企画・連載
〈教育本部ルポ・つなぐ〉第19回=安心して「助けて」と言い合える社会に 2025年1月28日
この人の仕事を一言で表せば、「つなぐこと」だろう。
舞台は和歌山県の特別支援学校。知的障がいや肢体不自由、聴覚障がいのある子どもが通っている。小学部の主事である山本秀子さん(副白ゆり長)は毎朝、6学年の各教室の様子を見て回る。
保護者との連絡帳にも目を通す。わが子の成長を喜ぶ報告がある一方、不安や不満が行間から読み取れるものも。
早めの対応が必要だ。職員室に戻り、電話の受話器を取る。保護者の番号にかけて「今、大丈夫ですか」。5分、10分、15分……話に耳を傾けるだけでホッとしてもらえるケースも少なくない。担任との間に“誤解の糸”が絡まっていたら、一本一本、解きほぐす。
放課後は、教員からの相談に乗る時間だ。「大変でしたね」と共感し、「どうすればいいかなあ」と共に考え、「◯◯先生なら大丈夫!」とエールを送る。すると教員は心が軽くなり、子どもや保護者と再び笑顔で向き合える。
「つなぐ」とは対話をすること。“気持ちを分かってもらえた”と相手に安心してもらうこと。その確信を、山本さんは「特別支援教育コーディネーター」として働いた8年間で培った。教職員や保護者の相談窓口となり、幼稚園・保育園や小・中学校・高校、福祉・行政機関等と連携する“要”の存在である。
子どもの発達を切れ目なく支えるには、多様な大人のつながりが不可欠だ。とはいえ人間同士、方法論や課題の認識にズレが生じることもある。「だから地味で地道なようでも、『対話』が大切なんです」(山本さん)
見る人は見ている。山本さんに一昨年、「文部科学大臣優秀教職員表彰」「きのくに教育賞」が贈られた。
子どもの成長を、地域の大人が切れ目なく応援する大切さを教えてくれたのは、創価家族かもしれない。自身も幼い頃から、あらゆる世代の人たちに「秀子ちゃんには使命があるよ」と、温かく育ててもらった。
わが子も少年少女部の合唱団時代から、どれほど励ましてもらったか。つながりは今も変わらない。山本さんが仕事のエネルギーを充電できるのも、学会員の先輩たちが話を聞いてくれるからだ。
障がいの有無にかかわらず、人は一人では生きていけない。困った時は“おたがいさま”。“困りごと”も人それぞれ。伝え合わなければ、分からないことも多い。
安心して「助けて」「つらいよ」と言えるつながりを持つ人は幸せだ。そんな関係性、そんな社会を築く心と力を養うことが教育の目的だと、山本さんは思う。特別支援教育とは、そもそも異なる一人一人を「特別な宝の存在」と見て、支え合うことの豊かさを、大人も子どもも共に学ぶ営みなのだ。
山本さんは子どもたちに「困っている時は助けたいから、その時は『こうしてほしい』と言ってね」等と、言葉で、また校内に張り出す資料で、日頃から分かりやすく伝えている。児童の声、しぐさ、表情からメッセージをキャッチして、必ず応える。すれ違いがあったら「ごめんね」と素直に謝ることも忘れない。
児童たちも助けてくれる。授業の準備を手伝ったり、勉強につまずいている友達をサポートしたり。そんな姿を見たら、「ありがとう!」「助かったよ!」と感謝のフィードバックも欠かさない。
先月、山本さんはインフルエンザにかかり、学校を休んだ。小学2年の児童がお見舞いに届けてくれたものがある。「お店屋さんごっこ」で用意した“食べもの”という。
職場に復帰後、改めて感謝を伝えた。「おかげで元気になったよ!」。その子の、うれしそうな顔といったらない。心がつながった瞬間だ。
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※ルポ「つなぐ」の連載まとめは、こちらから。子どもや保護者と心をつなぎ、地域の人と人とをつなぐ教育本部の友を取材しながら、「子どもの幸福」第一の社会へ私たちに何ができるかを考えます。