第10回「これからのteam論」に登場いただくのは、組織開発ファシリテーターとして企業や団体などでチームづくりに携わる長尾彰さんです。本年8月、人気漫画『宇宙兄弟』(作・小山宙哉、講談社)を題材にしたビジネス書『リーダーの話』『チームの話』(Gakken)を発刊。『宇宙兄弟』の魅力を通して、リーダーシップの在り方やチームづくりのポイントについて伺います。
〈インタビューまとめ〉
・サポートに徹し、主体性を促す「ファシリテーター型リーダーシップ」。
・優等生タイプの「賢者風」であろうとしない。しんどくない「愚者風」でいこう。
・自分の内面を見つめ、「Want」の気持ちを素直に言葉にする。
――なぜ『宇宙兄弟』を題材にしたのですか。
『宇宙兄弟』は、主人公・南波六太と弟・日々人が宇宙飛行士となり、月を目指す物語です。当然ですが、一人では宇宙に行くことはできません。宇宙飛行士同士はもちろん、地上でサポートする人、宇宙船を開発する人など、多くの人が関わることで、初めて可能となります。宇宙に行くこと自体が、チームであることを前提にしているのです。さらに作中には、リーダーシップを体現する魅力的な人物やエピソードが数多く登場します。リーダーやチームを語る題材には、もってこいだと思ったのです。
――現代は「VUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)の時代」といわれます。どのようなリーダーが求められますか。
その前に、何がVUCAなのかが語られていないように思います。少子高齢化や雇用の流動化、AIの目覚ましい進化など、さまざまな要素がごちゃごちゃになって、なんとなく不安な気持ちだけが先走っている。不安な時って、頼れるものが欲しくなるし、強いリーダーを求めがちですよね。
そういった状況をつくり出さないための役割として、「ファシリテーター型リーダーシップ」という考え方があります。ファシリテーターとは調整役のことであり、議論を深めて「共創」を促す存在です。先頭に立って、良しあしをジャッジしたり、独断で結論を出したりするのではなく、メンバー自身が主体的に考え、行動できる環境を整えることに注力します。メンバーの力を引き出し、チームとしての力を最大化する。それが「ファシリテーター型リーダーシップ」です。
――主人公・六太は、それを表現したようなキャラクターなのですね。
その通りです。僕はこの六太のように、リーダーシップは先に立つことばかりではないと考えています。物語では印象深いエピソードがあります。小学生だった南波兄弟が、夏休みに東京から京都までの自転車旅行に挑戦しました。日が暮れて、弟・日々人の自転車のライトが電池切れになってしまう。後ろを走っていた六太は、それに気付くと、自分の自転車のライトで弟の足元を照らし、走りやすくしてあげるのです。自分が前に出るのではなく、後ろから支える。いかにも彼らしい行動です。
六太は、相手の意思を尊重し、過度な介入はしません。サポートに徹しながら、自分にできることを模索し、実践することで状況を変えていく。その姿勢が、周囲の仲間たちの心を自然と動かしていくのです。料理でいえば「だし」のような役割です(笑)。
――目立たないけど、いないと困る存在です。
よりイメージしやすいよう、僕はリーダーを「賢者風」と「愚者風」という二つの概念で立て分けました。
賢者風のリーダーは、頭脳明晰で決断力があり、先頭に立って皆を引っ張る優等生タイプ。一方、愚者風は、一見すると頼りなさそうだけど、人の意見をよく聞き、命令ではなく「自分はこうしたい」といったニュアンスで伝える。完璧でない自分を受け入れ、相手にも完璧を求めない。困った時は正直に助けを求める。支えられているように見えて、実は場を支えている。そんな存在です。もちろん、どちらが正しいということではありません。ただ、僕はあえて言いたいのです。「愚者風でいこうよ」と。
誰でも優秀に見られたいものですが、それって、プレッシャーもあるし、しんどいんですよね。愚者風には、そのしんどさがありません。「愚者のように振る舞う」のではなく、「賢者であろうとしない」。六太は、まさに愚者風リーダーシップを体現しています。
漫画の中でも、「頼りになる」と言われることはありません。張り切ってまとめようとすると、「君には似合わない」と、たしなめられてしまう。でも、六太がいると、なぜか物事がうまくいく。リーダーの役割は、仕切ることや命令することではありません。仲間たちの心を動かし、自然と「リード」していく。それが本質だと思います。