企画・連載
〈教育本部ルポ・つなぐ〉第30回=知ろうとする楽しさ 知ってもらえるうれしさ 2025年6月26日
子どもたちの「個」を尊重したい。クラスとして、まとまりや落ち着きも大切にしたい。教員であれば誰もが“両立”に悩むテーマだろう。
ここは和歌山県の公立小学校1年1組。担任の板東瞳さん(地区副女性部長)が、よく通る声で呼びかけた。「体育館に行くよー!」。今月12日の3限目は体育である。
休み時間内に皆が着替えや整列をすることも、決して簡単なことではない。「先生! 先生!」と話を聞いてもらいたがる子もいれば、別のことをし始める子もいる。
ありのまま――その姿を愛らしく見つめるまなざしと、集団として学び合う環境を整える知恵。板東さんが磨き続けたいと願う“両輪”である。
教室の黒板の上には、クラス目標が掲げられていた。児童一人一人に、「自分の似顔絵」を描いてもらったらしい。手分けして文字を書き、色も塗ったそうだ。「なかよくにこにこ げんきにきらきら みんなでチャレンジ 1ねんせい!」――と。
教員歴22年。創価大学を卒業後、東京そして大阪で教壇に立つ。3年前に郷里の和歌山へ。2人の子どもを育てながら、わが子に等しい宝の児童たちと向き合ってきた。一貫するのは「一人とつながる→全体へ広げる」学級づくりである。
2年生を担任した年のこと。家庭学習として、週に1度の「日記」を始めた。児童は知ってほしいことを自由に書く。「じてんしゃにのれるようになりました」「だがしやさんにいきました」……板東さんは対話する思いで「すごいなあ!」「どんな駄菓子を買ったの? 気になる!」等々、コメントを書いて戻す。
帰りの会では「今日のヒーロー」コーナーを設けた。友達の良かった所を互いに発表し合い、その都度、全員で「◯◯さん、グッジョブ!」というかけ声とグッドサインを送る。目立たない所で頑張る子を見つける視点も忘れない。
誕生日を迎える児童に「良い所」「伝えたいこと」を書いて送り合う取り組みも。題して「ワクワクメッセージ」。書く時間は「一人と向き合う時間」でもある。「このイラスト、◯◯さんが大好きやから、書いてあげよ」とつぶやく子もいた。もらった児童は、それを宝物のように見つめる。
「知ろうとする楽しさ」が、「知ってもらえるうれしさ」を広げていく。
落ち着いた学習環境を保障するために、板東さんが伝え続ける言葉がある。「学習は優しさで成り立つ」だ。相手の話を聞くのも優しさ。友達の発言を待つのも優しさ。自分の意見を伝えるのも優しさである。口で言うだけでなく“仕組み”をつくるのも教師の仕事にほかならない。
じっとしているのが苦手な児童のため、授業中にあえて「立ち歩いて語り合える時間」を設けたり。読み聞かせや異学年交流の機会を積極的に図り、「一人一人、違うから素晴らしい」といったメッセージや「助けたり助けられたりする」経験を味わったり。北原白秋の「ひとつのことば」と題する詩を基に、自分の言葉を見つめ直し、どうすれば互いに心地よい空間をつくれるかを語り合う文化も育んできた。
――1年1組の体育の授業。板東さんが自身の名前の「瞳」とディズニーランドを掛けて言う。「ヒトミーランドを始めるよ!」。多彩で楽しい運動種目が用意されたコースを巡る、サーキットトレーニングである。
準備に率先する子、順番を守るよう優しく促す子、「がんばれー!」と皆を応援する子……思うようにいかず、泣き出してしまった子のもとに駆け寄る児童もいた。
授業が終わり、肩を並べて教室へ。板東さんは言う。「みんな――またカッコ良くなったなあ」
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