企画・連載

〈SDGs×SEIKYO〉 地域の課題にチャンスがある――“まさか”を実現する社会起業家 2023年3月8日

 和歌山県・かつらぎ町で廃棄される果物を集め、ドライフルーツを生産・販売する事業を立ち上げた猪原有紀子さん=副白ゆり長。社会起業家として、地域の課題に向き合う彼女の原動力は、子育ての経験にありました。(今回はSDGsの12番目の目標「つくる責任 つかう責任」について考えます。取材=石塚哲也、内山忠昭)

この記事のテーマは「つくる責任 つかう責任」

 
 先月下旬、猪原さんは、起業家が事業内容を発表する舞台に立った。添加物を一切使用しないグミ食感のドライフルーツ「無添加こどもグミぃ~。」。傷や日焼けのため出荷できない“廃棄果物”を原材料としている。猪原さんは聴衆に、事業への思いを語った。

 「日本から世界へ! 食の分野でソーシャルインパクト(社会的影響力)を起こし、世界中の親子を幸せにします」
 

 
 大学卒業後は大手広告代理店で働いた。26歳で、夫・祥博さん=副常勝長(副ブロック長)=と結婚した後も仕事を続け、2014年、長男を身ごもった。

 つわりがひどく、動けない日々。「重症妊娠悪阻」と診断され、毎日点滴を受けた。積み上げてきたキャリアが奪われていく感覚。出産後も体調は戻らなかった。そして、第2子出産後、“産後うつ”に。体調を考慮しながら仕事を続けていたが、18年、三男の出産を機に和歌山県・かつらぎ町への移住を決断。その後、会社を辞めた。
 

 
 近く大きく見える空や山々。のびのびと子育てできる環境は自分に合っていた。それだけではない。空き家や耕作放棄地、畑に捨てられている大量の果物の山でさえ、都会で感じていた育児ストレスを解決するための“宝物”のように見えたのだ。そして、規格外というだけで廃棄されてしまう果物を、グミのような食感の無添加ドライフルーツに生まれ変わらせる事業を思い立つ。
 

 
 産後うつを経験した際、イヤイヤ期真っ最中の長男が着色料や保存料まみれのおやつをねだってくることが、とてもストレスだった。そんな“おやつストレス”も「フルーツを乾燥させただけの、お菓子なら解決できる。子どもも夢中になって食べてくれる」と猪原さん。一軒一軒、町内の農家を訪ねた。

 ダンボールをつなぎ合わせた巨大ボードに実現したい未来のイメージ画像を貼り付け、近隣の人から町長まで、約100人に“未来予想図”を伝えていった。

 一人また一人と応援してくれる人が現れた。

 〈忍耐強く、祈りまた祈り、未来への大道を切り開くのだ〉

 大学4年の時に参加した本部幹部会で池田先生が語った指針を胸に刻み、行動し続けた。結婚を機に入会した夫も、協力してくれ、何かある度に「池田先生にお手紙を書こう」と激励してくれた。
 

 
 せっかくやるなら“まさか”を実現!――生まれ育った吹田市、産後うつに悩んでいた大阪市北区、現在の、かつらぎ町でも、そばにはいつも学会の同志がいた。

 「“できない”とか“難しい”って言われることに挑戦するからこそ価値があるし、私がやる意味がある。“関西魂”ですね!」と猪原さん。共感してくれた同世代のママたちが農家の夫を説得してくれるなど、共感の輪が広がっていく。
 

 
 商品化への壁も大きかったが、乾燥工学の専門家に出会い、大学の研究室と共同開発。20年秋、販売を開始した。

 今では5万袋もの商品が子どもたちの元へ。20軒ほどの小規模農家から廃棄及び規格外果物を仕入れ、5カ所の障がい者福祉施設に加工や梱包を委託する。食品ロスの削減、雇用の創出に貢献するSDGsの「つくる責任 つかう責任」のモデルとして各種メディアで取り上げられた。
 

 
 社会課題をビジネスの力で解決する「社会起業家」として挑んだ、先月下旬の「ビジネスプレゼン大会」。約360人の中から選考され、アメリカでの研修を経て、上位3人の優秀賞を受賞した。

 現在は、自宅周辺の耕作放棄地を開拓し、“日本一”お子様連れを歓迎する観光農園やキャンプ場を始めるなど、地域の課題に向き合い続ける猪原さん。

 「どうせやるなら、“まさかが実現”であふれた人生を生きたい。大学時代、池田先生に“世界で活躍する人材に必ずなります”と誓ったことが、私の原点なんです」。猪原さんの関西魂が不可能を可能にする。
 

 
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