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◆価値創造への挑戦 温泉から南極まで!? 極限環境に生息する生物の不思議を探究 2024年4月7日

  • 【創大・短大マガジン】
  • 好奇心の先に見えてくる 生命の起源とその可能性
  • 理工学部 黒沢研究室
試験管をかざして微生物の培養状況を確認。地道な研究に取り組む学生たちを黒沢教授㊧が見守る
試験管をかざして微生物の培養状況を確認。地道な研究に取り組む学生たちを黒沢教授㊧が見守る

    
 今回の「価値創造への挑戦」は、小さな世界から大きなロマンが広がる「微生物」の話。一般的な動植物が生きられない、マイナス30度の低温の世界から100度以上の高温の世界まで、微生物はさまざまな環境に生息する。その極限環境に生きる生命の可能性を探究する、創価大学理工学部の黒沢研究室を取材した。
    
    

壮大なロマン

 「主な調査場所は、温泉と南極です」――楽しそうに語る黒沢則夫教授の言葉に、記者の心が引きつけられる。
    
 理工学部共生創造理工学科の黒沢研究室は、またの名を「極限環境生物学研究室」という。
    
 一般的な動植物が暮らすことのできない、高温や低温などの極限環境の中で、生物がなぜ生きていけるのかという“不思議”を解き明かす。中でも50度から90度ぐらいの高温環境で生きる「好熱菌」と、マイナス30度から0度ぐらいの低温環境にいる「好冷菌」が主な研究対象だ。
    

黒沢則夫 教授
黒沢則夫 教授

    
 その試料(サンプル)を求めて、温泉から南極まで世界中を訪れるわけだが、研究の方法はとてもシンプル。水と堆積物をおたまですくい、滅菌した容器に入れる。それを研究室に持ち帰り、培養して観察する。この地道な作業の向こうに、壮大なロマンが広がっていると黒沢教授は話す。
    
 「地球上に誕生した“最初の生命”は、好熱菌ではないかといわれています。私たちの研究は、生命の起源を探る挑戦なんです。また、高温・低温という極限環境における生命活動を解き明かすことは、生命の限界と可能性を探る、とても楽しい研究なんですよ」
    

高温の状態を保ちながら好熱菌を培養
高温の状態を保ちながら好熱菌を培養

    
 こうした取り組みが、大発見につながることもある。
    
 本年1月には、世界で初めて、高温酸性泉中の微生物から新奇RNAウイルス系統を発見。
    
 研究代表者には、筑波大学、国立研究開発法人海洋研究開発機構、高知大学の、三つの国立機関の研究者と共に、創大の黒沢教授が名を連ねた。
    
 この発見は、RNAウイルスの系統において、既存の二つの界とは異なる“第3の界”が存在する可能性を示唆するという。
    
 「界」とはウイルスの分類体系で、上位から2番目の階級。これまで見つかった数十万種ものRNAウイルスは、全て既存の二つの界に属していた。今回の発見は、ウイルス研究の新たな扉を開く大きな一歩となった。
    

協力する大切さ

 「一流の研究者と共に、未知の現象を解き明かす取り組みを、とことん追究できることが、黒沢研究室の最大の魅力です」
    
 こう語るのは、松田亮さん(博士後期課程3年)。2021年度と22年度の2度にわたって、学生研究者として、南極地域観測隊に参加。現在、国立極地研究所の研究者と共に、南極海の生態系について共同研究を重ねている。
    

松田亮さん
松田亮さん

    
 同観測隊は、波乱の連続だったが、その中で大切なものを得たという。21年には、給油地でコロナ感染者が急増したため上陸できず、調査自体が途中で中止に。22年は、過密なスケジュールの中、船酔いにも苦しめられながら、やっとの思いで試料を採取できた。
    
 松田さんは語る。
    
 「実験室で使う試料が、どういう過程を経て目の前にあるのかを意識するようになりました。
    
 船の上では、研究者はもちろん、船員の方々とも協力してはじめて観測が進められます。黒沢先生が言われていた『研究は一人ではできない。ほかの人と関わりながら進めることが大切』という言葉の重みを感じました。
    
 感謝を忘れず、謙虚な気持ちで研究に挑むことが大切だと実感しました」
    

長崎県雲仙市の温泉(自噴泉)で実施された好熱菌採取の様子
長崎県雲仙市の温泉(自噴泉)で実施された好熱菌採取の様子

 ◇ 
    
 この春、修士課程を終え、新社会人となった阿知波和樹さんの胸には、ある実感が湧き上がる。
    
 「創価大学で学ぶことができて、本当に良かった。今だからこそ、心からそう言えます」
    

阿知波和樹さん
阿知波和樹さん

    
 もともと国公立の大学を目指していた阿知波さん。親の勧めで渋々参加した創大のオープンキャンパスで、心が変わったという。
    
 「先輩たちが、きちんと『私』を見て対応してくれている気がして、輝いて見えたんです」
    
 その後、国立大学に合格を果たしたが、“創大の方が楽しいかもしれない”と感じ、創大理工学部に進学した。そこには、自分が学びたいことを全力で応援してくれる学習環境があった。黒沢研究室もそうだった。
    
