企画・連載
【ルポ一滴】 「ミルフィーユ大作戦」――訪問・激励の歩み 2025年3月7日
人口が減少している地域で、地区座談会の参加者が増えている組織があると知り、島根県松江市に向かいました。
地区の絆が強まっている秘訣は何か――キーワードは皆が大好きなあのお菓子、「ミルフィーユ」でした。(記事=中谷光昭)
各地で「座談会革命」を目指し、懇談的で双方向の語らいができるよう、さまざまな企画が考案されています。
うまくいっている組織もあれば、「全員が話すと一人の時間が短くなり、双方向で話せない」「“人前で話すのが苦手”という人もいて、どうすれば皆が楽しめるか」などの状況で、試行錯誤を重ねるリーダーも少なくありません。
島根県松江市の「池田平和地区」では、双方向の語らいを座談会だけで完結させようとせず、「座談会を中心に深めていこう」としています。
地区の皆さんに話を聞くと、それを実現するための「三つの秘訣」があることに気付きました。
その第一は、「何でも話せる『地区協議会』にしていくこと」です。
座談会の準備は、企画を考える地区協議会から始まります。
協議会がどうかで、「座談会の充実度」が変わるといっても過言ではありません。
取材をしていて印象的だったのは、白ゆり長の篠原政子さんの「地区協議会に参加するのが、とても楽しいんです。毎回楽しい。そこに感動しています」との言葉でした。
そんな篠原さんですが、かつては、連絡事項や幹部の話を「聞くばかりで、遠慮して自分の意見が言えず、終わると一目散に帰っていました(笑)」と言います。
アイデアなど前向きな意見も、時には不満や不安など後ろ向きな言葉であっても、「空気を読まずに話せるようになってから、協議会に行くのが楽しみになった」そうです。
開拓長(ブロック長)の田邊顕一さんも「ちょっと頭にきたことや愚痴みたいな話でも、みんな否定しないで、笑って受け止めてくれます。気まずい雰囲気にならないから安心していられる」と語っていました。
たとえネガティブなことであっても、「自分の意見を言う」ことで、人は主体的になれます。
「主体者」が増えると、座談会の結集や企画が自然と充実していきます。
また、リーダー同士が、協議会で何でも言える雰囲気をつくると、それが座談会でのトークの場にも波及し、盛り上がっていきます。
座談会革命は、「協議会革命から始まる」ことを教わりました。
第二の秘訣は、「話の続きを『訪問・激励』でする」です。
池田平和地区は座談会の参加者が多いため、少人数のグループトークの企画を設けるなど、一人が話せる時間を増やそうと心がけています。
「座談会でどのようなことをしたいか」「私の趣味・特技」などのトークテーマを用意し、思い思いに語り合います。
それでも、参加者全員に話をしてもらうと、どうしても「一人が話せる時間」は限られてしまいます。
“もうちょっと話したかったな”と思う人は、会合後に短い時間で談笑。「このおしゃべりが楽しみで会合に来ている」という人もいるほど、会合後の雑談の時間は、自分の胸の内を開放できる大切な時間になっています。
ですが、会場の使用時間には限りがあります。また、次の予定に急ぐ人もいれば、“人前で話すのは……”という思いを抱えて家路に就く人もいます。
そこで池田平和地区では、会合の場で話し足りなかったことや、もう少し聞きたかった話の続きを「訪問・激励」の場で聞くようにしているそうです。
「一対一」でじっくり話すと、本音が聞けたり、話せたり――。
岸本千鶴さん(地区女性部長)は語っていました。
「私は“あがり症”で、人前で話すのが苦手なので、座談会で“話を振られるのが怖い”という人の気持ちがよく分かります。
だからこそ、訪問・激励に歩いて、皆さんの声を聞くように心がけています。
『私、人見知りで』とおっしゃる方でも、お宅に伺って話すと、思いが込み上げてくるのか、いろんなことを赤裸々に語ってくださって、気付けば数時間たっていたことも(笑)。心の距離が縮まります」
また、さまざまな理由により、座談会に参加できなかったメンバーのもとへも、足しげく通います。
白ゆり長の田邊明美さんは語っていました。
「私は以前、『会合に行きたくないな』という時期がありました。
そんな時、うちに通ってくださった女性部の先輩がいて。玄関に飾っていた手作りの小物を見つけて『あなた、こういうの好きなのね』って、私に絵手紙を書いて贈ってくださったんです。
その真心がうれしくて、“もう一度、頑張ってみよう”と思いました。
会いに行くと、その人のことがよく分かります。私も、そんな女性部の方のように誰かを励ませたらと思い、訪問・激励を重ねています」
ただ、地区部長と地区女性部長、開拓長と白ゆり長だけでは、全部員宅を回って一人一人の言葉にじっくりと耳を傾けるのは時間がかかってしまいます。
