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【「問い」を考える特集】〈インタビュー〉 「問う」ことで見えてくる――自分の可能性と“新たな世界”  2025年3月2日

 今回は、「『問い』を考える」特集コンテンツをお届けします。スマートフォンをはじめとするデジタル機器や対話型AIの発展によって、私たちの日常は、大量の情報であふれるようになりました。その情報と向き合う手段として、編集工学研究所で社長を務める安藤昭子さんは「問い」というテーマに着目します。問いが生まれるメカニズムと、問いから見えてくる個人の可能性と“新たな世界”に迫ります。 

「問い」と「編集工学」
 ――昨年9月、新著『問いの編集力』を出版されました。興味深いタイトルですが、どのような意味が込められているのでしょうか。

 理化学研究所と編集工学研究所の共同事業に「科学道100冊」プロジェクトがあります。科学者の思考を六つのステップで分析しているのですが、その一つ目は「はじまりは疑問」というステップです。ある時、学校教育に携わる教員の方から「その『疑問』はどのように始まるのでしょうか?」と質問されたことがあり、私は答えに詰まりました。

 日本の教育では、「答えを出す」ことが重視されてきましたが、その半面、自分で「問い」を立てる練習はしてこなかったのではないでしょうか。それでは、好奇心の起点である“疑問を持つ”力が弱ってしまいます。「変動性」「不確実性」などと表現される現代社会では、既存の価値観が崩れていく中で、自分が解くべき問題を設定するのは、他ならぬ自分自身になっています。

 それにもかかわらず、問いが何かということは、見過ごされがちです。そこで、私たちが行っている「編集工学」によって、それをひも解けるのではないかと考えました。

 ――「編集工学」とはどのような考え方ですか。

 「編集」と聞くと、雑誌編集、映像編集など、特定の職業を思い浮かべるかもしれません。しかし「編集工学」では、「情報」を扱う営みは全て「編集行為」だと考えます。また、情報とはインフォメーションだけに限りません。例えば、自分のクローゼットにある洋服のラインアップも情報です。朝起きて、天気や予定を考慮しながら、着る洋服を選ぶ。それも、編集行為なんです。情報と情報を組み合わせたり、比べたりしながら、なんらかの見方を導き出すことを「編集」と捉えています。

「あたりまえ」を疑う
 ――問いの編集力は、どのように高めていけるのでしょうか。

 日常生活の中には、考える労力を使わなくて済むような「固定観念」があります。そんな、「あたりまえ」を「ほんとにそれでいいのかな?」と問う習慣を身に付けることがポイントです。それは例えば“(親に対する)子どもとしてはこうあるべき”“学校の生徒としてはこうあるべき”“友達としてはこう”……のように、自分が無自覚に規定している「私」という枠組みを取り外すことから始まります。まずは「私は○○な××である」というように、「たくさんの私」を書き出してみてください。固定観念の膜を破るための「土壌をほぐす」ことから、「問い」は生まれていきます。

 ――安藤さん自身にも、そうした経験がありますか。

 私は20年ほど前まで、出版社に勤めていました。書籍編集の部署にいましたが、「自分のやりたいことは何だろう?」と悩み始めたんですね。というのも、興味・関心が、会社の部署の枠組みに収まらなかったんです。インターネットにも関心を持ち始め、システムの部署に入り浸ってはプログラミングを教えてもらいました。書籍の構想を考えることと、プログラミングは、私の中では“つながっている”感覚があるのですが、周囲にはなかなか理解されない。そんな時、編集工学研究所を設立した松岡正剛の書籍に出合い、同じく松岡が設立したイシス編集学校に入り、師事しました。私の人生も、「あたりまえ」に対する問いによって進んできたと言えます。

師から引き継いだもの
 ――松岡正剛氏は、日本文化を独自の視点で読み解く著作を次々と発表し、2000年からウェブサイト上で書籍を紹介する「千夜千冊」の連載を始め、昨年8月に逝去されるまでに1800冊を超える書籍を世に発信してこられました。松岡氏に師事し、安藤さんは何を得ましたか。

