仏法の教え

〈子どもと学ぶ仏教説話――ミライの冒険〉 子どもたちを助けたい 2025年3月13日

 創作童話「子どもと学ぶ仏教説話――ミライの冒険」では、主人公のミライが、仏教説話の世界を巡る冒険に出かけます。座談会の未来部コーナーなどでご活用ください!(イラスト 逸見チエコ)

何よりも大切なもの

 ミライが本の世界に入ると、さけび声が聞こえてきました。
 「火事だー!」
 見ると、りっぱな家が燃えています。周りの家の人たちも、心配して、集まってきました。

 すると、燃えている家から、おじさんが、慌てて逃げ出してきて、言いました。
 「まだ、家の中に私の子どもたちがいるんだ! でも、遊ぶのに夢中で、火事に気づいていない。どうしよう」

 ミライがひらめきました。
 「そうだ! “外に出たら、楽しいおもちゃの車があるよ”って言えば、家から出てくるんじゃないかな? ウソをつくのは、よくないかもしれないけれど……」
 おじさんは「それがいい! ありがとう」と言って、水をかぶって、家の中へと走っていきました。

 家の中では、まだ子どもたちが火事に気づかず遊んでいます。
 「家の外には、みんながほしがっていた、おもちゃの車があるぞ!」
 子どもたちは大喜び。競うようにして、家から出ていきました。

 「よかった~!」
 外で見守っていたミライも、ひと安心です。
 「あれ~? ほしかった車じゃないよ」
 すると、おじさんは、「これは、おもちゃの車よりも、もっと大切な車だよ」
 そこには、おじさんが物を運んだりして、家族の生活を守ってきた、りっぱな車があったのです。

 「そうだね。私たちも、この車が大好きだよ」
 おじさんは、胸をなでおろしました。
 「ふぅ。火事に巻き込まれなくて、本当によかった。この車さえあれば、また家族は前に進んでいける」
 おじさんの言葉に、ミライも、笑顔でうなずきました。
 (つづく。前回は2月13日付)

今回のお話の解説

 火が燃えさかる家から、いかに子どもたちを助け出すのか――法華経に説かれる「三車火宅の譬え」が、今回のお話の基になっています。
 火事に気付かず、家の中で遊んでいた子どもたちを救うため、父は、子どもたちが欲しがっていた“羊車・鹿車・牛車の三車がある”と呼びかけ、外に誘い出します。そして、出てきた子どもたちに、三車ではなく、美しく立派な大白牛車を与えました。
 苦悩の炎が渦巻く現実世界という火宅から、人々を救い出し、大白牛車という最高の“宝”を与える――。仏法の智慧が光る説話です。
 池田先生は、この大白牛車について触れつつ、次のように教えています。
 「妙法を持つ私どもも、同じくこのように美しく、かつ楽しく、絶対に安心な、絢爛たる車に乗って三世永遠の旅を遊戯できる」