 「私が研究した、酸性温泉に生息するイデユコゴメという小さな藻類は、研究室で取り扱ったことのない生物でした。それでも黒沢先生は背中を押してくれました。意欲さえあれば、新しいテーマや実験にも挑戦させてくれました」
    

    
 学部4年の時は、デンマークに留学。世界の学生が確固たる哲学を持っていることを実感した。留学先で創立者・池田先生の著作を読み深め、「大学は、大学に行けなかった人々のためにこそある」という教育哲学を心に刻んだ。
    
 帰国後は、創大の大学院に進学。昨年9月には、イギリスのウェールズ地方で開催された国際好熱菌会議で学会発表を行い、最優秀ポスター賞を受賞した。
    
 後輩の進路支援をするキャリアサポートスタッフ(CSS)にも所属し、創大の発展にも力を注いだ。この春からは、大手電機メーカーの電子部品事業を手がける関連会社に勤めている。
    
 「池田先生が創大生に託した思いを忘れることなく、黒沢研究室で学んだことを生かして、社会人生活も頑張っていきます」
    

社会で生きる力

 一人一人の可能性を引き出す黒沢研究室の学びは、生命探究の分野のみならず、社会の各分野に進む卒業生の支えにもなっている。
    
 大手半導体メーカーで、開発戦略を担当している梶原鈴加さんは振り返る。
    
 「黒沢先生は何でも率直に相談できる存在です。少し失礼な話なのですが、研究室に入る際、何を研究したいかよりも、開発職に就職するために大学院に入りたいと言う私に、先生は修士課程で終わるのにピッタリなテーマを見つけてくださったんです」
    

顕微鏡で微生物を観察
顕微鏡で微生物を観察

    
 その中で、自主的に研究計画を立てる力や、他者と連携し計画を進める実行力など、仕事に生かせる実力が身に付いた。その結果、今の職場では、入社半年で新しいメモリーの構造を提案し、特許出願を果たすなど、目に見える成果を出すことができた。
    
 「私自身の希望を尊重してくださった黒沢先生のおかげです。感謝の思いで、挑戦を続けます」
    
 ◇ 
    
 宮林裕香さんは、グローバルに展開する日本の産業用機械メーカーで、研究開発に携わる。
    
 創大では“早く実験がしたい”と、学部2年から黒沢研究室に参加し、修士課程では3本の論文が学術誌に掲載されるなど、実験にも論文にも徹底して取り組んだ。
    

コンピューターを使ってDNAを解析
コンピューターを使ってDNAを解析

    
 「研究の相談や論文の添削など、教授に“体当たり”で学んだことや、研究室のメンバーと切磋琢磨し、自ら考え、発信し、意見をもらいながら探究した姿勢は、今の仕事にも生きています」
    
 この春、入社4年目を迎えた宮林さん。職場では、学生時代とは異なる熱力学や流体力学を専門的に学び、エネルギー管理士など、難関の国家資格も取得。会社を代表して、国立大学等との共同研究や社内外で研究発表を行うなど、活躍の幅を広げている。
    
 ◇ 
    
 最後に、黒沢教授にこれからの抱負を聞くと、はにかみながら答えてくれた。
    

南極地域観測隊の一員として、南極大陸で調査を行う黒沢教授
南極地域観測隊の一員として、南極大陸で調査を行う黒沢教授

    
 「この研究、役に立つんですかと、よく聞かれるんです(笑)。
    
 現代は、分かりやすい意味や結果を見いだしたがる傾向にあると思います。しかし、未知のことを知りたい、新しい何かを発見したいという、あくなき探究心と好奇心の先に、生命の可能性が見え、想像もしていなかった新たな価値が生まれていくと思うんです。
    
 どんなことも突き詰めていけば後から意味は付いてくる。そのことを多くの学生に伝えていきたいですね!」
     
     

◆NEWS&TOPICS
創大・短大オープンキャンパス
5月3日(金・祝)、4日(土・祝)開催!

 創価大学、創価女子短期大学では、5月3日(金・祝)、4日(土・祝)に、オープンキャンパスを開催する。詳細は、各ホームページを参照。
 問い合わせは「創大アドミッションズセンター」〈042(691)4617〉、「創価女子短期大学入試事務室」〈042(691)9480〉まで。
   
 創大HP
   
 短大HP
  

教員採用試験合格者が200人を突破!

 創価大学では、2023年度実施(24年度採用)の教員採用試験の合格者が200人を突破した(学部・大学院・卒業生、通教および通教卒業生の合計数)。これにより、開学以来の累計合格者は8500人を超えた。
   
 創価大学の教職キャリアセンター相談室では、校長経験を持つ指導講師による、採用試験対策講座を日常的に開講し、きめ細かな指導を実施している。また、卒業した現職教員との相談会なども行っており、教職を目指す学生のサポート体制の充実に力を入れている。

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高知県出身。IT企業勤務を経て独立。エンタメから古典文学まで評論や解説を幅広く手がける。新刊『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)発売中。

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