企画・連載

〈SDGs×SEIKYO〉 誇れるものはジモトにある――サステナブルな会社経営 2022年12月9日

 宮崎県都城市に本社を構える自然食品会社「タマチャンショップ」は、全国各地の上質な素材を厳選し、雑穀米などに商品化して販売しています。代表取締役の田中耕太郎さん(39)=男子部副本部長=は、企業ができるSDGsを積極的に推進。会社発展の原動力になっています。(今回はSDGsの9番目の目標「産業と技術革新の基盤をつくろう」について考えます。取材=石塚哲也、内山忠昭)
 

この記事のテーマは「産業と技術革新の基盤をつくろう」

 多くの自治体が抱える「人口減少」という悩み。あの手この手で歯止めをかけようと、試行錯誤が続いている。そんな中、ベンチャー企業や地元企業の挑戦を支援し、着実に成果を上げている宮崎県都城市。その市でも「タマチャンショップ」は異彩を放つ。

 「SDGsって、余裕のある大企業しかできないと思われがちですが、社会問題や環境問題は、会社の持続可能性を決める経営課題でもあるんです。そこに立ち向かうことで、わが社は突破口を開いてきました」
 

 
 2004年、妻・聖子さん=地区副女性部長=と神奈川で結婚。長女の出産を機に地元・都城に戻り、実家のシイタケ農家を継いだ。

 当時、父がシイタケをネット通販に出品し始めたばかり。田中さんは、就農後すぐにその仕事を引き継いだ。会社を時代の変化や顧客のニーズに合わせて構築し直す「リブランディング」を行い、ネットでの売り上げを伸ばす中で、経営を軌道に乗せることができた。
 

 
 妻に勧められ、23歳で創価学会に入会した田中さん。3人の子どもにも恵まれ、経営も一路順風だった09年春、生後9カ月の長男を不慮の事故で亡くした。わが子との突然の別れ。写真額の中でほほ笑む息子に“なぜ”と何度も問いかけた。

 苦悩する田中さんを支えたのは、家族や地域の学会の同志。「死は最後の別れじゃない。息子さんの生命は田中くんの心にずっと生き続ける。信心で幸せになっていくこと。それが息子さんにとって最高の供養になる」。強く前を向く妻。同苦し、共に祈ってくれる同志の温かさに胸を打たれた。
 

 
 同年、田中さんは、特定の商品が1袋売れるごとに、世界の子どもへ1本分のワクチンを提供する取り組みを始めた。“子を失う親の悲しみを世界からなくしたい”との思いからだった。その後、売り上げに応じてインドネシアに植林をする活動も推進。「社会に、他者に、貢献していく学会の哲学を体現したかった」

 商品開発の失敗や突然の大量キャンセルなど試練は続いたが、常に“人のため”とのブレない学会精神で挑み、タマチャンショップは、楽天市場で7年連続「ショップ・オブ・ザ・イヤー」に名を連ねる有力ショップに。「地元にも愛される企業にしていきたい」と会社の敷地も拡大。そんな田中さんの姿に、祖母や両親、姉も学会に入会した。
 

 
 雇用流出や高齢化といった地元・都城が抱える課題に対し、田中さんは行政と連携して、市内の小中学生が就業体験を行える環境を整備。「うちのスタッフの約9割は都城出身の女性なんです。彼女たちの意見が経営にも生きています」

 宮崎県をはじめ九州は、農業が盛んな地域。世界に誇れる、良質で、魅力的な素材が多い一方で、販路の悩みを抱える農家も少なくない。田中さんは、そうした農家に手を差し伸べ、それぞれの地域が誇る農作物を生かした商品の加工・販売に取り組んだ。そして、それを生産者と消費者をつなぐサステナブル(持続可能)な会社経営に結びつけていった。
 

 
 今、都城市はデジタルを活用して地域の課題を解決する「スマートシティ」を目指している。タマチャンショップもモデル企業としてキャッシュレス決済の推進や高齢者がデジタルに触れやすい環境を整える予定だ。

 単なる“商売道具”でなく、SDGsを企業活動につなげるなら、「大切にすべきは地域社会とのつながり。お客さんや地域と共生することで、地域の課題に立ち向かえる」と田中さんは語る。

 産業と技術革新の基盤をつくるには、働きやすい環境や最新の設備を整えることも大切だ。しかし、それ以上に、「地元に価値を見いだすこと。誇れる人や商品はたくさんある」と田中さん。地元に誇りを見つける行動がSDGsをゴールへと近づけていくのかもしれない。
 

【23歳で入会した田中さんに「宗教」の大切さを聞きました】
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