 編集工学という思考の体系を残してくれたので、まずはそれを学べたということ。また、幸いなことに松岡の近くで仕事をする縁をいただいたので、松岡が何かを行動する際、“何を捨て何を取っておくのか”と考えながら“二重写し”で師の姿を見ていました。その方が、行動や結果といった“一重”の師匠だけを見ている時よりも、はるかに習得が早いと思います。編集工学では「方法を盗む」という言い方をしますけれども、松岡の思想とか知識のみならず、「松岡の方法」を見るということをやっていたように思います。

 ――私たちは、創価学会の池田大作第三代会長の著作である小説『人間革命』『新・人間革命』などから、当会の歴史や師弟の精神を学んでいます。

 創価学会には、多くの言葉が残されていると思いますが、そうした言葉からも、師の息づかいを感じることができますね。編集工学研究所では今、「探究型読書」というものを発信しているのですが、これは、松岡の読書の仕方を「方法」として学び、多くの人が活用できる型にしたものです。ぜひ書籍や言葉から、“師匠が何を考えていたのか”“なぜそう考えたのか”を学ぶお役に立てれば幸いです。

考えることで開ける景色
 ――日常に問いを生むことで得られるものがある一方で、記者と同世代の若者からは“考える労力を使って疲れたくない”“現状に疑問を持ってわざわざ不安になる意味ある?”という声を聞くことがあります。

 確かに「あたりまえ」に従って行動するのって、すごく楽です。問いを生み、その平穏を破って考えることは労力も必要ですし、従来の価値観が揺らぐという意味では痛みを伴うこともある。“こうすべき”という“正解”を示すことはできませんが、“平穏な今”を破るか破らないか。特に若い世代の人には、ぜひ自覚的に選択できる状態に自分を保つことをおすすめします。そのためには、自分の視点を上げる必要があるわけです。

 冒頭でも話題になりましたが、現代は、検索すればすぐに知識を得ることができます。膨大な知識が外付けハードディスクだとしたら、それらにアクセスするために必要なアプリケーションが「問う力」です。それは、想像力とも言い換えられるもので、歩かないと足の筋力が落ちるように、使わなければ低下してしまいます。すると、与えられた情報をのみ込むことしかできなくなってしまう。昔に比べて、知識の希少価値は下がっていきますが、人間の想像力はますます貴重なものになっていきます。

 ――いわゆるリスクを選んででも「問う力」を養うことで、私たちには、どんな変化が起こるのでしょうか。

 自分から積極的に生活を面白くすることができます。また、思いがけない困難な事態に直面しても、状況を捉え直すことで、苦悩に負けない耐性、つまり、生きやすさを獲得できるんです。“悩み”も、結局は情報の集合体なので、「問い」によって編集することができる。そうすると、かつて「まあいいか」と平穏に埋没していた時に、見えなかったような可能性に気づくことができる。苦労して登った山頂から、予想もしていなかった美しい景色が広がっていた時のような発見――そうすると、また次の違う景色があることを確信できるし、それを見たいと思い、新たな問いが生まれる。その連鎖が、生きることの面白さであると思います。

 編集力は、自分の中だけで完結するものではありません。環境との相互作用の営みです。ぜひ、自分が気づいた世の中の見え方を、周りの人と共有してみてください。自分たちの生きるこの世界を好きになっていくことができるのが、「問い」の力ではないでしょうか。

プロフィル

 あんどう・あきこ 編集工学研究所・代表取締役社長。出版社で書籍編集や事業開発に従事した後、「イシス編集学校」にて松岡正剛に師事、「編集」の意味を大幅に捉え直す。これがきっかけとなり、2010年に編集工学研究所に入社。2021年に代表取締役社長に就任。企業の人材・組織開発や理念・ヴィジョン設計、教育プログラム開発や図書空間プロデュースなど、多領域にわたる課題解決や価値創造の方法を「編集工学」を用いて開発・支援している。「Hyper-Editing Platform[AIDA]」プロデューサー、丸善雄松堂株式会社取締役。著書に『問いの編集力』『才能をひらく編集工学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、共著に『探究型読書』(クロスメディア・パブリッシング)など。

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