企画・連載
“できない”なんて誰が決めたの? 映画監督 パスカル・プリッソンさんに聞く 2026年8月4日
夢を抱き、困難に挑む――障がいのある5カ国6人の子どもたちの姿を追ったドキュメンタリー映画「ウィー・ハブ・ア・ドリーム」が、今月7日から日本で公開されます。本作の監督であるパスカル・プリッソンさんはこれまで、“困難に負けず学び続ける人たちの姿”を映像で捉えてきました。SDGsの目標4「質の高い教育をみんなに」をテーマに、教育への思いや本作に込めたメッセージを聞きました。(取材=玉川直美、木村輝明)
――プリッソンさんの最新作「ウィー・ハブ・ア・ドリーム」は、どのような作品でしょうか。
本作には、5カ国6人の子どもたちが登場します。片足がなくてもバレエを続けるフランスの少女モード。眼皮膚白皮症(アルビノ)による差別や偏見に負けず、医師を目指すルワンダの少年サビエル。共にネパールの大地震で片足を失った少女ニルマラとケンド。伝説のランナーに憧れを抱く、視覚障がいのあるケニアの少年チャールズ。
そして、自閉症や注意欠陥多動性障害(ADHD)、聴覚障がいがあっても、元気に過ごすブラジルの少年アントニオ。それぞれの日常や挑戦、周囲で支える家族や友人との関わりを描いています。
――制作のきっかけは何だったのでしょうか。
インドで、足に障がいのある少年と出会ったことがきっかけでした。当時13歳だったサミュエルという少年で、家は貧しく、多くの困難を抱えていました。そんな彼のために、2人の弟たちは手作りの車いすを用意し、彼を乗せて片道4キロの道のりを毎日歩いて通学していたのです。
一緒に学校へ行こうと献身する彼らの姿に、深く心を動かされました。そこから、障がいのある子どもたちが挑戦する姿や、周囲で支える人たちの姿を映像に収めたいと思うようになりました。
――映画に登場する子どもたちとはどのように出会い、撮影を進めていったのでしょうか。
障がい児を支援している国際NGOなどを通じて出会いました。その後、実際に子どもたちの元を訪れ、彼・彼女たちのことを知りながら、この映画で実現したいことや、撮影がどのように進むのかを説明していきました。現地に何度も足を運び、1年かけて準備を進めました。
撮影は、それぞれ約12日間ずつ行いました。私は撮影チームより10日ほど早く現地に入り、子どもたちの生活リズムを観察しました。何時に起きて、何を食べ、どのような暮らしをしているのかを把握しながら、カメラの配置や撮影の進め方を考え、ストーリーを組み立てるための手がかりを得ていきました。
台本は一切ありません。撮影時に子どもたちが語る言葉は、全て本人たちの言葉です。
――撮影に向けて苦労したことは何でしたか。
子どもが映画に出演することの承諾を家族から得るのは、簡単ではありませんでした。例えば、ルワンダ在住で眼皮膚白皮症(アルビノ)のあるサビエルを訪ねた時のことです。村の人々は最初、私がサビエルを連れ去り、どこかへ売ろうとしているのではないかと疑っていました。
〈アフリカの一部では、“眼皮膚白皮症の身体を呪術に用いれば、富と名声を得られる”等という迷信により、「アルビノ狩り」と呼ばれる誘拐事件や殺傷事件が発生している〉
実際、サビエルが生まれた後、父親は彼を売ろうとしました。そのため母親は、サビエルたちを連れて別の地域へ逃れました。誘拐を恐れていた母親は当初、サビエルを学校に通わせることをためらっていましたが、校長先生の後押しもあり、最終的に就学を決意しました。サビエルは熱心に勉強に励み、将来は医師になって人々を助けたいと語っています。
私は「彼の姿を通して、同じような困難に直面している世界の子どもたちに、希望を届けたい」と、撮影の意義を丁寧に説明しました。やがてプロジェクトの趣旨への理解を得ることができ、映画の出演に賛同してもらえました。
――映画を通して、どのようなメッセージを伝えたいですか。
映画に登場する子どもたちの姿を通して、障がいに対する見方が変わっていくことを願っています。「障がいがあるから難しいだろう」「これはできないだろう」と決めつけるのではなく、一人一人が持つ可能性に目を向けてほしいのです。
私は、障がいの有無にかかわらず、子どもたちが共に学び、共に過ごす中で、互いを理解しながら成長していけると信じています。
この映画が2023年にフランスで公開された際は、学校現場でも活用され、15万人以上の子どもたちが視聴しました。日本でも、ぜひ多くの子どもたちに見てもらいたいです。
――本作の制作のきっかけとなったインドの少年サミュエルは、プリッソンさんが2012年に制作した映画「世界の果ての通学路」に登場しています。同作は、険しい道のりを通学する世界の4人の子どもたちを追ったドキュメンタリー映画で、第39回セザール賞の最優秀ドキュメンタリー賞を受賞。世界中で大ヒットし、日本でも14年に公開されました。これまで「子ども」「教育」「困難」などを題材にした作品を手がけてきたのは、なぜでしょうか。
困難な環境にあっても、学ぼうとしている子どもたちが世界にはたくさんいる。そのことを、映像を通して伝えたいと思っているからです。
