

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高知県出身。IT企業勤務を経て独立。エンタメから古典文学まで評論や解説を幅広く手がける。新刊『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)発売中。

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