『流浪の月』『汝、星のごとく』で2度の本屋大賞を受賞した作家の凪良ゆうさん。この5月に2年半ぶりの新作『多類婚姻譚』(講談社)が刊行された。テーマは「結婚」。誰もが一度は考えるであろう身近な事柄でありながら、時代とともに、その在り方は変化している。今月15日に発表される直木賞にもノミネートされた注目作。凪良さんに作品への思いを聞いた。
なぜ「結婚」をテーマに小説を書いたのか。凪良さんはこう切り出した。
「結婚という制度と今の時代の“かみ合わせ”が少し悪くなっていると思うんです」
私たちが生きる今は、個性が尊重され、自分のスタイルを持っている人がかっこいいとされる時代。それが、実際に結婚となり、異なる価値観を持つ二人が一つ屋根の下で暮らすことになると、どうなるか。
「今までずっと自分の生き方を通してきた人が、いざ結婚するとなって我慢や譲り合いを求められるわけです。『いやいや、自分の生き方も大事だし』となってしまう」
こうした問題意識が今作のタイトル『多類婚姻譚』にも込められている。もともと「異類婚姻譚」という言葉がある。「雪女」や「鶴の恩返し」など、人間と人間以外の婚姻を描いた物語の総称だ。
「個人の価値観や考え方がバラバラになってきていて、もはや同類とは言えないくらい幅が広がっている気がします。『異類』ではないけれど、多様性という意味で『多類』と表現しました」
個人の責任では済まない
物語は、東京を舞台の中心とした五つの短編で構成されている。東京を選んだのには理由がある。
「東京はいろんな人が暮らす雑多な街。ですが、地方から上京してくる人と、もともと東京に住んでいる人の間には、ちょっと越えられない壁があります」
その最たる例が実家の存在。地方から来た人は、高い家賃など生活費の全てを自分でまかなわないといけない。実家暮らしの人と比べて、同じ給料でも生活の余裕が全く違う。
「その時点で、すでに差がついている。そういったシビアな現実を一番書きやすいのが東京だったんです」
登場人物の一人、地方から上京してきた女性・野々村花織が象徴的だ。派遣社員で、給料は地元と比べると高給だが、東京で暮らすにはやっと。将来の安心を考えたとき、彼女にとって一番の選択となるのが結婚。だが社内では、婚活に必死だと冷ややかに見られている。
「彼女が抱えてる問題って、本人がどうにかできるものではないと思うんです。ましてや彼女のせいでは絶対にない。もっと大きな社会構造の問題なのに、一人の女性の責任に落とし込まれてしまう。問題の根っこは別のところにある。そこに光を当てたかったんです」
「今って、若いうちから老後資金のことも考えなきゃいけない。でも1カ月暮らすのがやっとの人が、どうやって数千万単位のお金をためるのか。その手だてとして結婚にすがる。それしか道が見えないっていうのは、仕方ない部分もあると思うんです。それは決して弱さじゃない」