企画・連載

作家・佐藤優さんと学園生の対話プロジェクト「明日への扉」 第3回 東京・創価高校 第4回 関西創価中学校・高校 2025年12月8日

本を読み、心の中で創立者と語らおう

 6月から始まった、作家の佐藤優さんと東西の創価学園生による全4回の対話プロジェクト「明日への扉――君たちだから伝えたいこと」。第3回は東京・小平市の創価学園(11月15日)、第4回は大阪・交野市の関西創価学園(11月17日)で、それぞれ開催されました。進め方は一貫して、池田先生の著作『青春対話』の内容を基にしたもの。学園生の疑問や悩みに対して、佐藤さんがどう答えたのか。その模様をお届けします。(記事=真鍋拓馬)

 ※第1回(東京校)の記事はこちら
 ※第2回(関西校)の記事はこちら

進路を考える際に大事なこと

 〈夢と現実のギャップに悩み、一度決めた進路を貫くことに難しさを感じています。進路を考える際に何を大事にしていけばいいでしょうか〉

 創立者・池田先生は『青春対話』でこう言われているよ。
 「『当たって砕けろ』という勇気があれば、必ず何らかの道が開けるものです。『出身校で決まる』のではない。『自分という人間』で決まる。有名校に行ったから幸福か。そうは絶対に言えない。また、いわゆる二流、三流校に行ったから敗北者か。そんなことは絶対に言えない。小学校を出ただけで偉くなった人は、いっぱいいる。要するに、『自分への挑戦』に勝った人が勝利者であり、幸福になれるのです。これが根本です」

 受験では、教科書に書いてある内容を記憶して、筆記試験で再現する能力が問われる。でも、人の気持ちになって考えられるとか、希望を持てるとか、そういった能力は本当の価値になる。学園生の皆さんはその点で、本来の善人になるための教育を受けているから、自信を持っていこう。

 どこに進もうが、「自分の分野で第一人者になっていこう」と決めることだ。“さすが学園出身者だ”と言ってもらえるくらい頑張ってみよう。きっと池田先生、お父さん、お母さんが喜んでくれる。

 また、“受験勉強が社会人になったら役に立つと思えない”という人もいる。日本の芸事や武芸の「守破離」に照らせば、受験勉強は「守」としての基礎固めだ。それは、大学や社会で発展させ、独自の道を行く際に必要になる。また、受験勉強は総合マネジメント能力がついて、リーダーシップを取る時に重要になる。無駄にならない。

 もし英語や数学、古文、漢文、物理でつまずいて分からないと思ったら、中学生の教科書まで戻ること。“こんなに簡単なものを勉強しても意味がない”というような、プライドに邪魔されず、精進することが、一番力をつけることになる。

世界市民の生き方とは?

 〈学園が目指す「世界市民」の素質には、どういったものがあるでしょう。日本社会で排外主義的な風潮が強まる中で、世界市民の生き方がより重要になってきていると思います〉

 今、巻き起こっているナショナリズムは、住んでいる土地への愛着が、特殊な形で表現されたものといってよいでしょう。「国」という、人間がつくった概念を信じることは時に危険で、「国のために命を懸ける」というような誤った信念・信仰を持つことになる。
 
 池田先生は『青春対話』で、自国を第一義に考える「国家主義」についてこう語っています。
 「国家主義というのは、一種の『宗教』なのです。ちょっとむずかしいかもしれないが。『国』というものが最高に尊厳であって、国のためなら民衆の命を犠牲にしてもかまわない――『国』を“神様”にした宗教が『国家主義』です」「しかし、絶対に国家主義は誤れる宗教です。『国のために人間がいる』のではない。『人間のために、人間が国をつくった』のです。これを逆さまにした“転倒の宗教”が国家信仰です」

 世界市民を目指すなら、国家主義という誤った思想を信じないことが大事だと思う。そのためには、先生が「国家主義というのは、人の理性に訴えるよりも、どろどろした情念に訴えるものです。だまされないよう、しっかりした歴史観が大事です」と言われている通り、理論的な思考が大事になってくる。
 