実は、私自身は15歳で学校を辞めました。フランスのパリで裕福な家庭に生まれ、学校は家から5分ほどの所にありましたが、そうした日常に、どこか物足りなさを感じていたのです。16歳で南米に渡り、独学で映像制作を学びながら、世界を旅しました。長年、米ナショナルジオグラフィック誌やBBC(英国放送協会)向けに野生生物のドキュメンタリーも制作してきました。
転機は、ケニアでゾウを撮影していた時のことでした。砂漠の中を歩く3人の子どもの姿が見えました。彼らは学校へ通うため、その道のりを1時間半かけて歩いていたのです。大きな衝撃を受けたと同時に、命がけで学校に通う彼らに対して、尊敬の念が湧き上がってきました。この出来事をきっかけに、映画「世界の果ての通学路」を制作しました。
――「世界の果ての通学路」や「ウィー・ハブ・ア・ドリーム」に登場した子どもたちは、今、どうしていますか。
子どもたちとは、今も連絡を取り続けています。映画に出てもらうだけで終わらずに、子どもたちのその後の人生を見守り続けたいと思っています。
「世界の果ての通学路」に登場した、手作りの車いすで通学していたインドの少年サミュエルは、会計士になりました。15キロの道のりを2時間かけて通学していたケニアの少年は、弁護士として活躍しています。
「ウィー・ハブ・ア・ドリーム」に登場したサビエルや、視覚障がいのあるチャールズの近況も聞きましたが、今も学校で頑張っているようです。
――SDGsの目標4には「質の高い教育をみんなに」と掲げられています。教育の重要性について、プリッソンさんはどのようにお考えでしょうか。
教育は、人生を切り開くための重要な鍵だと思います。現実には、家庭環境や障がいの有無によって、教育の機会に差が生じてしまっています。しかし、子どもたちは皆、無限の可能性を秘めています。その可能性を信じ、成長を支えていくことが教育の大切な役割ではないでしょうか。
本作に登場する子どもたちの姿からも、そのことを改めて教えられました。
眼皮膚白皮症に負けず、医師を目指して勉強に励むサビエルの場合は、彼の可能性を信じてサポートする校長先生や、彼の就学を決意した母親の存在が非常に大きいと思います。
ケニアのチャールズが、視覚障がいのあるパラ五輪金メダリストのランナーと出会い、大きな触発を受ける場面がありますが、憧れとなる人との出会いや、具体的な目標を持つことは、子どもの可能性を開くきっかけになるでしょう。
そして、親や家族、周囲の人たちからの“愛情”こそ、子どもの成長に欠かせないものだと思います。
映画に登場するアントニオは、生後4カ月の時に養子として迎え入れられました。彼の養父はかつて交通事故に遭い、車いすでの生活を送っています。妻と出会い、養子縁組を決意したものの、足の障がいを理由になかなか認められませんでした。しかし、ようやく迎えたアントニオに障がいがあると分かっても、養父母が注ぐ愛情に変わりはありませんでした。
養父は語っています。「アントニオのそばにいると、より優しく、より愛情深くなれる」と。
チャールズに視覚障がいがあると判明した時、医師たちは母親が、息子を手放すのではないかと思ったそうです。しかし、彼女は言いました。
「神様が、この子を授けてくださったのです。他の子と同じように、私はこの子を愛します。チャールズは私にとって、この世で最もかわいらしく、いとおしい存在なのです」
人間には誰しも、困難を乗り越える力「レジリエンス」がそなわっています。自分自身を信じて進む時、レジリエンスを発揮し、人生を開いていくことができるのです。だからこそ、どんな状況にあっても自分の可能性を信じ、夢に向かって挑戦を続けてほしい――そう願っています。
Pascal Plisson 1959年、フランス生まれ。ドキュメンタリー映画監督、脚本家。15歳で学校を辞めて世界を旅し、独学で映像制作を学ぶ。これまで「マサイ」「GOGO(ゴゴ) 94歳の小学生」などを制作。代表作「世界の果ての通学路」は、第39回セザール賞最優秀ドキュメンタリー賞を受賞。
映画「ウィー・ハブ・ア・ドリーム」
監督:パスカル・プリッソン
配給:ユナイテッドピープル
96分/フランス/2023年/ドキュメンタリー
本年8月7日(金)から、ヒューマントラストシネマ渋谷など全国で順次ロードショー
©EADY EAST PROD-JOUR2FÊTE-2023
映画「ウィー・ハブ・ア・ドリーム」の公式サイトはこちら
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https://www.seikyoonline.com/summarize/sdgs_seikyo.html
●海外識者のインタビューの英語版が「創価学会グローバルサイト」に掲載されています。
https://www.sokaglobal.org/resources/expert-perspectives.html
『世界の17人が語るSDGs 持続可能な社会のつくり方』(写真)が好評発売中である。
同書は本紙で掲載された、SDGs(持続可能な開発目標)の理念に合致した取り組みをする17人の識者・活動家へのインタビューを編集・収録したもの。
アイスランドの首相(当時)やノーベル平和賞受賞者、国連関係者、NGO代表、企業経営者など多彩な人々が登場。その挑戦の軌跡から、持続可能な世界を築くための方途を学ぶことができる。
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