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〈SDGs×SEIKYO〉 小さな島から大きな発信――NPO法人「隠岐しぜんむら」理事長 2024年4月4日

6:44

 島根県・海士町で、主に野生動植物の調査研究に取り組むNPO法人「隠岐しぜんむら」。理事長を務める深谷治さん(64)=副開拓長(副ブロック長)=は、大人から子どもまでを対象に、地域の自然や歴史を学ぶエコツーリズムや、自然環境教育にも取り組んでいます。(今回はSDGsの15番目の目標「陸の豊かさも守ろう」について考えます。取材=石塚哲也、野呂輝明)

この記事のテーマは「陸の豊かさも守ろう」

 島根県の隠岐諸島は、約600万年前に火山の大噴火によって誕生した離島。動植物の中には、島の環境に合わせて、独自の進化を遂げた固有種が多く存在する。

 その一方で、沿岸部には漂着ごみの山。放置された竹林が里山を荒らす“竹害”。外来種の動植物も根を張るようになった。

 深谷さんは島の自然について「一見、豊かに見えます。でも、実際は危機的な状況。専門的な知識を持つ人がそれほど多くない。だから人間が目先の利益を追うのみで、好き放題に自然と関われるようになってしまっていた」。

隠岐諸島は2013年に「世界ジオパーク」に登録され、2年後には「ユネスコ世界ジオパーク」認定された
隠岐諸島は2013年に「世界ジオパーク」に登録され、2年後には「ユネスコ世界ジオパーク」認定された

 大学卒業後、大手二輪メーカーの営業職に。幼い頃から自然や生き物が大好きで、野鳥や植物の観察にいそしんだ。

 就職後、それらの趣味が高じて、自然保全の思いからエコツーリズム活動を始めた。

 「鳥がかわいいというのも理由なんですが、鳥を観察すると自然の課題が見えてくる。地域の自然に親しめるだけでなく、生態系の構成を知る材料なんです」

隠岐の成り立ちなどを学べる展示室で説明する深谷さん
隠岐の成り立ちなどを学べる展示室で説明する深谷さん

 会社員として15年が過ぎ、エコツーリズム活動が知られるようになった頃、一緒に活動をしていた知り合いから「隠岐諸島の森林が、外来種の生物が原因で枯れ果ててしまっている」と聞いた。

 その頃、島の森林復興計画が持ち上がり、行政から声がかかった。

 将来は自然と向き合う仕事をしたかった深谷さんは二つ返事で快諾。仕事を辞めて、1998年、同県松江市から海士町へ移住した。

 復興事業には、8年携わった。隠岐の自然に触れるうち「自然の自発的な動きを助ける仕事がしたくなったんです」。

NPO法人「隠岐しぜんむら」は、自然の恩恵を享受する多くの人々の利益や地域経済の発展、人々の住みよい地域づくりに寄与することを目的としている
NPO法人「隠岐しぜんむら」は、自然の恩恵を享受する多くの人々の利益や地域経済の発展、人々の住みよい地域づくりに寄与することを目的としている

 2006年、隠岐諸島の自然保護を行う任意団体を立ち上げ、6年後にはNPO法人「隠岐しぜんむら」を設立した。

 野生動植物の調査研究や自然環境教育を実施。地域住民や旅行者の環境意識の向上にも取り組んだ。

 深谷さんの活動は多くのメディアに取り上げられ、“島初”のIターン者として活躍が紹介された。

 だが、島民にとって自然は「保護する場所」ではなく「生きる糧を得る場所」であり、活動への理解は広がらなかった。

 「たくさん文献を読み、知識を蓄えた。いつか分かってもらえると信じて活動を続けました」

 信心強盛な家庭に生まれた深谷さん。未来部時代、夏季講習会に参加し、池田大作先生との出会いを刻んだ。

 先生は“信念を持ち続けること”の大切さを教えてくれた。

 学生時代は学会活動に励んでいたものの、就職してからは会合からも足が遠のいた。

 島に移住し、久しぶりに参加した座談会。皆の温かさが心に染みた。ある先輩は語ってくれた。

 「私は病気になって初めて健康の大切さに気づいた。目先のことだけ考えていてはいけない。未来を見つめていくことが幸福につながる」と。

 池田先生に教えてもらった“信念”の大切さを思い返し、中途半端なスキルでは「環境の破壊は止められない」と思った。

中途半端なスキルでは「自然保全はできない」と、常に学び続ける深谷さん
中途半端なスキルでは「自然保全はできない」と、常に学び続ける深谷さん

 その後、猛勉強の末、鳥類標識調査員や、ビオトープ(生物生息空間)管理士などの資格を取得。法人のスタッフも拡充した。

 13年には隠岐諸島が「世界ジオパーク」に認定。全国、世界中から注目を浴びるようになると、深谷さんの取り組みに賛同する人も増えた。

 18年には、島に住むお母さんたちや、行政からの後押しもあり、幼少期から自然と触れ合うことの大切さを感じてもらうための保育園を開園。深谷さんは“そんちょう”として、14人の園児たちと一緒に遊んだり、動植物の説明をしたりしながら、子どもたちが島を愛する気持ちや、生きる力の土台を育んでいる。

約280万年前の火山活動で形成された明屋海岸は、海食崖や海食洞が約1キロメートルにわたって続く景勝地
約280万年前の火山活動で形成された明屋海岸は、海食崖や海食洞が約1キロメートルにわたって続く景勝地

 子どもから大人まで、自然と触れ合うことは、生態系の一部である人間が自然との理解を深める基本的な行動だ。

 SDGsの目標達成に近づくために必要なのは、「未来を考えた行動」を意識していくことかもしれない。

 深谷さんは語っている。
 「一歩でも二歩でも自然に寄り添う気持ちがあれば、小さな島からでも大きな発信ができる。私はそう信じています」

●最後までお読みいただき、ありがとうございます。ぜひ、ご感想をお寄せください→ sdgs@seikyo-np.jp

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高知県出身。IT企業勤務を経て独立。エンタメから古典文学まで評論や解説を幅広く手がける。新刊『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)発売中。

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