 たとえば、SNS上で、日本にいる外国人が、非常識だとされる振る舞いをしているとの発信が広がった。けれど、「いつどこで、どういう事例があったのか」など、明確な根拠が示されていないこともある。

 創立者・池田先生がSGI(創価学会インタナショナル)の発足の際、署名簿の国籍に「世界」と記したことは有名だね。みんなにもそうした広い視野を持っていてほしい。国内外の政治に関心を持ち、冷静に見つめながら、懸命に勉強に励んでほしい。

感謝の言葉を求めてしまう

 〈人のために何かしてあげた時に、「ありがとう」の言葉など感謝を求めてしまいます。最初は無心でやっていたのですが……。こんな自分を乗り越えたいです〉

 良いことをしてあげたら、「ありがとう」って言ってほしいよね。「なんか一言足りないんじゃないの」ぐらい言ってもいいんじゃないかな(笑)。

 「目立ちたい」「かっこよく見られたい」「人に評価されたい」という感情を否定しないでいいんだよ。あんまりいい子になりすぎないで。

 自分のためにも、他者のためにもなる生き方がきっとあるはず。欲望を正面から見つめて、その欲望を実現することが世の中のためになるという構造転換をしていこう。

みんなと仲良くすべき?

 〈みんなと仲良くしたいと頑張るんですけど、やっぱり好きになれない人がいます。どうしたらいいですか〉

 みんなと仲良くするのは無理だと思う。そもそも基本的な価値観が全く違っていて、近づくとこちらが害を受ける人もいるからね。

 その上で、相手にヤキモチを焼いている場合は要注意だ。「あいつのほうが成績がいいからむかつく」とか、「嫌いだ」といった感情の根っこが嫉妬にあるのはよくない。きれいな心じゃないから。人にヤキモチを焼いていると、自分が幸せになれないからね。そういった嫌な気持ちが消えていくように祈ったり努力したりしていこう。

過去の選択に後悔しています

 〈過去の選択のせいで、やりたいことを諦めなければならず、後悔しています〉

 過去は変えられない。未来を今から組み立てよう。あなたが幸せになることが一番。今ここが人生の終着点ではない。将来、幸せを感じた時、過去を振り返ると、全てが幸せになるための通り道だと思えるようになる。

 かつて僕が“国策捜査”の結果、拘置所生活を強いられた時、キリスト教の信仰に照らして、“何らかの試練だ。絶対に克服できるはずだ”と思うことができた。その通り、経験が今に生きています。

 周りのみんなも、いろんな悩みを抱えている仲間たちを大切に見守ってほしい。その子の内発の力を引き出すんだ。みんなで幸せになっていこうよ。

対話プロジェクトを終えて

 時事問題については鋭い目つきで語る佐藤さんのまなざしが、東西の創価学園生に呼びかける瞬間、たちまち柔和になる。そうした光景を何度も目の当たりにしました。

 なぜでしょう。「池田先生の哲学を根本に行動できる学園生は、日本、世界において重要な貢献ができる」と期待を寄せる佐藤さんの、その言葉に答えがあると感じました。

 池田先生の哲学を学ぶ姿勢として、佐藤さんが「池田先生の書籍を読み、心の中の先生に何でも相談していくんだ」「まだまだ読みが甘いよ」「池田先生は書籍を通して発信してくださっている。あとは受信機たる自身をつくるだけです」と繰り返し言っていたことも印象的です。現在の社会状況、容姿や能力などの悩み、家族や友人、恋人との人間関係……。全ては池田先生の指導に照らして答えを出せる時が来る、必ず幸せになれるのだと。

 池田先生は、2010年3月の創価学園の卒業式で、こう呼びかけました。「今がどうあれ、決して焦る必要はない。自分を卑下することもない。すべては、これからです。一切は、今からです。断じて、勝っていきなさい。幸福になっていきなさい」

 今回の対話プロジェクトを通して、決意を新たにした学園生。池田先生の哲学を一段と学び、未来世代が「明日への扉」を開いていくことは、そのまま、社会と世界の「希望の扉」を開くことにつながっていくと、確信してやみません。

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