池田平和地区では、地区内に住む総県から支部までの壮年・女性部の副役職のリーダーが、地区の隅々まで足しげく回っています。
開拓長の永田常男さんは語っていました。
「最初は、部員さんの所に行く勇気がなかなか出ませんでした。何を話せばいいか分からないし、不安だったからです。
でも、副県長が一緒に回ってくれたおかげで、少しずつ部員さんの所に行けるようになりました。副県長が話している姿を見ながら勉強したんです」
副県長とは、松崎広美さんのことです。松崎さんが「今では、永田さんが地区で一番、座談会の入場整理券を配っておられますよね」と言うと、永田さんは「いやいや」と照れ笑いを浮かべていました。
松崎副県長は、ホテルのフロント業務と福祉施設の指導員のダブルワークをしながら、夜勤もあるという多忙な日々。その中で、時間をこじ開けながら、開拓長と一緒に訪問・激励に歩いています。
女性部でも、岸本地区女性部長はヤング白ゆり世代で、3人の子育て中。介護の仕事もしています。
目まぐるしい日々の中、悩みに寄り添い、相談に乗ってくれる女性部の先輩方が支えになっています。
経験豊かな副役職のリーダーが「地区のメンバーの幸福責任者として」動く――その姿は、補佐的な意味合いの「副」ではなく、同志の幸せのために走る「福」役職だと感じずにはいられませんでした。
毎日、誰かが誰かのもとへ通い、歩みを重ねていく。
「その重なりは『ミルフィーユ』のようですね」と、小豆澤伸司さん(地区部長)は言います。
「ミルフィーユは、パイ生地とクリームを重ねたお菓子です。池田平和地区は、ミルフィーユのように訪問・激励を丁寧に重ねることで、絆が強まってきたのだと思います」
その中で、一人また一人と、座談会に参加するメンバーが増えていきました。92歳の鞁嶋正夫さん(壮年部員)もその一人です。
鞁嶋さんは数十年間、座談会に参加していませんでした。仕事が忙しく、単身赴任の時期もあり、次第に足が遠のいてしまったと言います。
どうして、久しぶりに参加してみようと思ったのでしょうか。
「学会の集いとはいえ、知らん所にポッと行くのは気が引けますよ。知っている人がいなければ参加したいとは思えません。松崎さんや地区の人が家に来てくれて、コーヒーを飲みながら気さくに笑顔で話を聞いてくれました。信頼できる友ができた。だから(座談会に)行ったんです」
鞁嶋さんは座談会の参加を機に、折伏の挑戦も決意。昨年、友人の串野千代子さんへの弘教が実りました。
第三の秘訣は「互いに祈り合うこと」です。
プライバシーに配慮し、メンバーの承諾を得た上で、池田平和地区では、願いや悩み、課題や目標などを共有し、共に祈り合ってきました。
訪問・激励だけでなく、唱題も「ミルフィーユ」のように重ねてきたのです。
自然と、学会員同士だけでなく、友人や未入会家族の幸せも祈るように。
その中で、岸本地区女性部長の8年越しの対話が実り、友人の八幡浩文さんが御本尊を受持。
岸本さんが八幡さんと共に座談会に参加する姿に触発を受け、田邊顕一さん・明美さん夫妻も対話に挑み、明美さんの兄・岸義重さんが昨年、入会しました。
先ほどの鞁嶋さんの御本尊流布も加わり、「ブロック1世帯」の弘教が結実したのです。
ミルフィーユのように、多彩なメンバーが訪問・激励と唱題を重ねることで、同志のことを一面ではなく「多面的」に、より深く知ることができます。
仕事のことを語る真剣な瞳、家族を思う優しい微笑、苦難に耐える涙、勝利の笑み――歩みを重ねなければ、見ることができない表情があり、知ることができない思いがあります。
池田先生は、語っています。
「『あの人は駄目』『この人はこう』と固定観念をもち、決め込んでしまうと、相手の違った顔が見えない。いな、相手と真っすぐ向き合うことができないのだ。
相手ではない。自分の目に惑わされるのだ。(中略)その心の檻を打ち破ることだ! それには祈りと行動だ。
勇気をもって、ぶつかっていくことだ。動けば、おのずから、視点は変わるのだ」
小豆澤地区部長は語っていました。
「“この人は座談会に来ないだろう”と、こちらが決めつけないように、いつも全部員さんのもとへ、座談会の入場整理券を持って回っています」
訪問・激励を重ね、迎えた先月16日――島根文化講堂で開かれた池田平和地区の座談会には、友人を含め41人が集いました。
座談会後は早速、参加できなかったメンバーのもとへ、地区部長と開拓長、地区女性部長と白ゆり長が、それぞれペアになって訪問・激励に向かいました。
じっくりと相手の話を「聞き切る」。伝えたいことを「語り切る」。そのために、きょうも、丁寧に歩みを重ねていきます。
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