企画・連載
〈SDGs×SEIKYO〉 すべては、子どもたちのために――不登校児童・生徒の居場所づくり 2023年8月4日
福岡県内で不登校の子どもの自立支援に取り組む上村裕美子さん=副白ゆり長。当時、中学3年だった娘の愛華さん=女性部員=が不登校になったことを機に、近所の耕作放棄地を子どもたちの居場所にする活動を始めました。(今回はSDGsの4番目の目標「質の高い教育をみんなに」について考えます。取材=石塚哲也、石井和夫)
2022年、上村さんはNPO法人「Kauhora」を設立した。福岡県・新宮町にある耕作放棄地だった畑で、作物を育て収穫する喜びを分かち合っている。
「ここの畑には、さまざまな理由で学校に行っていない子どもたちが訪ねてきます。どんな悩みや不安を抱えていても、ここに来てくれれば、笑顔を取り戻して元気になれる。その自信はあります」
2019年春、明るく活発だった娘が突然、糸が切れたかのように泣き崩れた。上村さんは当初“誰かとけんかでもしたのかな”と深刻には考えていなかった。
体育委員を務めていた愛華さんは、その日から学校に行かなくなった。教師や生徒との人間関係のあつれきに押しつぶされ、すべての気力を失っていた。
目の前で沈む娘を助けられない無力感。学校に相談したり、フリースクールに足を運んだりもしたが、娘を支える手段を見つけることができなかった。
そんな時、農業をしていた友人に誘われて、娘と畑で汗を流した。
「社会ってうそがあふれているけど、自然にはうそがない。天候に左右されても、手をかけた分だけ応えてくれる。それが心地よかったんです」
農作業なら“娘の居場所になるかもしれない”。上村さんは知人から耕作放棄地を借り、一人で畑を耕し始めた。
だが、娘は畑に出てくるどころか、部屋に引きこもるようになってしまった。声をかけても何の反応もない。顔を近づけても無表情のまま。どう接していいかも分からなかった。
周囲からは「畑をやらずに娘さんと一緒にいたほうがいいんじゃない」と心配された。親としてどうすればいいのか、不安でいっぱいだった。
娘の調子が良い日は、どんなに疲れていても向き合い続けた。愛華さんを連れて、ドライブに出かけた時、学校のこと、家族のこと、自分自身のこと、目と目を合わさず肩を並べていると、何でも話せた。たくさん涙も流した。
「本当の私は、弱くて、自信もなくて……。だから池田先生の〈勇気をもて!〉との言葉を何度も思い返し、畑とも、娘とも、向き合ってきました」
愛華さんは、母の姿をじっと見ていた。教育に関する書籍を何冊も読み、畑に来た子どもたちと夜遅くまでSNSでやり取りを。農作業で疲れ、泥まみれで寝ていたこともあった。
子どもたちの居場所をつくるために、懸命に生きる母の姿に、愛華さんも次第に大好きなダンスに打ち込むように。現在は通信制高校に通いながら、インストラクターとして働いている。
上村さんは、愛華さんが5歳の時、事務の仕事の無理がたたって、うつ病を経験した。2年間、寝込んだままで、「十分に子育てができなかった」。
そんな中、家族やママ友が保育園の送り迎えをしてくれたり、創価学会の先輩たちが、上履き入れやナップザックなどを作ってくれたりして支えてくれた。
今なお、上村さんは病の影響で、電車に乗ったり、車の渋滞にはまったりすると、パニックを起こすことがある。
「今も、できないことも、悩みも、たくさんあります。でもいいんです。挑戦も、成功も、失敗も、強さも、弱さも、ありのまま、それでも一生懸命に生きる。私が子どもたちに伝えられるのは、そのことだけです」
“不登校の娘のために”と一人から始めた畑には今、小学生からお年寄りまで100人ほどが訪れるように。ボランティアスタッフも4人になった。育てたサツマイモは、加工を施し、近隣のパン屋などで販売している。
こうした活動を支援する輪も広がった。個人、社会福祉協議会とも連携し、県内の高校、大学と、作物の共同研究も始めた。そこに集う子どもたち、大人たちも農作業で癒やされている。
すべては、子どもたちのために――。
そんな社会を目指して、上村さんの活動は、成長過程だ。
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