第12回「これからのteam論」にご登場いただくのは、哲学者の岸見一郎さんです。世界的ベストセラー『嫌われる勇気』の共著者として知られ、アドラー心理学の第一人者として、対人関係や人生のあり方に新たな視座を提示し続けてきました。岸見さんが提唱する「民主的リーダーシップ」について聞きました。
〈インタビューまとめ〉
・誰に対しても態度を変えない。また、そう振る舞うよう意識する。
・どんなに小さな貢献にも注目して、「ありがとう」と言葉を掛ける。
・間違いを認め、変わろうとするリーダーに周囲は勇気づけられ、付いていく。
――アドラー心理学に基づく「民主的リーダーシップ」とは、どのようなものですか。
一言で言えば、リーダーもメンバーも「人間として対等である」ということです。
私が高校に入学した頃のことです。ある年配の先生と廊下ですれ違いました。その先生とは年齢が親子以上に離れているのに、私が会釈をすると、ちゃんと歩みを止めて頭を深く下げてくださった。驚きました。
倫理を教える先生で、授業中もどんな生徒も見下すことなく、丁寧な言葉遣いで対等に接してくれた。自分もいつか教師になったら、このような態度で臨みたいと思ったものです。「民主的リーダーシップ」とは、まさにこのような姿勢のことです。
教師と生徒、上司と部下など、立場や職責の違いで、仕事の裁量や責任の重さは当然、異なります。しかし、それは人間としての上下ではありません。
管理職になった人から、よく「部下への態度や言葉遣いは、どう変えればいいか」と質問されることがありますが、答えは簡単です。これまでと同じ態度で臨むことです。職責が変わるだけで、人間として偉くなったわけではありませんから。
大事なことは、誰に対しても態度を変えないリーダーでいることです。またそう振る舞うよう意識することです。
自分より下の人には横柄な態度を取り、上の人には媚びへつらう人には、誰も付いていかないでしょう。
そのような人には、おそらく劣等感がある。普通にしていたらバカにされるとか、自分が無能であることを見透かされると思って、本来の仕事とは関係ないところで部下を威圧する。これがパワハラです。アドラーは「価値低減傾向」と呼んでいて、相手の価値を貶めるようなことを言って、相対的に自分の価値を高めようとするのです。
真に優れたリーダーは、優れていることを誇示しません。人を威圧するのではなく、毅然とした態度で、リーダーとして必要な知識を身に付けることに専念しています。部下はそういう人の下で、もっと働こうと思えるのです。
――リーダーがメンバーと接する上で、どのような点を心がければ良いでしょうか。
アドラーは「自分に価値があると思えた時だけ勇気が持てる」と言います。では、どういう時に人は自分に価値があると思えるのか。それは「他者に貢献していると実感できた時」です。
ゆえにリーダーが取るべき行動は、その人が自分に価値があると思えるための「勇気づけ」です。かける言葉は、叱ることでも、ほめることでもなく、「ありがとう」です。部下がやり遂げたことに対して、その貢献に注目して「ありがとう」と声をかけるのです。
コピーを取ってくれた時も「ありがとう」。極端に言えば、部下が出勤するのも当然のことではないのですから、仮に失敗を繰り返して、自分はダメだと部下が思ったとしても、一日の終わりには「今日も働いてくれて、ありがとう」なのです。
まだまだ力不足だが上司が認めてくれている、自分はチームの役に立っていると、実感を持てることが重要なのです。そうすれば、“自分はここに居ていいんだ”“もっと頑張ろう”と勇気が持てる。リーダーが「ありがとう」と声をかけることから、チームの変化は始まるのです。