アフリカ南東部に位置し、国民の7割以上が1日3ドル(国際貧困ライン)以下で暮らすマラウイ共和国。この世界で最も貧しい国の一つで、中学校にさえ通えない中、独学で風力発電機を作り、世界的に有名になったのが、ウィリアム・カムクワンバさんです。自伝『風をつかまえた少年』はベストセラーとなり、映画化され、日本でも2019年に上映されました。SDGsの目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」を巡って、カムクワンバさんにインタビューしました。(取材=樹下智)
――2001年から02年にかけてマラウイを襲った飢饉で、カムクワンバさんは一日一食の生活を強いられ、中学校に通えなくなりました。
公式記録には幅がありますが、飢餓とコレラの流行によって、全国で数千人が亡くなったと推定されています。人々は食べ物を求める中で、自宅や道端で静かに命を落としていきました。それは、深い沈黙と悲しみに包まれた日々でした。
学費が払えず中学校を辞めざるを得なくなった時、自分の未来が消えてしまったように感じました。私にとって、学びの世界とつながるための唯一の手段が、地元小学校の図書室に通うことでした。
ある日、図書室で『エネルギーの利用』という本を見つけました。風車の写真と解説が載っていて、水をくみ上げ、電気を生み出せることを知りました。その瞬間、風車こそ飢えを解決する鍵ではないかと直感しました。
マラウイでは、人口の約15%しか送電網にアクセスできません。日本では電力へのアクセスは空気のように当たり前なことかもしれませんが、マラウイでは“ぜいたく品”なのです。
電力は、農家にとって経済的自由そのものです。電気がなければ、農家の仕事は日没とともに終わってしまいます。明かりがあれば、夜に作物を加工したり、道具を修理したり、新しい技術を学んだりすることができます。
何より重要なのは、電気が、かんがいを可能にすることです。マラウイには、何カ月も土地が乾き切る乾期があります。電力があれば、農民は一年中、畑に水を送ることができ、年に1回の収穫を3回へと増やすことができるのです。
――独学で、そして自力で風力発電機を作ることに成功されました。
家族に二度と飢えを経験させたくない。その思いが原動力でした。当時は、お金もない、部品も買えない、ただの14歳の少年でしたが、失敗への恐れよりも、より良い人生を求める強い気持ちの方が勝っていた。トラクターのファンや自転車のフレーム、プラスチックのパイプを求めて、毎日のように廃品置き場を探し回りました。
――カムクワンバさんが通った図書室をつくったNPO「マラウイ教員研修活動」のハートフォード・ムチャズィーメ博士が、自力で風力発電を可能にしたカムクワンバさんの偉業に驚嘆。大勢の記者を連れて自宅を訪れました。
「息子さんは驚異的なことをやってのけたのです」「もっと大きなことをすることになる」――博士の言葉を聞いて、家族の私を見る目も変わりました。博士の言葉は、私が図書室で過ごした全ての時間を肯定してくれたのです。
博士の訪問が、最初の新聞記事につながり、それが国際会議「TEDグローバル」で登壇するきっかけとなり、最終的には、現在の仕事へとつながっていきました。自分のいる場所で問題を解決すると、世界がその解決策を広げるために、やがて力を貸してくれることを、博士は教えてくれました。
世界水準を目指して
――ムチャズィーメ博士の尽力によって5年ぶりに中学校に戻ることができ、その後、奨学金付きで南アフリカの高校を卒業し、アメリカの名門ダートマス大学に進学されました。
ダートマス大学では環境学を専攻しました。私は単に機械を作れるようになりたかったわけではなく、持続可能な開発、再生可能エネルギーの政策、水資源管理の仕組みを理解したかったのです。夏休みにはマラウイに戻り、太陽光発電で水をくみ出すソーラーポンプの試験を行いながら、農家の人々の声に耳を傾けました。
――カムクワンバさんの自伝『風をつかまえた少年』は、アフリカから最優秀の生徒が集う高校で学ぶシーンで終わります。「ぼくはクラスの仲間たちと新しいアフリカを創りたいとよく話し合っている――犠牲者ではなくリーダーを生む場所を、施しを受けるのではなく、自ら変革をもたらす大陸を創りたいと」(田口俊樹訳)との言葉が印象的でした。
大学を卒業した後、アメリカに残って大企業で働く道を、私は選びませんでした。自著で述べた、「自ら変革をもたらす大陸を創りたい」という言葉に対して、深い責任を感じていたからです。
私は、マラウイに「イノベーション(技術革新)のエンジン(原動力)」をつくりたいという思いから、「ムービング・ウインドミルズ」というNPOを共同設立しました。
〈カムクワンバさんが高校生の時だった2008年に設立。就学しながら関わり続け、14年に大学を卒業した後、同団体の仕事に従事している〉
――同団体では、これまでどのような取り組みをされてきたのですか。
「清潔な水」「再生可能エネルギー」を利用し、「質の高い教育」を受けるという、基本的な人権に焦点を当てることから始めました。私と共同設立者たちは、私が風車作りで実践した「限られた資源によるイノベーション」が、地域全体にも応用できることを証明したかったのです。
これまで、25基以上の低価格な井戸を建設し、1万5000人以上に安全な水を提供してきました。また、太陽光発電と先進的な蓄電システムを導入し、学校やかんがいシステムに電力を供給しています。
さらに、八つの小中学校を改修し、何千人もの生徒が、机や本、照明といった勉強に必要な環境を得られるようにしました。そして、地域の方々に農業研修を行いながら、10万食以上の食事を提供してきました。
――現在、特に力を入れているプロジェクトはありますか。
“生きた実験室”ともいうべき、「ムービング・ウインドミルズ・イノベーション・センター」を建設することです。このセンターでは、単に食料を配給するのではなく、農家がデータに基づいて自ら意思決定できるよう、現地語であるチェワ語対応のAI(人工知能)ツールやIoT(モノのインターネット)センサーを提供します。
また現在も、16歳から25歳までのマラウイの青年たちに、太陽光グリッド(電力網)の維持・管理や、センサー修理の技術を教えています。イギリスやアメリカの一流大学とも提携し、アフリカ主導のイノベーションが世界水準であると示すことを目指しています。
これまで多くの若者たちと出会う中で、彼ら、彼女たちもまた、14歳だった時の私と同じように、“火花”のような情熱を胸に抱いていることに気づきました。ただ、それを実現するための手段がないのです。その手段を、私たちのセンターで提供したいのです。
「ムービング・ウインドミルズ」に集う若者たちを見ると、私が南アフリカの高校の教室で夢見ていた光景、そのものを見ているような気持ちになります。それは、援助を待つのではなく、風や太陽や土を活用しながら、自らの未来を描き上げていく、次世代のリーダーたちの姿です。
“火花”を太陽に
――SDGsの目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」には、「開発途上国における持続可能でレジリエントなインフラ開発を促進する」ことが掲げられています。
先進国からの支援には、現地で修理できない「ブラックボックス型」の技術を導入するケースがあまりに多い。ポンプが故障しても、修理するための部品や知識を持つ人がいなければ、そのインフラは機能を停止してしまいます。
インターネットや安定した電力がなければ、農家は「データの見えない状態」に置かれ、世界市場で競争したり、変化する気候パターンに適応したりすることができません。だからこそ「ムービング・ウインドミルズ」では、地域レベルで太陽光発電システムやIoTネットワークを構築し、自分たちの力で、分散型電力網を維持・管理することを目指しています。
そうすれば、たとえ国家インフラの一部が機能を停止しても、地域社会では電力と通信、そして食料供給を維持することができるからです。
SDGsの目標9は、あらゆる発展を支える「骨格」です。そこには、道路や橋といったインフラだけではなく研究開発も含まれます。農村地域にAI活用型の農業データを提供できれば、あらゆる農家が恩恵を受けることができます。アフリカが援助を受ける側から、世界に向けて、解決策を自ら提示できる存在へと変革する鍵こそ、目標9であると、私は考えます。
――創価学会第3代会長の池田先生は1960年、国連本部を初めて訪れた際、アフリカ諸国の代表のはつらつたる姿に触れ、「21世紀は、必ずアフリカの世紀になる」と展望しました。カムクワンバさんが描く「自ら変革をもたらす大陸」とのビジョンと、共鳴するものがあると感じます。21世紀を「アフリカの世紀」にするためには、何が必要だとお考えですか。
池田会長の展望に深く感動します。これを現実のものとし、「援助を受けるアフリカ」から「世界をリードするアフリカ」へと変わっていくためには、次の三つが必要だと私は考えています。
一つ目は、「人間力への投資」です。私たちはアフリカを「解決すべき問題の場所」と見るのをやめ、「才能あるイノベーター(革新者)たちが解き放たれる場所」として見なければなりません。
二つ目は、アフリカが、「技術の主権」を得ることです。他国からの技術支援に頼るのではなく、「ラディカル・リペアビリティー(根本的な修理のしやすさ)」を促進し、自分たちでインフラを作り、修理し、進化させる力を養っていかなければなりません。
三つ目は、「データを駆使して尊厳を守る」ことです。今世紀において、最も価値のある資源は「知識」です。気候データを共有できる独自の基盤を構築することで、AIを活用して農家を守ることができます。そして、アフリカの知恵が記録され、世界に共有され、貴重なデータとして尊重されるのです。
私は、これから建設するイノベーション・センターで、「労働の尊厳」を通して、「生命の尊厳」を実現していきたい。マラウイの青年たちが、自分の手で運命を切り開き、人生の主体者になれる場所にしたいのです。
気候変動や世界的な不確実性を前にすると、一人の人間の無力さを感じるかもしれません。しかし、私が最初の風車作りで学んだように、たとえ小さな“火花”であっても、暗い部屋を照らすことができます。アフリカの若者たちの中にあるその小さな“火花”を、大陸全体を照らす太陽へと変えていくことに、私は生涯をささげたい。
21世紀は「アフリカの世紀」になります。そして、尊敬と人間主義をもって共に努力することで、私たちは必ず、世界を変えていけるのです。
William Kamkwamba 1987年、マラウイ生まれ。米ダートマス大学卒。中学校にさえ通えない中、独学で風力発電に成功し、世界的に有名に。2008年にNPO「ムービング・ウインドミルズ」を設立した。13年、タイム誌「世界を変える30歳未満の30人」に選出。自伝『風をつかまえた少年』はベストセラーとなり、映画化され世界各地で上映された。
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●海外識者のインタビューの英語版が「創価学会グローバルサイト」に掲載されています。
https://www.sokaglobal.org/resources/expert-perspectives.html
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